後始末屋の特異点   作:緋寺

868 / 1164
帰投へ

 奇襲部隊からの勝利報告を受けた事で、うみどりは喜びに包まれた。阿手によって齎される戦いはこれで終わり、あんな厄介なことにはもうならないはずだと。喜び以上に、安堵の息の方が大きかったくらいではある。

 特に阿手に強く深い恨みを持っていた丹陽は、人目を憚らずに大泣きしたほど。姉である初風の仇が取れたことを喜び、長い年月持ち続けていた暗い感情がようやく失われた瞬間でもあった。

 

 奇襲部隊が通信を始めたのは、その報告だけが理由ではない。これまでの戦いの中で、どうしても見つけられなかった杏の母のことについて聞きたい事があったからである。

 

「そうだ、こっちで救った人達がそっちに着いたんだよな。そこに、杏っていう純粋に人間の奴いると思うんだけど、今話せるかな」

 

 深雪が聞くと、伊豆提督はすぐに救出された面々から杏を探す。まだ到着したばかりで全員工廠に待機している状態であり、声をかければ全員に届くくらいになっている。

 

 捕虜達には既に自己紹介が終わっており、ここに来ればもう安心だと落ち着かせている。そのおかげか、捕虜の中にいた『迷彩』を持つ子供達はもう動揺すらせずに遊び回ろうとしている程である。そこはカテゴリーYの大先輩である平瀬や手小野によってあやされ、今はひとまずじっとしているというところ。

 黒井母は兄妹と念願の再会を迎えることになった。変わり果てた姿になったとはいえ、そこはやはり親子。一瞬わからずとも、わかってしまえばすぐに親子としての感覚を取り戻し、今は抱き合って再会を喜んでいた。母の艤装や身体の問題で、ちょっとぬるっとしたのには驚いたようだが。

 護衛棲姫は相変わらずオドオドしていたようで、あまり安定しなかったため、神威の癒しの排煙のお世話になっている。丹陽が落ち着きを取り戻したことで、そこと入れ替わりとなるように。未だ安定はしない浜風と共にいるのは少し居づらそうではあったが、癒されてはいるようである。

 

 そして噂の杏。唯一の純粋な人間は、この工廠に訪れて、非常に居心地が悪そうだった。場違いではないかとオロオロし、どうも落ち着かない様子。

 伊豆提督に呼ばれた時にビクッと震えたが、深雪から呼ばれていると言われれば少しだけ表情を柔らかくして、すぐに向かってくる。

 

「よかった、無事に着いたんだな。何もなくて何よりだ」

『う、うん、大丈夫。ゆっくり戻ってくれてたんだけど、襲われるようなこともなくって、何事もなくここに着いたよ』

 

 深雪と話す杏の声は、少しだけ嬉しそうなモノに聞こえた。その声をきいて、深雪の後ろでグレカーレがニヤニヤしていたのは言うまでもない。

 

「学校で別れる時に言ったことなんだけど、お前の母ちゃんを探すっつったよな。その特徴がわからないもんで、誰が誰やらなんだ。そっちで力貸してもらって、どれになったかを教えてもらえねぇかな」

 

 バケモノになった母の姿を思い返せというのも酷ではあるのだが、そうしないと間違いが起きる可能性がある。

 この戦いで確実に命を失ったのは、阿手以外だと裏切り者の提督2人だけだ。なんだかんだ言って、ちゃんと加減が出来ていた。気絶するほどの攻撃はするが、命までは奪わない。それが被害者の親族である可能性があるのなら。裏切り者のように明確な愚か者ではないのだから。

 

 深雪に言われた後、伊豆提督やイリスに手伝ってもらって、そのバケモノの特徴から導き出していく。

 

「ジュルジュルしてるわけじゃないみたいだから、出来損ないにはされてないと思う。でも、あたし達と戦ってる連中の中に紛れてたってことも無さそうなんだ。そうだったら、こうやって杏の名前を出した時点で反応しててもおかしくねぇ」

 

 奇襲部隊が連行中のカテゴリーY達は、杏の名前を聞いたところで無反応。あえて強気に反応しないようにしているのか、それとも記憶を消されているなんてこともあり得るのかはわからない。とにかく、誰も何も言わないため、今はこの中に杏の母がいるとは思っていない。『舵』を取り外して正気を取り戻した者達も首を傾げることしか出来ないため、やはりここにはいないと確信を持っている。

 

『ちょっと時間がかかるかも……』

「焦んなくてもいいぜ。どうせここで見つけた連中は全員、生かしたまま捕まえるんだ。むしろお前は被害者なんだからさ。むしろあたしこそ悪い。ちょっと急かしちまった」

『そ、そんな、謝らなくてもいいよ。私だって迷惑かけそうになったし……』

「いやいや。ひとまずあたし達は帰るから、その間に調べておいてくれねぇかな。それで充分だ」

 

 まだ救われたばかりということで気が動転しているというのもあるだろう。確かに見たはずなのに、その姿がピンと来ないくらいには記憶が混濁しているとも考えられる。

 結局は全員島から連れ出すのだから、直に見るなり何なりして気付ければいい。その時には、全員の『舵』も破壊されているだろう。杏の母が『舵』による洗脳を受けているのならば、それが失われればきっと自分から気付く。

 

「それじゃあ、あたし達は捕虜を連れてそっちに戻るよ。大発とか用意しといてくんねぇかな」

『ええ、勿論。もう港側に向かっているわ。そのまま街の方に下りてちょうだい』

「了解。帰るまでが戦いだからな。ここから何か起きないように警戒しながら帰るぜ」

『気をつけてね。まだ敵が隠れ潜んでいるなんて事だってあり得るんだもの。阿手がいなくなったとしても、ね』

 

 一旦通信はここまでとして、まずはうみどりに戻ることを優先した。既に大発動艇が使える者達がありったけの大発動艇を用いて捕虜の輸送を計画している。自分の足で歩けようが、海上歩行が出来ようが、それで丁重に運ぶ予定である。

 

『三隈ですわ。埋めた敵は一旦そのままでよろしくて?』

『埋めたってどういうことなの……』

『文字通り、ですわ。拘束が出来なかったので、ひとまず動けないように地面に埋めておりましてよ』

『あ、埋まってる人達がこっちにもいまーす』

 

 伊26も元気に埋まった3人のことを伝える。対処法がすぐに出せないため、そうしておくしかないというのが現状。特に伊26が見ている中の潜水鮫水鬼は、触れただけで『劣化』させるという非常に厄介な力を持っているため、これをどうにかするには、特異点の煙幕か叢雲の『標準型』しか手段がない。

 

「一旦休んでから処置するしかねぇか……あたし達がささっと行くのもありかもしれねぇけど」

「なのです……埋まってるのは可哀想なのです。でも、ここから帰るまでに見つけられますかね」

「三隈さんとニムのところだよな。三隈さんの方はもしかしたら行けるかもだけど、ニムのところは多分大分回り道するよな」

 

 場所が悪いため、そこは一度この面々をうみどりに送り届けてから、もう一度来るしかないだろう。特異点の戦いはまだまだ終わらない。

 

 

 

 

 捕虜達を連れて山を下り、港街に到着すると、ズラリと並ぶ大発動艇が目に入った。何人でも連れて行けるぞと言わんばかりのそれらは、圧巻であった。

 また、水平線の向こうにうみどりやおおわし、こだかの姿も確認出来る。少しは移動してきてくれているようで、往復することになっても距離が近いので少しは楽になる。

 正面突破部隊から少しだけ分かれて活動していた三隈達もここで合流。結局埋めている場所に深雪達は辿り着けず。その埋めている飛行場姫2人は、今はウォースパイトとヴァリアントが見張り役を買って出てくれており、事が済んだらすぐに掘り返しにいくということで話がついている。

 

 港街で合流した時、戦いが終わったことを喜ぶと同時に、特異点が更なる成長を遂げたことに全員が驚いている。特に電の変化は目を見張るモノであり、常に冷静に物事を進めている三隈ですら目を丸くしていた。

 

「な、なんかオレすげぇ場違いじゃないですかね……」

 

 元ヤンキーの戦艦棲姫は、勢揃いした特異点の陣営を見て感動しつつも恐れ多く感じていた。特に敵対していた時から常々聞いていた特異点の存在を目の当たりにしたことで、こんな人達に戦いを挑もうとしていたのかと軽く震えている。

 今の深雪と電は、素人が見ても凄まじく見えるらしい。カテゴリーYには輝いて見えるわけだが、今の2人は特異点としての力がこれまでにないくらい溢れ出ているため、神々しさすら感じるようである。

 

「大丈夫、貴方も立派な協力者ですもの。心を入れ替えてくれたおかげで、三隈達が戦いやすくなったのもまた事実ですわ」

「姐さん……でもオレ元々は」

「元がどうであれ、構いやしません。大切なのは、今ですもの」

 

 三隈と話している戦艦棲姫を見て、深雪と電も話がしたいと近付いた。元ヤンキーの戦艦棲姫からすれば、神々しい魔王達が自分のところに向かってきていると思えば、言葉も止まってしまう。

 

「お前、アレか。戦ってる最中に何が間違ってるのか気付いた類のヤツか」

「う、うす……」

「ありがとな、気付いてくれて。自分から気付けるって、すげぇことだぜ。見てみろよアイツら、未だにここでやらかしたことを正義だと思ってるんだぜ?」

 

 飛行場棲姫のことを言っているのだが、縛られて連行されここまで歩いてきている中でも、ずっと不貞腐れたような表情をしている。何か口走った時には、スキャンプが容赦なく蹴り飛ばしていたようだが、それでも正義は自分にあると思い込んでいるためタチが悪い。

 

「だから、お前はすげぇ。あたし達が保証する」

「なのです。電からもお礼を言わせてください。本当にありがとうございます」

 

 深雪と電にここまで礼を言われ、戦艦棲姫は少し気分を良くし、顔を赤らめながら鼻を擦った。

 

「さぁ、まずは一度帰りましょう。皆さんお疲れでしょう。何かするにもまずは落ち着いてからですわ」

 

 三隈が陣頭指揮を執り、ここからは一度離れることで戦いを終わらせる。ずっと話していても仕方がない。

 

 

 

 

 捕虜も込みで相当な数が島から連れ出される。うみどりでは流石にパンクするため、一部はおおわしへ。反抗的な態度を取るものは、調査隊に連行されることとなった。

 




加賀「あの時はよくやってくれたわ」
翔鶴「あ、ああ、ありがとうございましゅっ」
祥鳳「次は私も……なでなでされたい……」
加賀「私が後輩なんだけれど」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。