港街に集まった仲間達と協力し、捕虜達をうみどりやおおわしに運び込む作業が開始される。
乗り込むことを嫌がる者は、『舵』が無くとも敵対するような者。そういう連中は、おおわしに預けられることになっている。昼目提督が、そういう輩は大本営に送る前に一回痛い目に遭わせておくとのこと。何をするかは深追いしなかった。
逆に話を聞いてくれるような者達は、『舵』が張り付けられていた者。そういう者達は、うみどりで一時的に保護し、この後一旦軍港都市に送り届けることとなった。生活の保障すらされない現状、一番それを受け入れられるのは、軍港都市の保前提督になるだろう。
「本当は一回戻った方がいいんだろうけど、埋めてるっつー敵がちょっと気になるんだよな……」
「いくら敵だとはいえ、ここから電達が休んでる間ずっと埋めておくのは可哀想なのです……」
港街から運び出されていく中、話に聞いていた
戦闘中にその力を奪うことも出来ず、改心させることも出来なかった面々は、その敵対している者達が行動出来ないようにするために、地面に半身を埋めるという処置をしている。爆撃や砲撃で都合よく出来た穴に放り込み、四肢を拘束するように地面にしっかり固定。これにより、意識を取り戻したとしても何も出来ない状態を作り出している。
だからというのもあり、今は動けないのだから後回しでいいだろうという考えにもなってしまっていた。『舵』を張り付けられた者もそこにいるとのことなので、せめてそちらは助けてやりたい。深雪達はそう思い、周りと話しながらここからのことを決める。
「今のあたしと電なら、厄介な力を持ってたとしても無効化出来る。叢雲や梅に頼むのも流石に酷だしな」
「ええ……割と普通にキツいから、やってもらえると助かるわ……」
「梅も無理です……もう自分の足で歩くのも苦しいのでぇ……」
厄介な曲解と『舵』に対して無類の力を持つ2人は、対阿手でその力を存分に発揮し、そして限界に達してしまっている。これから埋められている2箇所に向かい、さらに力を使うというのは流石に無理と本人達も言うほど。
そのため、ここからは特異点の力で両方を無力化していくことになる。電に疲れが見えているが、まだ行けると笑顔で返した。
これを終えなければ、本当の戦いの終わりにはならない。もう一踏ん張りだと、深雪も気合を入れる。
「それじゃあ、その場所に案内してくれねぇかな。あたしと電でどうにかしていくから」
「なのです。戦いが終わったのにここに放置は良くないのです」
「わかりましたわ。なら、まずはここから近い陸の2人をお願いいたしますわ」
ここからは埋められた敵を正気に戻していく作業が始まる。この島での最初の後始末と言ってもいいだろう。
案内役は三隈と伊203。三隈は陸の飛行場姫2人、伊203は岸の環礁達である。
まず向かったのは、この島の役場。三隈の案内で来たこの場所は、砲撃で木っ端微塵にされ、壮絶な戦闘の跡が見てわかるほど。そこに2人の飛行場姫が埋められていた。
あれから時間が経っていることもあり、腕を捥がれたダウナー系の飛行場姫は自己修復によって腕が元に戻っていた。その後に目を覚ましたような痕跡はなく、『工廠』の力を使おうとしたかは定かではないが、ウォースパイトとヴァリアントが睨みを利かせていたようで、今は何事もなくそこに封じられている。
「あら、貴女達……ミユキとイナヅマかしら?」
「はは、見違えたね。特異点というのは成長著しいのかい」
「まぁいろいろあってさ」
うみどりで分かれて何日も経過しているわけではないのに、合流したら姿がまるで違うとなれば、いくらお姫様気質な2人も驚きを隠せない。特異点の特異性を嫌という程実感させられている。だからと言って忌避するようなことは絶対にないのだが。
「こいつらが?」
「ええ。こちら側には『舵』が張り付けられているわ」
気を失っている飛行場姫、その片方の髪を持ち上げると、そこにはしっかり『舵』が鎮座している。
「よし、電」
「やるのです」
そのまま髪を持ち上げてもらっておいて、2人で繋いだ手をその『舵』に向けて突き出す。すると、地下施設でも扱っていた赤黒い煙幕が溢れ出し、その『舵』を包み込んだ。
煙幕の効果は相変わらず絶大で、『阿手の完全否定』の願いを叶えるため、そこにあった『舵』が煙幕に溶け込むように消滅していく。骨まで貫いている針も、まるで最初から無かったかのように消え去った。
だが、仲間達に繰り出したモノとは違う点が1つだけ。『舵』が張り付けられていた期間を知らないため、その間の記憶ごと煙にすることは控えていた。仲間達なら飛んだ記憶の間のことを察したりすることも出来るが、一般人にはこれまでやっていたことを忘れさせられ、気付いたら今という方が苦しいかもしれないと考えた。
とはいえ、これは人それぞれだろう。知りたくないと思う者もいるだろうし、知りたいと思う者もいる。そこは、目を覚ましてから考えるしか無い。
ここまでの記憶を消してほしいと本人に言われたらまた考える。それもまた『阿手の完全否定』に繋がるだろうから、出来ないことはないと思われる。
「Great. 見事なモノね」
「ああ、僕達は力業で引き抜くしか出来ないからね。傷つけずに無くせるならその方がいい」
「本当に助かるわ。私達の出来ないことを補ってくれるのが特異点なのね」
そう、この認識。出洲の考えとは違うのはココなのだ。特異点の力に頼り切るのではない、出来ないことを補ってもらう。それが深雪達の共存。
この考え方がある以上、堕落なんてことは無いだろう。自分で出来ることは自分で、どうしても出来ないなら力を合わせて。
「よし、おしまいだ。これで洗脳は無くなった」
「もう片方のヒトは……無いんでしたっけ」
「ええ、残念ながら、自分の意志で敵対しています。『操縦』を持っていそうなので、迂闊に触れることも難しく」
「なら、その力を無効化しておくか」
煙幕はもう1人の飛行場姫へ。ダウナー飛行場姫とは違い、見た目からの変化はない。だが、その力が
「これで大丈夫だと思うぜ」
「ありがとうございます。では、三隈達で掘り返しておきましょう。深雪さん達はもう1箇所ありますものね」
「ああ、なんかそっちの方が厄介に聞こえたからさ、早く行った方がいいかもだよな」
「ん、厄介なのばっかりだから早くお願い」
伊203が早く行くぞと促す。が、その時、ダウナー飛行場姫が呻き始めた。このタイミングで目を覚ましたらしい。
「……え、な、何これ、私……あ、ああ……」
洗脳装置が失われたことで正気を取り戻したため、少しだけ錯乱していたが、記憶を残しておいたことで何故こんなことにされたかを思い出して、その場で項垂れた。
「おう、目ェ覚めたかよ」
「げ、と、特異点……? そっか、私……はぁ……だる……」
神々しい後光を持つ深雪達──特異点を見たことでいろいろと察したらしい。
「なんで私がこんな目に……」
「本当だよな。でも、元凶の阿手はぶっ斃した。あたし達は、アンタを助けに来たんだ」
「そーなの? あのよくわからん眼鏡女のせいで私はこんなだるい目に遭ったんだから……はぁ……気分最悪……」
ギャーギャーと暴れないだけマシではあるが、嫌な記憶は残っているため、それを思い返しては溜息ばかり吐いていた。今はまだ錯乱状態でもあるだろう。助かったと本当に実感した時、急に泣き喚くということも考えられるため、そこは慎重にメンタルケアを行なっていきたい。
「そうだ、目ェ覚ましたついでだから、聞きたいことがあるんだけど」
「……何、だるい質問?」
「杏って名前に聞き覚えないか。藍田……だったっけか」
「なのです。藍田 杏ちゃんなのです」
ダウナー飛行場姫はその名前を聞いてもすぐに反応は無かった。ということは、これが母親ということは無さそうである。
「んー、知らないかな……というか、そこのお仲間さんの名前も知らないくらいだし」
残念ながら、名乗り合う文化というものは、阿手には無いらしい。従えてしまえば、他は興味がないという腐った思想の表れである。死んでからでも株を下げていく、阿手の低次元っぷり。
「そうか、ありがとな。今からみんなが掘り返してくれるから、助けてもらってくれ」
「ん……でもなんかちょっと落ち着いてきた……」
「さっさと出てこい」
コイツも何処か大物なのではと思える態度であった。
続いて伊203に案内されて到着した岸。そこには3人のカテゴリーYが埋められており、潜水艦隊と妙高が見張りとして待機している。
伊26達はなんだかんだ知っているが、妙高は深雪と電、特に電の深海棲艦化を初めて見るため、少し驚いたような表情を見せる。
「来るまでに調べておきました。『舵』がついているのは、深海鰆水鬼と、環礁空母泊地棲姫です。深海鮫水鬼はついていません」
すぐに気を取り直して、待機している間に調べていたことを話す妙高。3人のうち2人が『舵』付き。その2人は、『舵』を取り払えば正気に戻ると考えられる。
「すぐにやる。電」
「なのです。慣れてきたのです」
すぐにその2人に対して『舵』を消す煙幕をぶつける。飛行場姫の時と同様、『舵』は煙と同化するように消え去っていき、すぐに元から何も無かったかのような綺麗な首筋に。
「最後の1人は、触れるだけで『劣化』させる力を持っています。そのせいで埋めざるを得ない状態です」
「なるほどな。『操縦』よりも厄介だ」
そして深海鮫水鬼には力を無効化する煙幕。深雪も電も、自分達の力はやたらと便利だなと苦笑する。
「……う、あ……」
すると、環礁空母泊地棲姫が目を覚ます。そして、伊203の姿が目に入った瞬間に、すごく怯えたような表情になった。『舵』がついていた時は超強気でも、今は正気を取り戻しているため、人間らしい感情も蘇っている。
「あ、貴女達は……うぐ、私はなんてことを……させられ……」
「よかった、まともになってくれたな」
「……貴女が特異点か。そうか……私を救ってくれたのか」
錯乱しそうなところをぐっと堪え、深雪と電に礼をいう環礁空母泊地棲姫。真摯なヒトだと、非常に好感触。
「起き抜けで悪いんだけど、聞きたいことがあるんだ」
「杏……藍田 杏ちゃんのことを何か知りませんか?」
その名前を聞いた瞬間、環礁空母泊地棲姫は目を見開く。そして──
「杏……
はい、環礁が杏ちゃんのお母さんでした。黒井母といい、お母さんは何処か強い。