後始末屋の特異点   作:緋寺

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艦娘の問題

 タシュケントがうみどりに接触した理由には、元凶を叩くために協力してほしいという依頼も含まれていた。しかし、それに対して深雪が、自分達の素性を一切話さずただ協力してくれというのは虫が良すぎると反発。信用していると言いながらも、それはただ、うみどりを利用しようとしているようにしか聞こえなかったからである。

 タシュケントも深雪に言われたことで考えを改めた。一方的に監視をして、何も言わずにただやってほしいことをやらせているようなもの。協力ではなく従属と感じてしまっても無理はない。

 

 結果、秘密組織のことを教えることとなったのだが、それがとんでもない爆弾だった。

 

「あたし達のボスは……()()()()なんだ」

 

 深雪と電にはこの重大さが少しわかりにくい。しかし、人間である伊豆提督達は、驚きを隠せない。

 

「え、ちょ、本当なの!?」

「流石にここまで言われて嘘はつかないさ。それこそ信用を失うからね。ここからあたしが話すことは、嘘偽りない真実だって思ってほしい。これがこちらからの信頼の証だよ」

 

 ここまで声を荒げる伊豆提督を見たことが無かった深雪と電は、それで事の重大さを知ることになる。

 タシュケントは自分のことを第二世代と言い、そこを統括するボスはさらに古い第一世代だというのだ。そして、タシュケントが属する組織は艦娘しかいない。

 

 つまり、組織のボスは、()()()()()。第一次深海戦争の時から今まで生き残る艦娘だということだ。

 

「ハルカちゃん、あたしと電はその辺り全然わからないから、ちょっと教えてもらっていいかな」

 

 電もぶんぶん頭を振る。とんでもないことはわかるが、理解にまでいけないのがカテゴリーWの二人。つい先日まで世界の真実も知らず、知ったところで戦いは長く続いているということしかわかっていない。細かい数字は生きていくことには不要だし、重要なのは今どうすればいいか。

 そのため、ちゃんと聞いていない部分があった。それが、第一次深海戦争は今からどれくらい前に起きているのか。

 

「タシュケントちゃん、ここはアタシが説明するわね」

「ああ、頼んだ。もし歴史が狂ってるようなら、あたしが横槍入れる。さっきみたいに、ズレがあるかもしれないからね」

 

 タシュケントも第二世代であるから最初は口伝で知っていること。しかし、その段階からズレていたら修正出来るくらいには知識がある。彼女のボスは、嘘をつかない。

 

「まず、今の戦い、第三次深海戦争は、三度目の深海棲艦出現からもう10年経っているの」

「10年……もうそんなに戦ってんのかよ」

「ええ。でも、状況はなかなか好転しないわね。むしろ良くも悪くもなっていない。アタシ達が後始末をしても、また別の場所で現れる。なかなか困ったものね」

 

 深雪と電にとっては僅か数日の出来事。しかし、人類はすでに10年の歳月を深海棲艦とカテゴリーMの脅威に晒されている。

 第一次と第二次のノウハウ、そして皮肉なことに悪辣な人類の研究を扱うことによって人間を艦娘にすることが出来るようになったことで、この戦いはギリギリ拮抗している状態だ。

 

「タシュケントちゃん達が協力してくれて終わらせることが出来た第二次深海戦争。それが終わったのが、第三次が始まる20年前。戦いそのものは8年続いたらしいわ」

 

 らしいという言葉を使ったのは、伊豆提督がまだ物心ついていないときだからである。既に歴史の教科書から抜粋しているだけなのだ。

 

 この時点で深雪と電がわかったのは、タシュケント達は()()()3()0()()()()()()()()()ということ。しかし、一向に見つからない上に、三度深海棲艦が現れるようになってしまって、余計に探しにくくなってしまっている。

 むしろ、それだけの長い時間を逃げ果せることが出来る元凶が異常というのもあるのだが。タシュケント達の捜索が甘いのではという考えは、深雪は今は振り払った。

 

「それで、初めて深海棲艦が現れた第一次深海戦争なんだけれど……それ自体は12年。でも、終わってから第二次が始まるまでに35年経っているの」

 

 人類的には、艦娘についての研究をしている時、忘れた頃にやってきたというイメージだったようである。

 これにより、深海棲艦との戦いは、多少の空白があるものの、全て合計すると85年もの間続いているという。人間一人が生まれてから死ぬまでの時間だ。

 

「タシュケントちゃん、一つ質問させてちょうだい」

「いいよ。何かな」

「アナタのところのボスは、第一世代ってことだけれど、第一次深海戦争の初期から活動していた艦娘なのかしら」

 

 そうだとしたら、そこから今までの85年間を生き続けているということになる。

 

「あたしも本人から聞いたくらいだけど、最初から戦ってきたらしい」

「……うちの元帥より歳上じゃないの」

 

 艦娘は外見上不老ではあるものの不死ではなく、正しい整備をし続けても()()()を免れることは出来ない。艦ならともかく、艦娘であることの影響がここにある。

 それこそ、第二次深海戦争の際に、第一世代はもう戦えないとされていたと伊豆提督は以前に語っているくらいだ。第一次から続けて生き続けていたとしたら、既に50年弱の年月を過ごしているのだから、一線を退いていてもおかしくはない。

 そこからさらに30年以上生き続けているのだから、身体が限界に近いというのも納得が出来る。

 

「ハルカちゃん、前に第一次の時の艦娘は……その、使い潰されたみたいなことを言ってなかったか」

「アタシはそうやって学んでいるわ。第一世代は、過去の悪辣な人間に使われ、命を搾り尽くされているって。だから、もう誰一人として残っていないと思っていた」

「多分、うちのボスだけだと思うよ、生き残りは。あたしも使い潰されるところを見ちゃってるからね」

 

 そう話すタシュケントの表情からは、明らかな憎しみが見て取れた。その様子を目の当たりにしているというだけあり、長い年月が経ってもそれが鮮明に思い出されるようだった。

 

 それもそのはず、タシュケントが見た使い潰された艦娘というのは、第一世代の同郷艦、ガングート。老朽化が進んできたところを改装するという名目で誘い込まれたところに、その全て──命さえも奪われてしまった。

 タシュケントはたまたまそれを見てしまったのだ。ガングートがどのように改装されるのか興味を持って、こっそりとついていった結果がコレである。そんなものを見たら、人間のことを信用出来なくなるし、怒りと憎しみは人一倍となるだろう。

 

「うちのボスは、使()()()()前に逃げ出すことが出来ていたんだ。幸運なことにね」

「そう……じゃあ、そこでアナタ達が保護した、と?」

「保護になるのかはわからないけれど、純粋種というだけでも危険だということに気付いたあたし達は、ボスを匿うことをキッカケにして組織になっていったんだよ」

 

 これが今の人類が知る歴史上では、純粋種が人類に失望して失踪したとされている部分の全容。逃げ出したボス、現場を見たタシュケント、そしてそこから不信感が増し、その時の純粋種全てに伝わった。

 第二次が終わるまでは、人類の平和のために戦ったものの、その裏側では悪辣な人間に対する圧力もかけている。そして、最終的には暗殺というところまで行った。

 しかし、本当の元凶は始末出来ていない。始末したのは元凶の末端。本当に始末しなくてはならない人間は、未だに逃げ果せている。

 

 ただ、ここまで長丁場になると思っていなかったようで、その間にボスの身体も限界に近付いている。

 むしろ、組織にいるであろう第二世代全員に老朽化の恐れがある。今でこそ十全の力が発揮出来たとしても、間もなく元凶を探すことすら出来なくなる。焦りが見えても当然だった。

 

「限界が近いってのは、動けないってことなのか」

「普通に生活をすることは出来るけど、戦いの中ではすぐにダメになるって言った方がいいかな。やたらと燃費が悪いみたいなものだよ。それに、体力もかなり落ちている。今のボスは、見た目は艦娘だけど中身は人間の老人みたいなモノなんだ。元気ではあるんだけどね」

 

 老朽化により朽ち果てるのは、人間にとっては老衰と同じようなモノ。しかし外見だけの不老によって、それがわかりにくい。知らぬ者には、変わりない艦娘として扱われるだろう。

 

「自分の足でここに来るまでスタミナとかがないと」

「そういうこと。出撃しても戦うことが難しいからね。だからあたしが監視役をやってた。あたしは組織の中でも若い方だからね。老朽化はまだ遠い」

「戦力としては人選に失敗しているわけじゃないってことだな」

 

 深雪からの痛烈な嫌味である。やはり、先程までの人間不信からなる一方的な協力要請が気に入らなかったようだ。タシュケントも自覚しているため、苦笑しか出来なかった。

 

「ひとまずアナタ達のボスのことはよくわかった。確かにそれでもここに来いというのは酷でしょう。ちゃんと話すなら、こちらから出向くしか無いわねぇ」

 

 伊豆提督の言う通り、老朽化によって限界が近い艦娘をわざわざ出向かせるのは流石に酷。誠意を見せろと言っても、そのせいでポックリ逝ったなんて言われたら目も当てられない。

 しかし、その拠点としている場所が、これまでの後始末屋の経験からでもわからない。そこら中の海を駆け回っているのに、そんな不自然なモノは見たことがない。

 

「教えられたらでいいんだけれど、アナタ達は何処で生活しているのかしら。むしろ、どうやって生活しているのかしら。正しい整備がないと、維持することも難しいでしょう」

「ああ、そこは心配しないでくれていいよ。まずうちには明石がいる。整備に関しては気にしなくていい」

 

 第二世代の工作艦明石が存在していることで、艤装などの整備は十全なものでいられるようだ。また、資材に関しても独自の補給線が出来ているとのこと。食事にもそこまで不自由はしていないらしい。

 30年間隠遁しておいて何をどうすればそこまで維持出来るのかは疑問であったが、海賊行為などはしていないから安心してくれと念を押されたため、納得するしかなかった。

 

「生活している場所は……まぁ簡単に言えば、簡単には目につかないところだよ」

()()()()()?」

 

 この伊豆提督の一言で、タシュケントの言葉が止まった。図星をつかれたと言ってもいい。

 

「大型の潜水艦が近くにいたことは、調査隊の調べでわかっているわ。移動鎮守府であることもね。アナタが撤退してからすぐに姿を消すのも、海中に逃げ込んでるって言うなら納得出来るもの。探しても見つからないわけよね」

 

 調査隊が発見している巨大な潜水艦がそこにいた痕跡。それが、タシュケント達の拠点である潜水鎮守府。

 艦娘の精神衛生上の問題で保留されていると言われている潜水鎮守府だが、ここでいろいろと繋がる。

 

「……はぁー、なるほど、そういうことか。艦娘の精神衛生上の問題で造らなかったというのも嘘だったわけね。いや、実際起きるかもしれないけど、その情報が確認されているというのも、このことを隠すための偽装だったんだわ」

 

 一人で納得していく伊豆提督だが、他の誰もが何もわかってない。当事者であるタシュケントでさえも。

 

「調査隊の母艦を潜水艦にしなかったのは、タシュケントちゃん達が住む潜水艦を見つけられないようにするため。というか、そんなものがあったら誰か気付くでしょ。何処で造ったのかとか、疑いが出るに決まってる。でも、それが出なかった。ここまで隠し通せてる。そんなの、最終的に疑うところなんて何処かわかるわよ」

 

 小さく溜息を吐いた伊豆提督。そして、一言。

 

 

 

 

「大本営、()()()()()()()

 

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