埋められた杏の母、紫苑を掘り返し、そのまま続けて潜水鰆水鬼、潜水鮫水鬼と救い出す一行。鰆はともかく、鮫の方は『舵』も無しに敵対していた、更生させる必要のある敵であるため、埋まっていたところから出したとしても要警戒。
「……はぁ、気分悪いね……」
ぐったりとしつつも、『舵』からの洗脳が失われたことで正気を取り戻した潜水鰆水鬼はガックリと項垂れながら落ち込んだように溜息を吐く。こちらもやはり、錯乱しないだけマシ。そうあってくれるだけで、話が早く進む。
特異点の煙幕によって『舵』が取り払われたというのもあり、その影響でまだ恐怖による暴走みたいなモノも抑えられているとも思われる。一般人が戦闘をさせられ、結果として痛い目も見ているのだ。普通ならそのことを思い出して発狂というのがあってもおかしくない。潜水鰆水鬼に関しては、その
「正直暴れたいくらいだよ。でも、そこに……」
潜水鰆水鬼が指を差す方には、伊203が何かしでかした時ようにスタンバっていた。次に反発的な態度を取ったら、
時間が経過したため、潜水鰆水鬼も自己修復により全回復。手は勿論のこと、脚もしっかり生えている。相変わらずその自己修復能力は詐欺のような仕上がりである。
「悪魔がいる……」
「フーミィお前何処までやったんだよ」
「『投錨』の力を持ってる。指差されたら終わり。だから、指があるところを全部捥いだだけ」
「……御愁傷様」
潜水鰆水鬼は明らかに伊203に対して苦手意識を持っている。両手両脚を捥がれるなんて経験、一般人には絶対に起きないことであり、かつその痛みも覚えているのだから、精神安定の効果が無かったら恐怖で暴れていてもおかしくはない。
伊203だって、こうなるとは考えていなかったし、一番手っ取り早く殺さずにその行動をどうにかするにはそれが一番早かったから選択したに過ぎない。容赦の無さだけはピカイチである。
「全部治ってるからいいけど」
「いいんだ」
「よくないけど、いいとしないと先に進めないでしょ。アタシだって嫌だよ。あんな痛い思い、二度としたくない」
落ち着いてはいるものの、恐怖心だけはどうしても取り除けず、伊203からは極力距離を取っている。深雪の陰に隠れるまでした。
「あと、それ……アタシ達と違うんだっけ? 何があったら、アタシが動き止めてあげる」
「おう、悪いな。『劣化』の力を持ってるって聞いたけど、それはあたしが無力化してる。普通に触っても大丈夫なはずだ。でも、もし何かしそうになったら止めてくれ」
「はいはい。……普通にいい奴じゃん特異点……これをどう考えたら生きてるだけでダメだって思うんだろう……」
潜水鰆水鬼の呟きを聞き逃さず、そういう考えを持ってくれる者がいるだけでもありがたいと深雪は思う。これまでのやり方が間違っていないと確信が持てるし、これからもこのやり方を続けていこうと考えることが出来た。
潜水鮫水鬼もしっかりしっかり掘り返し、喧しいことを言いそうになったら黙らせ、ようやく港街で全員と合流。少し歩くことになったものの、まだ動けないまでの消耗はない。
その頃にはうみどりとおおわしへの輸送は大分進んでおり、残り半数は切っていた。戦闘中でも手伝ってくれた離島棲姫や元ヤンキー戦艦棲姫などは今も残って、最後まで手伝いをしてくれている。
「連れてきたぜ。そっちももう来てたか」
先に役場で洗脳を解いたダウナー飛行場姫も、QE級姉妹に連れられてこの場に来ている。『舵』の無かった飛行場姫は、ヴァリアントがしっかり目をつけながら。
「これで全部だよな。なんかおかしなことはなかったか?」
「ええ、今のところは大丈夫。負けたって認められない子供もいたけど、それはトラがお説教中」
神風が説明しながら視線を向けると、そこには港の防波堤に正座をさせられているカテゴリーYとなった島の悪ガキ達を、トラがクドクドと説教をしていた。殴られないだけありがたいと思えと付け加えながら。
だが、悪ガキというのはそんなことでは反省しない。やはり洗脳教育は根深い。これだけされても、まだトラのことをなめている口がある。故にここからは更なる増員がされる。
「おう、話は聞いたぜ。自分が悪いことしたって自覚出来ねぇクソガキ共は何処だぁ?」
なんと、昼目提督が直々に港に来てしまった。おおわしへの収容は鳥海が陣頭指揮してくれれば大丈夫だろうと、物分かりの悪い子供を恐れさせるために。
自他共に認める人相の悪さは、この悪ガキ達にも有効だった。自分達と同じように深海棲艦の姿になっているトラからは、同類が何言ってんだという考えも出てきてしまうが、単純に大人の男、ぱっと見で
だが、とある悪ガキは、自分は高次の存在になったのだから、人間如きが何を言うと突っかかる。1人そう言い出したら、周りもそれに賛同していく。子供とはそういうモノであり、昼目提督もその辺りは理解していた。
だからこそ、今回は大人として、子供達を導くため、当たり前のように
「何調子こいてんだテメェら。ちょっと力貰ったからっていい気になってんじゃねぇぞコラ。こちとらテメェらに命脅かされてんだぞ。それをクソみたいな理由で正当化しやがって。謝ることも出来ねぇ、何が間違ってるかもわからねぇようなクズ共は、これからみっちり『教育』してやるから覚悟しろ。泣いて叫んでも逃がさねぇ。つーか、海の上だから逃げられねぇ。真っ当な人間に戻してやるから、むしろ感謝しろクソガキ共」
悪ガキ達は、ただひたすらに恐怖を植え付けられた。自業自得なのだが、そういう教育をされてきたのだから、それ以外を知らないというのもある。本当の常識を知るためには、昼目提督は痛みを以て教えてやると突きつけた。
「……オレ、マジで自分で気付けてよかったです」
「本当にな。君だけだぞ、素直に話してくれたのは」
「うす、姐さん達には感謝してもしきれないです」
一度昼目提督に任せて、トラも合流。艤装が艤装だけに内陸での戦いには参加出来なかったが、ここで正面突破を食い止めていたこともあり、少しお疲れの様子。『ダメコン』があったところで、疲労は拭いきれない。
元ヤンキー戦艦棲姫は、そんなトラを気遣うように駆け寄る。そして、自分以外の悪ガキ達が未だ反省していないところを見て、つくづく自分の選択が正しかったと感じていた。
保護と収容が終わる頃には、かなりの時間が経っていた。空は薄暗くなってきており、戦いがそれだけ長時間に及んだことを如実に表している。
ここまで来ると、疲労を痛感する。深雪とて、今は出力をかなり上げた姿だ。慣れていない姿を維持しているため、終わり際になると見てわかるくらいに消耗していた。電はそれに輪をかけて疲れている。
「貴女達も大発に乗っていきなさい。自分の足で帰るのはしんどいでしょ」
神風に促され、ありがたいと甘えることとした。だが、姿はギリギリまで元には戻さない。このタイミングで何か起きてしまったら大変だから、すぐに対処出来るように、うみどりに戻るまではこのままで。
「……私達の戦いは、むしろここからよ」
「どういうことだ?」
「私達の本業よ。忘れてないわよね?」
後始末屋だと返そうとした深雪は、そこで察した。戦いの後始末、戦場の掃除をすることが、後始末屋の本来の仕事。この島全てが戦場なのだから、
自爆した海賊船の片付けなんて比較にならないレベルの規模。海だけでなく、陸も含めた全域がその対象。この異常な広さを、全て後始末しなくてはならない。
「……マジか。この島全部かよ」
「街中を出来損ないが徘徊してて、私達はそれを始末もしてる。陸で穢れが溜まった場合、何が起きるかわからないわ。それに、私達は優先的に後始末しなくちゃいけないモノも見てる。爆発したら終わりの水爆……今は貴女の特機が阿手の心音を誤魔化してくれてるけど、それにも限界があるでしょ。早急に片付けなくちゃいけないわ」
電は言葉も無かった。後始末なんて言っていられないレベルの規模。正直、いつ終わるかもわからないくらいの広すぎる領域。その全てが綺麗になるまでは、後始末屋の戦いは終わらない。
「でも、やらないとダメだよな。この島が、最悪深海棲艦の巣になっちまうかもしれねぇ。そんなことになったら、戦いは終わらないどころか、もっと酷いことになりかねねぇよ」
「なのです。これまでの比にならないことはわかっていても、これからは逃げないのです。どれだけ時間をかけてでも、ちゃんと後始末を終わらせなくちゃですね」
「ええ。それに、まだ私達の目が入っていない場所だってある。そこに何かされていた場合、実は本当に終わっていなかったなんてこともあり得るんだもの。今回の後始末は、本当に終わったかどうかの確認でもあるんだから」
げんなりしつつも、後始末屋としての誇りを胸に、この島の後始末は必ずやり遂げてみせると決意する深雪と電。神風もそんな2人の決意に笑みを浮かべる。
「私は明日いっぱい動けないと思うから、その次の日から参加する。貴女達も、自分ではわからないくらいに消耗しているかもしれないから、まずはゆっくり休むことよ」
「だな。あたしはまだしも、電は初めてのそれだ。絶対疲れが出るぞ」
「なのです……でも、明日からはいつでもこうなれるように、深雪ちゃんみたいに練習もするのです」
「ああ、手伝うよ。あたしもこれに慣れておきたいからな」
後始末の決意と同時に、さらに強くなることを願う2人。この島の後始末も大切だが、その次に待ち受けるのは、出洲との最終決戦だ。
この戦いも確実に終わりに近付いている。しかし、壁は高く、乗り越えるのは至難の業。仲間達と共に、どうにかしたいところである。
とりあえず収容される悪ガキ共は、島の掃除をさせることは確定。嫌がったら殴られる。