後始末屋の特異点   作:緋寺

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魔王と魔妃

 島で救助された者、捕縛された者が、それぞれうみどりとおおわしに保護、収容され、深雪達も最後にうみどりへと戻っていく。これで今のところは島が無人になったと思われる状況。

 うみどりも定員オーバーとまではいかないものの、かなりの人数を詰め込んだことになるため、なるべく早いところ安全な場所に連れていきたいところである。

 しかし、阿手が好き放題使い続けてきたこの島の後始末が必要であり、早急にどうにかしないといけない水爆という存在もある。そのため、うみどりがこの場を離れて軍港都市に運ぶなんてことはかなり難しい。

 

 とはいえ、今は戦闘終了して間もない。特に最後まで戦っていた深雪達技術部隊のさらに選ばれた者達は、もう疲労がピークに来ていた。

 

「……やべ、ちょっと落ちかけた」

「なのです……座っちゃうと、眠気が一気に来るのです」

 

 大発動艇で運ばれる深雪と電は、うつらうつらとしていた。阿手を始末し、もう後始末以外の戦いは少しの間は無いとわかると、もう緊張も大分解けている。

 だが、深海棲艦化はまだ解除していない。うみどりに戻るまでが戦い。ここまでやって、まだ何かあられても困る。

 

「あたし達も、まずはここから一晩は休むことになるだろうな」

「なのです。でも、戻っても色々ありそうですよね」

「だな……丹陽のことは心配無くなったとは思うけど、先に戻った保護した連中のこととか、あと浜風のことも残ってるな……」

 

 忌雷アンチを拗らせすぎて、特機が気に入らずにうみどりまで乗り込んできた浜風は、結局は戦場にも出ることなく、神威の『排煙』で癒され続けていたことになるのだが、未だ安定はしていない。勝利を収めたというのに。

 ここまで拗らせているのなら、言ってわかってはもらえないかもしれないが、だからといってそのままにしておくわけにもいかない。そのため、戻ったら改めて話をする必要があると考えている。

 

「まぁ、あたし達はやれることをやるしかねぇや」

「なのです。電も驚かれるでしょうし」

「だな。戦場から帰ってきたらこんなに成長して帰ってきた、なんて驚かないわけが無ぇぜ」

 

 少し照れ臭そうに笑う電に、深雪もニカッと笑みを浮かべる。そして、改めてこの戦いの終わり──()()()()という意味での終わりを実感する。

 

「……実際はこれでようやく半分ってところなんだよな」

「こんな広い場所を後始末するなんて……前代未聞なのです」

「今からでも気が滅入っちまう。でも、頑張らないとな」

 

 遠退いていく島を見ながら、しみじみと話す2人。ついさっきとは違う理由で乗り込んでいかなければならないと思うと、どうしても溜息が出てしまうモノだった。

 

「あ、来た来た。お疲れ様ーっ!」

 

 うみどり周辺まで来ると、防衛班として常にその近くで警戒をし続けていた者達──今回は酒匂や秋月が、手を振って出迎える。

 全員がうみどりに戻るまでは、徹底的に警戒を続けていたようで、今もフル装備で海上で待機中。それも深雪達が戻ってきたことによって終わりとなる。大発動艇と並走しながら、防衛班もうみどりへと帰投することに。

 

「うん、知ってたことだけど、そういう目で見てくるよなお前は」

「なのです。でも、うみどり防衛ありがとう、なのです」

 

 真っ先に感じたのは、2人への視線。防衛班としてうみどりの空を守り続けていた防空姉妹、居相姉妹の妹、恵理の視線である。姉の舞亞は顔に手を当てて呆れた表情をしているが、恵理は疲れているはずなのに、目をキラキラさせながら2人を見ている。

 

「特異点は更なる進化を遂げたのか……! 神々しさも増しているように見えるな!」

「そこは知らなんだ。特異点の力が強くなってるからかもな」

「なのです。電もいろいろ出来るようになりましたから」

「うむ、素晴らしい! 常々魔法少女の類だとは思っていたが、それを生で見られることになるとは! なんて羨まけしからん! 今度は是非変身シーンを見せてもら痛ぁい!」

「自重しなさい。お二人は疲れているんです」

 

 ヒートアップする恵理を引っ叩いて制止する舞亞。妹がごめんなさいと頭を下げるが、深雪も電も構わないと苦笑。

 

「しかし……魔王はさらに魔王らしくなりましたね」

「お、まだその設定持ち出すか?」

「いい意味で魔王ですよ。あの敵が正義を振り翳すなら、魔王の方が平和に近いですから」

 

 恵理の首根っこを掴みながらも、本質を捉えた言葉。阿手の説く平和は自分勝手で決して正義と言えるモノでは無かった。それならば、それに反逆する特異点──魔王の方が、余程平和に向かっている。舞亞はそれならば魔王を推すと小さく笑みを浮かべた。

 

「深雪が魔王ならば、電は魔妃だな!」

「ま、まき?」

「魔王の妃、つまり魔妃だ。特異点2人は、それくらいお似合いだと言うことだ」

 

 魔王と魔妃。そんな言われ方をすると思っていなかった電は、途端に顔を赤くする。深雪の妃として認められるだなんて思っていなかった。

 

「でも、それくらいピッタリだと思うよ。特異点2人とも深海棲艦の身体になれるようになったんだもん。並んでると、すごくいい感じ。バランスも取れてるね」

 

 その話に酒匂も割り込んできた。戦いも終わり、心に余裕が出てきたことで、そんな世間話も可能に。

 

「みんな驚くよ。ね、秋月ちゃん」

「はい、かくいう私も驚いています。電さん、すごい成長してますね」

「あはは……ありがとうなのです」

 

 そんなこんなで、残り短いうみどりへの帰投は、終始和やかな雰囲気となった。

 

 

 

 

 うみどりに到着し、大発動艇から下りる2人の姿に、その変化を知らない者達は大騒ぎ。深雪は少し変わった、これまで着ていたモノを脱いだ程度にしか見えないが、電の大きすぎる変化は、工廠を騒然とさせる。

 

「い、電ちゃん、先に戻ってきた子から聞いていたけど、すごい変わりよう、ね」

 

 伊豆提督も目を丸くしていたくらいである。見た目からして子供だった電が、戦艦としての力を得た上で、身体を大人にしているのだから。深雪の変化と違い、身長が大きく変わったわけではないが、()()()の変化があまりにも顕著であったため、誰も彼もがどうしてもそこに目が行く。

 

「あ、あはは……こうなりたいと望んだわけではないのですが、深雪ちゃんと同じくらいの強い身体が欲しいって願ったらこうなったのです」

「地中海弩級水姫に近いかしら。いや本当に見違えたわ」

 

 少し驚いたモノの、すぐにいつもの調子に戻る。

 

「2人とも、お帰りなさい。戦場では大丈夫だった? 辛い思いをしたと思うけれど……」

「まぁいろいろあったけど、うん、終わり良ければ全て良し、だよな」

「なのです。これであの島での戦闘は無いはずなのです」

「ええ、阿手がいなくなって、改造された島民はおおわしと分配して保護しているもの。まだ潜んでいると言われたらわからないけれど、ひとまずはおしまい。2人とも疲れているでしょうから、今はゆっくりと休んでちょうだい」

 

 先に戻っていた者達も、2人の到着を待ってから風呂に行こうという感じだったようだ。最後の面々で一緒に汗を流して、そしてどっぷりと眠りたい。心身共に溜まった疲れは、仲間達と共に癒されるべきである。

 

「そうだ、その前に気になってたこと、いくつか」

「何かあるかしら。ああ、丹陽ちゃんならあっちよ」

 

 伊豆提督が指差す方には、泣き過ぎて目がパンパンに腫れた丹陽が、今まで見たことがないくらいに清々しい表情をしていた。

 深雪達の視線に気付いたことで、パタパタと駆けてくる。

 

「おう、丹陽。終わらしてきたぜ」

「はい、ちょっとカッコ悪いところを見せてるおばあちゃんですが、嬉しくて嬉しくて仕方ないです。初風さんの仇、取れたんですもんね」

 

 阿手との決着を自分の手でつけられなかったこと、その終わりを自分の目で見られなかったことが心残りではありそうなのだが、それ以上に、これまで長い年月を好き勝手やってきた阿手がこの世から消えたと思うと、丹陽はまた涙が出そうになっていた。溜まりに溜まった憎しみが消えていく。その影響が全て涙になってしまっているようだった。

 

「ありがとうございます、皆さん。本当に」

「みんなの力が無けりゃ、ここまで行けなかった。また後からいろいろ話すよ。お前の恨みをぶり返すことになるかもしれねぇけど」

「いえ、聞かせてください。現場にいられなかった分、何が起きたのかを詳しく聞きたい。何をされたか、どう覆したか、そして阿手の最期を。トドメを刺したフレッチャーさんにも聞きますけどね」

 

 丹陽は深雪達の武勇伝がお望みの様子。そんな丹陽が、拳を突き出してきた。

 

「お疲れ様です、お二人とも。そして、改めて言わせてください。本当にありがとうございました」

 

 その拳に、深雪は自分の拳を突き合わせる。電も共に。

 

「ああ、なんとかなってよかったぜ」

「なのです」

「今はゆっくり休んでください。気になることは沢山あるでしょうが、ひとまず回復が優先です。心は余程大丈夫でしょうが、身体は今こそ重要ですよ」

「だな。それじゃあ、どうしても気になることだけは今解決していく。浜風はどうなった」

 

 丹陽がその名を聞いて苦笑する。そして、あちらですと顎で視線を誘導。

 

 そちらには、未だ神威の『排煙』で癒され続けている浜風の姿が。護衛棲姫もその視線に気付いたか、ビクッと震えた後、小さく頭を下げた後、つたなく手を振ってきた。

 

「浜風……まだ特機が気に入らないか」

「それでもずっとここでじっとしていましたよ。あんな精神状態で戦場になんて絶対に出せないので、結局はここでこうしているだけでしたが」

「仕方ねぇよ。でも、今は一応説得するモノもある。こいつを見てくれ」

 

 言いながら深雪が取り出したのは、最初から最後まで同行させ続けた特機1号。今は大事そうにとある機械を抱え、絶対に離さないように自分に張り付けるようにすらしているほど。

 

「これは?」

「あのクソババア、島に爆弾仕掛けてやがってさ、自分が死んだら起爆するようにしてやがった。だから特機がババアの体内に入り込んで、その機械だけ抜き取ってくれたんだ。この特機が死んだら、そのまま島が吹き飛ぶ。全員死ぬぞ下手したら」

「な、なんてモノ持ってきてるんです!?」

 

 流石に丹陽も声を荒げた。仕方ねぇだろと深雪は返すモノの、ここにあるのは超危険物。これが維持されているからこそ、島はそのままに出来ているのだ。

 

「こいつがいなければ、この戦いは終わらなかった。こいつがいなければ、今この状況を作れてない。これでも特機を使うことが許せないとは言わせねぇよ」

「なるほど、裏のMVPなんですね」

 

 しかし、今の深雪の言葉を聞いて、伊豆提督は考える。水爆の存在を知り、早々に撤去しなければならない。後始末の段取りは、この段階から考えられ始めていた。

 

 

 

 

 うみどりに帰投したことで、深雪達はようやく落ち着くことが出来る。次の戦い──本業である後始末に向けて、身体を休めるところからである。

 




特機1号に島の命運がかかってしまっているので、これも許せないと壊した場合、最大の戦犯になってしまいます。だから浜風は、嫌でも認めなくちゃいけなくなった。水爆を脅しに使ってるようで凄く嫌だけど。
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