後始末屋の特異点   作:緋寺

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この先の戦い

 伊豆提督への報告、丹陽への挨拶も済ませたところで、深雪はともかく電は疲労で限界が来そうだった。初めての深海棲艦化に、戦闘での全力の煙幕の展開、そしてここまでで動き回ってきたことも含めると、そろそろ休まないと倒れてしまう。

 それでも風呂だけは入っておきたいと、まずは疲れた身体を引きずって風呂へと向かう。だがその前にやっておかねばならないこともある。

 

「電、一度艦娘に戻っておこうぜ。いや、そうなると体力不足で逆に動けなくなるか……?」

「ど、どうなんでしょう……深雪ちゃんの時は、その場でふらつきましたよね」

「だったな……あの時は吹雪がいてくれたからまだマシだったけど、ギリギリまで今の姿の方がいいか」

 

 寝る直前には艦娘の姿に戻るつもりではあるが、今は動くためにも姿を維持していた方がいいかもと考える。しかしそうなると、今度は違う問題も出てくる。

 

「お風呂の後の着替えが無いのです……」

「おお……じゃあ、風呂で戻るか、そしたら誰かしらに助けてもらおう、うん。みんなを頼ろう」

「な、なのです……」

 

 この疲労度合いは割と不安が大きいため、そういう時こそ仲間を頼ろうと、奇襲部隊の最終戦で共に戦った者達と共に風呂へと向かった。

 

 そして、深海棲艦化を解いたことで、電が疲労により動けなくなったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 戻ってきた艦娘達が戦闘の疲れを癒している間に、伊豆提督は戦闘が終了したことを方々に連絡していた。

 大本営の瀬石元帥に、軍港都市の保前提督、丹陽とタシュケントに、援軍を寄越してくれた有栖提督。そして、浜風の件でずっと謝り続けている有道提督。調査隊の昼目提督は現在物分かりの悪い子供達に拳を交えた説教をしているため欠席。

 

『うちの浜風がご迷惑を……』

「もう大丈夫よ有道ちゃん。ああなるのも仕方ないことだもの。今はうみどりで癒されてもらっているけれど、落ち着いたら一度戻ってもらうわね」

『重ね重ね申し訳ございません……』

 

 頭を上げることが出来ない有道提督を宥める伊豆提督。しかしながら、援軍を出すと言っていたのに、そのうちの1人が私怨で暴走し、結果として邪魔をしかけた挙句、戦闘にすら参加しなかったという失態を見せている。有道提督からしてみれば、約束を反故にしたようなモノと感じてしまう。

 

「他の子達は、正面突破部隊や防衛部隊で頑張ってくれたわ。浜風ちゃんに関しては、アタシ達は何か罪を問うなんてつもりはないから安心してちょうだい。寄生された経験は、それだけ心に大きな傷を残すということだもの。うみどりの子達だって、表に出さないだけで、すごく傷ついてる子も多いの。だから、アタシ達はそれを咎めないわ。悪いのは全部、今はもういない阿手なんだもの。元帥、勝手に決めてしまっていますが、それでよろしいでしょうか」

『うむ、まぁ、あまり褒められたモノではないが、今回は大目に見ておくとしよう。有道君、とはいえ浜風には反省させておくように』

『はい……』

 

 流石に元帥は完全なお咎めなしとは言わず、罰とまでは行かずとも、浜風に対して反省を促すようにと勧告。

 今回の戦いは心を壊す者だっていてもおかしくないような戦い。それをいち早く受けてしまい、実際にそうなってしまったと考えれば、それは伊豆提督が言う通り阿手のせいでもある。浜風だけの責任ではないと100歩譲れる。

 

「浜風さんには、私がもう少し話をしておきます。お姉ちゃんですからね」

『丹陽にもお願いしておこうかの』

「任せてください瀬石さん。今の私は心に余裕があります。皆さんのおかげで。浜風さんには今、私の()()()がついていますから、少しは落ち着いているはずです。それでも言葉が届いていないように思えましたけど」

 

 阿手が始末されたことによって、非常に清々しい表情の丹陽は、妹の不手際をどうにかしてあげようと、胸を張って任せてほしいと伝える。有道提督にも、おばあちゃんがお姉ちゃんとして頑張りますからと、穏やかな声色と表情で話すと、よろしくと何度目かわからないが頭を下げた。

 

『あまりにも過剰すぎる場合は、私が罰を与えます。その時には、私にも罰を与えてください。管理不行届きですから』

『……うむ、そうならないことを祈らせてもらうかの』

『はい、よろしくお願いします』

 

 有道提督の件については、一旦ここで終わり。あまり突き詰めると気の毒になってくるため、本来の目的である戦果報告と、島のこれからについての話し合いを開始。

 

「又聞きという状態にはなりますが、阿手を始末することが出来たという報告を受けました。調査隊が軽く調査したところで、阿手らしき者は残っていないとのことです。とはいえ、阿手がPT小鬼群であったこと、集積地棲姫改を使い、島民どころか部下達すら欺き続けていたこと、その『量産』までしていたことを考えると、島の調査は改めて必要かと思います」

『うむ、儂もそれには賛成じゃな。それにしても、よりによって姫でも何でもない小鬼群とは……彼女の小ささを体現しておるようじゃの』

 

 小さいが故に隠れ潜むことも可能だろうし、何より阿手がなったのが小鬼()。3体で1体の扱いとなる、特殊な深海棲艦である。実は他に2体いましたと言われても不思議ではない。とはいえ、心臓に鼓動のセンサーを埋め込むくらいには周到に保険をかけていたので、今回始末したあの個体が終われば、阿手そのものが終わったと考えてもよさそうではある。

 

「明日から後始末を開始しようと思います。ただ、規模があまりにも大きい。島全てな上に、近海にも穢れの原因となりそうなモノが大量だそうです。何処も彼処も後始末が必要らしく、とんでもない時間がかかりそうです」

 

 伊豆提督は既に疲れた顔をしていた。あまりのも規模が大きすぎ、うみどりとこだか、そしておおわしに手伝ってもらったとしても、1週間2週間で終わるとは到底思えない。

 

「その上……島に地下施設があるらしく、そこには水爆が仕掛けられているのだとか」

『水爆……!? そこまでしておったのか!』

「はい。しかも、その起爆装置の1つを自分の体内に埋め込み、心音が止まったら起爆するように仕掛けていたようです。そのセンサーは、深雪ちゃんの持っていた特機が綺麗に抜き取って、自らの鼓動でセンサーを維持しているくらいです。その特機が死んだら、島ごと吹き飛びます」

 

 瀬石元帥のみならず、事情を初めて知った保前提督や有栖提督、有道提督も言葉を失った。阿手がそこまでしているというのは、流石に予想は出来ない。

 

『心音センサー……悪意がありすぎるな。自分が死なないようにするためにそこまでするか』

 

 呆れたように言葉を紡ぐ有栖提督。万が一爆発してしまった場合の被害規模を考えて、これ見よがしに溜息を吐く。

 

『大本営から解体部隊を派遣しよう。じゃが、水爆とは……これまでとは毛色が違いすぎるんじゃあないか』

「私もそう思います。仮にも平和と言っていた者がすることじゃあない。その存在をチラつかせることで自分の思い通りにしたいだけの独裁者ですよ」

『うむ……第二次の時からやり方が過激ではあったが、まさかそこまで……』

 

 瀬石元帥は目を伏せながらも堂々と胃薬を飲んだ。水爆の解体が必要とは考えておらず、技術者を集めてどうにかするしかないと既に構想を練っているほど。

 

『ハルカ、その島の後始末はやっぱりうみどりがやる予定なのか?』

「まぁ、そうねぇ……当事者だもの。今はみんなに休んでもらっているけど、回復次第仕事に取り掛かるしかないわね。危険だけれど、うみどりとこだかで島に近付いて、地道に進めていくしかないわ」

『だよな……じゃあ、うちの増援部隊はしばらく貸しておく。手伝うように俺からも言っておく』

「本当に助かるわ。今回ばかりは猫の手も借りたいくらいだもの。うみどりとこだかだけじゃ絶対に足りない。これが終わらない限り、他の作業にも行けないわ。陸上に穢れが溜まったら何が起きるか……」

 

 そんな伊豆提督の嘆きを聞いたことで、他の提督達も頷く。

 

『伊豆提督、うちの鎮守府からも艦娘を派遣します。あと浜風は使い倒してあげてください』

「ありがとう、有道ちゃん。恩に着るわ」

 

 まずは有道提督。この島に最も近い位置にある鎮守府として、人員の派遣を約束してくれた。後始末初心者でもやれることは非常に多い。地道なゴミ拾いだって、その後の作業に繋がるプロセスになる。

 浜風のこともあるため、反省を促すためにも後始末には参加させてほしいと話す。それこそ、今おおわしで説教を受けている悪ガキ共と同様の扱いで構わないと。

 

『ウォースパイトとヴァリアントは引き続き使ってくれて構わない。彼女達は後始末屋の仕事に興味があるらしいから、むしろやらせてくれと自ら志願すると思う』

「あら、そうなのね。戦艦の力はあって損が無いから、是非ともお願いするわ」

 

 有栖提督からも、派遣されたQE級姉妹の引き続きの運用を良しとしてくれている。戦艦の人数が増えることは万々歳。あの元ヤンキー戦艦棲姫も手伝ってくれるだろうから、力業が必要な時にその手を分散出来るのは非常にありがたいこと。

 

『ふむ、ならば儂からもいろいろとやっておくかの。それほど大きな後始末ならば、慣れている者達も必要じゃろ』

「え、まさか」

『全後始末屋をその島に集結させる。それでも足りないかもしれんが、なるべく時間をかけたくないというのは儂も同じじゃ。今回の件は、どの鎮守府も重く見ることじゃろう。ならば、何処も納得するはずじゃよ』

 

 そして瀬石元帥は大本営トップという誰も持たない力を使い、全ての後始末屋に島の後始末を依頼するという方針に持っていく。今でもうみどりが出来ない分を手伝ってもらっていたが、それをさらに深いところまで入り込んでもらうということだ。

 

「こんなカタチで後始末屋が一堂に会することになるなんて」

『仕方なかろう。何処も忙しいのは知っておるが、今回はレベルが違いすぎる。海域と言っていられないくらいなんじゃからな。猫の手では足りん。あらゆる専門家を総動員にせねば』

「ありがとうございます。本当に助かります」

 

 島の後始末について、次々と決まっていく。これならば、なるべく短時間で終わらせることが出来るだろう。それでも相当な時間を予想しているが。

 

 

 

 

 後始末は明日から始まる。戦いは、ここからが本番。

 




一旦出洲のことはスルー。この後に話すことになるとは思うけど、今はまず目の前の厄介事から。後始末屋は他にもいるし、今でも手伝ってもらっているけど、移動鎮守府が一堂に会するという非常にレアな状況となります。
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