後始末屋の特異点   作:緋寺

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うみどりの象徴

 島での戦いの後の夜。戦場に出ていた者達は、その過酷な戦いを経たことで疲れ果て、風呂に入った時点でフラフラ。しかし何も腹に入れずに眠るとそれはそれでよろしくないと、まだ比較的動ける者達の力を借りて、なんとか食堂へと移動する。

 深雪達は仲間達の中でも最後。もう既に殆どの者がその寝る前の休息を終えてしまっているくらい。腹に入れると言っても、本当に軽食程度である。

 

「悪いな、流石に疲れがヤバイ」

「なのです……」

「仕方ないない。あたし達がしっかり支えたげるから。ね、シラクモ」

「お任せください。最初から最後まで戦い通したお二人を支えるのが我々のお役目でございます」

 

 意識は保っていられるが、足がすぐに動いてくれないという実情。深雪には白雲が、電にはグレカーレがついて、肩を貸すどころかおんぶまでして運んでいた。小柄なグレカーレには、電をお姫様抱っこするのは無理だったらしい。深雪と同じようにすることは無理だわと苦笑した。

 白雲とグレカーレだって疲労はしている。だが、特異点としての力を振るい続けた深雪と電と比べると、その消耗はまだマシというレベルに落ち着く。これくらいなら余裕とまでは行かないが、食堂に運んだあと、部屋にまで運ぶくらいは可能だと。

 

「お姉様の努力とその成果は、我々が一番わかっていると自負しております。むしろ、我々にはこれくらいしかして差し上げることが出来ませぬ」

「あたしに至っては、全く覚えてないけど助けてもらってるからね。これくらい恩返しさせてよね」

 

 グレカーレの頭の中に、『舵』を張り付けられた時の記憶は存在しない。特異点の煙幕により、辛い記憶も消されている。だが、グレカーレはその空白の時間で何をさせられていたのかは察していた。電に救ってもらったことも何となく理解している。

 だからこそ、こういう時に力を貸させてくれと、率先して手伝うことにした。恩があるのはわかっているのだから。

 

 触れ合いたいという下心が無いと言ったら嘘になるが。

 

「ほい、とーちゃく。座ったらそのまま倒れちゃうとかないよね」

「なのです。ありがとうございますグレカーレちゃん」

「いいのいいの。また今度、イナヅマの深海棲艦変身シーンを見せてもらうし、大人の姿でのお着替えとかも見ることになるんだから」

 

 本心が普通にポロッと口から出ているが、電はそれでこそグレカーレだと苦笑するだけで終わった。

 翌日から後始末が始まるのはわかっているが、深海棲艦化に関しては練習が必要。最後の敵、出洲と戦う際にも、あの力は使うことになるだろうと思っているから。

 

「白雲、悪いな。ここまで来りゃ、自分で支えられる。また部屋に戻る時に頼むわ」

「かしこまりました。倒れそうならば仰ってくださいまし。この白雲、全身全霊をかけてお姉様の危険を取り払わせていただきます故」

「気負うな気負うな」

 

 これもまた、平和の象徴なのだろうと、深雪はしみじみと思う。作戦中、戦闘中は、こんなことを言っている余裕すらない。

 白雲は前回の戦いで、洗脳はされていないものの、グレカーレと戦う羽目になるという辛い思いをしているのだ。それも忘れたわけではなく、口に出すこともせず、ただ呑み込んでいる。だからこそ、自分のことで気負わないでほしいと、座った後に白雲の背中をポンと叩く。

 

「白雲、いつでもいいから、辛いことがあったなら吐き出せよ。他に誰にも聞かれたくないなら、あたしだけで聞いてやっから」

「……はい、お願い致します。鬱憤は少しも溜め込むべきではございません」

「ああ、あたしだって前に丹陽に聞いてもらったりしてな、いろいろと気を晴らしてる。お前も、その権利はいくらでもあるからよ。な」

「はい、重ね重ね、ありがとう存じます」

 

 椅子に座って一息吐くと、スルリと目の前に料理が置かれる。食堂の主、セレスが、戦場に出ていた者達のために、いろいろと用意していたらしい。疲れ果ててすぐにでも寝たいという者に対しても、それに適した料理を作っておいてある。

 

「オ疲レ様。寝ル前ダカラ、軽イモノヲ用意シテオイタワ」

 

 深雪達の前に出されたのは、温かい味噌汁と、小さめなおにぎり。疲れた身体には沁みる組み合わせ。

 

「……うっま。セレスの料理食うとホント、ここに帰ってきたって思えるなぁ」

「スルッとお腹に入っていくのです。それでいて重くも無いので、そのまま寝ても良さそうなのです」

「貴女達ハ人一倍頑張ッタンデショウ。今ハユックリ休ンデ、明日カラニ備エテチョウダイネ。私トシテハ、明日モユックリ休ンダ方ガイイト思ウケレド」

 

 明日から後始末作業が始まることは、セレスもわかっているようである。そうでなくても、今日の過酷な戦いは非戦闘員であっても察することが出来る程のようだ。これまでにここで他の仲間達が食事をしているため、その表情からこれからのことを読み取っているというのもある。

 この食堂を長く本拠地としているだけあり、仲間達の表情を見る目は凄まじく、今では顔を見ただけでどのようなモノが必要かを察する程までに高まっている。深海棲艦とは思えない優しさと、想像以上の洞察力。姫としての力を、仲間のために使っている。

 

 敵であったら脅威であろう。だが、仲間として共に歩くなら、最高とも言える存在。

 

「体調ガ悪イワケデハ無イノヨネ。ナラ、軽ク食ベテ、ヨク寝テ、明日元気ニナリナサイネ。特異点ノ力、相当ニ強クナッテイルノガ私ニモワカルモノ」

「やっぱわかんのか。深海棲艦だから、だよな」

「エエ、貴女達ノ輝キ、戦イニ行ク前ヨリモ強クナッテルワ。特ニ電、本当ニ頑張ッタノネ」

 

 恥ずかしそうに微笑む電に、セレスも薄く笑みを返す。

 

「ガッツリ食ベラレル時ニ、ガッツリ食ベテチョウダイネ。サ、今ハ休ンデ」

「ああ、ありがとな。流石にそろそろヤバい」

「なのです……美味しくて、お腹に溜まってきたら、もっと眠くなってきたのです」

「片付ケハ私ガシテオクカラ、無理セズ行キナサイ」

 

 お言葉に甘えて、と深雪達はご飯を食べ終えた後、そのまま自室へと戻っていく。それでも与えられたご飯は全て平らげているのは、セレスの料理がそれだけ美味しい証左となった。

 

 

 

 

 深雪達が戻っていった後、食堂に連れてこられたのは、今回保護された面々。元人間で改造された島民など。そこに付き添いで親族が加わっていたりする。

 この時間までいろいろな手続きをしていたため、なんだかんだ拘束されている時間も多く、こんな時間になってしまった。

 

「アンタもアタシ達と同じような被害者なのかい?」

 

 と話しかけたのは黒井母。兄妹と共に食堂に訪れたところで、開口一番コレである。興味深そうに生やされてしまったメンダコの脚を蠢かせていた。透も蛍も違う違うと軽く説明するが、あまり理解は出来ていないらしい。

 当然ながら、全員が一般人。純粋な深海棲艦をここまで近く見る機会などない。故に、そうであるとはまず思えないため、同類だと考える。現にここにはカテゴリーYが何人もいるのだから、尚更である。

 

「私ハ純粋ナ深海棲艦ヨ。貴女達ノヨウナ存在デハ無イワネ。デモ、取ッテ食オウナンテコトハナイカラ安心シテチョウダイ」

「じゅ、純粋な、深海棲艦……!?」

 

 それを聞いて明らかにビビるのは護衛棲姫である。元々そういう性格であるために、セレスに対して恐怖心が芽生えた様子。

 しかし、同じ保護された仲間に戦艦棲姫がいるのだから、多少は慣れやすいはずである。その戦艦棲姫はヤンキー、護衛棲姫とはまず噛み合わないのだが。

 

「ここでは深海棲艦も協力して生活しているのか……すごいな」

 

 感嘆の息を吐く杏の母。本来は敵であろう存在と当たり前のように共存し、そしてここまで仲良く出来ているのは凄いとしか言いようがない。

 これまでいた環境があまりにも酷かったというのもあるのだが、これこそが平和だろうと素直に納得が出来る。

 

「これも深雪……特異点の力、なんだよね。本当にすごい」

 

 杏もこれにはすごいとしか言えない。だが、母とは少しニュアンスが違う。うみどりの環境が凄いというよりは、このような世界をここに作り出した深雪がすごいと。

 杏が深雪に対して好意を抱いているのは、あの時いた者なら大体察している。学校から撤退するタイミングで一緒にいたいと言い出した程なのだから、余程鈍感──深雪のように自分への好意を察せないくらいの──でない限り、それには大体勘付く。そして、それが叶わぬ願いであることも。

 

「……アラ? 貴女達……モシカシテ、アノ島デ()()()()()?」

 

 ここでセレスの不意な一言に、一同が素っ頓狂な声をあげる。

 

「我々は敵に洗脳されていた経験があるんだ。それを特異点に解放された」

「『舵』っつーんでしたっけ。オレはそういうの無しで、自力でこっち来やした。姐さん達のおかげです」

「この子達もそういうのは無かったみたい」

 

 蛍がこの子達と言っているのは、『舵』による鬼ごっこをすることになった子供達。食堂でも無邪気に笑っているが、一部の感情を壊されているため、それも()()()()()のうちの一種とも言えるだろう。

 

「フゥン……ナントナクダケド、貴女達、チャント明石ニ調ベテモライナサイ。コノ後スグニ」

「え、そ、そんな切羽詰まってる感じ、なの?」

「私ノ勘ダケド。ナントナク、貴女達ノ表情、少シ違ウワ。透ト蛍以外、ネ」

 

 つまり、島にいた者全てに何かありそうと言い出している。ほんの少しの表情で。初めて会った相手に対してである。

 

「この人がそう言うなら、ちゃんと調べた方がいいかも。深海棲艦の目から見たら違うって可能性があるもん」

「だね……。母さんも、一度ちゃんと診てもらって。皆さんもお願いします」

 

 蛍が賛同して、透が頭を下げる。ここにいる者がそう言うのならと、ここで食事を終えた後に、明石の元へと向かうことになった。

 

 

 

 

 セレスのこの直感が、どう繋がるのかは、この後すぐにわかることになる。

 




これまでは普通(?)な料理人、でも実際は深海棲艦の姫であるセレスが、ここでその力を発揮するようです。人の顔を見て、何を思ったか。
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