後始末屋の特異点   作:緋寺

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最悪の置き土産

 深雪達が休息に入った後、島で救助されたカテゴリーY達が食事のために食堂にやってくる。その面々の表情を見たセレスが、何かされたのではないかと、明石に診てもらうように促した。初めて会って、まだ数分すら経っていないタイミングである。

 

「トハイエ、マズハ腹拵エヨ。貴女達ハ軽食ジャナクテモ良カッタカシラ」

「疲れちゃいるけど、軽食って程じゃあないくらいにらお腹が空いたもんさね」

「ナルホド、ナラ重タスギルノハヤメタ方ガイイワネ」

 

 そう言いながら用意されたのは、先程深雪達が食べていた味噌汁とおにぎり。そこにまだ食べられそうならとおかずを少し。検査を受けてもらうという前提を自分から提示した以上、お腹いっぱいというのは控えてもらう気遣い。

 

「……すごいな、本当に。純粋な深海棲艦が作ったとは思えない味だ」

「ああ、本当に。アタシゃちょっと自信無くしちまうよ」

「母として料理はしてきたつもりだが……ここまで美味しく作れていたか疑問に思えてしまう」

「だねぇ。この味噌汁すごいよ。後から作り方教えてもらおうかね」

 

 母コンビはその味に単純に驚いている。日常的に家事をしてきた経験があるからこそ、セレスの料理が達人レベルであることがすぐにわかった。

 他の者達も目を丸くして黙々と食べている。元ヤンキー戦艦棲姫に至っては、おにぎりを頬張るとおかわりまで要求。それもまたすぐさま出てくるので、それもすぐに平らげていた。

 

「ソレジャア、明石ノトコロニ行ッテチョウダイネ。透ト蛍ガ案内シテクレルワ」

 

 片付けはやっておくからとセレスはカテゴリーY達に検査を促す。

 

「アア、ソレト何事モ無カッタラ、貴女ト貴女、後カラ教エテホシイコトガアルカラ、マタ話ヲシマショ」

「アタシかい?」

「私もか」

「貴女達、オ母サンナノヨネ。私ニ『オ袋ノ味』トイウモノヲ教エテホシイノ。私ノ探究スル味ニ、マタ一歩近付ケルト思ウノヨ」

 

 これもまた、深海棲艦とは思えないようなこと。料理の探究者として、知りたいことは何もかもを知りたいと、母コンビに教えを請う。家庭には家庭の味があり、それもまた人それぞれ違う感覚を得られるモノなのだから、セレスはどれもこれも知りたいところなのである。

 

「はは、いいよ、うちの味を伝授してあげようかね」

「私のモノでも良ければ教えよう。杏が喜んで食べていたモノがある」

「うちの透と蛍の大好物のレシピを教えてあげるさね」

「ヨロシクオ願イスルワ。コレデマタ、私ハ先ニ進メルワネ」

 

 セレスもニコニコである。自分の知識が増えること、そして、それを振る舞って仲間達が喜ぶのを見ることが何よりも喜ばしいこと。

 

 そんな深海棲艦もいるのだと、カテゴリーY達は終始驚くことになった。

 

 

 

 

「はい、話は聞いています。私は工作艦……と言っても、一般人にはわかりにくいですね、艦娘達の専門医のようなモノです。明石と言います、よろしくお願いしますね」

 

 工廠にやってくると、そこでは明石がお出迎え。『工廠』の曲解は据え置きのため、ツナギ姿での登場。

 さっきセレスにここに来るように促されたばかりなのに、何処で話を聞いたんだと思ったところ、それはすぐにわかる。

 

「そして私は丹陽おばあちゃんです。こうなるだろうなと思っていたので、先んじて明石さんに話をつけておきました」

 

 丹陽が先回りしていたようである。食堂の前でその話を聞いていたのか、『未来視』でこうなることを知っていたのかは定かではないが、丹陽がこうするということは、その未来がこれからに必要なことということにも繋がる。

 その丹陽、戦いが終わったこともあり、本当にスッキリした表情をしている。怒りも憎しみもない、雪風としての朗らかさも取り戻したような明るい表情。だが、ここに来たカテゴリーY達には、()()()()()()がある可能性が高いため、表に出さないようにしているだけというのもある。

 

「小さいおばあちゃん……? 長い時間をその身体で生きてきたとかそういうことなのかしら」

「はい、そうですよ。私は純粋種の艦娘、その第一世代です。第一次深海戦争、ご存じですよね?」

「学校で近代史として習うもの。今から80年以上前……よね。え、じゃあ80歳以上……?」

「はい、その通りです。もう私の身体は老朽化でボロボロで、出撃なんて絶対出来ないんですけどね」

 

 離島棲姫が丹陽のそれに気付いた方で、声を上げそうになった。見た目は子供でも、ここにいる誰よりも年長者。歴史の生き証人。

 

「うわ、うわぁ、漫画みたいなキャラじゃない……」

「そうですね。現実味は無いかもしれませんが、ここまでに起きたこともあって、嫌でも信じられるでしょう」

「ええ、本当に。この世界の裏側を知ってしまったみたいよ」

 

 などと言いながらも、離島棲姫は丹陽の全身をじっとりと眺めていた。物珍しいモノを見るというよりは、漫画やアニメみたいな境遇の小さなおばあちゃんに興味津々というイメージ。

 

「さて、話が進みませんので、ここからは検査と行きましょう。明石さん、私の予想では、身体に何かされているというよりは、頭に何かされているだと思います」

「はい、私もその線で考えています。特に、杏さん、貴女が一番怪しい」

「わ、私!?」

「純粋な人間の状態で脱走を許されている時点で、そこはもう罠としか思えないでしょう。『舵』とやらを使われていなくても、深層心理に罠が仕掛けられていると考えていますよ。なので、まずは貴女から確認させてください」

 

 明石に促され、みんなの前でベッドに横にさせられる杏。そこから、脳波の測定などをするために、いろいろな機材を接続される。そして最後に、両手足に枷まで付けられた。

 

「え、ちょっ」

「何かあって暴れられたら面倒ですから。私達の安全を守ると同時に、貴女の安全も守っています」

 

 何かがきっかけで暴れたとして、ただの人間が艦娘や深海棲艦相手に素手で勝つことは出来るわけがない。そうなると心配なのは、返り討ちの可能性。艤装を装備した明石に殴り掛かろうモノなら、拳が当たったら拳に傷付くというくらいである。

 そうならないために、万が一を考えて枷で動けないようにしているだけ。終わったら何事もなく外すと約束して、検査を始める。

 

 そんな杏の前に現れたのは、主任。島ではどうだったかは知らないが、妖精さんという存在が普通に出てきたことは、一般人である杏にはやはり驚きに繋がる。

 艦娘達と共に行動している時にチラホラ見ていたのだが、ここまで近くにいるのは流石に初めて。ちょこちょこ歩き回る姿は何処か可愛らしさがある。

 

「緊張していますか。少し血圧が高いですね」

「そ、それはね……こんなこと初めてだし、手枷足枷とかあるし……」

「リラックスしましょう。深呼吸して……そうです、脳波は安定していますね」

 

 目を瞑って、ひたすら深呼吸。心はさておき、身体が落ち着くように努める。明石が見ている通り、頭の中は非常に安定しているようで、それだけで見れば、何かされているとは到底思えない、本当にただの一般人である。

 

「特機に体内は見てもらっていますか?」

「あ、うん……潔白を証明するためって言われて。中には何もないことは保証してもらってる」

「なるほど、なら心に仕掛けられているモノとして考えた方がいいですね。トリガーが何か……あの阿手のことですから、やるなら最悪なタイミングで発動するようにするはず……眠ったら切り替わるとか、でしょうか」

 

 明石の予想がそれ。救出してからこれまで、気絶していたことはあるが、眠ったということはない。それが切り替わりのスイッチではないかと。

 

「救出される前提で仕掛けて、うみどりの中で眠ることで発動するとかですかね。で、それが発動するためのトリガーもあるとしたら……うん、一つ思いつきました。杏さん、でしたか、すみませんが実験台になってもらっていいですか?」

「実験台……?」

「貴女を今から眠らせます。私の予想では、それで貴女のトリガーが引かれるでしょう」

 

 明石としては、そうならずに何も仕込まれていないことを祈っている。だが、危険性があるのなら、そこは確認しておかねばならない。

 

「トリガーは2つ。ハルカちゃんの顔を見ることで第一段階、その後に眠ることが第二段階です。すると、うみどり内で暴動を起こす人間の出来上がりですよ。ハルカちゃんは一般人には手を出せない。それに、手荒なことをしたら、それだけでこちらは不利になる。そして、やることといえば……暗殺ですね」

「えっ」

「眠っている間に動き出し、食堂で包丁辺りを持ち出して、ハルカちゃんを殺しに行く、辺りが妥当でしょう。誰だって眠っている時は無防備です。特異点だって殺せます」

 

 阿手は自分が逃げられると思っていたから、そうやってうみどりで内乱を起こそうとしていたと考えられる。島を放棄して逃げ、時間を稼げば、救われた者達が勝手にうみどりを内側から壊すことになるのだから、阿手は安全に伊豆提督を始末出来ると。

 相変わらずの陰湿なやり方。阿手がいない今であれば、最悪の置き土産。死んだ後でも迷惑をかける、厄介者の鑑。

 

 セレスが何かされたのではと勘付いたのは、第一のトリガー、伊豆提督の顔を見るというのが達成出来ているから。このトリガーが引かれた状態で眠るだけで、一般人の暗殺者の出来上がり。

 子供達にすら同じモノが仕込まれているというのだから、用意周到というか、厄介ここに極まれりというか。

 

「何事も無ければいいんですよ。やらなくてはいけないのは、なるべく安全な実験です。貴女に危害が加わらないように、細心の注意を払って進めます。何かあった場合は、どうにかしてその暗示を解かなくてはいけませんが」

「う……じゃあ、よろしくお願いします……」

「はい、ではまずは眠ってもらいますね」

 

 主任がいろいろと準備をしていき、何かをした瞬間、杏は急激な眠気に襲われる。これは入渠ドックの仕様──治療中はどんな艦娘でも眠っていること──を応用した、簡単な入眠装置。麻酔の始まりみたいなモノ。艦娘ですら秒も待たずに眠るそれに、生身の人間が耐えられるわけがない。

 

「はい、眠ってもらいました。ここからです。何も無ければいいですが」

 

 スースーと寝息を立てる杏。脳波は今は安定しているが──

 

 

 

 

「予想通り、ですね」

 

 明石が嫌そうな顔をした。案の定、突然脳波が乱れ始めたのだ。

 

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