後始末屋の特異点   作:緋寺

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妖精さんだからこそ

「食事に妖精さんの身体を混ぜて、食べさせてたんですよ。結果として、ここにいる皆さんは、人間のカタチではあるけれど、忌雷と同じ性質を持ってしまったということになります」

 

 丹陽がここにいる者に伝えた仮説。それは、暗示を受けているであろう者達は、阿手の牛耳る島で出された食事に妖精さんが混ぜられていたということ。今もこうして仲間として共存している妖精さんを、事もあろうか()()として扱っているという、悍ましい憶測。

 しかし、丹陽は仮説ながらも、事実であろうと確信を持って話していた。理由は大体、ムーサがここにいる者達から忌雷の匂いを感じたことである。

 

「ムーサさんが感じ取れるのは、あくまでも忌雷の匂い。それでもわかるということは、皆さんにその忌雷と同じ()()が使われているということに他ならないでしょう。そこに忌雷が無くても、同じモノと認識出来るモノがあるんですから」

 

 淡々と話す丹陽だが、握った拳は震えていた。どうしてこんな残酷な事が出来るのだと怒り、しかもそれを忌雷に変えるだけでなく、人間に食べさせるとは、何を考えればそんなことが出来るのだと悲しむ。

 

「理由は……おそらくですが、忌雷を意のままに操れるようにするのと同じでしょう。どういうわけか、妖精さんを取り込ませたモノに対しては、何かいろいろ出来るんでしょうね。妖精さんは、人と共に戦ってくれる相棒のような存在ですから、『共に戦う』という部分を()()して、自分の好きなようにするというようにしたのでしょう」

「だとしても……残酷すぎるわよ。忌雷の原材料が妖精さんであることは百歩譲って呑み込むとしましょう……でも、それを人間に食べさせるって、何考えてるのよ……」

 

 伊豆提督も顔面蒼白である。まさかそこまで滅茶苦茶なことをしてるなんて、想像出来たモノではない。イリスに至っては、あまりのことで口元を押さえている程である。自分にも妖精さんの力が宿っていることから、変に共感してしまったようだ。

 

「……アノ、サ。ソレジャア私ッテ、妖精サンヲ食ベテタ、ッテコト?」

 

 ムーサもおずおずとその事実を口に出す。対する丹陽は、すぐには答えが出せなかった。『増産』により増えた忌雷は、果たして妖精さんと言えるのか。ムーサとしては同じ匂い、同じ味のする忌雷ではあるのだが、それが妖精さんであるとは言い難い。しかし、『増産』体制が整うまでに、普通に忌雷を食べていた。それこそ、今の姿になるために食べていたのが妖精さんである。

 いくらムーサでも、これには少しゾッとした。何も知らずに食べていたモノは、うみどりで普通に生活していたら顔を合わせる相手。加工されていたとはいえ、これまでのことが途端に恐ろしくなっている。

 

「そ、それじゃあ、高波も、これまで、妖精さんを、増やしていた……ってことかも、ですか?」

「……正直なところを言うと、その辺りが少し難しい話になります。『増産』がどの辺りまでのモノなのかは、何とも。テセウスの船とか、そういう感じの話になると思うので」

 

 丹陽もこうとしか言えない。原材料は妖精さんだが、それは妖精さんが妖精さんとして活動していたわけではないモノであり、さらにそれを妖精さんではなく忌雷として増やしていたのだから、その中に妖精さんがいるとは限らない。ムーサは『増産』忌雷を忌雷として見ていたが、あくまでも模倣された別物である可能性もある。特機や忌雷を見て主任は妖精さんだと言えるが、『増産』されたモノに対しては()()()()()としか言えず、実際妖精さんかどうかは判断が付かないという。

 

「話を戻しましょう。妖精さんを体内に取り込ませる、身体に浸透させることによって、阿手は暗示可能な存在に仕立て上げるということをしているのでしょう。洗脳教育に違和感を持たせなくするような。昨日今日の相手ですらも、それがすんなり行くくらいに。定期的に食べさせれば、より深く……()()()のではと、思います。もしかしたら、これだけは長い期間続けていた可能性もありますから。それこそ、第二次の時から」

 

 丹陽は嫌なことを思い出したかのように顔を顰めた。この非道な処置を、大切な姉であった初風にも処置していたのではないかと思うと、苛立ちがかなり強くなってくる。

 これはまずいかもと、イリスは少し席を外した。これ以上は必要ないかと思っていたが、神威の癒しの『排煙』が必要かと考えて。

 

「……妖精さんが過去からそんなことをされていたのなら、そもそも今の海に蔓延る呪い……カテゴリーMとなる原因は、ここにあるのかもしれませんね。人のために生まれた協力者が、そんな残酷な結末を迎えさせられ、怒り、恨み、呪いとなった。嫌という程、納得出来てしまいます。妖精さんがいなければ、私達は戦うことも出来やしない。それだけ妖精さんに依存しているのですから、その妖精さんが……()()()()()()()姿()が、呪いなのかなと、思います」

 

 心底悔しそうに、苦しそうに呟く。第三次深海戦争の根幹にある、純粋種を人類の敵としてしまう呪い。それが、利用された妖精さんの怒りだというのなら、仕方ないとすら思ってしまう。

 

「すみません、また話が逸れましたね」

「ううん、いいわ。アナタのその話、とても興味深いことだもの。確かに今はそのことではないかもしれないけれど、わかることは一度全員が共有するべきことだから、伝えてくれたのは嬉しいわ。……他の子は追いつけていないようだけれど」

 

 伊豆提督は一度全てを呑み込んだ。だが、他の者──特に巻き込まれた者達、保護された者達は、ちんぷんかんぷんである。

 

「えっと、つまり、私達はあの島で妖精さんを食べさせられたことで、阿手の思いのままに操れる身体にされてるってことでいいのよね? 身体はこうやってもう改造されてるけども……もしかして、改造するのにも、こうした方が都合がいい、とか?」

 

 気を取り直して質問するのは離島棲姫。少々性格的にも変わったところがある離島棲姫だが、その知識の偏りのおかげか、今回の件を少しだけ客観的に見ることも出来ていた。

 質問に、丹陽はそうではないかと憶測を語る。

 

「ただの人間を改造するのは難しいので、妖精さんの要素を混ぜ合わせるということをしているかもしれません。なので……これまで救ってきたカテゴリーYの皆さんは、全員投与されている可能性はあります。ムーサさん、透さんや蛍さんから匂いはしますか?」

「ウウン、ソレハシナイ、カナ。新シク来タ人達カラダケ。使ワレ方ガ違ウ、トカ?」

「かもしれませんね。時間をかけたくない時に使うとかでしょうか。今はもうその真実は掴めません。これだけの憶測を並べた上で、腕のいい工廠担当に調べてもらうとかが必要かなと思います。明石さんと主任には、これについてはもう少し調べてもらった方がいいかもしれませんね。もしかしたら、元の身体に戻れる手段に繋がるかもしれない」

 

 また話が逸れたと苦笑し、改めて暗示のことについて話を始める。

 

「どのような暗示がかけられているのかはわかりません。自覚無しに突然豹変する可能性もまだ捨てきれませんから。ですが、それが妖精さん由来と言うのなら、少しは対策が出来るのではないでしょうか。どうでしょう、主任」

 

 話を振られて、腕を組んで悩み始める主任。いくら妖精さん由来とはいえ、そこに妖精さんがいるわけではない。言ってしまえば、ここにいる者達が妖精さんそのモノとも考えられる。忌雷と同じならば、そういうこととも捉えることが出来る。

 妖精さん達が忌雷と仲良く出来るかと言われれば、答えはNOだ。忌雷は妖精さんすら襲うだろう。それならば、どう対処するかとなると──

 

「特異点の煙幕で燻されることが一番早そうですが、それでは根本解決にはなりません。ですが、染み渡ってしまった妖精さんの要素を取り払うことは実質不可能です。細胞からその要素だけを引き抜けとか、土台無理な話。ならば、その暗示を失わせること一点で攻めた方がいいでしょう。より強い暗示をかける、とかになりますか」

「催眠を催眠で上書き、みたいなモノね」

「はい。妖精さん由来なら、妖精さんでは出来ると思うんです。だって、妖精さんって、()()()()がありますよね」

 

 それを言われて主任はハッとしたような表情を見せる。伊豆提督もなるほどと納得した。

 

 配置転換は、艦娘や深海棲艦には馴染みのない言葉であるが、妖精さんには大きな出来事でもある。艦載機の妖精さんが、別の装備の妖精さんになるとかの話である。

 やることをガラッと変えても、それに慣れることが容易なのが妖精さんだ。それこそ、他者を侵蝕することしか出来なかった忌雷が、特異点による燻しによって特機へと変化を遂げたかのように、その在り方をガラリと変えることが出来るのが妖精さんである。

 

「概念的なモノではありますが、配置転換、出来ませんかね。暗示なんて受けないくらい、確固たる意志を与えるように、二度と利用されるようなことがないように」

 

 出来るかもしれないと、主任はすぐに準備を始める。むしろ、それが出来てしまえば、忌雷ですら何か別のモノに変えられる可能性もある。これから忌雷が出てくることはグッと少なくなるとは思うが、だとしても手段として持っておいて損はない。

 

「えっと……置いてけぼりなんだけど、ともかく何かわかった感じ、なのかな」

 

 杏がおずおずと聞くと、丹陽ははいと少し強めに答える。

 

「まだ出来るかはわからないので、糠喜びにならないように断言はしませんが、無意識下にある暗示を取り払える可能性が出てきました。身体を元に戻すのはまだ難しいですが、少なくとも今の疑いをかけている状態からは脱却出来ると思います。上手くいけば、ですが」

「そう、なんだ。それならよかった……私達には何が起きてるかわからないけど」

「だな……オレもこれ以上姐さん達に迷惑かけたくないから、やれることあったらオレを使って実験してください。いくらでも力になりますんで」

「わ、私も! 私も、深雪……特異点に迷惑かけるのは嫌だし」

 

 杏と戦艦棲姫が力強く頷いた。既に一度眠ったことでトリガーを引かれている可能性があるため、今は監視下に置かねばならないモノの、主任のやり方次第では、それもすぐに終わるだろう。

 

 

 

 

 謎は少しずつ紐解かれる。そして、解決も手が届く範囲に来た。

 




呪いの根幹は、妖精さんの恨みであるかのうせい。つまり、第三次の一番の戦犯は、やっぱり阿手であるということに。
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