後始末屋の特異点   作:緋寺

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実感する終わり

 時は少し流れ、翌日の朝。島での戦いが終わった後、戦いに参加した者達は、倒れるようにグッスリと眠っていた。今回ばかりは総員起こしもなく、いつまでも寝ててもいいとされている程である。

 とはいえ、後始末屋は規則正しい生活を心掛けていたこともあり、朝が来れば自然と目を覚まし、ゾロゾロと起きてくる。セレスの用意した朝食を食べて、今日の日程を聞くことになるだろう。

 

 しかし、我らが特異点の部屋は、ほぼ全員が目を覚ました後も静かなモノであった。白雲も起こさないようにと音を立てずに出てきており、その後もまだまだ眠っている。白雲曰く、深雪も電もピクリともせずに眠っているため、逆に怖くなったという。口元に手を当てて、息をしているか確認したレベル。

 

「深雪ちゃんも電ちゃんも、今はグッスリ寝かしておきましょ。昨日は本当に頑張ってくれたんだもの。特に電ちゃんは、初めて深海棲艦の身体になったのよね。気疲れだってあると思うわ」

 

 伊豆提督もこの辺りはしっかり理解している。むしろ今日は仕事を休ませるつもりでいたほどだ。

 

「あとは神風ちゃんは起きてこれていないわね。そこは仕方ないか。あの子も相当本気を出したんでしょう。ゆっくり休ませてあげないと」

 

 神風もこれは定番のお休み。本気を出しすぎると翌日に影響が出るのは、後始末屋なら誰でも知っている事実。阿手との決戦で相当自分を使い込んでいるため、今日は再起不能と言われても誰もが納得。

 

「それと……保護した子達ね。杏ちゃんが体調不良を起こしてるから、今は医務室で休んでいるわ」

 

 こちらは全快とまではいかないが、配置転換の消耗がまだ回復しきれておらず、もう少し休む必要がある。

 カテゴリーYの面々は自己修復の力があるため早期に復帰出来た。子供達ですら自己修復のおかげで夜のうちに復帰している。しかし、生身の人間にはそんなモノはないため、ゆっくりと高熱を癒していくしかなかった。今は母と共に医務室で絶対安静中。

 

 勿論、配置転換をしたからこうなっているなんて語りはしていない。実情を知っているのは、あの場にいた当事者と、僅かな協力者のみ。

 

「それじゃあ……みんな、もうわかっていると思うけれど、今日からはアタシ達の本来の仕事が始まるわ。この島……穢れに塗れたこの土地から、その痕跡を無くすわよ」

 

 後始末屋としての矜持は皆にあるが、コレほどの規模をやるのは初めてのこと。何処から手をつけるべきかと悩んでしまうまであるが、そこは伊豆提督が決めている。

 

「陸の穢れは海の穢れよりも深海棲艦の発生は確率として低いから、まずは海側の片付けを進めることにするわ。というか、陸はやれても港くらい。中枢の地下施設には、まだ稼働していないとはいえ水爆が残されたままだもの。調査をしっかり進めてから、それを解体撤去して、初めて作業に移すことになるわね。だから、そちらは今は置いておくの」

 

 海にも大量の残骸が散らばっているため、それを撤去しなければ穢れが増す一方である。今回はコレまで以上に潜水艦が頑張らねばならない作業となってしまっている。

 勿論それだけでは終わらず、正面突破部隊の戦いで出た残骸も大量。命を奪わずとも、壊れた艤装片はそこら中にあり、場所によっては墜落した艦載機などまである始末。その何もかもが穢れに繋がるのだから、早急な撤去が必要だ。

 

「陸については、大本営からも援軍が来るわ。特に水爆の解体撤去なんて、アタシ達には専門外だもの。熊野丸ちゃんと山汐丸ちゃんも、流石に難しいわよね?」

「うむ。俺達にもそれは厳しい。ジャンルが違う。だが、爆弾処理班ではないが、我々の仲間には、そういったことが出来る者がいないわけではない。おそらく彼女を派遣してくれるのだろう」

「頼りになります故、来てくれれば任せることは出来るでしょう」

 

 そもそもこの戦いの中で水爆を解体することなんて誰が予想出来るか。それでも対応をしてくれるもいう大本営に多大な感謝を思いつつ、まずは海からという流れで行くことになる。

 

「今日中というわけではないけれど、他の後始末屋もこちらに来てくれるわ。本格的に全部の力を結集した後始末になるから、頑張っていきましょう」

 

 ここから、長い長い戦いが始まる。後始末屋としては本当の戦い。しかし、これまでと違って、モチベーションはどうしてもそこまで上げることが出来なかった。

 

 

 

 

 深雪と電が目を覚ましたのは、後始末が始まった朝からかなり時間が経った昼、正午に近いくらい。先に深雪が目を開き、電がそれに続くカタチとなった。

 

「……おはようさん、電……身体、大丈夫か……?」

「おはようなのです深雪ちゃん……まだ本調子ではないのです……」

 

 長い時間を眠っていたというのもあり、まだ身体はガタガタ。疲れが取れ切ったかと言われればそうでもなく、ベッドから身体を起こすのにも、それなりに力が必要だというくらいには苦しい。

 そして、時計を見て目を丸くした。こんなに寝てたのかと驚き、窓から外を見て仲間達が後始末の最中であることにも気付いて、眠気が飛んだ。

 

「電、なんかあたし達、寝過ぎってくらい寝てたかもしれねぇ」

「……なのです……それなのに、まだ疲れが取れ切れてないのです」

 

 ベッドから下りると、少しふらついてしまうほど。立とうと思ったのに、またベッドに腰掛けてしまう。

 

「……とりあえずハルカちゃんのとこ行くか……あたし達も後始末屋の仕事しねぇと」

「なのです。みんなが頑張ってるんですから、電達も」

「大丈夫ですよ、今日は2人ともしっかり休んでください」

 

 着替えようとした矢先に、扉が開いて現れる丹陽。相変わらずの神出鬼没っぷり。これが『未来視』によって選ばれた最善ということになるわけだが、丹陽はこの登場の仕方を気に入っている節がある。

 

「のわぁっ!? た、丹陽、相変わらずいきなり出てくるなお前!」

「まあまあ、おばあちゃんはいつでもみんなのところに現れるモノですよ」

「絶対それはない」

 

 ニコニコの丹陽が部屋に入り、改めて2人の正面に立つ。

 

「まず改めてお疲れ様でしたお二人とも。これだけグッスリ眠るくらいですから、それほど消耗したということ。本調子になるまでは、まだまだ休むべきです。今日は後始末屋としてのお仕事はお休みしてもらって、調子が戻ったら参加ということになりますから安心してください」

「そうなのですね、わかったのです。ありがとう、なのです」

「いえいえ、この采配をしたハルカちゃんに言ってくださいね」

 

 そこから、朝に伊豆提督が仲間達に伝えたことをそのまま話していく。後始末の方針については、深雪と電もなるほどと納得。地下施設の後始末は、自分達だけではすぐには絶対に出来ることではないため、専門家の援軍を待つのは同意出来ること。

 特異点の力だけでは完全に止めることが出来ないのは仕方がない。それをどうにかしてくれる仲間がいることに、2人は救われた。

 

「保護したみんなはどうなったんだ?」

「そちらの方も抜かりなく。工廠でいろいろ解析した結果、完全な治療法としてはまだ見つけられていませんが、危険性の排除は出来ました。やはり、暗示のようなモノがかけられていたんです。それは、ちょっとした裏技で無くしました。ただ、そのせいで少し厄介なことが起きてましてね」

 

 妖精さんを食べさせられたことによる暗示というのは伏せつつ、要所要所を抜き出して説明をしていく。配置転換のことも語らない。ともかく、暗示がかけられていた、それはうまく機能しなかった、敵対することはない、しかしそのせいで縛り付けることになってしまった、と知っておいた方がいいことだけは伝えている。

 

「そうか……いや、でも一応は目処は立ったんだよな?」

「はい、そう考えてもらえれば大丈夫です。ただ、その処置もあって、今は杏さんが寝込んでしまっています。体調を崩してしまって」

「マジか……じゃあ、後から見舞いにでも行くよ。あたし達、今日は休みの日だしさ」

「そうですね、それくらいなら大丈夫でしょう。貴女達が何故休みなのかは、ちゃんと自覚していると思いますが」

「わかってる。無理したら倒れちまうかもだからな」

 

 勿論、疲れるようなことは絶対にしない。明日からは後始末に参加しなくてはならないのだから。

 

「さて、お二人とも、お腹は空いていませんか?」

「……言われたらめっちゃ空いてきた。疲れが先立ってたから、忘れてたぞ」

「電もなのです……寝る前に食べておいてよかったのです」

 

 意識すると途端に空腹を実感した。そのため、丹陽に連れられて食堂に向かうことになった。

 後始末をしている仲間達は、今は工廠で簡易的な食事を摂っているだろうが、休みである者は普通に用意されている。といっても、それに該当するのは僅かだが。

 

 食堂には時間帯がちょうど合ったおかげか、保護されたカテゴリーY達が集まっていた。子供達も今は行儀良くご飯を食べており、美味しい美味しいと和やかな風景を作り出している。

 

「ハイ、2人トモ。起キタバカリデモ、コレクライ食ベラレルワヨネ?」

「ああ、行ける行ける。ありがとな」

「なのです。お腹ペコペコなのです」

 

 セレスから出されるのは、割とガッツリとした料理。昨晩が非常にあっさりだったため、今回は力をつけられる栄養満点の献立。

 

「……セレスの飯食ってると、本当に戻ってきたって感じがしていいな……。全部片付いてねぇけど、戦いが終わったって感じがして」

「なのです。もう辛いことは起きないのです。起きませんよね?」

「ああ、起きねぇよ。これ以上はな」

 

 ご飯を食べながら感慨に耽る。たった1日、半日にも満たないが、非常に濃厚な、辛く苦しい戦いが終わったと思うと、意図せず笑みが溢れてしまう。今は心にも余裕が出てきているため、素直に笑えた。

 

「後始末は大変だけどな」

「それは……でも、電達は後始末屋なのです」

「だな。明日から作業出来るように、今日はしっかり休んでおこうな」

 

 

 

 

 今はこれでいい。ここからまた、いろいろと知ることになるのだが。

 




「え、特異点って、本当はガキだったのか……!? あのカッケェ姐さんと、美人な姐さんが、アレ!?」
「そうよ。あの2人、変身する魔法少女なのよ」
「……特異点ってすげぇ……」
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