後始末屋の特異点   作:緋寺

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心配事

 食事を終えた深雪と電は、今日はお休みということで、一日を心身共に癒されることに使う。と言っても、部屋にいるだけでは休まらない。仕事に参加せずとも、仲間達の顔は見ておきたい。

 ということで、2人はまず、杏の見舞いをすることにした。暗示をかけられていたのを治療したことにより、激しく消耗してしまっていると聞いたら、心配にもなる。

 それには丹陽も同行。杏が余計なことを言わないとは思うが、念の為の監視。今はまだ、妖精さんを食べさせられたという事実を知る必要はない。他のカテゴリーYはうみどりの説明を改めて受けることになっているので別行動。と言っても、おそらくすぐに終わるタイプ。

 

「安静にしておかなくちゃいけないので、あまり騒がないようにしてくださいね」

「わかってる。あたし達だって疲れないようにしておかねぇといけないんだ。騒ぐつもりなんてねぇよ」

「なのです。でも、元気になっていてくれれば嬉しいのです」

 

 そうこうしているうちに医務室へ。艦娘はそうそう使う部屋ではないため、深雪と電はとても新鮮な気持ちでその部屋へと入る。

 

「……杏、話聞いたぜ」

「大丈夫なのです?」

 

 ゆっくりと入っていくと、まず目につくのは、ベッドの横に座っている母、紫苑。杏は今、大分消耗が薄れてきたらしく、まだぼんやりしているようだが、多少は動けるくらいにはなっていた。

 実際、配置転換を受けて半日以上は経っているのだ。人間ではあっても、それだけ休めばある程度は回復しており、ご飯も少し少なめではあるがキチンと食べることが出来ている。

 

「あ……うん、心配かけちゃった、かな」

 

 ベッドの上で恥ずかしそうに笑みを浮かべる杏。安静が必要というのはわかっているが、こうして見舞いに来てくれたのなら、ちゃんと応対したい。その相手が深雪ならば尚更だ。杏はモゾモゾと身体を動かし、深雪に向き直った。

 

「そりゃあな、絶対安静だったって聞いたから、何があったんだって不安にもなっちまったよ。それに、せっかく助かって親ともこうして会えたってのに、その時間を体調不良で無駄にしたくないと思うしさ」

「元気というわけではないかもですが、こうやってお話し出来るなら、回復に向かっているのですね。良かったのです」

 

 2人は杏の容態が回復に向かっているとわかり、ひとます安心した。

 

「何したらこうなったんだ? つっても、ホッとしたら体調崩すってのはあるみたいだけど」

「さっきも言いましたけれど、阿手の暗示を解決するために、少し処置が必要だったんですよ」

 

 そこからは丹陽が少しだけ説明。杏や紫苑に説明させるとボロが出るかもしれないと、すぐさま口を挟む。知っておいても良さそうな情報だけは、丹陽が先んじて展開することで、いらない情報をシャットアウトする。

 

「杏さんも、紫苑さんも、その処置を受けているのでもう安心です。ただ、どうしてもそれが身体に負荷がかかってしまうものでして。カテゴリーYの皆さんは自己修復を持っているのでそれもすぐに治るんですが、やはり生身の人間にはかなり厳しかったようです。ただ、それで死に至るようなことはありませんから大丈夫ですよ」

 

 どのような処置をしたかについては絶対に触れない。聞かれたとしても答えは用意してある。

 

「そっか、なら良かった。でもやっぱりあのババア、そういう巫山戯た事やってたんだな。何事も無くてよかったぜ」

「ですね。予想の範囲ですが、もし誰も気付かずにいたら、夜中に全員でハルカちゃんを襲撃していた可能性があります」

「うえ……それはマジで止めれてよかったな……」

 

 改めて杏の方へと向き直る。

 

「助かって良かった。疑いの目もこれで無くなったんだよな。もうこれで自由だ。母ちゃんと一緒に過ごせる……けど、この母ちゃんを人間に戻す方法がまだ見つかってないんだよな……」

 

 紫苑の方に目を向けると、小さな首を横に振る。心配しなくてもいいと。

 

「確かに私は姿を変えられてしまったが、こうして娘と一緒にいられるだけでもありがたいことだ。急がずとも、ゆっくりと探してくれればいい。ただ、元の身体に戻ったら、病気も元通り……なんてことは無いだろうか」

「……普通にあり得るかもしれねぇ」

 

 紫苑は不治の病を持っているから島に訪れており、騙されてこんなことになったとはいえ病気自体は今は治っている。阿手のやったことで、それだけは評価出来る点である。勿論、身体をこうしている時点で評価も何もあったモノでは無いのだが。

 黒井親子の透もそうだが、今の身体だからこそ病気が治っているというのならば、元に戻すのも考えモノ。健康体だが深海棲艦の身体か、人間だが病に冒された身体か。考えれば、答えは自ずと出てくる。紫苑は深海棲艦の身体を所望しているようである。病はそれだけ辛く苦しい。

 

「いいとこ取りはズルいことかもしれないが、どうにかしてもらいたいというのはあるな」

「だよね……やっぱり少し慣れないもん。お母さんの今の見た目」

「ああ……若返ってはいるんだが」

「角とか、大変なことになってるもんね……あと、うん、いろんなところがムチムチに……」

 

 杏に言われて、紫苑は少し顔を赤らめる。元々の姿がどのようなモノかは知らなくとも、今の姿が本来とは大きくかけ離れていることは話を聞いていればわかること。

 深雪も電もクスリと笑って、この親子仲が非常にいいモノであることを理解した。尚更再会出来てよかったと思えた。

 

「一番いいのは、今のまま人間に戻れること、かな?」

「ああ、病気もなく、若返ったこの身体で、深海棲艦の部分が無くなってくれれば万々歳だ」

「あはは、流石にちょっと欲深すぎるとは思うけどね」

 

 こうやって笑っていられるなら大丈夫だろう。無理しているわけでも無い。空元気というわけでもない。これならば心配はいらない。

 

「改めて、ありがとう。お母さんを救ってくれて」

「どういたしましてだ。やっぱ救える奴は全員救いたいからな」

「なのです。心の傷は難しいかもですが、せめてこうして家族は一緒にいてほしいのです」

「だな。離れ離れは嫌だもんな」

 

 杏も紫苑も、笑顔で礼を言う。特異点として、やってきたことが間違ってなかったと思える瞬間だった。

 

 

 

 

 杏はもう少し休んだ方がいいということで、医務室から出た深雪一行。杏自身は少し名残惜しそうだったが、眠そうな表情だったのは深雪でもわかったので、ちゃんと回復してからまた話そうなと軽く頭を撫でて、そのまま退室した。

 そういう行動が相手をその気にさせるのではと丹陽は訝しみ、それでもまだ大丈夫と電は焦燥感に駆られるようなことはない。

 

「よし、じゃあ次は……ああ、浜風」

「なのです……アレから時間は経ちましたけれど、今はどうしているのです?」

 

 続いて、心配事といえばあの浜風である。戦いが終わった後も不安定さは変わらず、あまり良い雰囲気ではなかったが、丸一日に近いくらい経過したことでどうなったのかは気になるところ。

 一度鎮守府に帰ったとかならわからなくもない。鳳翔や他の仲間達も、今回の浜風の行動には頭を痛めている。しかし、その気持ちもわからなくも無いため、同情の余地も僅かながらある。

 

「浜風さんは、今は罰として後始末の一番キツイところをやっていますよ」

「一番キツイ部分って……肉片拾いか」

「出来損ないの破片がいろんなところに散らばっているのです。それを回収するのは……慣れていてもちょっとキツイくらいなのです」

 

 深海棲艦の残骸よりもかなりキツイ、出来損ないの破片。ドロドロになった人間、艦娘などの身体の一部を、確実に回収していくというのは、後始末屋としても御免被る作業である。勿論、必要なのだから否定はしないし確実にこなしはするが。

 

「トングを使って拾い集める……うん、私は艤装装備が出来ないのでお手伝いは出来ませんが、ちょっとゾワゾワしますね。感触が手に伝わってくるんですよね」

「そりゃあな。素手で拾えっつってるわけじゃないんだから、我慢出来るだろ」

「電達でも素手で拾うことはしませんよ。そもそも、出来損ないの肉片は、腐食性の体液とかあったりしたんですから」

 

 罰としてはもってこいな作業である。後始末屋でも出来れば避けたい作業というのも早々無い。

 

「それで済んでいるだけでも、ありがたいと思ってもらわないといけませんがね。浜風さんのしたことは、作戦を失敗させるためのテロみたいなモノです。本来ならここまで軽い刑罰では済ませません。最悪死罪までありました」

「それは言い過ぎじゃあ……」

「ここで特機を全て失っていたら、まぁ勝てませんでしたよね。入念に考えた策が、勝ち目を掴むアイテムが、ただ1人の独善的な行動で何もかもおじゃんになり、その上敗北に繋がる。これでうみどりが壊滅していたら、浜風さんは戦犯も戦犯です」

 

 丹陽は落ち着きながらも事実として妹のやらかしを淡々と話した。先程の杏達のように、不可抗力で与えられた暗示でもなければ、何かすれば治療出来るというモノでもない。自分の意思でそれを選択し、代案もなく全てを破壊しようとした。それは決して許されることではない。

 そもそもそうなってしまったのも阿手のせいなのだが。無差別に忌雷をばら撒いたりしなければ、こんなことにはなっていない。浜風もまた、被害者である。

 

「……本当なら、浜風さんからその時の記憶を消してもらいたいくらいです。ですが、それはきっと違うこと。浜風さんの中には、ああいう激情が何処かにあるのでしょうね。むしろ、こういうカタチで見えたのは良かったことかもしれません」

「考え方は人それぞれだとは思うけど、ああいう極端なのもいるってことだな。あたしは本当に恵まれてるんだって実感したぜ」

「なのです。間違っていないけれど、混乱を呼び寄せてしまう、ということですよね。どうにかわかってもらえればいいのですけど」

「難しい話ですが、もう少ししっかり話してみなくちゃいけませんね。作業が終わったら、また話をしてみましょう。そんな余裕があるかはわかりませんが」

 

 

 

 

 心配事は少しずつ片付けていく。深雪達は、今だからこそこうやって動く。

 




杏達のことについての心配事はとりあえず終わりました。そうなると、次に心配なのは、忌雷アンチの浜風。今でもその考え方が治っていないなら、いっそ……。
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