後始末屋の特異点   作:緋寺

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希望ある片付け

 杏の見舞いを終えた深雪達は、身体を休める必要があるとはいえ、少々暇になる。今こうして行動をしていても、疲れている感じではない。潜在的な疲労があると言われたら何とも言えないが、今は心を癒す方向で進めていきたいと考える。

 

「まずはハルカちゃんに報告しておくか」

「なのです」

 

 起きたことを伝えるために、伊豆提督がいるであろう工廠へ。そこに行けば、今は作業中だが仲間達とも顔を合わせられるだろう。それこそ、作業中の浜風とも。

 もし何かがあったとしても、今の2人には丹陽がついている。今になって万が一ということはないはずだが、何が起きてもおかしくないと考えて行動すべき。

 

「ハルカちゃん!」

 

 予想通り、伊豆提督は工廠で作業をしていた。生身の人間が出来ることというのは限られているが、そこに提督が出張ってくれているというだけでも、仲間達は心強く感じる。今回の戦いの戦闘詳報なども沢山書かねばならないため、タブレット片手に諸々のことをこなしている姿は、まさに後始末屋を束ねる者であるとわかる。

 

「深雪ちゃん、電ちゃん、おはよう……でいいのかしらね、もうお昼は回っちゃってるけど。よく眠れた?」

「ああ、すっげぇ寝れたよ。身体の方は大分回復したかな。最初はガタガタだったけどさ」

「なのです。起き抜けは本調子ではなかったですけど、身体を動かしてるうちに、良くなってきたのです」

「それは良かったわ。聞いていると思うけど、アナタ達は今日いっぱいお休みだから、ゆっくりしていてちょうだいね」

 

 笑顔で指示を出してくれる伊豆提督を見ていると、やはりここが自分の居場所だと実感出来る。居心地の良さは、軍港都市に滞在している時以上。後始末の風景も込みにして、自分は後始末屋なんだと思わせてくれる。

 

「みんな、やっぱり心配していたのよ。このまま起きないとかないよなって」

「そ、そんなに?」

「白雲ちゃんがね、あまりにも静かに眠っているモノだから、少し不安になったって言ってたわ。息をしてるか確かめたくらいだって」

「そこまでかよ……まぁ夢も見ずにグッスリだったからなぁ」

「電もなのです。本当にグッスリだったのです」

 

 そんなことを話しているうちに、作業中の白雲が工廠にやってきたのが見える。大荷物を持っている辺り、散らばった残骸を運んでいる最中だろう。いつも共にいるグレカーレの他にも、今回は睦月と梅も一緒。グレカーレの剛腕や睦月の『軽量化』で大荷物を持ち上げ、白雲が軽く『凍結』させて固定、梅が大きすぎるモノを『解体』、大発動艇に積み込んで運ぶという作業中。曲解も適材適所。いいことに使えばこれだけ上手く動ける。

 

「お姉様! 目を覚まされたのですね」

「おう、なんか心配かけちまったみたいだな」

「まさに死んだように眠られていらっしゃいました。それほどあの戦いは消耗していたということ。何事もなくて安心いたしました」

 

 白雲は今でも少し不安だったらしく、目を覚ました姿を見られたことでようやく安心出来たのだという。

 

「お疲れ様、ミユキにイナヅマ、大分回復した感じ?」

「なのです。身体が痛いとか動かないとか、そういうのはありません」

「そりゃあ良かった。あたし達もしっかり回復したよ。ウメとか心配だったけど、そこは自己修復が動いてくれたみたいでね」

「特機には助けられましたねぇ……」

 

 今はピンピンしている梅も、昨日は歩けないくらいに消耗していた。あらゆる場所で『解体』が有効だったことから、昨日は深雪と電と同じくらいが、下手したらそれ以上の消耗で、死んだように眠ったらしい。2人と違って、食事をする余裕すら無かったのだとか。

 

「……昨日はいろいろゴメンね。あたし、記憶には無いけど確実に迷惑かけたでしょ」

 

 改めて、『舵』の件で謝罪をするグレカーレ。気にしないようにしているからか、笑みを浮かべたまま。ケジメという感覚で、言葉だけでも残しておきたいと。

 この様子では、『舵』を張り付けられていた仲間達は、不意にその時の記憶が蘇るなんてこともなく、しっかり忘れたままになっているようである。特異点が『阿手の完全否定』をしたことで消えた記憶だが、それはこれからもずっと残り続けるのだろう。梅の方も、その時の悪い記憶だけごっそり抜けているらしく、思い出そうともしていないようだが、そこに思考が辿り着けないようだ。

 

「大丈夫なのです。アレは仕方ないこと、それにもう何も無いのですから、グレカーレちゃんは気にせず、いつも通り過ごしてほしいのです。気になるとしても、その時のことは何も話しません」

「そっか、わかった。気にしないことにするよ。この話ももうおしまい。そもそも謝るなって言われてることだったからね。これ以上出さない出さない」

 

 パッと表情を変え、にんまりと笑みを浮かべる。これは、悪いことを考えている顔。

 

「イナヅマ、今度は大人になるところ、しっかり見せてもらうからね。あと、イリスに服とか用意してもらった方がいいと思うよ。むふふ、深雪とお似合いなところを見せてもらいたいしね」

「っ、ぐ、グレカーレちゃん……」

「ミユキみたいにさ、変身のトリガーは考えておいた方がいいよ。そんじゃ、作業に戻りまーす。ムツキごめーん、任せちゃってたーっ」

「大丈夫にゃしぃ、睦月の力はこーゆー時に光り輝くのね」

 

 こうして話している間も、睦月が重たい残骸を運んでいたので、それを手伝うためにグレカーレは駆け出した。本当にいつもの調子に戻ってくれたんだと内心喜ぶ。

 睦月も作業しながら深雪と電に手を振ってくれていた。残骸片手なので少々怖かったが、それでも元気いっぱいであることがわかる。

 

 特異点以外は、もう今日は全回復しているようだ。自己修復が大きいところだが、消耗の度合い、ベクトルがまるで違うということもわかる。それこそ、今も寝込んでいる神風と同様なのが特異点。人智を超えた力は、普通では無いところを消耗させるようである。

 

「グレ様も開き直ってくれました。()()()のことは誰も詮索しません。阿手がいなくなった今、もう二度とあんなことにはならないでしょう」

「だな……残党みたいなのがいるなら、完膚なきまでに始末してやるぜ」

「はい、白雲もそうしたいと心より願っております。では、我々は作業に戻ります故、お姉様も電様も、ごゆるりとお休みくださいませ」

 

 海だけでも相当な規模な後始末、こうして手を止めて口だけ動かしている暇はそこまでない。白雲もグレカーレに続いて作業へと戻っていった。

 まずは表面上だけでも綺麗にしなければ、そこの穢れから深海棲艦が生まれてしまうかもしれない。なるべく手早く、それでいて丁寧に事を進めていく。

 

「……あれ、もしかして。電、アレ見えるか」

「はい……手伝ってくれているのですね」

 

 その作業は、いくら人数があっても足りない。増援に来てくれた面々だけでなく、おおわしからも使える者は全員、有道鎮守府からも更なる人員を投入されているレベルの中、どうしても気になる姿があった。

 それが、島の地下施設で戦い、そして自由を与えることによって仲間になった、裏切り者提督の元秘書艦達。金剛を筆頭に、無表情ながらもテキパキ的確に作業をしてくれていた。無感情であるためか、残骸などを当たり前のように素手で触れて進めているのは何とも危なっかしさを感じてしまうが、猫の手も借りたい今、ああして手を貸してくれるのは本当にありがたいことである。

 

「あの子達を元に戻す手段も考えたいところだけど、トシちゃんのところの艤装人間とは話が変わってくるのよね……少しは調査をしたんだけれど、やっぱり治せるかわからないくらいに身体を滅茶苦茶にされていて……」

 

 伊豆提督も少し悲しそうに語る。今は見た目が特殊な深海棲艦で、淡々とやるべきことをこなすだけの機械のようになってしまっているが、元は人間であり、艦娘であるはず。特異点の力でも元に戻るかはわからない。

 

「なるべくいい方向に持っていこうと考えているわ。でも、今のままなら、あの子達はうみどりのスタッフになってもらうのが妥当ね」

「だよな……本当に酷ぇことしやがる」

「元凶はもういないのです……あの人達は恨みも晴らす事が出来ているのです……だから、ここからは自由に生きてほしいところなのですが……」

「何かと難しい状態よね……」

 

 まだまだ作業は始まったばかりのため、先を考えるのも今では無い。だが、いつか答えを出さねばならないため、こうしている間も何か出来ないかは考え続けている。答えは簡単には出そうにないが。

 

「そうそう、調査隊の一部は、島の調査もしてくれているのよ。水爆の撤去をするために、それ以外の危険が無いことを確定させなくちゃいけないからね」

「だよな。じゃあ、またあの学校や地下に向かったってことか」

「ええ、今は学校の方かしら。地下は明日以降になりそうって話よ」

 

 まだ足を踏み入れることすら出来ていない場所だってある。そういうところに何があってもおかしくないのがこの島だ。入念に調査をしなくてはならない。実は斃し切れていない敵がいるだとか、止まっていない施設が何かを生み出し続けているだとか、考え出したらキリがないくらいである。

 その不安を取り払うためにも、調査隊は島内を駆けずり回っている。それはそれでハードな仕事であった。

 

「まだまだこの島には世話になりそうね……気分は良くないけれど」

「ああ……早く終わりにしたいもんだぜ」

「なのです……ここにはいい思い出がありませんから」

 

 伊豆提督も、この状況には溜息が出てしまっていた。良くないとは思いつつも、これだけの規模となると気苦労も多い。

 

「ただ、ここからは援軍も沢山来るわ。近日中に、他の後始末屋も助けに来てくれるの。今回は総力戦だからね」

「マジか、他の後始末屋なんて、話にしか聞いてなかったし、結構楽しみだ」

「同業者なら、きっと腕も確かなのです。作業がすごい速さで終わってくれるかもなのです」

 

 希望がないわけではない。終わらない作業ではないのだ。故に、誰も挫けない。嫌だなと思いながらも、確実に歩みを進めていくだけだ。

 

 

 

 

 作業はこうして進んでいる。1日で1割にも満たないし、目処すら立たないモノの、進めない理由など何処にもない。

 




初日で全員集まるわけもなく。しかしここからは、増員がどんどん出てくることでしょう。確か後始末屋って、うみどり含めて3部隊って書いたはずなので、少なくとも移動鎮守府が後2つはここに来ますね。
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