後始末屋の特異点   作:緋寺

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海の中へ

 後始末2日目、ここからはゆっくりと休息を終えた深雪と電、そして神風も参戦。さらに、この島で保護され、敵対心を持たないカテゴリーYの中から、自主的に参加を表明した者も参加を始める。

 陸上施設型はどうしても海に出られないため、そちらはうみどりで雑務をしてもらうことになっている。子供達に仕事をさせるのも酷なため、余裕ある者──今は大概黒井兄妹──がお世話をしていたりする。少々動き回るため、今日はプールで小型化したイロハ級と遊んでいてもらうことになる。

 

 で、自主的に参加をすると言い出したのは、戦艦の力を持つ春星。姐さんの力にならせてくださいと、やる気満々である。仲間に加わってからの好青年っぷりは、目を見張るモノがあった。

 

 そしてもう1人。

 

「海の中、猫の手も借りたいって言ってたでしょ。素人のアタシが手伝えるかはわからないけど、貴重な戦力ってことで、手を貸す」

 

 潜水鰆水鬼である。伊203に対して苦手意識を持ちつつも、ここまでの罪滅ぼしも兼ねてと、後始末に参戦することを決めた。本当に助かると伊26は大喜びしたし、スキャンプも今回に関しては素直によろしく頼むと受け入れたほど。それだけ海中の戦力が足りないと、伊203は伊豆提督にどうにか出来ないものかと相談をしたくらいである。

 

「……あの悪魔は出来れば離れてくれると」

「仲間を悪魔呼ばわりはよくない」

 

 伊203がナカマナカマと肩を組みに来ると、潜水鰆水鬼は小さくヒッと声をあげてしまった。どうしても両腕両脚を捥がれたトラウマは払拭出来ることではなく、冷や汗までかき始める。

 

「フーミィ、やめてやれよ。そいつもクソにいいようにされてただけだからな。それに、一応そいつの中にあたいの姉貴の魂入ってんだ。イジめてやんな」

「私は仲良くしたいだけ。その方が速い」

「テメェほど割り切りが速い奴じゃあねぇんだよ。まぁ、あたいも敵だった頃はぶちのめしたくなるほどムカついたけどな、今はそうでもねぇよ。『舵』のせいだったってわかってんだからよ」

 

 スキャンプも一度洗脳を受けている者。敵のアイテムで敵対させられる感覚と気分の悪さは理解している。そのため、潜水鰆水鬼にも、どちらかといえば擁護派。その中に姉であるワフーの魂が使われているというのも大きい。

 スキャンプにしては優しい選択を取っているが、それもこのうみどりで培った感情。相変わらず救護班としての仕事もしているようで、酒匂と共にいることで、柔らかくはなっているようだ。絆されていると言うとキレる。

 

「えっと、なんて呼べばいいのかな。鰆ちゃんじゃまずいよね?」

 

 伊203とスキャンプのことは一旦置いておいて、伊26が潜水鰆水鬼に名前を聞く。彼女もそうだが、未だに名前をちゃんと聞いている者は少ない。いずれうみどりを下りることになるとは思うが、作業を共にするのならば、ちゃんと呼び合う名前を知っておきたいと伊26は考えている。

 

「あー、そうか、名乗ってないね。アタシ、鳥田(トリタ) 玲奈(レイナ)。レーナでいいよ。潜水艦は、なんかそんな感じで名乗ってるっぽいね」

「ん、わかった。レーナちゃん、今日からよろしくね。潜水艦の戦力が増えるのは、本当に助かるよ」

「罪滅ぼし、させてもらうよ。いろいろ迷惑かけてるし」

「あはは……こちらからもいろいろしちゃったみたいでごめんね……」

 

 鰆あらためレーナは、どうしても伊203への苦手意識は払拭出来ないようである。これは時間が解決するかどうかもわからない。とはいえ、レーナ自身も前に進み出そうとはしているため、それは尊重する。

 

 

 

 

 しかし、素人1人増えたところで、海中の作業量が減るわけではない。むしろ、最初は教えながらの作業になるだろうから、少しだけ効率も落ちるだろう。簡単なことからやってもらうにしても、とにかく量がおかしい。

 この作業、おおわしからも潜水艇の海防艦達すら派遣されているのだが、それでもスキャンプが愚痴るレベルだ。やれどもやれども減らない後始末は、モチベーションに関わる。

 

「で、やってみようって思ったわけだ」

 

 そこで、深雪と電が提案をした。出来るかはわからないが、吹雪と同じように、海中に潜れるのではないかと。

 

「やってみる価値はあると思うんだよ。海上も人数いるかもしれねぇけど、どれだけ増援が来たところで、海中に参加出来るのは少ないだろ?」

「なので、試すことはアリだと思うのです」

 

 伊豆提督も話を聞いて少し驚いたが、吹雪という前例があることを考えると、本当に出来るのではと考えはする。

 

「とはいえ、急に沈んじゃうこともあり得るわ。試すなら、充分に気をつけてちょうだいね。潜水艦の子達にサポートしてもらうなりで、一度見てからやらないといけないわ」

「ハルカちゃんもちょっと見ててくれよな。上手く行かなかった時に、すぐに救ってほしいし」

「当たり前じゃないの。後始末屋の今後にも関わるわ」

 

 伊豆提督だって、潜水艦の人員不足は常々思っている。これまでは少人数でもなんとかなったレベルだが、今回はそんな事言っていられないくらいの蓄積量。海上よりも海中の方が酷いと言ってもいいほどである。

 これも全て、阿手が長い年月不法投棄し続けてきたから起きていること。表面上は平和な島というのもあり、見えていないところでは積もり積もっていたということである。

 

 特異点の力を使い、海上艦から潜水艦に変わることが出来れば御の字ではあるが、それが出来なければただ沈むだけ。ある意味、決死の覚悟で作業にあたることになりかねない。

 

「じゃあ、まずは深海棲艦の姿になるぜ」

 

 深海棲艦の一部が海中で活動出来るということもあって、その方がおそらくやりやすいと感じた。吹雪は特異点としての力が普通ではないからか、艦娘の姿でも海底に立っていたりしたようだが、深雪は行動するにあたっての基準点みたいなモノがないと、上手く紐づけることが出来ない。

 そのため、まずは自分のこめかみに銃のカタチにした手を添えて、煙幕を放つことで深海棲艦化。一度先に進んだ姿となったからか、今回も既に最新の姿に変化している。前より露出度が上がった状態ではあるものの、深雪はそれを恥ずかしがるようなことはない。

 

「よし、あたしはこれでいいな。電は……どうやるよ」

「深雪ちゃんと同じイメージは難しくて……あ、そうだ、これでどうでしょう」

 

 電はまだ自分のトリガーがないため、少し考えた後、変化した後の姿を考え、髪を束ねているバレッタを外す。お風呂や寝る前も同じことはするが、普段は絶対にしないという行動が1つ目のトリガーとして機能すると考えた。

 そして、そのバレッタを軽く握ると、突如それが煙と化し、そのまま電も煙幕に包まれ、そしてそれが晴れた時には電の姿は深海棲艦化していた。

 

「わ、出来たのです!」

「おー……いいね。電、それ外すと雰囲気変わるし、それを引き金にするの、合ってると思うぜ」

「なら、これからはこのカタチでやっていくのです。元に戻る時は、戻りたいって思えば戻れますもんね。一度やってますし」

「だな。じゃあ、それで行こうぜ」

 

 深雪と電は大人の姿となったことで次の段階へ。今度は海中に行けるかどうかである。すぐに潜水艦達が海に入り待機し、実験を開始することになる。

 

「ミユキ、沈んだらちゃんとお願いしろよ。助けてくださいってな」

「多分マジで必死に助けを求める気がするから、安心しとけ」

「はっ、そりゃあ見てみてぇな」

 

 こういう巫山戯合いも、仲が良い証拠とも取れる。スキャンプはまず否定するだろうが。

 

「っし……じゃあ、願うぞ。あたし達は、この島を綺麗にするために」

「海の中も、後始末したいのです」

 

 それは、優しい願い。穢れが溜まりに溜まった島を綺麗にするため、世界を平和にするため、海の中すらも後始末をしたい。そんな願いは、叶えられるに値するモノとして認識される。

 深海棲艦化した状態での願いは、より強く叶えられる。艦娘の身体では耐えられないような強い力も、今の姿なら発揮出来る。

 

 深雪と電の足が、少しずつ海中へと沈んでいく。足首まで沈み、膝まで沈み、腰まで沈み……と、本来なら起きないことが起きていき、周りを驚愕させる。海上艦にそんなことが起きた場合、基本はそのまま死だ。

 

「2人とも、大丈夫?」

 

 伊豆提督が声をかけるが、深雪も電も笑顔で大丈夫だと答える。

 

「ああ、心配いらないぜ。でも、頭まで沈んだ時だよな問題は」

「なのです。息が出来ないとなったら、すぐに引き上げてください」

 

 そうこうしている間に、ニッと笑った深雪も、少し緊張している電も、頭の先まで海中へと入った。

 ただ泳ぐとかそういう話ではない。艤装も装備した状態での潜水。本来なら呼吸なんて出来やしないのだが──

 

「……お、苦しくない!」

「それどころか、話せるのです!」

 

 海中で、さも当然のように言葉を紡ぐことが出来ている2人。そこからさらに、自らの意思で海中を自由に移動出来ることも知る。それこそ、潜水艦と同様かそれ以上の挙動で行きたいところに行けるという、まさに()()()()()()()()()()と言ってもいい状態となった。

 

「マジかよテメェら……」

 

 スキャンプは呆れたような表情で2人を見ていた。潜水艦になれと言ったのは自分だが、実際そんなことになっていたら、流石に呆気にとられるというもの。伊26も、これにはポカーンと口を開けて眺めていた。

 

「都合がいい。早く仕事を始める」

 

 伊203だけは、その変化や状況に驚くこともなく、すぐさま2人の手を取った。深雪と電は、もしやと顔が引き攣る。

 

「行くよ、時間は待ってくれない。新戦力は早く確かめないと」

「ちょっ、と、待てーっ!」

「いきなりなのですぅ!?」

 

 そして、伊203は2人を引っ張ってすぐに島の方へと向かってしまった。まだ慣らし運転すらしていないのに、海中に潜れるとわかった途端、伊203に振り回されることになる。

 

「……よし、アイツのお守りをしなくて良くなったな。Thanks, ミユキ、イナヅマ、テメェらは尊い犠牲だ」

 

 スキャンプにしては満面の笑みを浮かべ、その姿を見送りつつ、レーナに仕事を教えながらゆっくりと追った。

 

 

 

 

 ついに海中も制覇した特異点。仕事の範囲も増え、後始末はさらに効率よく進められるようになる。

 




まさかの先に名前が判明した潜水鰆水鬼。苗字の鳥田はトリートーン、名前の玲奈はネーレウスから。どちらもギリシャ神話の海の神。保前提督とは無関係である。
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