後始末屋の特異点   作:緋寺

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新たな参加者

 海中に潜れるようになった深雪と電は、未だ配置されていた『舵』を対処するため、煙幕を放出。海水と混ざり合い、煙でなく靄として海底に撒かれることで、残骸の隙間にすら入り込み、その存在を消し去って行った。

 だが、残骸自体は島の周囲に散らばりすぎている。それを全て対処していかなくてはならないため、2人は流石に1日でそれを全てこなすのは無理と判断。確実に作業をこなすため、多少は時間をかけてでも地道に対処をしながら進める。スピード狂の伊203も、ここでもっと速くと言わない辺り、雑にやって後戻りをするくらいなら、急ぐことなく進める方が速いのだと理解しているようである。

 

 堆積される特異点の煙幕──靄が、その面積を増やしていく中、これが安全の証拠であるということは、伊203の口から伊26に伝えられた。そのため、スキャンプ指導で学びながら後始末を開始したレーナにも安全に作業が進められる。

 

「……いつもこんな感じで作業してるの?」

 

 素朴な疑問をスキャンプに投げるレーナだが、スキャンプは素直にそうだとは言えない。この現象自体が初めてのことなので、毎回こんなことがあるわけではないとしか言うことが出来ない。

 

「海の中は普通ならもっと危険だね。今回はコレまで以上に危険な場所だったけど、深雪ちゃんと電ちゃんのおかげで、危ないところは無くしてもらえてるだけかな」

 

 伊26が説明しながら集められそうな残骸を集めていく。持ち運ぶことが出来なそうなほどに大きなモノに関しては一旦置いて、最終的には海上の仲間にもお願いして引き揚げてもらうなどをすることになるため、ある程度の選定、持ち上げるための収集、自分達で運べるなら回収などを次々とこなしていった。

 レーナも慣れないながらもやるべきことは指示してもらい、小さなモノは回収しながら、少しずつでも作業を覚えている。手際がいいというわけではなくても、猫の手も借りたい状況で作業が出来る者がいるのならば、それだけでも戦力である。

 

「ふぅん……ここの仕事って、地道なんだね」

「だね。でも、それが戦いを終わらせる一番の近道だから」

「そうなんだ……じゃあ、敵とドンパチしてるよりも平和に近付いてるってこと?」

 

 そんな質問に、伊26はニッコリと笑う。

 

「マジでな、こんな地道なことが戦い無くしてくらしいぜ。クソ人間どもが散らかしまくったから深海棲艦が生まれやがる。これを無くしゃ、それが多少は抑えられるって寸法らしい。あたいにゃまだよくわからねぇけどな」

 

 スキャンプも悪態をつきながらレーナにそれを教える。心底嫌そうな顔をしているが、作業だけはしっかりやっている辺り、長くうみどりで生活しているうちに、後始末屋としての在り方を理解しているようである。問題児と呼ばれていた頃が嘘みたいだと、伊26は内心思っていたりする。寛容になることは喜ばしいことなので、煽るようなことは絶対にしない。

 

「その元凶ってヤツが、テメェを操ってたババアだってことだ」

「みたいだね……アタシもなんでアレが普通だと思ってたのかがわからないくらいだよ……。世界の平和がコレから生まれるわけがないじゃん」

「それをわかんねぇようにいろいろやってたんだろ。小賢しいっつーか、小狡いっつーか。あたいの時代からクソみてぇなことばっかやってたんだもんなクソババアがよ」

 

 スキャンプの悪態は止まるところを知らない。今を生きるレーナにはわからないことばかりだが、こうして作業している時は黙々とするより話しながらの方がモチベーションが下がらずに済むため、なんだかんだでいろいろ話を聞くことになる。

 スキャンプが自分の素性などをペラペラ話すのは非常に稀。特に第二次深海戦争の時なんて、唾棄したい程の嫌な記憶なのだから、それを伝えることなんてまず無い。深雪に話す時も、本当に嫌そうにしていた。

 レーナに妙に口が軽くなっているのは、やはりその中に自分の姉、ワフーの魂が使われているというのが大きいのだろう。カテゴリーYの中にある親密な者の魂が認知出来るのは、既に何度も起きている。深雪が深海千島棲姫から薄雲の魂を感じ取り、グレカーレが船渠棲姫からマエストラーレの魂を感じ取ったのと同じ。

 

「テメェもその被害者っつーのは理解してる。反省もしてんだろ」

「反省……でいいのかな、後悔はすごいよ。それに……まぁ、うん、()()がどうしても頭の中にこびりついててさ」

 

 作業しながらも、レーナはしきりに腕や脚を気にしていた。やはり伊203に捥ぎ取られた記憶は払拭なんて出来やしない。痛みだって当然覚えている。自己修復のおかげでなんとかなっているが、そうでもなければ未だに苦しんでいた可能性すらある。

 これでもかなり吹っ切れている方。メンタルが弱ければ、今でも恐怖心で表に出てくることなんて出来ないだろう。

 

「アイツはうみどりの中でも特に……じゃねぇな、Top classに容赦がねぇヤベェ奴だ。アイツを相手にした時点でいろいろ諦めろ。アイツは敵のBossの首を捩じ切ったような奴だぞ」

「……初耳なんだけど、そんなにヤバいの?」

「Levelが違ぇ。アイツが敵だったら、勝ち目なんてねぇよ。コレで済んだだけありがたいと思っとけ。それでも充分加減してんだぞ」

 

 本当に? と聞くように伊26に視線を向けるが、困ったような笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

 

 そんな作業をしているうちに、スキャンプ達と合流する者が現れる。おおわしからの海中の援軍、丁型海防艦達だ。

 

『すきゃんぷぅ、てー型かいぼー艦も合流でっすー』

「おう、今はガキの手も借りてぇ。テメェらも仕事してくれや」

 

 最初は苦手意識が凄かったスキャンプも、今はそれなりに話が出来るくらいにはなっている。軍港都市でも戯れ付かれていたようなので、流石にここまでになれば慣れたモノのようだ。

 しかし、海防艦達が持っているモノを見て、表情が一変する。そして、苛立ちよりも先に笑いが出てきた。

 

「……ははっ、なんだそりゃあ。新しい作業要員かぁ?」

『マークのあにきに、こーせーさせるために仕事させろって言われて連れてきたんでっすー』

 

 第四号海防艦の潜水艇から伸びる鎖。その先に繋がれていたのは、なんとあの時の潜水鮫水鬼である。『舵』無しで阿手に仕えていた、正真正銘の敵。今は特異点の煙幕により曲解は失われているため、繋がれている鎖が『劣化』されるようなこともなく、まるでペットのような扱いにされてしまっている。

 そうでもしなければ後始末の手伝いもせず、自分がやってきたことの愚かさを後悔すらしない。こうするまでもやたらと抵抗したらしいが、昼目提督が()()()使()で言うことを聞かせ、かつその強面で脅しまでかけたことで、渋々ここまで来させられたという。

 来るまでに子供しかいないのだから抵抗くらいするかと思われたが、丁型海防艦達は恐ろしいことに潜水鮫水鬼よりも手練れである。曲解がなく、武装も外され、基部だけの状態でも戦闘力はあるはずなのに、潜水艇に勝てなかったという実績まで解除してしまったことで、プライドはズタボロだった。

 

 あともう一つ原因があるのだが。

 

「よう、あたいの魂を使った紛い物野郎。いい格好になったじゃねぇか」

「うるせぇ……クソが。テメェらが卑怯なことしたんだろ。そうじゃなきゃ、あたいがこんなガキ共に負けるはずが……」

『いや、完膚なきまでにボッコボコだったよ。動き鈍かったもん』

 

 第二十二号海防艦に言われて、表情が歪む鮫。

 

『多分……スキャンプさんの魂が関係してると思います』

 

 そして第三十号海防艦からの追撃。スキャンプはここで察した。今の自分にはもう無いが、魂レベルでこびりついていた海防艦への苦手意識が、鮫を敗北に導いた挙句、ここまでの存在に堕としたのだと。

 

「なるほどな。ははっ、我ながら気分が悪いこった。おう、クソ鮫、あたいの魂使ってるせいで残念だったな。あたいはもう克服してっけどよ、テメェの身体はガキ共にクソ弱く出来てんだ。よかったなこの程度で済んで」

「……どういうことだよ」

「スキャンプっていう潜水艦はな、海防艦に沈められた過去があるんだよ。テメェがもしあの時、あたいらじゃなくガキ共と戦っていたら、間違いなく死んでたぞ。テメェの力なんて関係なくな。今生きてることに感謝して、反省しやがれ」

 

 潜水鮫水鬼はスキャンプが何を言っているかわからない。理解しようとしていない。そのため、反省も何も無い。

 故に海防艦の潜水艇に繋がれて、見た目だけなら奴隷のように働かされることになる。ちゃんと仕事しなかった場合は、さらに酷いことになるのだろう。

 

「テメェみたいなカスの手も借りたいくらい仕事が溜まってんだ。見てわかるよな、テメェのBossが長いことやらかしたせいで散らかったゴミ島の有様だ。当然、やらかした奴が片付けるってことくらい、わかるよな?」

「……なんであたいがこんなことをしないといけねぇんだよ」

「なんで? マジで言ってんのか? テメェは自分で散らかした自分の部屋をパパやママに片付けてもらってんのか? そこまで何も出来ねぇガキなのかよ」

 

 わざと神経を逆撫でするような物言いでバカにするスキャンプに、潜水鮫水鬼は苛立ちを隠さない。だが、気にすることなくスキャンプは言い続ける。

 

「このゴミを片付けるか、死なない程度に延々と痛めつけられるか、どっちがいいよ。テメェが選べや。先に言っておくぞ。あたいはこの程度で済ましてやってるが、今ここにいないフーミィっていう本当にヤバい奴は、とんでもないことをしでかすぞ。テメェの存在のせいで作業が遅くなったら、速くするために容赦無くテメェをボコる。遅くする奴が大嫌いだからな。この世の痛みを全部与えられると思え。あたいのこれは、相当譲歩してるんだからな」

 

 スキャンプのその言葉に、レーナはあの時のことを思い出して小さく震えた。

 

「ちなみに、これが終わるまでテメェのその扱いは終わらねぇ。それを終わらせたいなら、さっさと片付けを始めろ。あたい達の寝首を掻こうとか思うなよ。テメェの首が飛ぶと思え。死なないようにな」

 

 潜水鮫水鬼はそれでも反抗的な目を向けている。だが、ここで思いもよらないことが起きた。

 

『作業しまっすー』

 

 第四号海防艦が、潜水鮫水鬼の首に繋がっている鎖を引っ張り上げ、海底に引っ張っていった。

 

「がっ、て、テメェ!」

『マークのあにきに許可を貰ってまっす。作業しなかったら引っ張れって。無理矢理作業させればいいよって言われてまっす』

『その人には申し訳ないけどさー。時間も限られてるから、無理矢理言うこと聞かせること、オッケー貰ってんだよね』

『ごめんなさい、鮫さん。でも、鮫さんが悪いことしていたのが……』

 

 海防艦からの袋叩きで、潜水鮫水鬼は黙って作業をする以外の選択肢が無くなっていた。

 

 

 

 

「……あたい、あっちのAdmiral、割と気が合うかもしれねぇ」

「まぁ、似てるところあるかもしれないね」

 

 スキャンプと伊26はその様子を見ながら苦笑して、作業を再開する。レーナは少し意味がわかっていないようだが、鮫には同情することはなかった。

 




嫌々ながらも潜水鮫水鬼も作業員として使うことになりました。子供に牽引されて無理矢理仕事させられるという状況、更生に繋がるのだろうか。作業量の多さから、自分達の罪が自覚出来るとは思うけど。
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