後始末屋の特異点   作:緋寺

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わからぬもの

 おおわしからの増援を加え、海中での作業はさらに進んでいく。深雪と電が先んじて煙幕──靄を撒いたところは安全であるため、初心者であるレーナも安心して作業が可能。大物は複数人で移動させたりなどして、少しずつでもその場所が綺麗になるように進めていく。

 

「おら、さっさと動けよ。テメェがやらねぇと片付かねぇだろうが」

 

 しかし、更生のためという名目の下、海防艦に連れられてここまで来ることになった潜水鮫水鬼は、この状況であっても反発する。作業をまともにやろうとせず、第四号海防艦に鎖を引っ張られることで、渋々作業をしているといった感じ。

 阿手による洗脳教育は根深く浸透してしまっており、今この状況に置かれていても、自分達が世界の平和を脅かしていたとは思っていないようだった。故に、後始末も何故しなくてはならないのかという疑問と苛立ちしかなく、やっているのも本当に嫌々。常に文句しか出ていないくらいのやる気のなさである。

 

「はっ、やってるじゃねぇかよ。テメェの目は節穴か?」

「それがやってるうちに入るかっつってんだよ。ガキよりも使えねぇ奴だな。後始末は、適当に並べ替えることじゃねぇぞ」

 

 潜水鮫水鬼がやっているのは後始末ではなく、その場しのぎみたいなモノである。部屋が散らかっているから、横に押しのけて空間を作り、片付いたと言っているようなもの。そんなモノは後始末とは言わない。

 全く更生の余地がないとすら感じられる態度。潜水艇に引き摺られても、子供達を睨みつけるだけ。そうすれば怖がるとでも思っているのかもしれないが、海防艦達はそんなことで怯むほど柔ではない。

 

「うるせぇ。あたいがやることじゃねぇだろうが。テメェらが好きで掃除してるだけなら、他人様使わずに自分達だけでやれや」

「……さっきも言ったけどな、なんで散らかした奴が自分で片付けねぇんだ。まさかテメェ、後始末屋が片付けるのが当たり前だと思ってんのか」

「自分達の仕事を人に押し付けてんじゃねぇよ。テメェらは自分でそういうことやる仕事を選んだんだろ」

 

 スキャンプの苛立ちはますます大きくなる一方だが、作業が止まるだけなので、あくまでも冷静に努めようとしている。元問題児としては非常に大きな心境の変化なのだが、そういうところを見せると潜水鮫水鬼が図に乗るという悪循環。

 

「No.4、そいつ作業サボってんぞ」

『はーい』

 

 スキャンプに言われ、第四号海防艦が鎖を引っ張り首を絞めた。

 

「ごっ……!? クソガキ、テメェ!」

『お仕事をしないから引っ張っただけでっす。鮫はここにお仕事するために来てまっす。なので、ちゃんとお仕事してくださーい』

「テメェらに指図される筋合いはねぇんだよ! 下手に出てりゃいい気になりやがって」

「それはこっちのセリフだっつーの。何度も言ってんだろうが。テメェは殺されてないだけマシなんだぞ。巻き込まれたって体裁があるから、更生させようって上が考えてんだ。まぁ、テメェは反省なんてしねぇだろうから、結局は首を飛ばされてThe endだろうけどな」

 

 潜水鮫水鬼が第四号海防艦の駆る潜水艇を破壊しようと突撃しようとするが、なんとヒラリと躱してしまった。しかもそのついでに鎖をもう一周回すことで、絞めつけを強くするような芸当まで。

 

『なんでお仕事をさせられてるか、わかりますかー?』

 

 そんな潜水鮫水鬼に、第四号海防艦が突然問いかける。妹達よりも子供っぽく、誰よりも幼く見える彼女から言われたところで、潜水鮫水鬼は鼻で笑う程度。

 

『それはぁ、悪いことをしたからでっす。ここにいたおばさんがやっていたことは、せんそーが終わらないようになる、すごくすごく悪いことでっす。鮫も、それをやっていたんだから、悪い人でっすー』

 

 いつも通りの幼い話し方で、淡々と潜水鮫水鬼に対して、お前がやっていたことは悪いことなんだと語る第四号海防艦。潜水艇の中にいるため表情は見えないが、得意げに話しているなんてことはなさそうである。

 

「あぁ? あたいの何処が悪いってんだ。むしろテメェらの方が悪だろうがよ。特異点の仲間風情が。戦争が終わらないだ? むしろ、ここでやってたことは戦争を終わらせるための研究だっつーの。それに抗ってたテメェらの方が悪だろうが」

『どうやって、終わらせるつもりだったのー?』

 

 潜水鮫水鬼は戦争を終わらせる研究をしていたと自信を持っていったが、それがどんなモノだったのかと聞かれると、途端に口が重くなる。

 

『ねえねえ、それって、どんなことなのー?』

 

 鎖を揺すりながら、答えを待つ第四号海防艦。潜水鮫水鬼は、その問いの答えを持ち合わせていない。阿手からそう聞いていただけであり、具体的なことは何一つとして知らないのだから、

 

「答えられるわけないよ。アタシもそう言い聞かされてきただけで、具体的なことは知らないから」

 

 横から少しだけ口を挟んだのは、後始末作業をちゃんと続けていたレーナ。自分の手で拾えそうな残骸を拾っては集めて、最終的に海上に持っていってもらいやすいように纏めている最中。

 潜水鮫水鬼とバディを組んでいたのもあって、少しは彼女のことを理解していた。『舵』無しでコレなのだから、相当根深く思考に刻まれている。

 

「アタシはそれで疑問に思った。だから『舵』を使われたんだと思う」

「なるほどね。都合が悪いから、塗り潰したんだ」

 

 伊26もその証言には苦笑しか出なかった。相変わらずだなと。

 

『それじゃあ、なんで深雪のあねごが悪いの?』

 

 第四号海防艦が質問を少し変える。それには意気揚々と持論を展開する。

 

「んなモン決まってんだろうが。世界の平和を脅かすクソ野郎だからだ」

『どうやってー? よーつは、深雪のあねごは、お掃除もいっぱいやってて、ここが危なくないーって教えてもくれてて、ここにいたおばさんより、ずっと、ずーっと平和なことしてると思いまっすー』

 

 ここでまた潜水鮫水鬼は口が止まる。どうやってという問いに対して、何も返せない。妄信的に深雪が悪いとしか思っていなかったから。

 

『なんで深雪のあねごが悪いの? 教えて教えてー』

 

 無邪気な問いが一番心を抉る。子供にそう言われていることもそうだが、子供よりも何も理解していないと突きつけられ、ここにいる者達全てに自分の無知をひけらかしているという恥ずかしさに、潜水鮫水鬼はようやく気付いた。

 阿手の洗脳教育が()()()()()()であることは間違いない。余計なことを考えさせない、自分の思い通りにするだけの、いわば知能を奪い去る教育。潜水鮫水鬼も例外なくその餌食になっており、疑問すら持たずに特異点は悪と決めつけていた。

 

 だが、自分よりも幼い存在に、より細かな、()()問いをされたことで、その地盤が崩れようとしていた。劣ると思っていた者が、自分より賢いと、ムキになるか冷静に間違いを正すかのどちらかになるだろう。

 そして、潜水鮫水鬼の選択は──

 

「うるせぇぞクソガキが!」

 

 逆ギレである。この行為によって、周りを落胆させたことは言うまでもない。更生のチャンスでもあったのに、今回は自ら棒に振ったようなモノ。理解しかけて、しかしそれを手放した。

 

「うるせぇのはテメェだよ。とことんクズなんだな。元からそうなのか?」

 

 第四号海防艦を睨みつけ、拳を握りしめながら潜水艇に近付こうとした潜水鮫水鬼を、真後ろからぶん殴ったスキャンプ。

 

「テメェ!」

「まだNo.4の方が賢いって証明されて逆ギレとか、テメェ本当にダサいぜ。子供にムキになって、しかも暴力に訴えて自分の思い通りにしようとしたよな。そうだよな」

 

 髪を掴んで潜水艇から引き離し、そのまま首を掴んで逆に睨みつける。

 

「いいか、何度でも言うことだ。その腐った頭でよく聞いて、それ以外のことを考えるな。黙って、ちゃんと、掃除しろ。Okay?」

 

 首を握る手が一層強くなる。だが、殺さないギリギリのところで止まっている。ひたすら苦痛を与えるための絞め方。

 

「ぐ、が……て、めぇ……」

「そろそろウザいんだよテメェは。ようやく気付けるかと思ったら放り投げやがって。せっかくのチャンスを無駄にしやがって。まぁ、まだまだ時間はあるし、自分がどれだけバカだったかを思い返すことくらい出来るだろ。今は、この程度で勘弁しておいてやる」

 

 首を離すと、苦しさで少し涙目になっているが、反抗的な態度は変わらない。

 

「猫の手も借りたかったけど、テメェは猫にもなれねぇ。ゴミ以下の糞虫だ。人が掃除しているところを目の前で散らかして楽しいか。楽しいだろうな、そのゴミが詰まった頭だから、邪魔をすることが楽しくて仕方ないんだろ。だから、あたいはテメェを痛めつけることで楽しもうと思う。反論は無いよな。つい最近までテメェがやってたことだ」

 

 残骸まみれのまだ掃除が行き届いていないところに蹴り飛ばす。グシャリと嫌な音がしたが、鎖が千切れるようなこともなく、ちゃんと第四号海防艦の管理の中に収まっている。

 

「そこが片付くまで、テメェは浮上出来ると思うな。それか、また埋めてほしいか。海の上と違って、誰の目にも留まらないところで一生過ごすか。そんな度胸ねぇだろ。だから、さっさと仕事をしろ。譲歩されていることを理解しろ。くっちゃべる余裕があるなら手を動かせ。次から一言でも喋ったらぶん殴る。どうせ自己修復があるんだ。腕を捥いでもいいな。いや、作業が出来なくなるから脚にしておくか」

 

 そんなスキャンプの言葉にレーナのトラウマが呼び起こされるため、伊26がスキャンプに注意した。スキャンプは悪い悪いと手を振る程度。だが、潜水鮫水鬼にはそれくらいしないと何も変わらないだろうと、睨みつけることは止めない。

 

「もしかしてテメェ、あたいが口だけとか思ってるんじゃないか? これだけ強く言っても、一度もやられてないもんな。やってこないなら何しててもいいとか、甘く見てるだろ。まぁ、ぶっちゃけあたいはテメェなんぞにそんなことをしたかねぇよ。優しいからじゃねぇぞ。テメェみたいな糞虫で手を汚したくねぇんだ。でもな……()()()()()()()()()()()()()()

 

 スキャンプの視線が明らかに別の方を向いた。その視線の方を、潜水鮫水鬼も目で追う。

 

 

 

 

「もしかして、作業を遅くしようとしてる?」

 

 そこには、悪魔(伊203)がいた。

 




潜水鮫水鬼はこれまで以上に強情で性格が悪く、海の上と違って昼目提督の目が届いていない上に管理者がよつという子供であるため、未だに世の中をなめています。渋々やろうとしてけど、すぐになんでこんなことしないといけないんだとサボってるのは、典型的なクソガキって感じ。

だからこそ、奴が降臨した。
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