島全体の後始末、3日目。煙幕を撒き続けていた深雪と電はやはり疲れ果てていたが、一晩しっかり眠ることで回復。今日もまた後始末が出来るぞと意気込んでいる。
だが今回は一味違う後始末になりそうであった。何しろ、うみどりとは違う海域を掃除している後始末屋が、この島に集結することになっているのだ。
単純に作業員が増えることによって、効率も上がるしスピードも上がる。誰もが喜ぶ最高の増員。素人でもない、むしろプロの手が入ることは、願ったり叶ったりである。
「お、もしかしてアレか……?」
着替えている最中に、窓の外にそれが見えた。ぱっと見ではうみどりにかなり近く、同型艦と言われれば納得出来る、かなり大きな艦。自分達と同じように、あの艦で毎日を生活しているのだろうと予想がつくというもの。
「奥の方にもいるのです。全後始末屋集結ということなのですね」
「だな。潜水艦、増えてくれるとありがたいんだけどな」
「なのです……とにかく作業が多いですもんね」
白雲とグレカーレにはわからない2人の悩み。こればっかりは手伝うことも出来ず、応援することしか出来ない。
「海の中ってそんなに大変?」
「上とは違うな全く。海の底の隙間に入っちまってるのとか、引っ張るだけじゃ片付かないから持ち上げないといけないのとか」
「うへ、そりゃあ大変だ。でっかいのとかあったらもっと大変そうだもんねぇ」
「海の上から釣り上げてもらうにも、そのための準備が必要だしな。今回の後始末で潜水艦組のありがたさが身に染みたぜ」
作業の大変さをしみじみと話す深雪。これまでの後始末とは大きく違うなと実感している。
「我々はお姉様の作業を手伝うことは出来ませぬが、陸の後始末となれば力を合わせることも出来ましょう。今は各々、出来ることを」
「だな。海の上は任せたぜ」
「かしこまりました。お任せを」
後始末も適材適所。出来るところで出来る者が力を尽くすことが大切である。
朝食を終わらせたところで全員が工廠へ。深雪と電は深海棲艦化を経て、水着に着替えることで準備完了。2日目にして手慣れたモノで、もう潜水艦隊の一員と言っても差し支えない程に馴染んでいる。
「昨日も話した通り、今日からは別の後始末屋が手伝いに来てくれたわ。人員はこれで倍以上になるから、作業効率も大きく上がると思う。でも、今回の後始末は普通の後始末屋とは全く違うモノだから、いくら同業者といえど、わからないことはあると思うの。その時は、アナタ達が教えてあげてちょうだいね」
伊豆提督が話すと、士気が高い仲間達はわーっと声を上げる。まるで決戦に向かうかのよう。尋常ではない現場はそれくらいの意識がないと足が前に進んでくれないというのもある。
既に2日作業をしているわけだが、陸の後始末に向かえるのはまだまだ先。やってもやっても無くならないような錯覚まで引き起こしている量。ただ広いだけでなく、そこに島があるというのが大きい。
「作業の前に挨拶に来るって話だったけれど……ああ、来た来た」
工廠での朝会の真っ最中、うみどりの工廠に向かってやってくる影が複数。そのうちの1つは、大発動艇である。流石に昼目提督のようにジェットスキーでここまで駆けてくることは無いようである。
大発動艇に乗っているのは1人の人間。そして、それを操る艦娘と、それとは別にもう1人の艦娘。提督と秘書艦というポジションだろうが、片方の提督は来ていないように見受けられる。
だが、その理由はすぐにわかることとなる。
「来てくれてありがとう、本当に助かるわ」
「いやいや、うみどりに貸しが作れるなんて、そう滅多なことじゃあないからさ。僕達にとっても喜ばしいことだよ」
「あらまあ、相変わらずねぇ
「僕のことをそう呼ぶのは伊豆さんだけだよホント」
大発動艇から降りてきた、伊豆提督が王子ちゃんと呼んだ人物は、昼目提督より少し若く見える男性の提督。話し方からして同世代の様子。
「皆さん初めまして。後始末屋の海上清掃艦、『みずなぎ』艦長、兼、後始末屋提督の
一見爽やかな好青年な梨田提督。しかし、後始末屋の提督を引き受けていられることもあり、その実、非常にやり手である。伊豆提督と比べても引けを取らない程。
「で、こっちは秘書艦の玉波」
「
その隣で小さく会釈するのは、駆逐艦の玉波。梨田提督の秘書艦であるが、どうも話し方からして、それ以上の関係を持っているかのような雰囲気。
それもそのはず、梨田提督と玉波は、
流石にここまでの関係を持つ艦娘を見たことが無かったので、うみどり一同は騒ついてしまう。そんなことがあるんだと感心する者もいれば、馴れ初めに興味がある者もいたりと、かなり興味深いようだ。
「私のことが興味深いのはわかるのですけど、私としてはうみどりのこの在り方の方が凄まじいと思いますよ。深海棲艦と共存しているのですから」
「ふふ、そうよねぇ。七色の艦隊だもの」
「そして、特異点……私はそちらにも興味があります」
玉波の視線が深雪へと向く。だが、今の姿を見て、少し眉を顰める。
「……深雪さんは駆逐艦だったはずでは?」
「今は海中に潜れるという特性を活かして、潜水艦と一緒に作業をしてもらっているのよ」
「……いろいろと規格外ということですね。改めて驚きました」
クスリと微笑み、前に歩み出る。
「特異点、深雪さん。貴女の活躍は予々耳にしています。共に後始末が出来ることを、喜ばしい限りです」
「ああ、あたしも他の後始末屋なんて初めて見るからさ、同業者ってのが嬉しいよ」
「こんなことはこれから先に二度あるかもわかりません。今回の後始末、有意義な経験としましょう」
握手をして親交を深める。駆逐艦ではあるが、何処か大人びた雰囲気を持っているのは、既婚者だからというのが大きいか。
「『みずなぎ』の2人は以上ね。で、もう片方の後始末屋──」
「猫の手を借りたいと言ったそうだから、この後始末屋『うみねこ』が馳せ参じたにゃあ」
口調からして癖がありすぎな艦娘が一歩前に出る。そして、次の言葉で一同騒然。
「海上清掃艦『うみねこ』艦長、兼、
艦娘が提督をやっているという、これまでに類を見ない鎮守府。それが『うみねこ』である。
この多摩、提督としての才を持ちながらも、艦娘としての才も持ち合わせていたことから、艦娘への転向をしつつも、提督として指揮を執ることもしていた。ただし、名目としては提督
在り方としてはこだかに近い。タシュケントが艦長を務め、艦娘のみで構成された後始末屋となっているのだから、まぁ似たようなモノ。こだかは事情が事情であるため仕方ないところはあるが、うみねこはそれが正式採用された稀有な例である。
「うちの艦隊は、少し潜水艦が多めにゃ。これだけ大きい現場だと、海の中もえらいことになってるにゃ?」
「そうね、えらいことになってるわ。深雪ちゃんと電ちゃんを潜水艦として運用しなくちゃいけないくらいに」
「なら、こっちの潜水艦を好きに使ってほしいにゃ。手慣れてる艦娘は多い方がいいにゃ」
伊豆提督とも対等に接している辺り、艦娘でありながら提督であるというのも頷ける。これまでの経験もかなりあるようで、提督自ら海に出て後始末をするという特異性も、うみねこの特徴として重宝されているようだ。
「あの猫の手と一緒に作業出来るだなんて光栄だね」
「うちもあの
「よっぽどアタシ達の艦隊に何かあるのかしら」
「うちの海域でも有名なんだよね、うみどりは。特異点を有するというだけでなく、手際の良さや、艦隊としての練度がね」
「にゃあ。多摩達の目標でもあるにゃ。そんな相手に助けを求められたら、そりゃあ腰を上げないと後始末屋の誇りが傷つくにゃ」
そして多摩の目は深雪の方へ。やはり特異点は気になるところ。
「特異点の深雪、今は深海棲艦の格好にゃ?」
「ああ、海ン中潜らねぇといけねぇから」
「多摩も手伝いたいのは山々だけど、海の中は流石に無理にゃ。うちの潜水艦を貸すから、頑張ってにゃあ」
口調と態度は提督らしさが見えないモノの、威厳のようなモノを感じる。深雪はそんな多摩とも握手をした。
「それじゃあみんな、今日からはみずなぎとうみねこも後始末に参加してくれるから、力を合わせて作業を続けていきましょ。援軍はまだまだ来てくれるみたいだから、気合を入れていきましょうね」
伊豆提督のこの言葉は、鬨の声のようになり、仲間達はわーっと腕を上げた。
梨田提督と玉波、そして多摩は、このうみどりの雰囲気に笑みを浮かべ、これは負けていられないなと心の中で気合を入れる。同じ後始末屋なのだから、うみどり以上に成果を出してやるぞと言わんばかりだ。
別に上下関係があるわけではない。競い合っているわけでもない。だが、この異常な規模の後始末現場には、それくらいの気持ちがないと進むことも難しかった。
新たな仲間も加え、後始末は一気に進むことになる。それでも膨大な作業量がすぐに無くなることはないのだが、気持ちは常に前向きになる。
後始末屋みずなぎ艦長、梨田扇提督。苗字はナウシダメー、名前はアウゲイアースから。ナウシダメーはアウゲイアースの母の名前です。アウゲイアースはヘラクレスの十二の試練の六つ目、家畜小屋掃除の話で有名。あっちは散らかした方ですが、こっちは片付ける方。