うみねこ潜水艦隊も加えた海中の作業が開始される。深雪と電は、昨日と同様にひたすら煙幕を撒いていくのが仕事となる。
「はー、これがあれば安全なんでちねぇ」
「ああ、あたし達の煙幕で、ここに仕掛けられてる罠を全部消し飛ばしてる」
「残骸自体が危なかったら意味が無いんですけど、少なくとも忌雷や『舵』は無くなるのです」
「それがよくわからないんでちが、ちょっと教えてもらっていいでち?」
深雪と電についてきているのは、うみねこ潜水艦隊のリーダー伊58と、その補佐である呂500。他の潜水艦達は、伊26や伊203からここでの後始末のやり方を聞きながら、すでに作業に入っている。
特異点のやり方に興味を覚えつつも、その場所で何かあったらすかさずサポートすることが出来るポジションにこの2人がついたのは、潜水艦隊のリーダーとして、この現場で最も厄介な仕事を知っておいた方が今後のためになるというところ。
ちなみに呂500がいるのは、伊58がいるからである。
「昨日、残骸に紛れて横っ腹に空洞があってよ。そのせいで煙幕が薄れちまったんだよ」
「あー……そういうところって、穢れが溜まってたんじゃないでちか?」
「そうそう、フーミィもそれ言っててさ、そこで総出で残骸片付けて、フーミィはその中の穢れをさっさと濾過してくれたんだよ」
「やっぱり持ってきて正解でち。ろー、濾過装置あるよね」
「勿論ですって! 海の中、汚いところ多いから!」
その呂500は、海中用の濾過装置を常備している。深雪達の煙幕が薄いと感じたら、すぐさま空洞を見つけ出して片付け、そして濾過をするため。そうでなくても、穢れが妙に溜まるというところは割とあり、それをどうにかするために迅速に動いているようだ。
「ここまで汚いのは、ゴーヤ達の海域でも殆ど見たことがないでち」
「陸の深海棲艦が長く居座っちゃった時くらいですって」
「海中にまで艦載機が積もっちゃってる時があってね……その時に、まぁ穢れがえらいことになってたんでち。それ以来、ろーは常に濾過装置を持つようになったんでち」
「その方が、すぐに片付くもんねー。考えたのはでっちですって」
うみねこはうみねこで、うみどりとは違う後始末屋としての戦いを繰り広げている。まだ体験していないだけの現場もあるとは思われるが、深雪も電も同業者の活動というのは興味があった。
「あたし達、まだ後始末屋に入ってからそこまで経ってないんだ。他ンところでどんなところがあったのか、教えてくれよ」
「電も聞きたいのです。作業しながらでも話せることがあったらおしえてほしいのです」
「ゴーヤ達としては、そっちのこれまでが知りたいところでち。何があったらここまで酷いことになるでちか」
「だよね、だよねー。多分、みずなぎの方もこんな現場見るの初めてですって」
出会ったばかりではお互いわからないところばかり。まずは話をしながら同業者がどういうモノかを知っていくことが大切。こういう交流をすることで、連携をよりやりやすくしていこうと考える。
それを嫌がることもないため、作業しながら世間話をすることとなった。伊58も呂500も、そういう話をするのは楽しいようで、手が止まらないくらいにはノリノリで話してくれる。
「そういや、お前達はうみねこの潜水艦隊なんだよな。みずなぎの潜水艦ってどうしてんだ?」
その名前が出たので、ふとした疑問を投げかける深雪。みずなぎの面々を海の中では見ていないなと思ったからだ。
伊58が率いてきたのは、あくまでもうみねこの潜水艦隊。それでも10人ほどはいるため、充分すぎる戦力アップなのだが、1つの後始末屋からしか来ていないというのが気になるところだった。
「ああ、多分みずなぎは、ちょっと準備してるでち」
「準備?」
「重たいモノを持ち上げるのが最初から想定出来てたでしょ? だから、今ここで海の質とか見て、最善の状態で投入しようとしてるんでち」
何を、と聞こうと思った瞬間、海中だというのに何やら大きな音が聞こえてくる。
「な、なんだなんだ?」
「噂には聞いてたけど、見るのは初めてでち」
「すごーい! うちにも欲しいですって!」
伊58と呂500もおおと声を上げる。それは、おおわしから出てくるモノとは違う潜水艇。しかし、サイズはあちらと違って大きめ。調査のために使うのではない、残骸を拾い集めるための強度高めなアームを兼ね備えた、
『みずなぎ海中作業班、択捉です。これより、海中の後始末作業に参加させていただきます』
その潜水艇から聞こえてきたのは海防艦、択捉の声。海防艦は艦種として海上で出来ることが限られているため、あえて海中に配属されているようだ。考え方はおおわしと同じ。
「す、すげぇの出てきたな……」
「でも、とても助かるのです」
「だな。よろしく頼むぜ、択捉!」
『お任せください。あと、この中にはあと3人乗組員がいます。全員私の妹達です。よろしくお願いします』
択捉の声の後ろにわいわいと聞こえる。大きな潜水艇なだけあって、1人乗りではなく4人乗りのようである。各種システムを1人ずつが管理して、作業効率をそこでも上げているようだ。
『みずなぎの潜水艦は、もう片方の艦隊と合流しました。2人ですが、こちらとしては精鋭です。力になれるかと思います』
「これもあって、潜水艦もいるのか。みずなぎすげぇな」
「もしかして、海中だけだとうみどりが一番少ないのです?」
「だよな……ただ、その中に規格外がいるからどうにかなっちまってる」
規格外は勿論伊203のことである。深雪が合流する前から、うみどりの潜水艦は2人だけであり、みずなぎのような潜水艇もない。しかし、伊203が
そういう意味では、うみどりは最初から規格外の集まりなのだと感じた。そして、その中に特異点が含まれているのは言うまでもない。
『特異点のねーちゃん、よろしくなー!』
『よ、よろしくおねがい、しますっ』
『よろしく……ふふふ』
択捉の後ろから声が聞こえた。順に、佐渡、松輪、対馬。択捉の妹達であり、みずなぎではこの潜水艇を操るためのスタッフ。
海防艦であるため、戦場では対潜掃討に従事しているが、後始末となればこちらがメイン。稀に海上での作業もあるようだが、どちらかといえばこちらの方が多いようだ。
「海の中は担当してる海域によって全然違うでち。確かに、みずなぎの担当海域は、ここやうちよりも深いところが多いんでち」
「だから、ああいうモノを使うってことなのですね」
「そう、潜水艦の手でやるにも、そこまで深いとしんどいってことでち。うちにはまたわからない苦労でちねぇ」
今回はそんなこともなく浅いところも多いが、量の問題である。海防艦が4人乗っているということは、この潜水艇は4人分の働きを見せてくれるということに他ならない。
「それじゃあ、バンバン進めさせてもらうぜ。よろしく頼む!」
深雪と電が率いることになったであろう、煙幕ばら撒きからの後始末は、ここから一気に効率が良くなっていく。空洞があってもすぐさま片付けが可能となり、穢れの浄化まで完備しているおかげで、思っている以上に迅速に動けることとなった。
伊203達が別働隊の人海戦術で戦う中、こちらはそれと同等の作業量を一気にこなすことが出来る。深雪と電は煙幕に専念出来るようになり、消耗をある程度抑えることにも繋がった。
その作業をしている中、やはり気になるところが出てくる。それが、残骸で埋められてしまっている空洞。一つや二つではなく見つかり、しかし形状はそれぞれ違う。故意に作られたモノとは思えないのだが、残骸が多いところほど多いようにも見える。
「また出てきたぞ、横穴」
「穢れはかなり溜まってるでちね。ろー」
「すぐに綺麗綺麗にしますって」
『残骸をすぐに退かしますね』
何度目かになると、連携もスムーズ。みずなぎの潜水艇が残骸をいち早く退かし、内部を呂500が浄化。そして煙幕をしっかりばら撒くことによって、罠がそこにあったとしても消滅し、誰も傷つくことがなくなる。
「深海棲艦が生まれる瞬間ってのは見たことねぇけど、こういうところで生まれると地面を抉ったりしちまうモノなのかな」
「まぁ、無くは無さそうでち。穢れが染み込んじゃってるせいで、深海棲艦がめり込んで生まれるみたいな」
「で、それが続けば続くほど、穴は深くなっちまうわけか」
「憶測だけどね。うちでも流石に、深海棲艦が生まれる瞬間に立ち会うなんてことはないでち」
後始末屋はあくまでも後始末。戦場で戦いが終わった後に訪れる者達。生きている深海棲艦と交戦することはあれど、今まさに生まれる瞬間を見るなんてことはない。後始末をしている最中に、そこで生まれたというのは見ていない。休憩中に生まれていましたとか、別の海域からこっちに来ましたとかは、あっても。
『でも、出来れば作業中に生まれるのは勘弁してほしいですね』
『だよなー。くっそ邪魔だし、ゴミ増えるしで、いいとこ何にも無ぇや』
択捉と、その後ろの佐渡の声。海防艦もそう考えるくらいには、掃除中の邪魔は厄介だということ。
「流石に深海棲艦も空気読んでくれてんのかな」
「そうであってほしいのです。でも……ここはいいですけど、陸はどうなってるんでしょう」
電の疑問は当然である。海中でコレなのは仕方ないとして、本来なら穢れが溜まらないような陸、しかも海に面していないような場所でも、残骸はあるし、そもそも出来損ないの亡骸が残されているようなところまである。
今こうしている間に、陸で深海棲艦が生まれる可能性も無くはない。そうなったら、どんなモノが生まれてしまうのか。
「陸の後始末のためにも、海をある程度綺麗にしておかないとな。ここがコレだと、調査しに行くのもキツイだろ」
「なのです。どんどんやっていきましょう」
どうであれ、今与えられた仕事は海中の浄化。陸は他の班がやってくれるだろうから、出来る限りのことをここでやっていく。それが、後始末屋としてのやり方だ。
作業効率が格段に上がったことで、見る見るうちに綺麗になっていく。しかし、電が危惧した陸の穢れは、そのうち何かを引き起こしそうであった。
900話です。ついに大台、1000話が見えてきてしまいました。今後ともよろしくお願いします。