後始末屋の特異点   作:緋寺

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気になる陸

 海中での作業が進んでいる間、海上での作業も進んでいく。

 

「そろそろ陸にも手を伸ばしたいけれど、何とも言えないかしらねぇ……」

 

 海上に散らばった残骸などを処理しつつ、出来るところから海水の浄化を進めているうみどりの仲間達。その中でも、神風は港側から陸の方に目を向けていた。

 

 この近海は正面突破部隊の戦いでそれなりに汚れており、そちらの片付けは3日でそろそろ終わりつつある。流石にただ戦闘をしただけというのなら、いつものテンポで進めるだけで、割とすぐに綺麗になるモノ。とはいえ、出来損ないを投入されたことがその穢れに拍車をかけているため、慎重に、そして確実に綺麗にしていく。

 そしてそれは()()()()という特定の部分だけでしか言えないところ。島は近海で言うならばあまりにも広く、戦場になっていないところにも穢れは溜まってしまっている。残骸が浮かんでいるようなことはないのだが、だとしても濾過装置で水質汚染を少しずつでも浄化していかなくてはならない。

 

 今回の後始末は、専らそこばかりが目立つ。勿論残骸集めは必要だし、肉片集めもかなりの量。後者は特に、出来損ないのそれがあるため、慣れた者ですら苦行を伴う。

 

「陸も結構汚いじゃない。出来損ないは始末してるし」

「奥の街の方に小鬼群とかもいたよね。アレってまだあのままっぽい?」

「あのままよ。何体かはカテゴリーYでも無さそうだから、貴女達が始末したわよね」

「うん。首コキャとかしたね」

 

 神風と共に仕事をしていた夕立が笑いながら答えるが、共に作業している時雨はその時の光景を思い出して苦笑していた。

 

「子日が家の中でミンチにしたりしなかったかい?」

「してたわね……じゃあ家そのものが穢れまみれになってるか。その状態で3日放置しちゃってるわよ」

「夕立が始末した奴もそのまま置いてきたっぽい。気絶させた奴らは?」

「それは回収してるはず。おおわしが」

 

 純粋種ではない小鬼群は、その時は気絶させているが、その後にしっかりと回収済み。そのまま逃がすわけもなく、おおわしという名の更生施設で、今頃働かされているだろう。

 更生しないならば痛い目を見せられるだけ。利用されていたとはいえ、それほどのことをやっていたということを自覚するまではおおわしで更生の毎日を送ることになるだろう。人数が多いために、下手をしたら別のところに分配される可能性はあるが。

 

「街中で深海棲艦が生まれる可能性は?」

「無くは無いかもしれないわ。それこそ、陸上施設型が」

「厄介極まりないね……それは言葉が通じるかもわからないだろう?」

「それが当たり前よね。これまでに例外がありすぎただけよ」

 

 もしこの島で深海棲艦が生まれたなら、言葉は通じないモノとして考える。ムーサのような特異点の願いから生まれた深海棲艦なんて、ここで生まれるとは到底思えない。

 

「でも、これだけ人数が増えてきたんだから、陸も手をつけていきたいところね」

「調査隊は一応行ってるんだっけ?」

「調査の一環としてね。水爆の件があるから」

「ああ……話は聞いたけど、解体作業がいるんだったかい。死んでも迷惑をかけ続けるね奴は」

「ぽい。そーゆーのは、夕立達じゃあどうにもならないっぽい」

 

 ここに集結した仲間達の中でも、調査隊だけは先んじて陸に乗り込んで水爆解体のための調査を続けているらしい。地下施設を隈なく調べ、本当に何も無いかどうかを確実にする。

 ここまでに何も話が出ていないところから、調査は順調であり、本当に何事もないということが保証されているようだが、それでもまだまだ足りない部分もある。後から大本営からの増援、爆弾解体班も来るのだから、時間をかけてでも、ここは調べ尽くしておきたい。

 

「でも、余裕が出てきたならやっぱり早いところ陸は始めた方がいいと思うのよね。ほら、あんなに動いてくれてるし」

 

 神風が目を向けた方では、みずなぎとうみねこの面々が次々と後始末を始めていた。みずなぎは玉波が、うみねこは多摩が先頭に立ち、うみどりの熟練者に話を聞きながら作業を進めている。

 同業者なだけあり、手際は非常によく、海水の濾過も同じような装置を使ってどんどん進めていく。人数が倍以上になったおかげで、作業効率はかなり上がっていた。穢れは見る見るうちに浄化されていき、綺麗な海が少しずつでも取り戻されていた。

 

 ただ、やはりすぐに出来るのは海の部分のみ。陸の作業は危険性が全て見えているわけではないため、阿手との戦いに参加していない者達には、その脅威を口で説明するしかなく、身を以て知っているうみどりとは違った。

 

「僕としてはもう陸に行きたいね。流石に穢れを放置しすぎだろうに」

「そうね。ちょっとハルカちゃんに直訴するわ。何人かは陸に行くべきだって」

 

 ということで、神風と共に一度うみどりへと戻ることにした。時雨はそれがいいと笑顔を見せるが、夕立はそんな時雨を見て小さく溜息を吐く。

 

「時雨は海の作業に飽きてきただけっぽい」

「否定しないよ。景色が変わらないのは飽き飽きだ」

「それは夕立も否定しないっぽい」

 

 海賊船の後始末よりも進みがわからないというのは、やはりどうしても飽きが出てきてしまうようである。仕事にそんなことを言うのはアレなのだが、モチベーションのためにも、違うことをやるのは間違っていないかもしれない。

 

 

 

 

 神風の直訴を聞いた伊豆提督は、確かにそうねと許可を出す。陸の穢れというのは馴染みが無いどころか何が起きるかわからない類のモノ。調査隊の対象とも外れたモノにもなるため、ここは後始末屋が向かうのが一番手っ取り早く、やりやすいと思われる。

 とはいえ、まずは少数精鋭を送り込み、状況を確認しつつ人数を増やしていくのがいいだろうと考えた。いきなり全員で陸というのもまた違う。とんでもない災害になってしまった時に乗り越えられる者による偵察を兼ねた後始末がいいだろうと。

 

「結果、言い出しっぺが行くことになったわね」

「だろうさ。僕達なら何かあってもとりあえず逃げることは出来るだろうし」

「逃げるようなことが起きなければいいけれどね」

 

 その結果、神風、時雨、夕立の3人がそれに該当した。時雨は『タービン』により最速の動きを、夕立は『ダメコン』により自分だけとはいえ確実な安全を、そして神風は言わずもがなである。

 後始末ではあるが、簡易だが戦闘用の兵装も身につけ、何が起きてもいいように万全な態勢で。神風は刀一本、時雨と夕立は主砲1つだけ。

 

「あくまでも後始末がメインだから、片付けられるモノは片付けるわよ。特に出来損ないの残骸ね」

「だろうね。ドラム缶は持たされたよ」

「ぽい。後から大発も来る?」

「頼んでおいたわ。睦月と梅が来てくれるって」

 

 後始末が進んだとしても、その残骸は島の外に運ばなくてはならない。そうなると、やはり大発に載せて往復してもらうということになるだろう。

 巨大な残骸などを片付けなくてはならないことになったら、睦月か梅の力は必要不可欠。大発動艇要員として来てもらいつつ、安全であることがわかれば、陸での作業もお願いすることになるだろう。

 

 港に向かうまでにすれ違う仲間達にある程度説明をしつつ、3人は港から上陸。外見上はそこまで酷いことになっているようには見えないのだが、穢れ感知の眼鏡を使うと、その場所がとんでもないことになっているのがすぐに理解出来る。

 

「……なんだいコレは」

「きったな」

「夕立、ぽい忘れてる」

 

 港は穢れまみれ。残骸がなくても、長年の積み重ねのせいで、穢れが染みついてしまっていた。眼鏡を通すか通さないかで、見た目が大きく変わるほど。

 

 海賊船で忌雷を製造しており、それがこの港に停泊していたりもしていたのだから、そこで発生した穢れも港に流れていたことだろう。そして、港近海の海底にある、潜水艦隊が四苦八苦する残骸の量、さらには空洞に出来た穢れ溜まりなども相まって、その穢れが全て一点集中してしまっている。

 

「もしかして、土にも染み込んじゃってるかしら?」

「整地されていても、そこに穢れがあるように見えるね」

「長年やらかすと、陸もこうなるのね……後始末屋始めてから長いけど、こんなの見たことないわよ」

 

 神風ですら溜息を吐くレベルというだけで、ここの惨状がどんなモノかは想像しやすいだろう。何も無いのに穢れまみれというのも恐ろしい話である。

 

「この奥には残骸もあるのよね。なら、そもそもそっちを片付けないと、この穢れはひたすら増えていくだけよ」

「ここまで汚いと、これ以上になっても気にならない気がするっぽい」

「確かにね。でも、深刻なのは確かだよ。面倒だけど、片付けないとだ」

 

 時雨も夕立も嫌そうな顔を見せるが、帰ろうとは言わない。そこは純粋種とはいえ後始末屋として過ごしてきた日々から生まれる誇りがある。愚痴は言えども後ろは向かず。

 

「戦場の片付けならここまで嫌な気持ちにはならないんだけどね、やりたい放題やった奴の落ち度を、なんで僕らが苦労して片付けなくちゃいけないんだって話さ」

「同意っぽい。でも、そんなことした奴は、生きててもどうせ何もしないっぽい。なら、さっさと死んで邪魔しない方が妥当っぽい」

「言えてるね。全く、これだから人間は……いや、これは人間だどうだ関係ないか。阿手たった1人の落ち度だ。死んで当然だけど、死んで逃げられた感がすごいよ」

 

 純粋種の2人は、阿手批判が止まらない。しかし、神風はそれを止めることはなかった。何も言わないだけで完全に同意していたから。そして、この2人はそれだけ言いながらも作業の手を止めないから。

 愚痴でストレスが多少軽減出来るなら、それを咎めることなんてしない。今はそんなことより早く事を終えることが最優先なのだから。

 

 

 

 

 ようやく始まる、陸の作業。まずは手始めだが、それだけでも頭を抱えるレベルであるのは間違いない。

 




まずは3人で始める陸の後始末。流石にココは熟練者でなければ向かえません。調査隊は先行してるけどね。
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