いち早く陸の後始末に乗り出した神風、時雨、夕立の3人。港に足を踏み入れ、穢れが感知出来る眼鏡で確認したところ、絶句するほどの穢れが染み付いていた。
阿手の長年の横暴により積もり積もった残骸が、陸に染み込む程の穢れを生み出していた。深雪達が海中で見つけた空洞も、この状況を作り出すのに一役買ってしまっている。
「ひとまず今は、拾える残骸から拾っていきましょ。穢れを浄化するのは無理よこんなの」
「神風がそんな投げやりな言い方をするのは珍しいね」
「濾過装置でどうにか出来る話じゃないもの。薬剤の雨を降らせて、こっちから染み込ませるしかないと思うわ。だから、私達じゃ無理。空母隊に散布をお願いするとしても、どれだけの量がいるのやら……」
海の上なら散布した薬剤が海水に溶け込むおかげで浄化も出来るかもしれないが、陸はそうはいかない。そこが土しかないところであっても、地中深くまで染み込むのには時間がかかるし、そもそもそこまで届くかもわからない。加えて、舗装されてしまっているところですら穢れが染み付いてしまっているのだから、今ココにいる3人には、お手上げ以外無い。
何かやれるのなら、普段の後始末なら片付いた後に空母隊が実施する薬剤散布。しかし、この陸上全てに散布するのは、至難の業以上に薬剤のストックが絶対に足りない。それこそ、薬剤で出来た雨でも降ってもらわない限り。
「とりあえず、夕立達は拾えるゴミを拾っていけばいいっぽい?」
「ええ、まずはそれだけで行きましょ。港の周りには少ないみたいだし、少し奥に行ってみるわよ」
ぱっと見では、港には残骸らしきモノはない。外観は綺麗であるというのが大きく、今回の戦いの前から残されているゴミなどは置かれていない。見ただけでは後始末は不要と思えるほどである。
穢れの事を今は一旦無視するとして、片付けるべき残骸が残っている街の奥の方へと向かうことにした。奥に行けば行くほど、自分達が戦闘によって作り出した残骸なども見えてくることになるだろう。
港から少し奥まったところ。港はまだ見えているが、少し高台の辺り。神風達は、話に聞いていた組合の市役所の
正面突破部隊は港での戦いはしていない。攻めてくる敵カテゴリーYなどを、海上で迎撃し続けただけなので、そこから陸での戦いをするにしても、殆ど攻撃を受けていなかった。そのため、ここまで来るのに残骸などは見つかっていない。
「……ここが戦場になった場所って聞いてるけど」
「見てわかるくらいヤバいっぽい」
戦場になったことがわかりやすいくらいに荒れた場所。そこに建っていた役所はQE級の2人による一斉射で全壊しており、瓦礫に関しては少し退かされているため綺麗な部分も見えるが、調査のために端に寄せられているため、空き地のようになってはいるが残骸はむしろしっかり積まれているような状態。
「老人の出来損ない……かしら」
「瓦礫の埃に塗れてるじゃないか。なら、戦闘の前に斃して、その後に瓦礫が飛んできたってところかい」
「そうね。仕方ないこととはいえ、少し惨いことになってるわ」
そして1つ困ったことがあり、その残骸のところに嫌なモノが見えた。明らかに出来損ないの亡骸。その時は気にしていられなかったというのがわかるくらいに、瓦礫に巻き込まれてしまっているため、そこだけは見るも無惨な状態になっている。そのせいで穢れもそこだけはかなり強い。
これは出来るならすぐに拾い集めておこうということで、持ってきている後始末用具を使い、軽くでも後始末を開始。全てを綺麗にすることは無理ではあるが、せめて見える範囲はどうにかしておく。
出来損ないの残骸ということで、肉片集めの一環となるのだが、海上とは明確に違う点がある。それが、出来損ないから溢れ出した体液がそこにしっかり残ってしまっていること。
海上の出来損ないは、良くも悪くも流されていく。体液は海水に溶かされ、そこにあるかどうかもわからなくなることもザラだ。しかし、陸にはそうやって溶かすモノがない。土に染み込むにしても、すぐにはその場から消え去ることはない。そのため、嫌でもそこに穢れの原因が残ってしまう。
「こういうのをどうにかするのって、もうこの土地吹っ飛ばすしかないっぽい?」
夕立の発言は物騒ではあるものの、それくらいしないと穢れが完全に取り除けないのではないかと思えるくらいだった。
しかし、穢れが染み込んだ土地を爆破なり何なりで吹き飛ばしたとしても、穢れを含んだ土が至るところに飛び散ることになるため、そこでまた穢れが拡がるという大惨事になりかねない。
逆に埋め立てるというのも当然ダメ。見た目だけは穢れが無くなるだけで、根本的な解決にはならない。
「そうしたいのは山々だけど、ちゃんと穢れが無くなったことを確認しないと、この島が穢れの温床になっておしまいよ」
「島が無くなったとしても、その跡地がひたすら穢れを出すだけの場所になる感じかい?」
「ええ、私はそう思う。海みたいに簡単に行かない分、本来ならここまでのことにもならないはずなのよ。でも、長い年月で穢れが蓄積されてるんだから」
ある程度残骸を集めたところで、その場所を見ても、やはりそこには出来損ないの亡骸があったとわかるくらいに体液が散らばってしまっている。人型の跡とまでは行かないが、血溜まりがハッキリとわかるくらいには。
「陸は穢れが溜まりにくいけど、溜まってしまったら取り除きにくいってことね。海は溜まりやすいけど取り除きやすい。溜まりにくいから陸上施設型に量産型が殆どいないのは、そういうことよね、多分」
「なるほど。それなら理解出来る」
こういうところをどうやって浄化しようという話になるわけだが、なら陸上施設型の深海棲艦の後始末はどうしているのかという疑問が時雨と夕立に浮かぶ。それについては神風が簡単に説明。
「陸上施設型は、無人島みたいなところで生まれて、その島を陣取るわけだけど、その穢れって言ってしまえば
「上っ面って、土の中まで染み込んでないっぽい?」
「そう。染み込んでいても、まだ斑らだったりしてね、それこそ軽く土を掘り返すくらいで穢れが取り除けるくらいよ。まぁ、それがかなり厄介な仕事ではあるんだけど」
表面だけとはいえ、土を掘るという作業が入ってくる。岩場だったら、その岩を除去したりする。それだけで済むと言えば済む。表面を剥がせば穢れは無くなるのだから、海水の濾過より少し難儀というくらいだ。
だが、この土地はそれだけでは済まないことになっているのは間違いない。表面だけでなく、その奥にまで穢れが浸透してしまっているのが一番の問題。
そしてもう一つの問題が、海に面していないような高台ですら穢れが蓄積されているということ。港や岸が穢れに塗れているというのなら、まだわからなくもない。少々強引だが、その場所を軽く爆破して、海水に漏れ出した穢れを改めて濾過装置などで浄化することで解決出来る。しかし、ここは港を一望出来るとはいえ、海からは離れている。そんな大雑把な処置は出来ない。
「兎にも角にも、長年の蓄積が全部台無しにしてるわ。島全体が穢れの温床。海のように液体でなく固体であるせいで、一筋縄では行かないわね。本気で対策考えないと」
神風の予想では、この島は見えているところから見えていないところまで、ほぼ全てに穢れが染み込んでしまっていると考えられる。
そして、その証拠は、穢れを感知出来る眼鏡によって証明される。
「……神風、言っている意味がわかったよ。確かにここは、穢れに塗れてる。見えていないところまで」
時雨が指を差す方にあったのは、戦いに巻き込まれたことで折れて倒れてしまった木。そこそこ太いものなのだが、その幹の部分。それが、
森の木一本一本が穢れの温床だというのなら、全て焼いてから考えるくらいしか出来ないようにすら思える。
「遠目でも汚いなって思ったけど、中身まで汚いのは論外っぽい。やっぱり全部吹っ飛ばすべきっぽい」
「本気でそうしたくなるわよこんなの。でも、この島は焼いてどうこうなる問題でもないわよねこれ……。二度と戻れない死の島よコレだと」
「そもそも、木を焼いたところで、地面の中にある穢れには何の影響も無いんだろう? だったら、余計に片付けが面倒になるんじゃないかい?」
「それはそうだし、山火事なんて本当に酷いことになるわよ。後始末とかそういうレベルじゃない」
ここにある何もかもが穢れまみれ。人工物も、自然も、その全てに長年の穢れが蓄積されている。実の成るような木では無いようなのが救いなのだが、こういう木からも花粉が飛んでいた場合、それこそそこら中に穢れをばら撒くことになるだろう。
つまり──
「この島が、深海戦争を長引かせている原因になってるじゃない。本当だったらもっと早く終わってたかもしれないのに」
島そのものが、海という海に穢れをばら撒き、そしてそこから深海棲艦が生まれているとするならば、元凶と言っても過言では無いだろう。
実際は、阿手がこの島を巨大な実験場にし始めたのは第三次深海戦争が始まってからなのだが、だとしてもこの蓄積によって本来終わるであろう戦いがより長引くことになっているのは疑いようが無い。きっかけは違えど、引き延ばしは人為的だったと言える。本人が意図していなくても。
「……僕がこうやって生まれたのも、阿手のせいかもしれないのかい?」
「あり得る話よね。貴女の中にある呪いの元凶は、全部阿手のせいって考えてもいいかも」
「はぁ……本当に巫山戯た話だよ。嫌だね、こんなカタチで出生の秘密が暴露されるのは。本来ならまともに生まれるはずだったのに、この島から飛んできた穢れのせいで、僕は歪まされたってことだろう?」
心底嫌そうな顔をする時雨に、神風は苦笑した。
ともかく、この島の後始末は難しいとすら言えない状態になってきている。不可能かどうかはまだわからないが、ただひたすらに作業をするだけでは、永遠に終わりが見えないように思えた。
夕立「多分時雨は穢れの花粉とかなくても歪んでたっぽい」