後始末屋の特異点   作:緋寺

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穢れまみれの集落

 島をさらに進んだ神風達は、飛行場姫達と戦った組合の役所跡地へと辿り着いたのだが、そこにある出来損ないの残骸などを片付けている最中に、この島が穢れまみれという言葉では言い表せない程の死の島であることに気付いた。戦闘に巻き込まれたことで折れて倒れた木の幹まで穢れを染み込んでしまっているのが見えたからである。

 

「あの学校とか見たくないんだけど」

「ぽい。教室全部が汚れてるって考えてもいいよね。忌雷の培養施設みたいなところあったし」

「だね。あの音楽室を改造した部屋、あそこは見なくても穢れの温床になってることが見当付くよ」

 

 地下施設への入り口があった学校。時雨には黒井母との戦闘が記憶に新しいあの場所だが、学校内を軽く調査した時に発見している音楽室を改造した培養施設の存在が、穢れをより増やしているのではないかと考えた。どのようにすれば忌雷を製造出来るのかは、今や闇の中ではあるのだが、少なくとも作れば作るほど穢れは増えそうではある。

 

 今この世界では、深海忌雷の根本が阿手のせいで崩れてしまっているのだが、本来の深海忌雷というモノは、その呼び名の通りの機雷である。意思を持つ爆弾のようなモノで、接近して爆発する自爆兵器。

 これもまた穢れによって生まれるのだが、それが爆発すれば肉片は飛び散り、それからまた穢れが拡がる。ある意味、他の深海棲艦よりはずっと穢れを拡張しやすい個体とも言えた。

 そんなモノを増産しているというのなら、ただそれだけでも穢れは大量と感じてもおかしくない。存在そのモノが穢れの塊みたいなモノを、さらにとんでもない手段を使って増やしているのだから。

 

「その前に、学校までの道もよ。気になってることあったし」

「何かあったかい?」

「閉まっていた店の商品。もう流石に日にちが経ってるから腐っちゃってそうだけど、惣菜とかそういうところ、いろいろと怪しいでしょ。アレからも穢れが出てきてるんじゃないかってね」

 

 神風はそこにも目をつけていた。そこに妖精さんが混ぜられているという真実には辿り着いていないモノの、島民に何かをするのならそれしかないと考え、そこからも穢れが確認出来るのではないかと予想していた。

 

「行ってみるかい? まだドラム缶はいっぱいいっぱいでは無いけれど」

「ええ、ここの残骸はおおよそ片付いたでしょ。穢れについては後から考えるとして、拾い集められるモノに関しては出来ることなら放置はやめた方がいいと思うし、このまま向かいましょ」

「ぽい。すごい臭そう」

 

 穢れが蔓延している上に、食品が腐っているとなれば、それ相応の臭いもありそうである。神風も時雨も、少しうんざりした表情を見せつつ、その歩みを進めた。

 

 

 

 

 向かう途中で見つけた残骸や肉片などは確実に拾い集め、3人はあの学校に続く道がある集落に足を踏み入れた。

 何度か戦闘をしながら、梅の『解体』によって道を切り拓いた痕跡も残り、何処で何をやったかがある程度わかるくらいになっている。

 

 調査隊は真っ直ぐ地下施設の方に向かったようで、この辺りの調査はまだ実施していないようである。優先順位は水爆の解体が一番であるため、そこに対して重点的に見るのは間違ってはいない。

 

「……例外は無いみたいね」

 

 その集落も、穢れまみれ。建ち並ぶ街並み全てにこびりつくように、そこら中に穢れが見える。

 木が吸い上げる程の穢れだ。そこから飛んできた花粉などが、街並みを上から穢していき、地中の穢れが下から穢していく。もう殆ど細菌兵器の類である。

 

「よくこんな街に住んでいられたね彼らは」

「慣れ……だけじゃ言い表せないわね。それこそ、ここで販売されていた惣菜とか、そういうモノに穢れの中でも生きられるようになる何かが入っていたのかもしれないわ」

 

 ここまで穢れまみれだと、その中で生活するだけでも健康に支障が出そうである。しかしそれが無かったのは、神風が言う通りである。惣菜などに妖精さんが混ぜられていたから、穢れに対して耐性がついていた。身体の中から悍ましいモノに変えられていたと言ってもいい。元々実験材料にするための行いだ。阿手としても都合が良かったことだろう。

 

「あ、それ夕立が始末したヤツっぽい」

「だね。ならこの前の道に入ったってことかい」

 

 歩く中で、無惨に息絶えているPT小鬼群の亡骸を発見。そこからはしっかりと穢れが溢れ出しており、この集落の穢れをより濃くすることに一役買っている。

 嫌な顔をしながらも、夕立は自分がやったことだからと、その亡骸を回収した。ドラム缶はそれで流石にいっぱいに。

 

「夕立はもう入れられないっぽい」

「なら私達が入れていくわ。全員分が埋まったら、一度戻りましょう。港に大発を持ってきてくれてると思うし」

「ぽーい」

 

 それでも夕立は小さいモノなら隙間から入れられるだろうと、周囲を見回しながら後始末を続行する。

 

 そして、穢れまみれの集落を見ていく中で、見た目から酷いところを見つける。さらに、3人が同時に顔を顰める。

 

「くっさ!」

「夕立、ぽい忘れてるって。でも、これは酷い臭いだ……」

 

 それは、予想通りこの集落の商店。鍵がかけられているため、中に入ることは出来ないが、そこから明らかな異臭が漂ってきている。中の商品が全て腐ってしまっていると考えてもいい。

 

「流石にこれはどうにかした方がいいわね。あまり褒められたことじゃないけど、入り口を斬るわ」

 

 ここは臨機応変にということで、神風は持ってきた刀を使ってその入り口を軽く斬り、扉を開放した。

 瞬間、穢れを感知出来る眼鏡いっぱいにその反応が広がったように見えた。

 

「うっわ……」

「これは酷い。何をどうすればこんなことになるんだい……」

 

 予想通り、中に置かれていた惣菜の類が全て傷んでしまっており、それが異臭を放っている。たった3日でここまでなるかと思われるが、材料が材料なだけに、穢れが凄まじく、それが食品を劣化させていた。

 

「これ、全部回収するしかないわね。でも、ドラム缶の隙間は……」

「そこまでないね。夕立はもういっぱいだし」

「隙間に入れるのもアレっぽい」

 

 パック詰めされているモノもあったりするが、それでも持って歩くのを躊躇うレベル。ここの島民は、腐っていないとはいえ、コレを食べていたのかと思うとゾッとする。

 

「一旦、回収出来るモノは回収しましょ。これ、嫌だけど何かの解析とかにも使えるかもしれないし」

「なら、綺麗に残っているモノから持っていこう。蛆が湧いてるわけでもないんだ。見た目だけならまだマシな方だからね」

 

 溜息を吐きたくなるような光景であるが、仕事を止めるわけにも行かない。出来ることはこの場でやっていこうと、意を決してそれをドラム缶に詰めていく。神風すら顔を顰めるモノとなれば、ここにあるものがよほど酷いものなのだとわかりやすい。

 やってることも、無人になった街から持って行けるモノは持っていくという火事場泥棒みたいな感じになってしまっているのも、嫌な顔をする理由の一つ。

 

「白雲にも来てもらえばよかったわね……凍らせれば少しは変わるでしょ」

「今更だけど、確かにそうだね。白雲もコレは嫌がりそうだけどさ」

「本当に。私、もしかしたら初めてかもしれないわよ。後始末がちょっと嫌だって思えたの」

 

 神風が愚痴を言うのは非常に珍しい。だが、それくらいの光景であることは、誰の目から見ても明らかである。

 

 だが、それだけでは終わらなかった。

 

「……すぐにここから出て」

 

 何かを感じ取った神風が、作業を止めて2人に店内から出ることを促す。神風の神妙な雰囲気に気付いた時雨と夕立は、何故と聞く前に店から急いで出る。神風も、刀に手を置いて店を後ずさるように出た。

 

「何か、()()()()ような音が聞こえた。いや、アレは()()音ね」

「……この店の中に隠れていたってことかい」

「もしくは、ここのあまりにも多すぎる穢れのせいで、この場で発生したか、じゃないかしら」

 

 店の外から中を注意深く眺める神風。すると、商品の並ぶ棚の裏側から、ぬるりと触手のようなモノが現れた。見覚えのあるソレは、明らかに深海忌雷である。

 しかし、これまで使われていた寄生するタイプのそれとは違う、かなり大きめな個体であることがすぐにわかる。さらには、口しかない本体が、何やら口をムシャムシャと動かしているのも見えた。

 

「……ここの商品を食べているのかい」

「みたいね。多分、阿手が造ったものじゃなくて、自然発生した個体よ。私達がここにいても、今は無視してるみたいだし」

 

 戦うつもりがないというわけではなさそうだが、目の前にある食べ物をただ貪り食うだけの存在ならば、危険度は低い。

 しかし、こうやって穢れを取り込んでいるのなら、この深海忌雷が何か別のモノに変化してしまう可能性も捨てきれない。

 

「敵か味方かもわからないなら、ここで始末するしか無いわよね」

「ここの全部食べさせた後じゃダメっぽい?」

 

 夕立は、ここにある腐った食べ物を食べて処理してくれるなら、そうさせてから始末した方がいいのではと提案する。片付けも楽になるし、サンプルになりそうな食材もいくつかは回収している。

 

「もし、万が一、穢れを取り込み続けたことでアレが進化したらまずいわよ。生態がどうなってるかわからないし、そもそもここの穢れで生まれてるというのもあるんだから」

「確かにそうだね。横着せずに、ここでちゃんと始末するのが後々のためになるね」

 

 夕立は少し残念そうにしているが、深海忌雷というだけでも、それは危険なシロモノである。放置なんて出来ない。

 

 だが、そんなことを話しているうちに、深海忌雷が神風達の存在に気付いた。目は無いが、口だけの顔が明らかに神風の方を向いている。

 

「気付かれた……なら、もう斬るしかないわね」

 

 刀を握って居合の構え。爆発される前に斬るしかない。狭い店内かもしれないが、一刀ならばそこまでの負担にはならない。

 

 

 

 

 しかし、ここから予想外の展開になる。

 

「……え?」

 

 その深海忌雷は、向かってくるでもなく、逃げるでもなく、店内にあったレジ袋か何かを触手で掴むと、バサバサと振る。

 

「白旗……?」

 

 そう、この深海忌雷は、今ここで白旗を振り始めたのだ。

 




突如現れた忌雷だけれど、何処か様子が違います。ただ自爆するタイプではなく、妙に頭がいい。
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