後始末屋の特異点   作:緋寺

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頃合い

 集落の商店から立ち去った神風達は、そのまま港へと戻っていく。持っているドラム缶はいっぱいになり、一度中身を空っぽにしなければ次の後始末が出来ないからだ。

 それに、本当ならドラム缶を大発動艇に積み込み、もう一度向かうというつもりではあったのだが、そんなことを言っていられない程のことが起きてしまっているため、商店から持ってきたサンプル共々、一度うみどりに持って帰りたかった。

 

「アレは流石に私達じゃどうにも出来ないわよ。捨て犬を拾ってくるとかじゃないんだから」

「それよりもタチが悪いモノじゃないか。僕だってアレをすぐにどうにかするなんて言えやしないさ」

 

 アレとは勿論、集落の商店にいた大きめの深海忌雷のことである。今も呑気に惣菜を貪り食っているであろうそれは、死にたくないという意思表示をする忌雷という、非常に判断に困る存在である。

 当人は保護してくれという意思もなく、ただそこでのんびりと生きているようだが、ずっとそこにいられてもおそらく困るし、何より、本来知性を持たずにに敵味方の判断くらいしかせずに自爆してくるような個体が、普通に言葉を理解して受け答えまで出来ているのだから、放置していたら何をしでかすかわからない。

 今のところは友好的であることはわかっているものの、まだ自爆は出来るという自己申告があるため、それをされたら困るどころの騒ぎではない。地上で爆発されたら、その場がどうなるかもわからないのだから。

 

「もし爆発しても、夕立ならだいじょーぶっぽい」

「『ダメコン』のおかげで万が一は大丈夫かもしれないけど、それでどうにかなるのは貴女くらいよ」

「だから、もし解体するとかそーゆーことがあったら、夕立がやるっぽい。あとはトラ」

「そうなるわよね……任せるのは申し訳ないけれど」

 

 忌雷が自爆しようが身体に傷が付かないのが『ダメコン』の強み。何かあっても大丈夫とほぼ言い切れる頼もしさ。それが夕立の他にもトラがいるため、今後のやり方次第では、それも選択肢に入る。

 

「とりあえず報告よ。これは本当に判断を仰ぐしかないわ」

「だね。関わりを持たないでいられるならそれでいいんだけれど」

「そうは行かないわよ。知っちゃったんだもの」

 

 これからどのような選択を取られるかは、もう判断が出来なかった。

 

 ドラム缶は港に来てくれていた睦月と梅の大発動艇に積み込んだのだが、集落の商店から回収してきた惣菜のサンプルの異臭に、2人とも顔を顰めた。

 

「な、何を入れてきたのね……」

「酷い臭いですねぇ……うわ、惣菜ですかぁ?」

「放置された3日で大分傷んでるみたいで。でも、ちょっとコレも調査が必要なモノなのよ」

 

 睦月も梅も奇襲部隊であったため、学校までの道中でチラリと見た商店にあったモノと伝えると、なるほどと納得した。しかし、少し疑問は持っている。

 

「3日でここまで臭くなるかにゃあ……常温で放置してたら傷んでくるのはわかるけど」

「ですねぇ。そこが茹だる程暑いとかだったらわかりますけどぉ」

 

 この傷み方は少しおかしくないかと話す睦月と梅。確かにただ置いていただけでここまでの異臭というのは考えにくい。一応はパック詰めされているということもあり、少しくらいの臭いは抑えられると思われるのだが、これは異常である。

 

「これ、多分忌雷と同じ成分入ってるのよ……」

「……は?」

「睦月、にゃしぃ忘れてる」

 

 受け答えはさておき、中に入っている忌雷と同じ成分がここまでの傷みに繋がっているのではないかと神風は考えた。普通ではない成分が含まれていることで食材に悪影響を与えてもおかしくはない。それが腐りやすい材料だったりするかもしれないのだから。

 ただでさえ製法がわからない忌雷の材料だ。常識の範疇から外れていてもおかしな話ではないだろう。

 

「え、えー……それ島の人達に食べさせてたの……?」

「酷くないですかぁ……?」

「酷いわよ。というか、そんな言葉じゃ片付かないわよ」

 

 今はそうとしか言えない。何が入っているかは、ここからの解析次第である。こんな異臭のするモノを持っていくのは申し訳なさがすごいが、謎の解明に使えそうならば、その辺りは我慢してもらうしかない。

 

 

 

 

 うみどりに帰投した一同。伊豆提督もそれを出迎えたが、やはり臭いで顔を顰めた。

 

「何かあったのね……この臭いは?」

「陸の後始末中に発見した、集落の商店にあった傷んだ惣菜。ただ、これを持ってきたのは、これが凄まじいくらいの穢れを出していたことと……もう一つ」

 

 商店で発見した深海忌雷のことを話すと、伊豆提督の表情が驚愕に包まれていった。島に放置されていた惣菜を食べたことで知性を手に入れた深海忌雷。しかも、通常の個体より少し大きくなっており、敵対の意思まで無くなっているという異常事態。

 夕立の閃きから、これは忌雷を食べていく内に進化し、姫級へと至ったムーサに近い現象が起きていないかと考えられたが、伊豆提督もそれにはそうかもしれないと肯定の意を見せる。

 

「私達の予想では、この惣菜は忌雷と同じような成分が入ってると思う。だから、解析をしてほしいの。すごく、臭いけど」

「ええ、わかったわ。すぐに解析してもらうわね。臭いけど」

 

 この惣菜はすぐに工廠の奥に持っていかれることになる。明石も主任もすごく嫌そうな顔をしていたが、これがこれまでの憶測を確信に変えるモノであることは既に予想がついていた。

 

「それで、陸にいた深海忌雷なんだけれど……」

「保護をするにしても、自爆がまだ出来るのよね……うみどりに入ってから爆発されたら困るわ」

 

 伊豆提督も同じように考えた。爆発出来るということは、うみどりが傷つけられる可能性があるということである。通常の個体よりも大きいというのなら尚更危険だ。一発でうみどりが沈むなんてことはないかもしれないが、それでも今後の運用に支障が出るかもしれないならば話が変わる。

 

「現地で浄化、かしら。解体して爆発物だけを取り除くことが出来ればいいんだけれど」

「忌雷の構造……わかるの?」

「わかるとは言い難いわね。でも、体内に爆発物が無いと爆発は出来ないと思うのよ。だから、その場で施術して安全に変えることが出来れば……って感じになるわね」

 

 それでも絶対に安全かと言われたら何も言い返せない。本人は死にたくないと意思表示していても、何がきっかけで爆発してしまうかは誰もわからないのだ。強い衝撃で爆発なんてこともあり得るし、ちょっとした感情の昂りで爆発なんてこともあり得る。

 

「少なくとも浄化だけは必要だと思う。ここに連れてこれたら、いつもの洗浄でいいんだけれど、そう出来ないのが現状だものね」

「堂々巡りになりかけてるわ。連れてくるために洗浄したいけど、洗浄するためには連れてこないといけないとか、もう本末転倒だもの」

「だから、洗浄の道具を運ぶしかないわね。大発に薬剤のお風呂を作って、港までは出てきてもらって洗う……とかになるかしら」

 

 一番良さそうなのがその案である。とはいえ、それでも爆発しない保証がないのだから困る。

 

「あとは、特機にお願いして内部を確認してもらうくらいかしら」

「ああ、それは確かに。入り込めそうなら、中を見て爆発に通じるモノがあったら引っこ抜いてもらいたいわね」

 

 かつて心臓の音に呼応する水爆の起爆装置を阿手から引き抜くことまでしている特機ならば、その深海忌雷の内部に入り込み、爆発物を処理することも出来そうである。細胞1つ1つにその要素が刻み込まれているというのならば特機にもお手上げだろうが。

 

「まずは調査しかないわ。出来ることを少しずつやっていきましょ」

「ええ、ならすぐに向かうわ。準備する」

「そうしましょ。時間をかけていたら、もっと想定外なことが起きるかもしれないわ。少し急ぎましょう」

 

 ここからはその深海忌雷を保護するための準備をすることになる。深海忌雷が洗浄出来るだけの薬剤風呂を大発動艇に積み込むことと、過去に『増産』された特機を数体連れていくことで調査も出来るように。

 

 

 

 

 その裏側、傷んだ惣菜を調査する明石と主任は、やっぱりと溜息を吐く。

 

「明石さん、どうですか?」

 

 その様子を見ていた丹陽に、明石は小さく頷く。

 

「予想通りです。妖精さんの成分が検出されました。食事に混ぜることで、人間にその成分を摂取させ、その要素を与えていたと考えるのがいいでしょう」

「ということは、神風さん達が集落で発見したという深海忌雷は……」

「妖精さんの成分を多く取り込んだことで、相応に知性を得たというのが妥当ですね。それこそ、ムーサさんのように」

 

 ムーサは()()()()()()()()()という点が違うところではあるものの、状況的には同じである。妖精さんの成分を取り込むことで進化を遂げた。

 

「……そろそろ隠し通すのも難しい気がしますね」

「ですね。妖精さんの成分が、というところを省いたとしても、そのうち誰かが勘付きます。神風さんやフーミィさんが危ないですね」

「だったら、もういっそのこと公表した方がいいでしょう。隠していたことだって、混乱を防ぐためだったわけですし。大きな戦いが一段落ついた今なら、まだマシではないかと思います」

「ハルカちゃんにもそれは相談しないといけませんが、頃合いではありますか……」

 

 まずこの惣菜から始まっているが、島の後始末をしていく内に、物的証拠はどんどん見つかることだろう。まだ話は出ていないが、調査隊が地下施設を絶賛調査中なのだから、そこに何かの痕跡があってもおかしくない。それこそ、()()()()()()()()()()()()なんてモノが発見されることだって考えられる。

 

 

 

 

「これは……難しい問題ですね、本当に」

 

 丹陽も項垂れる程の問題。こればっかりは、すぐに決めることが出来ない話であった。

 




そもそも忌雷を商店から港まで持ってこないといけないわけだけど、そこは爆発されても大丈夫な夕立とトラが抱えて持ってくることになるでしょう。ヌルッとするっぽい!
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