後始末屋の特異点   作:緋寺

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忌雷の意思

 島の集落で発見された深海忌雷をどうにかするため、うみどりに戻った神風達は、すぐさま島へと蜻蛉返り。その時は、その深海忌雷をどうにかするために洗浄の道具や特機も連れていくこととなった。

 神風達の他には、『軽量化』によって薬剤の入ったタンクを軽々と持ち運べる睦月と、最悪自爆された時にも耐えられる『ダメコン』持ちのトラが参加。勿論、トラと同じ『ダメコン』を持つ夕立もである。

 

「私が呼び出されるとは思わなかった。艤装は港に置いていけばいいか」

「ええ、出来れば港まで運んでくるつもりよ。集落まで遠いし、洗浄の道具をいちいち持っていくのもアレだし。やろうと思えば、夕立1人でも運べるかしら」

「ぽい。アレくらいの大きさなら何もなければ行けると思うっぽい。臭いけど」

 

 そこが割と重要で、傷んだ惣菜を食べ続けているせいで、深海忌雷自体が臭うというのが難点である。片手で軽く持っていくなんてことも出来ず、出来れば自分で動いてもらいたいところだが、速く動くことは出来なそうなので、抱えて運んだ方が手っ取り早い。

 

「ふむ……大体どれくらいの大きさなんだ?」

「人間の頭くらいなのが普通のサイズなんだけれど、その個体はそれよりも大きいわ。そうね……何に例えるのがわかりやすいかしら」

「これくらいっぽい」

 

 夕立が大体の大きさで手を広げる。おおよそ人が頭に被れそうなくらいと思える。本来より二回り程は大きいというイメージ。

 

「大体被り物くらいはあると。それなりに大きいな……」

「でしょう。持ち運ぶにしても、ちゃんと両手で支えてあげないと無理ね。重さもわからないし」

「そこに触手がついているなら、尚更重たいだろう。確かに戦艦の膂力も欲しいかもしれない」

「その上、自爆するかもしれないのよ」

「なるほど、『ダメコン』は最優先だな。そういう意味では私は適任なのか」

 

 万が一爆発されても、トラならばそれが耐えられる。夕立と共にキーパーソンに選ばれたことに納得したような表情。

 

「今回は簡単な通信機も持ってきているわ。時雨と睦月は港で洗浄の準備をしておいて。もしあの忌雷が持ってこれなかったら、その道具をそのまま集落まで運んでもらうから」

「わかったにゃし! 睦月なら軽々持っていけるぞよ!」

「だとしても、出来れば持っていきたくはないかな。海の近くでやれた方が片付けはしやすいだろう」

「そうね。そのために、濾過装置も持ってきてもらってるんだもの」

 

 洗い流した水を海にそのまま流し、それを即座に濾過することで、穢れが拡がることも阻止する。ちなみに濾過装置は時雨が装備中。

 

 集落の水源を使うことも躊躇われることだ。蛇口などはまだ確かめてはいないが、そこから出る水も汚染されていることは充分考えられること。そんな水で洗浄なんてしたら意味がない。そのため、濾過して綺麗になった海水を使う方がまだ建設的と言えよう。

 

「集落で自爆されるよりは、見晴らしが良くて障害物も殆どない港で自爆してもらった方がまだ安全だしね」

「そうならないことを祈るよ。夕立やトラはいいかもしれないけど、僕達は生身でやられたら流石にね」

「ええ。避けられる自信はあるけど、そんなことに神経使いたくないわね。あの忌雷の意思を信じるしかないわ」

 

 最終的にはそこになる。深海忌雷が自らの意思で爆発を選択しないことを祈るしかない。何事も起きないかどうかはそこにかかっている。

 

 

 

 

 港に到着し、神風、夕立、トラの3人でまずは集落へ。トラは元々あちら側の人間だったこともあり、この辺りの風景は知っているようである。

 商店に近付くにつれ、その臭いはすぐにわかるモノとなってきた。トラもこれには顔を顰める。

 

「……確かに異臭がするな。惣菜が腐っていると言ったか」

「ぽい。それにしても臭すぎるけど」

「中に入ってる材料のせいで、臭いが酷くなっているんでしょうね」

 

 そして商店の前へ。その中には例の深海忌雷がいることになる。店に入る前から少しのたうつような音が聞こえるのは、おそらく今でも惣菜を貪っているからだろう。

 邂逅してから戻ってくるまでにそこまで時間は経っていない。言っても数時間というところである。その間を常に食べ続けていたとしても、商店内の惣菜を全て食べ終わるなんてことはないと考えられる。

 

「トラ、このお店使ったことある?」

「いや、私がこの島に戻ってきた時は、こっちじゃない集落にいた。港からこちらでは無い方、逆側にある方だな」

「お店は1つじゃあ無いモノね。そっちも調べなくちゃ」

 

 話しながら店の扉を開く。すると、神風達に気付いたようで、中にいた深海忌雷は触手を振った。目は無くとも、そこにいるのが先程と少し違うことにも気付いたようで、トラの方に身体を向けると、初めましてと言わんばかりに身体を持ち上げて一礼するように蠢く。

 

「……少し、大きくなったみたいね」

 

 神風が呟く。ついさっき見た時よりも、さらに一回りほど大きくなっていた。惣菜の成分を取り込んだことで、成長、進化を続けている証拠である。短時間でコレなら、翌日になったらどうなっていたか。

 

「こちらの言葉は理解しているのか」

「ええ、質問にも答えてくれるわ」

 

 早速、神風は質問、というよりはこれからしたいことを伝える。

 

「私達はあなたをここから出したいんだけれど、構わないかしら」

 

 それを聞いて、深海忌雷は少し悩むような素振りを見せる。ここに残された惣菜の方をチラチラ見つつ、徐にそれを1つ掴んで貪る。食欲が非常に旺盛。まるでムーサを見ているようである。

 

「あなたを洗浄したいのよ。ここで多くの穢れを取り込んでしまっているから、それを洗い流したいの。ダメかしら」

 

 深海忌雷には穢れというモノが何かはわかっていないが、神風の言っていること、自分のことを洗いたいということはわかったようである。

 

「ここにある惣菜は、一応持っていけるモノは持っていくわ。出来ればもう食べるのはやめてもらいたいけど……」

「ぽい、食べれば食べるほど、臭くなってるっぽい」

 

 臭いと言われて、深海忌雷は首を傾げるように身体を傾ける。自覚症状はないようである。鼻があるかもわからないというのもあるが。

 

「ともかく、あなたの安全を確実にするために、ついてきてもらえると助かるわ。というか、私達の艦で保護したいのよ。ここは危険だから、あなたがどうなるかわからないし」

 

 危険と聞き、そうなのかとまた考えるような動き。死にたくないという意思を見せたこともあり、危険であることは深海忌雷にとってもあまり喜ばしくないようである。

 この穢れまみれの空間で、深海忌雷が生まれたように他の深海棲艦も生まれた場合、敵対して戦闘に入ることになるかもしれない。そうなったら、自爆したくないのに爆発させられてしまう可能性もある。

 

 そうなる前に保護したいのだと伝えると、深海忌雷は意を決したように頷いた。神風達に身を任せようと考えたようだ。

 何処にいるのが一番安全かと考えれば、理解のある誰かに保護してもらうのが一番早いだろう。ここにある惣菜はもう食べられなくなるが、代わりの何かを与えられることは保証してくれる。

 

「よかった。ここにいないといけない理由とかはないのね。というか、自力で出られなかったって感じだものね。それじゃあ、自分の足でここから出られるかしら」

 

 神風に言われると、深海はズルズルと身体を蠢かせて、前へ前へと進んでいく。人の歩く速度と同じかそれより遅いくらいであり、そのまま移動させるのも不可能では無さそう。

 

「時雨、聞こえるかしら。忌雷が移動してもらえるようになったわ。そっちで洗浄の準備をしてちょうだい」

『了解。大きさはどうなってるんだい?』

「一回り大きくなってた。そこから大体のサイズを考えておいてちょうだい」

『この短時間で更に大きくなってたのかい。厄介ではあるね』

 

 港で待つ時雨と睦月にも連絡。移動してもらえるなら、到着と同時に洗浄を始めたい。サイズアップのことも伝えておいて、今は準備をしてもらう。

 

「そこそこ時間はかかると思うわ」

『早く来てくれとは言わないから、安心してくれればいいさ』

「ええ、ただまぁ、自分の足で行かせるよりは、運んだ方が早いわね」

 

 とはいえ、もう少し速く移動してもらいたいというのもあるため、持ち上げることにする。深海忌雷も運んでもらえるなら喜んでと身を任せてきた。

 

「持ち上げるっぽい。トラはこの長い触手を束ねて持ってほしいっぽい」

「わかった。触手の方が重そうだな。戦艦の膂力、ここで使わないとだ」

 

 夕立1人でも持てそうだったが、身体のサイズに比例して、触手もやたらと長い。それが複数本生えているのだから、それだけでも質量はそれ相応に重くなる。頭と触手で言うのなら、頭の方が軽い。その代わり、頭の方が()()

 

「うっ……く、臭いっぽい……この臭い、手に残っちゃいそうっぽい……」

「後からしっかり洗いましょうね。トラは大丈夫?」

「こちらは臭いはそこまでだ。ただ、少しヌルヌルするからコツがいるな」

「ヌルヌルはこちらもっぽい。ちょっと持ちにくい」

 

 そういう意味では、やはり運ぶ役を2人にしたのは正解だったのだろう。バランスも取れて、安定もする。

 

「特機に中身を確認してもらいましょ。あなたもこれは許してちょうだい」

 

 運んでいる間に、深海忌雷の内部を特機で調査することも考えた。特機は忌雷の前に掲げられると、どうもと頭を下げるように身体を蠢かせる。忌雷の方もこれはこれはどうもと少し他人行儀だが身体を蠢かせた。どうやら意思疎通は出来ているようである。

 そして、特機が忌雷の中へと潜り込んだ。少しくすぐったそうに蠢くが、持ち運んでいる夕立とトラには支障は無い。

 

「これも少し時間がかかると思うわ。港に到着するまでにわかればヨシとしましょ」

 

 

 

 

 この深海忌雷を調査することで、真相は更に公となっていく。もう、時間の問題であった。

 




トラはカテゴリーWとなっているため、カテゴリーYの時とは少しだけ変化しています。艤装を外しても『ダメコン』は機能するようになっていたり、戦艦としての膂力だけは扱えるようになっていたり。ただ、兵装としての艤装は海の上に持っていけないので、今のトラは無防備といえば無防備です。主砲などがない。
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