後始末屋の特異点   作:緋寺

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時雨の成長

 島の港で洗浄を行い、綺麗になった特殊な深海忌雷は、大発動艇に載せられてうみどりへと輸送された。その光景にいろいろ思うところがある者はいるが、大概は友好的。みずなぎやうみねこの艦娘達も、うみどりってあんなことするんだと興味津々である。

 深海棲艦の保護なんて、後始末屋とか関係なく、何処の鎮守府もやらないことだ。しかもそれが、この島で起きた事件の被害者とかでもなく、時間を置いていたから生まれ、謎の材料が含まれている腐った惣菜を食べたことで穏やかで温厚な性格と性質を得たと言われたら、そこには驚きしかない。

 

「話には聞いていたけど、実際見るとビックリだにゃあ」

 

 作業中、遠目に見ていたうみねこの艦娘兼提督である多摩が溢す。深雪の深海棲艦化は以前の会議の時に映像とはいえ見ているために理解はしているが、そういう後付けの深海棲艦ではなく、島の穢れによって生まれた純粋な深海忌雷を、さも当然のように自分の艦に運んでいくというのは、なかなか自分達では出来ないなと感心していた。

 敵対の意思が無くても、関係なしに始末してしまいかねない。そもそも攻撃をしてこないにしても、洗浄しようだなんて考えには至らない。というより、間髪容れずに攻撃をするのだから、まず話し合おうなんて行動をしない。

 

「優しいのか無謀なのか、でもそれがうみどりの()()なのかにゃあ」

 

 共に作業している部下の艦娘達も、視線が大発動艇の方に行っているのがわかる。そも、あそこまで大きな深海忌雷も見たことがなく珍しいことである。

 

「私は、悪いこととは思っていませんよ」

 

 そんな多摩の呟きを聞きつけたのか、こちらも作業中であるみずなぎの秘書艦、玉波が返した。

 今はバラけての作業ではなく、この島がどのような状況であるかを今日1日でしっかり知って、そこから全力を投じるという算段になっている。そのため、玉波は多摩と割と近いところにいた。

 

「後始末は片付けも勿論重要ですけど、その根本を断つことが大切ではないですか。ああいう穢れから生まれたモノに話が聞けるなら、そこから根本を探し出し、消してしまえば、そこでの戦いはしばらくは起きないことでしょう。なので、ああいう()()()()と言っていいかはわかりませんが、それが保護出来るのなら、それらと対話を試みることはむしろいいことだと思います。可能ならば、ですが。基本は出来ませんよ」

「うみどりはちょっと特殊すぎるにゃ。多摩達は同じこと出来ないだろうから、あちらには悪いけど素直に始末一択にゃあ」

「私達は、向こうが命乞いをしてきたら手を止めますがね」

「命乞い……にゃあ。それされるとちょっと難しいかもしれにゃい。ただ、それもまた策だった時は……」

「どうとでも言えるということですね。となると、やり方を決めるのは、その組織のトップ。私のところでなら扇ですし、貴女のところであれば貴女ですね」

「まぁ、多摩は始末しちゃうにゃ。命乞いされても、むしろ命乞いが出来るくらいの知性はあるわけにゃし、下手したらノータイムにゃ」

「話せないような深海棲艦ならそうなってしまいかねません」

 

 事実、これは非常に難しい問題であるため、最終的な決断はその組織の長となる提督に委ねられることになるだろう。

 伊豆提督は最優先で保護を考える。多摩ならば始末を考える。そして玉波の方の伴侶(ていとく)は、臨機応変に決めていくのだそうだ。

 

「今はうみどりのルールに合わせるのがいいでしょう」

「にゃあ、多摩達はこの海域のことがちゃんと理解出来てないところがあると思うにゃあ。だから、うみどりのやり方がメインで、それに倣う感じで進めるにゃ。ああいう怖いこともあるけれど、そういうのはうみどりに任せるにゃ」

「そうですね、我々でも対処が出来ないこともあり得ます。最も慣れているうみどりの皆さんに任せる方が、確実に後始末は終わりますね」

 

 結果として、うみどりのやり方には賛同するという方針である。運ばれていった忌雷も、うみどりならそうなんだろうなという感想のみで、わざわざ否定することも無い。

 

 つまり、あの深海忌雷に対して納得が出来ていないのは、浜風のみとなっていた。

 

 

 

 

 大発動艇がうみどりに到着すると、伊豆提督がその忌雷の大きさに目を丸くする。大きくなっているとは聞いていたが、ここまでのサイズとは思っていなかったようで、一旦工廠に入ってもらいはするものの、そこからの対処を考えなくてはならなくなった。

 

「ひとまずは、工廠の裏で調査をしてもらうわ。何は無くとも、どうしてこんなに肥大化してしまったのかは見ておかないといけないものね」

「ええ、よろしく。こっちでも、あの惣菜に何が入ってたのか予想はしてたけど、荒唐無稽な案しか出てこなかったから、実際どうなってるのかは知りたいのよね」

 

 神風がどんな予想をしたのか、伊豆提督はあえてその場では聞かないでおいた。神風のことだから、ほぼ真相に辿り着いているのではとも思っていたが、正解と伝えるのも今ではない。どうせ話すことになるのなら、全員がここにいる時に、一括で話すべきだと考えた。

 

「もしかして、調査結果が少しでも出てるのかい?」

 

 そんな伊豆提督の心情を察したか、それとも察することなく隠し事をしている雰囲気を嗅ぎ取ったか、時雨が現在の調査状況を問うた。先に持ってきている惣菜については調べているはずなので、何かしらの調査は進んでいるはずだと確信して。

 

「……ええ、裏で明石ちゃんと主任がいろいろと調べてくれたわ。でも、その結果は今は話せない。話すならお昼休み、みんなが集まった時に伝えるから、今は我慢してちょうだい」

「……そんなに話しにくいものなのかい?」

「軽く言えるような状況では無かったことだけは伝えておく。アナタの大嫌いな隠し事みたいになってしまっているのはごめんなさいね」

 

 伊豆提督の表情からして、それほど深刻であるということは理解出来た。それもそうだろう、それを食べた深海忌雷が大きく成長しているようなモノだ。普通ではない何かが含まれているのは、容易に想像が出来る。伊豆提督が少し隠しておこうと思える何かが。

 神風が察したように、ムーサと同様のことが起きていることで、これはこれまで寄生というカタチで苦しめてきた忌雷と同じ成分が含まれているというのは予想がついている。深海棲艦を成長させるような物質が何かなんて、時雨に見当が付くわけがない。しかし、阿手がやってきたことを考えると、残酷で吐き気がするような行為であることも予想出来る。

 

「僕達は、さっきの惣菜に、艦娘の肉や妖精さんが入っていたんじゃないかと予想していたんだ。神風は荒唐無稽だって言っていたことだけれど、思ったよりも核心をついているんじゃないかと思ってる」

 

 伊豆提督は息を呑みかけた。だが、そこは何とかやり過ごした。

 

「僕が隠し事を嫌っているとわかっていて、あえて隠しているということは、つまりそれくらい酷いモノが入っていたってことだね」

「……ええ、それは素直に話しておくわ。あと」

「全員が集まって、君の口から発表されるまでは、黙っておくよ。どうせアレだろう、その真実が公になったら、混乱で作業が手に付かなくなったりとかすると思っているんだろう」

 

 時雨に図星を突かれたが、伊豆提督は嘘は吐かない。小さく頷いて肯定する。

 

「アナタ達を信じていないとか、そういうわけじゃないわ。ただ、心が揺さぶられて、やるべきことがやれない心身になってしまったら困るでしょう。だから、頃合いを見ていたの」

「なるほどね。でも、それは正解かもしれない。僕は別にそれを何とも思わないかもしれないけど、深雪辺りは苦しく感じるかもしれないね。……もしかして、ムーサはそのことについてもう知っているのかい?」

 

 真実に急接近する時雨に、伊豆提督は驚きながらも、そうだと伝えるように頷く。惣菜の調査よりも前に、既にそこに繋がる何かを知っていた。だが、混乱を防ぐために黙っていたということに他ならない。ムーサにも口止めをしていたようで、事態はそれだけ深刻だということだ。

 

「このことを既に知っているのは極一部なの。でも、時雨ちゃんも察したように、これは本当に事が重大すぎること。何せ、アタシにすら伏せられていたことなのよ」

「……ここの長である君にすら伏せられていたということは、アレかい、主任辺りが気付いて、でも君はそれを知ったら確実に焦るから、黙っていたということかい」

「ええ……実際聞いた時は……いや、後からわかることね。実際は、もっとギリギリまで伏せておくつもりだったわ。いくつかのリスクは承知で。でも、アナタ達がそこまで予想をしているのなら、もう隠し切ることは出来ない。だから……うん、お昼に公表するわ」

 

 丹陽も頃合いだろうと思っていた今、ここまで来たならばもう話してしまった方がいいだろう。肥大化した深海忌雷という新たな個体も現れてしまったため、これを隠し通すことはもう無理である。

 

「重ねて言うけれど、ごめんなさいね。アナタは隠し事が嫌いでしょう」

「ああ、嫌いだね。でも、今回の件はいろいろ考えた結果、それでも隠さなくちゃいけなかったと思ったんだろう。僕達の予想が当たってたとしたら、確かに隠したいと思うよ」

 

 思った以上に時雨の理解が良かったことで、伊豆提督は少しだけ安心した。話せなかったこと、隠し事をしていたことで、人間嫌いを再発させて、また最初の段階に戻ってしまうかもしれないという不安があったのだが、時雨とてやはり長い時間をうみどりで生活していることで成長している。

 

「失礼なこと考えたかい?」

「いいえ、アタシは時雨ちゃんにも感謝しているのよ。カテゴリーMとして生まれて、人間に敵意を持つ呪いを与えられて、でもここでこうして一緒に暮らしてくれている。その上、大嫌いであるはずの隠し事をされていたのに、寛容に受け止めてくれたんだもの。前までのアナタなら、今すぐ話せと詰め寄ってきたんじゃないかしら」

「間違いないね。君の胸倉を掴んでいたかもしれない。でも、今はそんなことしないさ」

 

 クスリと笑みを浮かべる。

 

「人間は嫌いだよ。でも、それは()()()()()ということが、改めて理解出来たのさ。だから、君に食ってかかるようなことはしないよ。意味がないし、そもそもこちらのことを思った悪意の無い隠し事なんだから」

 

 伊豆提督は感涙を流しそうになったが、そこはグッと堪えた。代わりに、ニッコリ笑って返した。

 

「そう……うん、そうね。本当にアナタは成長したわね」

「当然さ。深雪みたいに見た目には出ないけどね」

 

 

 

 

 この後、真実が公表される。

 




時雨は深雪と同じくらいにはいろいろやられてますからね。米の時とかもあるし。
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