後始末屋の特異点   作:緋寺

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公となった真実

 後始末は昼休みとなり、一同は一度自分のいるべき場所へと戻っていく。

 深雪と電は海中での行動が慣れてきたようで、伊203を追従することは難しいモノの、それなりに高速で海中を移動することが出来るようになっている。

 

「かなり捗ったよな。ゴーヤとろーも手伝ってくれたし」

「択捉ちゃん達が大活躍だったのです」

「あのデカい潜水艇は凄かったな。ありゃあ欲しくなるぜ」

 

 今回の作業は、うみねことみずなぎからの援軍のおかげでかなり進んでいる。港の海底に出来た空洞なども、煙幕による安全確保と海中用の濾過装置による穢れの除去も出来ていた。

 思った以上に作業が捗り、この短期間で港近海はかなり片付いている。特に活躍したのが、みずなぎから派遣されてきた海防艦の駆る潜水艇。大きい分、力も相当であり、空洞を埋める残骸などをあっという間に退かしてくれるのは、頼もしいの一言である。

 

「……ん? なんかあったのか……?」

 

 うみどり付近で浮上し、工廠の方を見ると、何やら仲間達が騒ついている。ずっと海中にいたことで、海上で起きていることは何もわかっていないため、この騒ぎの理由がさっぱり見当がつかない。

 

「え、で、でっか!」

「忌雷なのです!?」

 

 そして、その中央にいたのが、島から保護された深海忌雷だとわかると、流石に驚きを隠せなかった。今まで見てきた忌雷とは雲泥の差。深雪と電は通常のサイズを知らないため、なお大きく見えた。

 

「こ、こんなの見つけたのか?」

「ああ、島の集落でね。僕達が学校に行く道にいろいろあっただろう。そこの商店で生まれていたんだ」

 

 深雪に説明するのは時雨。自分達が見つけてきたモノだからと、割と詳細に説明が出来る。

 敵意がなく、かつ死にたくないという意思がある。また、特機によって起爆のシステムもロックされたことも主任が特機自身から聞いたため、今は工廠にいても安心であるとされている。調査もおおよそ終わっているとのこと。

 

「じゃあ、あたし達の戦いが終わって、後始末を始めるってところで生まれたってことか」

「みたいだね。しかも、普通よりもやたら頭がいいんだ。洗浄もされているから安全さ。ただ、やたら臭い」

「臭い? そんなことあるのか」

「最初は夕立が泣きそうになるくらいに臭かったよ。今は洗浄したから大分落ち着いているけどね」

 

 そんなことを話しているうちに、セレス達食堂組から、昼食が配られていく。工廠でも食べられるように簡単だがしっかり腹が満たせるように配慮され、相変わらずの味に舌鼓を打つ。

 

 流石に今回の真実は、聞いたら食事が喉を通らなくなるかもしれないと、伊豆提督が話す前に先に食べてもらうこととしている。逆に腹に溜まったモノを吐いてしまうかもしれないと危惧しているのだが、そうならないと信じて、後からの作業に影響をなるべく与えないようにと色々考えていた。

 

「あの忌雷、島の集落にあるモノを食べていたから、あんなに大きく賢くなったみたいなんだ。だから、その食べ物の中に危ないモノが入っていたんじゃないかって話でね。調査もされてる」

「危ないモノって、それ島の人間も食ってたんだろ」

「ああ、でもあの忌雷、モノを食べて大きくなって賢くもなったっていうのは、ムーサと経緯が同じだと思わないかい?」

 

 深雪もそう聞くと簡単に納得出来た。つまり、忌雷と同じような素材が、島民の食事にも混ぜ込まれていたということにもすぐに辿り着ける。

 

「……マジか。それは流石に、お前……」

「僕も同じ感想だよ。でも、そうとしか思えないだろう?」

「ああ……これ飯食いながら話すことじゃなくね?」

「食べる前だと余計に食べられなくなるよ。いろいろ知った後でも、後始末が無くなるわけじゃないんだ。入れられる時にちゃんと入れておかないとね」

「そりゃあそうだけどよぉ」

 

 とはいえ、時雨にそこまで事前に聞いたことは、覚悟が決められるということにも繋がる。何も知らない状態から真実を知るよりはマシだった。

 

 

 

 

 全員が昼食を食べ終え、少しの休憩中。伊豆提督が全員に向けて話を始める。いつもならこういう時に工廠にはいないカテゴリーYの面々も集まっているくらいなので、余程重要なことが発表されるのだとわかる。

 

「うーわ、なんか神妙だねぇ。あたしこういう雰囲気苦手だよ」

「グレ様はそうでしょうね。ですが、それ程までに重いことが語られるのでは?」

「うん、それはわかる。知って嬉しいことだといいけどさぁ」

 

 深雪と電に合流したグレカーレと白雲も、この重たい空気は感じ取っていた。特にその空気を作っていたのが伊豆提督であるため、何が報されるのだろうと緊張が走る。

 

「こんなタイミングでごめんなさいね。後始末をしてくれている間に、こちらではいろいろと調べていたことがあって、その結果をみんなに報告しようと思うわ。ただ、その事実があまりにも……あんまりだったから、少しの間隠していたくらいなの。ごめんなさいね」

 

 まずは伊豆提督の謝罪から。隠し事をすることはよろしくないと頭を下げる。ただ、その理由はそもそも伊豆提督がつい最近まで知らなかったということ。そして、その事実の確証を得たのがついさっきと言っても過言ではないこと。それらがあって、ここまで話すことが出来なかったと伝える。

 

「今から話すことは他言無用。この中だけの秘密として、全員墓まで持っていってもらいたい。この技術のことが公になったら、第二第三の阿手が生まれかねない。そうでなくても、被害者が増える一方になる。好奇心でやってはいけない、命の冒涜だもの」

 

 念入りな前置きがある分、相当な話なのだろうと、深雪は生唾を呑み込んだ。

 

「アタシ達が調べた結果わかったのは……阿手が使っていた忌雷の原材料。今では、特機が何から出来ているかになるわ」

 

 その言葉に、深雪は思わず自分の両腕を見た。今は『解体』によって破壊された両腕の神経を特機に繋いでもらっている状態。特機がいなければ、深雪はまともに戦うどころか働くことも出来ない。その材料とされたモノが何かという話。

 

「ムーサちゃんや、その大きくなった深海忌雷は、その原材料を取り込んだことで賢くなった……進化したということになるわ。そして、その原材料は島民全員にも食べさせられていた。そのせいで、この島で保護したカテゴリーYな皆さん、あと杏ちゃんね、みんなは、その要素を取り込んでしまったことになる。阿手はその要素を持つ者を操ることが出来たようなの。今はもう大丈夫にしてあるんだけれど、それでも、食べさせられたということが本当に危険。後から何が起きるかわからないから、こちらでも今は経過観察中よ」

 

 深雪は少しだけピンと来た。つい最近、杏は体調を崩して倒れた。そうなった理由は、その食べたモノが理由なのではと。

 

「その原材料というのは──」

 

 少し回りくどかったが、ついに本題。その真実が明かされた。

 

「妖精さん。阿手は、妖精さんを材料にして忌雷を作っていた。その際に出来た何かを、島民の食事に混ぜることで、島民に妖精さんの要素を食べさせて付与していたの」

 

 そんなことを聞いたことで、騒つくでもなく、空気が凍りついたようにシンと静まり返った。

 

 神風は自分の予想が当たってしまったと口を開けて驚いていた。時雨もあの時に話していたことがドンピシャだったことに驚きを隠せない。そして、この話を聞いている中でも数人は、やっぱりと溜息を吐く者もいた。前以て予想していたことが当たったと。

 そんな予想をしていたのは、伊203と、暁。思っていただけで口にはしていない。そうなのではないかという漠然とした考えがあったという程度。

 

「どうやってそんなことが出来ているのかはわからない。ただ少なくとも、阿手の手で妖精さんが殺されて、どういうカタチかはわからないけど忌雷の材料にされて、食品にも混ぜ込まれてる。それが、調査から判明した事実よ」

 

 ならば、これまで目の敵にして破壊していた忌雷は、全て妖精さんを殺すという行為になるのかと、深雪は青ざめた。電は殊更に辛そうな表情を見せていた。

 愛すべき隣人として、常に協力し、共に戦い共に過ごしてきた妖精さんに対して、何故そんなことが出来るのだという憤りを感じ、そしてそうとも知らずに妖精さんを何人も何十人も殺して回ったという事実。仕方が無かったとしても、そんなことをしていたことが苦しくて堪らなかった。

 

「妖精さんを取り込むことになったみんなは、そのせいでとても不安定だった。しかも、遠隔で洗脳が施されていたようなモノだった。そこはどうにか……妖精さんの配置転換の技術でうまく引っくり返すことは出来たんだけれど、根本的な解決には至っていないわ。知らず知らずのうちに食べさせられて、イリスにも視えない妖精さんの要素を与えられたなんて、まず取り除くのが難しい。今も目下研究中。カテゴリーYを元の人間に戻すことも大切だけれど、そちらも大切なことだもの」

 

 伊豆提督も話していて辛そうだった。人間に無償で協力してくれる妖精さんに対して、何故そんな所業が出来るのかが不思議で仕方なかった。今はもうそんなことは起きないとだろうと言えるが、こういうことが出来るという事実を知ったら、誰かが真似をしかねない。だから他言無用。墓まで持っていってくれというのは当然だった。

 

「ショックは大きいと思う。こんなカタチで、知らないうちに妖精さんを蔑ろにしていたようなモノだもの。アタシだって本当に辛い。でも、ここで立ち止まっているわけにもいかないのは事実。知った上で、今後のことを考えていかないといけない」

 

 空気はどんよりと重い。この真実は、思ったよりも仲間達の心に刺さってしまっている。

 

「……マジかよ……じゃあ、あたしは妖精さんを自分の煙幕で染めてたってことになんのか……?」

 

 忌雷が妖精さんなら、特機も妖精さん。煙幕によって燻していたことは、妖精さんを自分の思い通りに染め上げていたということにも繋がってしまう。

 その上で、特機と忌雷が殺し合いをするようなことにまで発展してしまっている。自分達を守るためとはいえ、それを引き起こしたことには繋がる。

 

 

 

 

 真実は波紋を生み、そして衝撃となった。知らねばならない事実だったとしても、知りたくなかったと思ってしまうほどに。

 




こうやって話している裏で、さりげなく瀬石元帥にも聞いてもらっています。これは流石にうみどりだけで隠しておくような話ではない。
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