後始末屋の特異点   作:緋寺

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暁の証明

 妖精さんを食っていたという真実を受けて、酷く落ち込んでいたムーサに対し、かつて共に戦い、救われた経験を持つ綾波と暁がいろいろと話をする。

 その中でも、綾波が言ったのは、ムーサが知っている味というのは、本当に妖精さんの味なのかというところである。コレだけのことはあったが、ムーサはまだ妖精さんのことをキチンと理解していないのではないかと。

 

「まずそもそもの話なんだけど」

 

 暁が指を立てながらムーサに語る。

 

「ムーサさん、忌雷の匂いはわかるのよね?」

「ウン。高波カラ貰ウ時モ、チャントワカッテル」

「妖精さんの要素を入れられた人達の匂いもわかった?」

 

 島で保護したカテゴリーYと杏の話である。この話はうみどりにいる者達には公表済み。だが、ムーサがその匂いを感じ取ったことはまだ聞いていない。なので、そこは暁も憶測を確証に変えるために聞いておく。

 

「ワカッテタ。私ガ丹陽ニ呼バレテ、ソコデ知ッタノ」

「そうよね、同じモノ食べさせられたんだから、わかるわよね。じゃあ、()()()()()()()ってわかる?」

 

 それを言われてムーサの口は「ア」のカタチで固まった。まずはその一言で、ムーサの心境にすぐに変化が訪れる。

 

「ワカラナイ。妖精サンノ匂イナンテ、感ジタコトナイヨ」

「そうよね。だって、ムーサさんが感じ取ってる匂いって、妖精さんのじゃなくて、()()()()()妖精さんの匂いなんだもの。だから、暁はちょっと考えたの。その匂いの源は……うん、多分、妖精さんの血」

 

 そういえばと高波もはっとする。このうみどりで、妖精さんが血を流しているところなんて見たことがなく、戦闘中でもなんだかんだ妖精さんが傷つくところというのは見ていない。

 あれだけ身近にいるのに、妖精さんは無敵か何かなのかと思えるほどに、基本無傷である。だからこそ、知らない匂いになっているとも考えられる。

 

「何をどうしたらそんな考えになるかはわからないけど、ほら、血ってそういう時に強い力を持ったりするじゃない?」

「暁ちゃん、そんな本読んでましたっけ。最近の漫画って面白いこと書いてあるんですねぇ」

「い、いや、たまたまよ、たまたま。レディースコミックとかでね、見たの。血には強い力が宿ってる、みたいなこと」

 

 どんな漫画を読んでいるのだと疑問に思えるところではあるが、まさかそんなところから真相の糸口が見つかるとは思っていなかったようだ。こういうこともあるのだから、漫画もバカには出来ないなと実感する。

 

「だから、阿手は妖精さんから血を抜いて……それを忌雷の材料にしてるのかなって思ったの。ほら、艦娘の建造とかには、燃料もいるじゃない。そこを妖精さんの血でやった、とかね」

 

 綾波がなるほどと手を叩く。ムーサにはその辺りはよくわかっていないが、他に納得出来る者がいるのならそうなのだろうと一旦納得。

 

「ああ、今の艦娘にはいろいろと必要なんですよぉ。高波さんもご存知だとは思いますけどぉ」

「は、はい、艤装のための鋼材と燃料、兵装のための弾薬、空母さん達は艦載機にもですけど、普通の艦娘は基部の安定のためにボーキサイトが必要、かもです。今の、第三世代の艦娘は、その基部の部分に、かつての艦娘さんの魂を使わせてもらっている、ですよね、高波は、高波さんの魂を」

「はい、大正解でぇす。綾波は駆逐艦綾波の魂を借り受け、その名に恥じぬように戦っているわけです。で、ここからが本題」

 

 パンと手を叩き、暁の考えを纏めて、憶測とはいえ信憑性の高いことを語り始める。

 

「その燃料の部分に、妖精さんの血を使ったとしましょう。少量か、大量かはわかりませんけどね。もしかしたら、鋼材の部分に肉も使っている可能性はありますが、綾波はそこは違うと思っています」

「根拠ハ?」

「少なすぎるから。妖精さん1人がこのサイズですからね」

 

 綾波が自分のサポート妖精さんを手に乗せて見せる、綾波のサポート妖精さんはどうもどうもと頭を掻きながら笑顔で現れ、ポーズを取った。手のひらサイズのそれは、それをそのまま忌雷にしたとしても、なんとかなりそうにも見えるが、実際使えそうなところというのは限られてきそうではある。

 

「忌雷は確かに同じくらいのサイズですけど、実は忌雷って艦娘と深海棲艦の要素が基本成分なんですよぉ」

 

 これは以前、イリスも共に戦った戦標船改装棲姫との戦いで判明したこと。その場で彩を見たからこそ、確証のある情報。実際はそこに透明である妖精さんの力も上乗せされていたのだが。

 

「なので、燃料以外の部分は艦娘や深海棲艦を材料にしていると思いますねぇ。忌雷も艦娘と同じような作り方だとしたら、ですけど」

「それは多分、同じようなモノだと思うわ。確か忌雷って培養管で作ってたのよね。それ、建造ドックを縦にしたようなモノでしょ。場所取らないようにしてるって感じが見え見えよ」

 

 つまり、忌雷も艦娘と同じ建造方法であると睨んでいる。

 

「弾薬はまぁ普通に艦娘のモノを使うじゃない。鋼材の部分が深海棲艦のモノかしら。その辺にいくらでも落ちてるわけだし。で、燃料が妖精さんの血が混じったモノ。あとはボーキサイトの部分だけど、そこは……ううん、そこも妖精さんな気がしてきた」

「あー、はい、綾波もそう思いますねぇ。今の艦娘でいう基部の部分に相当するわけですから、そこに妖精さんの成分が入っていてもおかしくはないですねぇ」

 

 何もない時に妖精さんの真似事をしていたというところから、そこにも妖精さん要素があって然るべきと予想する。

 ムーサは綾波と暁の話を真剣に聞いていた。そのせいで後始末作業が疎かになってしまいそうだったが、それは誰も咎めない。ムーサの不調がもしかしたら治るかもしれないという点で、綾波と暁に託しているところもあるから。副官ル級ですら、姫の復調を願っているほど。

 

「うん、あり得るのは、艦娘の魂みたいに、妖精さんの魂も入れてるってところかしら。でも、魂の抽出ってどうするのかしらね……」

「暁ちゃんがわからないモノを、綾波がわかることはないですねぇ。魂って、カタチに出来るモノなのかもわからないのに」

「暁達も、そこはすごくふわっとしてるのよね。でも確かに自分の中に艦娘の魂があるってわかってる。不思議な話よね」

 

 これに関しては、どのような憶測も立てられなかった。本当ならどうやっているのかがわからないから。当然ながらそれは企業秘密だし、知ってもいけないようなこと。世間に知られたら、こちらも第二第三の阿手を生み出しかねない話である。

 

「流石に魂に味なんてしないでしょ。それに、魂に匂いがあったら、今頃ムーサさん、ご馳走が周りにあるような感覚になってるわよ。それが無いんだもの。やっぱり、妖精さんの匂いじゃないと思うわ。血だけはどうにか知っておきたいところだけど……って、あれ?」

 

 綾波のサポート妖精さんがニッコリ笑うと、自分の手を口元に添える。すると、親指の表面を歯で噛み切った。そして、ムーサに向けてそれを差し出す。

 

「だ、大胆ね……」

「綾波の妖精さんですからねぇ。ムーサさん、どうですかぁ?」

 

 ムーサは恐る恐るその匂いを嗅いでみる。すると──

 

「……匂イ、シナイヨ。私ノ知ッテル、美味シソウナ匂イ、何モ感ジナイ」

 

 わかりやすくここで証明が出来た。ムーサの感じていた匂いは、妖精さんの匂いではない。妖精さんの成分は抽出されているが、それを馴染ませるために使われた何か別のモノの匂いであることが。

 ならばそれが何かという話ではあるが、それはすぐにはわからない。深海棲艦の要素か、艦娘の要素か。だが、後者はおそらく弾薬という程度。主な部分は深海棲艦である。

 

「妖精さんの魂は、艦娘の魂に通ずるモノがあるとは思います。綾波の妖精さんは、綾波と同じ魂を持っていると思いますから。そういうのも使われてる可能性は高いですけど、あくまでもそこは味には関係ありません。なので、ムーサさんは、妖精さんを食べているわけではありません」

 

 綾波はニッコリ笑って証明完了を宣言した。大半は暁の推理ではあるのだが、自信満々に。

 

「ソッカ……ソウナンダ。チョットダケ、安心シタ、カモ。私、妖精サンガ食ベタイッテワケジャナインダネ」

「はい、あくまでも、あの敵が作ったモノを排除するという行為だっただけですよ」

 

 とはいえ、妖精さんの成分が含まれているモノを食べていたという事実は失われないため、完全に開き直れたわけでは無い。

 それに、次の謎も出てくる。

 

「それじゃあ……高波が出来る『増産』って、なんなんです……?」

 

 今度はこれである。忌雷が妖精さんの成分を含んでいるのはいいとして、それを増やすことが出来る高波の力は、何をどうしたらそれが出来ているのかになる。

 

「……むしろ妖精さんの力入ってないんじゃないかしら」

 

 それに対しては暁が少しだけ憶測を語る。

 

「あくまでも高波に入ってる忌雷がオリジナルなだけで、増えてるのはそれをただコピーしただけの別モノ、とかね。模造してるだけのただの機械。となると特機もになるけど……うーん、そこはわからないのよね。増えたところから匂いはするのよね」

「ウン、チャントスル」

「妖精さんの要素が『増産』したところにも入ってるかどうかよね。それは調査されてるんだっけ?」

 

 流石に工廠の動きまでは把握しているわけでは無いため、ただ首を傾げるだけ。

 

「匂イハ同ジ。コレハ絶対。デモ、高波ノ何ヲ使ッテ増エテルノカハ、ワカラナイノ」

「むしろそこよ。それを調べれば、また話が変わるわよ」

 

 高波もそういえばと思い当たるところがある。『増産』は出来るが、その忌雷を調べてもらったことは無かったのではないかと。

 

「し、調べてもらった方がいいかも、です!」

「ですねぇ。作業が一段落ついたら、行ってみては如何ですかぁ?」

「ウン、ソウシヨウ。高波モ、ソレデ安心出来ルカモダシネ」

 

 少しだけでも光が見えたような感覚。少なくとも、ムーサの悩みは晴れてきていた。妖精さんが美味しいと思っていたわけではないと判明しただけでも、喜ばしいことだった。

 

 

 

 

 高波の調査は、後始末が終わってから。『増産』された忌雷は片っ端から破壊していたこともあり、敵の力を解析するのは、ある意味初めてに近いことだった。

 




綾波(ボーキサイトの代わりは妖精さんの脳って言いそうになりましたが、言わなくて正解でしたねぇ)
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