後始末屋の特異点   作:緋寺

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増産とは何ぞや

 陽が落ちてきたことにより、本日の後始末作業は終了。夜の間に穢れから深海棲艦の発生がされないように、こだかやうみねこ、みずなぎから夜勤の者達が仕事に出るのだが、うみどりは基本明るいうちの作業ということになっており、一旦全員が艦に戻っていた。

 昼休みの間に忌雷の真実を知ったことで、仲間達は少なからずショックを受けていたものの、この半日の作業中にある程度は気持ちの整理はしている。その中でも特に落ち込んでいた深雪や浜風も、仲間の助言を受けたことで、作業が出来ないような状況では無くなっている。

 

「……まぁ、それでも完全に開き直ることは出来てないんだけどな」

「なのです……」

 

 精神的な疲労感を持って工廠に入った深雪と電。海中での作業も様になってきているが、妖精さんが使われている忌雷を消し飛ばして行くという行為が、どうしてもストレスになっていた。

 伊203達は開き直ってしまっているようだが、深雪達のそんな考え方も理解出来る。そのため、今はまだ何も言っていない。

 

「……‥おう、浜風。顔色悪いな」

「貴女方に言われましても……」

 

 丹陽のおかげで少しは立ち直るためのきっかけを手に入れた浜風も、作業に参加していたが体調がいいとは決して言えないような見た目。酒匂が見守っていたようで、作業を止めなかった辺り、そこまで酷いことにはなっていなかったようである。

 ただ、メンタルダメージは相応であり、前を向けたところで癒されているわけではない。そしてそれは、深雪も同じである。

 

「……自分のやっていたことが、どれだけ愚かなことだったかを、理解することは出来ました……」

「そっか……なんで言えばいいかわかんねぇけど、うん、そいつはよかった。なら、特機のことも目の敵みたいにしないでくれよな」

「当然です……気持ちの整理をするのは難しいですが……攻撃するようなことはしませんから」

 

 少し前と比べると、随分としおらしくなったなと思いつつも、あれだけ暴走していていたことを考えると、本当に理解してくれたのだと安心する。

 

「忌雷はあんなことになっちまってるけど、仲間として受け入れられる奴ら……特機もいるからな。そこは臨機応変に、な」

「……うみどりの柔軟性が高すぎるだけなのでは?」

「それは否定出来ねぇ」

 

 深雪が苦笑すると、浜風もクスリと笑った。深雪と電からしたら、浜風のそんな柔らかい表情を見るのは初めてだった。

 

 

 

 

 夕食を終えた後、とある調査が行われるということで、特にショックを受けていた深雪と浜風はそれに参加する。深雪の場合は、緊急時に特異点の力を使ってもらう可能性があるからというのもある。基本的にそんなことは起きないように事を進めて行くが、万が一のことがある。

 深雪が来るならばと、電や白雲、グレカーレも同伴。忌雷の実験となると、いろいろと対策しないといけないことはあるのだが、白雲は緊急時に『凍結』を、グレカーレは『羅針盤』により洗脳を弾くため。

 

「お昼に、忌雷の原材料が妖精さんだってことは話だと思うけれど、それだと少しわからないことが出てきたの。それを調査しようと思って。こんな時間だけれど、ごめんなさいね」

「いいよいいよ。明日に回せないくらい重要なことなんだろ?」

 

 伊豆提督が説明をする。午後の作業中にムーサの話を聞いたことで、確かにそれは必要だと考え、急ぎで調査をすることにした。それが、高波の『増産』により生まれた忌雷の詳細である。

 

 高波は現在うみどりで唯一の、『羅針盤』によって正気を取り戻した擬似カテゴリーK。忌雷が特機に変わっているわけでもなく、阿手の作り出したシステムを改変無しにそのまま使用しているというある意味危険な存在でもある。『羅針盤』に頼りすぎるのもよろしくないというのもあるが、安定はしているので現状はそのまま。

 その高波に寄生しているのも、妖精さんが材料にされた忌雷なわけだが、()()()()()()というのはどういうメカニズムなのかを知っておきたいということである。

 

「……そうか、確かにちょっとおかしいよな。高波の中で妖精さんが増えてるのかって話だし」

「ええ、コピーをして増やしているにしても、増えた忌雷には何がどのように入っているかというところになるわ。それ次第では……高波ちゃんの忌雷は抜いてもらわないといけないもの」

「だな。これ以上、妖精さんのことを馬鹿にするようなことはしちゃダメだ」

 

 話しているうちに、調査の準備は進んでいた。部屋の真ん中に高波が座り、その近くにはムーサと副官ル級が待機。今から増やされる忌雷は、ムーサがしっかりと捕まえて、それを調べ上げる。もし高波に何かあったならば、ル級がその身体を守るために動く。

 

「……私もああいうことになりかけていたんですよね」

 

 高波の様子を見て、少し落ち込む浜風。一歩間違えれば、あれ以上のことになっていただろう。

 

「彼女は、高波さんは、強いヒトですね」

「ああ、本当にな。それに優しい。ムーサとああやって行動して、おやつをあげ続けて、仲良くもなってる。普通なら、あんなこと好き好んでやれねぇよ」

「なんだかんだ流れでやるようになっちゃってたけど、今は楽しんでるっぽいもんねぇ」

 

 深雪に続いて、グレカーレも高波のことを高く評価する発言。ムーサ絡みとなると、そんなに関わり合いも無くなってしまうのだが、チラッと見える時にはこの3人はかなり仲良く後始末屋としての活動をしているように見えていた。

 真実を知る前は、ムーサが非常にフリーダムだったこともあって、高波が振り回されている感じが強かったが、それでもル級の支えもあり、高波は困っているようなことは殆ど無かった。

 

 浜風も、少し出会い方が違ったり、そもそも別の鎮守府で無かったりすれば、話は変わってきていたかもしれない。それは無いものねだりだが。

 

「それでは、高波さん、やっていきましょうか。忌雷を『増産』してもらえますか?」

「わかったかも、です」

 

 明石に言われ、高波は艤装の中から忌雷を『増産』。湧き出した瞬間、その忌雷は明石に対して寄生を試みようと襲い掛かろうとするが、それはムーサが即座にキャッチ。

 

「大人シクシテ」

 

 今回はすぐに食べるみたいなことはしない。ただその動きを止めるだけで明石に見せる。

 

 本来ならば、こうして手で掴んだところで寄生をしようともがくだろう。だが、相手がムーサであるならば話が違う。忌雷に対して絶対的な力を持ち、忌雷自身もムーサに対して畏怖の感情を持たされるため、ただ掴まれているだけで何も出来なくなっていた。触手も蠢かすことはしない。ただひたすらじっとしている。ここで動いたら何をされるかわからないという絶対的な不安が、忌雷すら大人しくさせた。

 

「これを調べるのは初めてですね。超危険兵器……寄生されたら一巻の終わり……」

 

 明石もこれには慎重すぎるくらい慎重だ。主任も少し離れた場所から確認しつつ、その成分を調べている。

 

「匂イハヤッパリ同ジダヨ。増ヤシタノモ、普通ノモ」

「オリジナルもコピーも同じなんですね。そういえば、噂にしか聞いていませんが、突然変異のモノも同じでしたか?」

「アレハ殆ドガ臭カッタ。ダカラ、大分変ワッチャッタンダト思ウ」

 

 突然変異は、あくまでも突然変異。まともなモノとは思わない方がいい。だとしても、その中に同じ匂いも感じ取っている。『増産』の中心にあったモノ。それはやはり、同じモノ。

 明石の言う通り、匂いだけはオリジナルもコピーも同じである。そのため、成分的には同じに思えるが、重要なのは妖精さんの何かが使われているかどうか。

 

「……え?」

 

 明石が目を見開いた。調査結果に何かあったような反応。

 

「明石ちゃん、何かあったの?」

「『増産』によって現れたこの忌雷ですが……妖精さんの成分が検知出来ました。出来ましたが……これまでで調べることが出来た特機などと比べると、あまりにも少ないんです。それこそ、妖精さんの指先、いえ、爪の先程度なんです」

 

 そこから主任が、ああと納得したような表情を浮かべ、ホワイトボードに何やら書き始める。

 

『せいぎょするため』

『じぶんのせいぶんをいれてる』

 

 コピー忌雷は、ほんの少しだけの妖精さん成分──おそらく内部に含まれた血液をほんの一滴──が含まれていることで、襲いかかって寄生するという、たったそれだけの制御がされているのみだった。

 つまり、この忌雷に関しては、九割九分が妖精さん以外の成分ということになる。

 

「高波さんの成分も少しだけ検知されています。艤装の一部というわけではなさそうですが……そうか、これ『増産』かもしれないけど、()()()()()()()()()なんですか」

 

 主任がぐっと親指を立てる。これが全容だった。

 

 高波の内部に寄生した忌雷は、高波の艤装の一部と自分の身体の一部を混ぜ合わせて、忌雷を作り上げている。その時に、高波自身には痛みすらなく、そして即座に自己修復が入るので、何も影響はない。

 そした、作り上げられた忌雷──実際は()()()()()()──は、それ自身も持つ自己修復が活性化して、忌雷そのものになる。おそらくは、命の部分だけを作ってしまえば、そこから忌雷に自己修復されるということなのだろう。

 

「なるほど……だからこの忌雷、意思があるようで無いんですね。ムーサさんへの恐怖で動かなくなってるかと思っていたけれど、そうじゃない。ムーサさんの忌雷に対しての力で、単純に機能しなくなってるんだ。一時的にでしょうけど、妖精さん云々じゃない。システムを模造した別モノです」

 

 つまり、妖精さんではなく、擬似妖精さん。成分は確かに入っているが、ある意味()()()()()()。単純に、増えるということだけを目的とした機械なのだと結論づけた。

 

「とはいえ、高波さんの身体に影響が無いとは言い切れませんけどね。もう少し調べてみましょう」

「お願いするかも、です! あ、でも今量産したのは……」

「コレ、妖精サンジャア無インダヨネ?」

 

 ムーサが持っている忌雷に対して、明石はその解釈で大丈夫だと頷く。すふと、少し躊躇いを見せつつも、ムーサはその忌雷を頬張った。

 

「……ウン、ヤッパリ美味シイ。コレ、妖精サンノ味ジャナクテ、アイツラガ作ッタ何カノ味、ナンダネ」

「そうですね。あとはそれが何かを知りたいところですが……それは調査隊に調べてもらいましょう。難航しているようですが、きっと何か見つけてくれるはず。この力のシステムも、きっと」

 

 

 

 

 

 最終的にはそこに行き着く。曲解とはなんぞや、そこに。

 




さぁ次は曲解とは何ぞやという話になります。調査隊側の話にもなりそうですね。
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