後始末屋の特異点   作:緋寺

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頼り頼られ

 後始末作業、4日目に突入。未だに海底への煙幕撒きはすべて終わっておらず、深雪と電は今回も海中作業。

 大物の残骸などは、みずなぎの援軍である潜水艇の海防艦達が手際よく運んでくれる。細かいモノは、うみねこの援軍である伊58と呂500が掻き集めてくれる。非常にテンポが良く、うみどりの面々だけでやるよりも、下手したら作業が早いくらい。

 

「昨日の悩み、解決したでちか?」

 

 深雪に話しかける伊58。深雪と電の顔色が、昨日の午後と比べると良くなっていることにすぐに気付いていた。

 

「解決っつーか……まぁ、完全な解決にまではいけねぇけど、ちったぁ良い方向には進んでる。悪いな、心配かけて」

 

 忌雷は妖精さんだったという話は、全てが解決したわけでは無い。ただ、成分的には使われているが、妖精さんそのものを改造してそれを作ったというわけでは無いことが判明していることで、少しは気が楽になっている。良い方向に進んでいるというのはそういうこと。

 割り切ることも出来る。忌雷を妖精さんに戻すということも出来ないのだから、始末が最も妥当かつ確実な解決法であると。妖精さん達ですら、そうしてくれと言ってくるくらいなのだ。

 

「心配ってほど心配じゃないでちが、うみどりで何かあったって聞くと、ちょっと不安でち」

「あー、そりゃあそうだな。案の定、普通じゃないことが起きてた。今もずっと調査中だよ」

 

 うみどりが特殊であることは周知の事実だが、対処出来る事柄も大分特殊になっているせいで、そこであーだこーだなっていると、もしかしたら自分達も巻き込まれるのではないかと不安になるのはわかる。ただでさえ、それが即座に対処出来るのが特異点だけだとなると、自分達がどうすればいいのかわからないまであった。

 

「昨日も話したけど、うみどりってこれまで、すっごい戦いをしてきたんですって」

「なのです。あんまり話せないこともいっぱい。これもまた、後始末なのかなって、思うのです」

「ろーちゃん達だとわからないことばっかり。でも、全部乗り越えてきたんだよね。すごいですって!」

 

 呂500が本心からすごいすごいと拍手する。伊58も拍手まではしないが、すごいというのは同意し、うんうんと頷く。

 

 うみねこもみずなぎも、当然だが普通の後始末をこれまでずっと繰り返してきた。代わり映えがないというわけではないが、これまでの経験上、特殊な後始末現場というモノは基本的にはない。突然変異種のような、大規模な戦いの後始末には苦戦したりするそうだが、残骸そのものが危ないだとか、自然と深海棲艦が生まれるようにされているなど、この島の後始末のような特殊性のある現場には流石に携わったことがなかった。そもそも敵にピンポイントに狙われるということなんてあり得ないことである。

 うみどりはここ最近ずっとそんな戦場ばかりだった。特に深雪は特異点というだけで狙われ続けている。それによって、呂500の言う通り、すごい戦いをしてきて、そして乗り越えてきた。それを素直に感心し、そして尊敬するような目を向けていた。

 

「……なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ。択捉達も」

「ん?」

『どうかしましたか?』

 

 作業をしながら仲間達に問う。深雪はどうしても引っかかっていることがあるので、うみどりの仲間達以外の意見も聞きたかった。ここにいる者達は、特異点の戦い方もほとんど知らない、つい最近出会ったばかりの者達。ある意味で話しやすい相手。

 

「あたし達さ、ちょっと敵に言われたことがあって、そこが引っかかってるんだ。特異点は、あまりにも万能だから、人間を堕落させるって」

「やろうと思えば、大体のことはやれる、みたいなのです。電達は、そこまでは出来ないのですが」

「だから、あたし達と関わってきた奴は、あたし達に頼り切って堕落するんだとよ。そんなこと、あると思うか?」

 

 出洲の言葉をそのまま伝える。人間達の努力を、特異点は存在そのもので無かったことにする。自堕落の要因なのだと。

 

「無いでちね」

 

 それに対して、伊58は即答した。

 

「特異点って言っても、出来ることと出来ないことがあるでしょ。そりゃあ、今目の前でおかしなことしてるわけだけども」

「海上艦が潜水しながら煙幕で危険なモノを消してるな」

「全部おかしいでち。でも、それはゴーヤ達が出来ないからやってもらってるだけ。自分で出来ることは自分でやるでち。特異点頼るとか甘え」

 

 そう断言する。呂500も強く頷いた。

 

「後始末は適材適所。出来るところを出来る奴がやる。それが常識でち。みずなぎはこういう手段を使って海中を片付けてるみたいだけど、それも出来るところってのを増やしたわけでち」

『そうですね。私達も、こういうカタチでお役に立てて、嬉しいです。自分達の手で後始末が進められるのも、ありがたい限りです』

 

 択捉も自分達で出来ることがあるのだから、自分達の手で進めているのだと語る。見た目は子供であっても、潜水艇を操縦する4人の海防艦は、それが出来るくらいには熟練者。精神は見た目にそぐわないくらいに成長している。

 

『つーかさぁ、ねーちゃんに頼るっつってもさ、頼りきれないから佐渡様達が呼ばれたんだろー? 本当に全部出来るなら、このクソでっかい後始末の場所、特異点のスーパーパワーで全部片付けられるんじゃね? 出来ないから呼ばれたんだろ?』

「うん、そうでち。今ここでその人間は堕落するっていうところが矛盾してるんでち。特異点が万能なら、ゴーヤ達が援軍に来ることなんてないんでちよ」

 

 深雪も電も、なるほどなと納得した。万能ならそもそも人の手を借りない。借りている時点で万能では無い。だから頼り切らない。伊58の言葉に、元々突っぱねていた出洲の言葉を、より強く反発出来るようになった。

 自分達の弱さを正しく理解しているからこそ、万能性を不要とし、仲間達を頼り、そして頼られる。わかりやすい共存、共生である。

 

「ゴーヤ達が出来ないことを特異点にやってもらってる代わりに、特異点に出来ないことをゴーヤ達はやってあげる。これ、堕落なわけないでしょ」

「ああ、その通りだ。あたしはみんなを頼りまくってるからな。ほら、今もだ。クソでかい残骸は、あたし達の手には負えねぇ」

『はい、我々で運び出しますね』

 

 また現れた大きい残骸は、択捉達の潜水艇が的確に運び出す。

 

『じゃんじゃん頼ってください。みんなが出来ないことをやるのが、私達の仕事ですから』

「ああ、頼むぜ」

『ねーちゃんに頼られると、なんか自信出てくんだよな。後始末屋やってる甲斐があるってヤツだぜー』

 

 択捉の後ろから佐渡がキャッキャと騒いでいる。悪ガキのような雰囲気の声だが、後始末屋としてのプライドはあるようで、こういう時には楽しんでかつ自信を持って作業をしている。

 声は小さいが、共に作業をしている松輪と対馬も、そのプライドを胸に作業を進めている。4人が力を合わせているからこそ、この潜水艇は素晴らしい仕事をしているのだ。

 

『ゴーヤさんの言う通り、私達も頼れるところは頼りますが、自分達で出来るところは頼りませんね。なので、自堕落的になるというのは無いと思います。深雪さんも、電さんも、()()()()()だと思っていますから』

「だな。あたしも電も、こういうことは出来るかもしれねぇけど、お前らと同じ艦娘だ」

「見た目は深海棲艦ですって」

「悪い、そこは大目に見てくれ」

 

 空気が弛緩し、ケラケラ笑い合う。

 

「ありがとな、すげぇ助かる」

「良くも悪くも、ゴーヤ達は部外者だったでち。そういう奴の言葉の方が効いたりするもんでち」

「本当にな。先入観がないから、それが本心だってわかって嬉しいぜ」

「そりゃよかったでち。悩みは晴れたでちか?」

「一部な。でも充分だ」

 

 特異点という存在の特異性に対して、関係ないと部外者に言ってもらえることが、一番ありがたいこと。特別扱いされる方が息苦しいのだ。

 だから、ここで共に作業している面々とは、分け隔てなく仲良くなれた。深雪自身のコミュニケーション能力が高いというのもあって、もう昔ながらの友人といった雰囲気になっていた。

 

『あれ、何かある……? 松輪、ちょっと調べて』

『は、はい、すぐに』

 

 ここで残骸を運び出している潜水艇が何かを発見する。あちらにあるセンサー類を使用して、その正体を確認しようとしたが、残骸を退かしていくうちに、それは深雪達の目にも入る。

 

「……深海棲艦の残骸だ。しかも……」

「カタチがそのまま残っているのです」

 

 そこにあったのは、イロハ級の亡骸。しかも、ほとんど無傷で息絶えている。

 

「ここで生まれて、でも身動きが取れずに、そのまま死んじまったって感じか……?」

「なのです……あ、でもその奥に……」

 

 ここで今度は電が目視で確認した。明らかに海底には似つかわしくない、金属質な壁面。阿手の作り上げた島の地下施設の外壁であることは明らかだった。

 そこに妙な傷がついていることもあり、このイロハ級は壁に体当たりをしていたと考えられる。しかしびくともせずに、そのまま命を失ったと思われる。

 

「ここからも穢れが出ちまってるのな」

『はい、すごく、つよいです』

『ここは危険がいっぱい……ふふふ』

 

 潜水艇の設備により、そこの穢れの濃さも確認し、他よりも濃くなっていることはすぐにわかった。

 

「無念だったろうぜ。こんなところに生まれちまったばっかりに。成仏しろよ、次生まれ変わったら、良い奴になってくれ」

 

 そんな亡骸に、深雪は手を合わせる。電も続いた。その姿を見て、伊58や呂500もそれに倣った。

 

『そういうのすぐに出来るとこ、ねーちゃん達すげぇよ』

『はい、お優しいのですね』

 

 子供達も潜水艇の中で亡骸に向けて手を合わせているようだった。こういうところから穢れが薄くなり、悪い流れを無くすことが出来ると信じられるから。

 

 

 

 

 作業は続くが、心境は少しずつ変化していく。それもまた、この島の後始末には必要不可欠な、良い方向への変化。

 




忌雷=妖精さんのこともそうだけど、深雪としては、あの時の出洲の言葉も引っかかっていました。うみどりの面々はそんなことないと言い切れるけど、他はどうなんだろうと。まぁ聞いた相手がワーカホリック気味なゴーヤと、生真面目で統率力のある海防艦択捉だからね。深雪はそういうところも運が良かったりする。
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