後始末屋の特異点   作:緋寺

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続く調査

 海底の作業は進んでいく。生まれたもののすぐに息絶えてしまったイロハ級の亡骸を撤去した後は、すぐさまそこの穢れも取り除く。残骸からも溢れ出る穢れは、ほぼ丸ごと残っているところからは相応に出ている。大物の残骸があったからそこに押し留められていたというのもあるだろう。これまで後始末してきた中でも、特に濃い穢れが観測されたため、そこの浄化は急務であった。

 

「いつからこうだったんだ……?」

「わからないのです……でも、わざとああしていた可能性もあるのですよね」

「アイツならあり得る話だな。穢れをばら撒きたいって感じにしか見えねぇ」

 

 後始末中にも愚痴が出てしまうモノである。これまでの後始末現場とはまた違うモノがこうして出てくるのだから、もう阿手が故意にそう仕込んでいたとしか思えない。

 

『ここにいた敵は、そういったことが詳しいのですか?』

 

 択捉からの質問に、深雪は素直に頷く。

 

「多分詳しいなんてもんじゃねぇな。人間を深海棲艦に改造するところから始まってんだ。その辺のカラクリについて、誰も知らないことまで知ってたんじゃねぇかな」

『……()()()()ですね』

 

 勿体無いという言葉に、深雪は首を傾げる。

 

『それだけ知っていたなら、もっと海の平和のために使えるはずなのに、全部自分のことに使ってたってことですよね。それがすごく勿体無いなって』

「あー……確かにそうだな。この技術とか知識とかを、こんなことに使ってなかったら、今の戦争自体がとっくに終わってたかもしれねぇ」

「なんなら、戦争自体が起きなかったかもしれないのです」

 

 阿手はこの技術を自分のためにしか使っていなかった。そのせいで、数多くの者達が巻き込まれて、本来なら死ななくてもいいような者も死に、消えない傷を与えられた者も出てきてしまった。深海棲艦にやられるよりも深刻で根深い。

 ここまで知識があるのなら、ここまで手段があるのなら、それをもっと平和のために使えば良かったのにと択捉は語る。その通りだと深雪と電は強く頷いた。

 

「まぁ、アイツの性格的にそれは絶対にやらなかっただろうけどな……」

「そんなに酷い奴だったんでちか?」

「おう、あたし達は直接会ったけど、そりゃあもう酷かった。最初にアレを見たら、誰だって人間が嫌いになるってくらいの奴だった」

 

 呪いの根源としか思えないような人格破綻者だったと少しだけ細かく伝えると、伊58や呂500は露骨に嫌そうな顔をした。よくそんな奴がこの世界に生まれたなと。

 

「そういや、それの研究結果を今、調査隊が探してんだよ。うちにはここの被害者が何人も保護されてるからさ、元に戻してやりたくて」

「人間を深海棲艦に改造するってヤツでちね」

「ああ、とんでもないことやってるよな。しかも、元に戻すつもりがないから、やったらやったで投げっぱなしだ。巫山戯やがって」

 

 だが、その改造が本当に不可逆かどうかはわからない。阿手自身は戻すつもりがないのだから、その手段は研究していないかもしれないが、施し方がわかれば、そこから解決策を考えることは出来る。そのため、調査隊は時間をかけてでも痕跡を探したいと考えている。

 

「アイツが最後にいた部屋は滅茶苦茶にしちまったんだけどな……戦いの中で」

「それは……仕方ないでち」

「そこに資料があったら残念ですって」

「よくよく考えたらあり得る話なんだよな……」

 

 瓦礫に埋まった部屋の中に、もしかしたら糸口が残されていたかもしれないと思うと、惜しい気持ちでいっぱいになる。

 

『でも、まだ希望は捨ててないんですよね』

「ああ、その程度で諦めることはしねぇよ。みんなで力を合わせて、あのクソがやってたことをひっくり返すんだ。それが出来れば、アイツの()()()()は全部無くせるはずだからな」

 

 生きていた痕跡を世界に残したくもないも思えるほどだが、それは流石に無理だろう。だから、悪意に塗れた阿手の技術だけは全てぶち壊してやりたい。そう深雪は語った。

 

 

 

 

 噂の調査隊だが、今はほぼ全員の力を結集して、広大な地下施設を細かく調査している。戦闘の痕跡もさることながら、一度も通っていないような場所も隈なく見て回っているほど。

 危険な場所であることは間違いないため、今回はうみどりから特機も提供されており、『増産』によって人数分揃えられているため、多少は安心である。

 

「どれだけ探しても、目ぼしいモノはなかなか見つからないモノだね」

「ですね……そういうところばかり周到というか」

 

 地下施設の最も奥地、空洞から外に出るための通路がある、最終決戦の場所を調べているのは、その時に現場にいた響と白雪。そこに神通も加わり、調べられそうなところは徹底的に調べている。

 これまでの研究資料をアナログで持っていたかデジタルで持っていたかはわからない。前者なら現物を、後者ならハッキングによりデータを手に入れられることが望ましい。

 

「ありそうなのは潜水艇の内部でしたが、全て確認してもなかったんでしたか」

「はい、壊れたモノからそのまま残っているモノまで、全部確認しましたが、そのどれにも積み込まれていませんでした。痕跡すらありません」

 

 この施設を海中から脱出するために作られた複数の潜水艇。そのうちのいくつかは、伊203が雷撃で破壊しており、1つは出洲の仲間である中柄が斬り払っている。

 爆破でなく刀による破壊はモノが綺麗に残っていたため、解析は一応可能だったが、残念ながらそれらしいデータも存在していなかった。

 

「考えられるのは、奴が全部覚えているからデータとして残していない、みたいなところかな」

「それだと1番困りますね……自分がデータベースだと自信満々に言っているようなモノです」

「そういう性格をしていたからね、奴は」

 

 調査も4日目。細かいところまで調べつつ、片付けられそうなところは片付け、危険なところは取り払いながら続けているモノの、本当に何も見つかっていないとなると、阿手自身がデータベースだというやり方はあながち間違いではないかもしれないという考えに至りそうになる。

 自分の技術は自分のモノ、他に漏れないようにするために、そもそもデータを残さないというのは、阿手ならばやりかねないことだ。

 

 故に、そもそも何処で人間を改造していたのかという点での調査も続けている。実際に実施された場所なら、やり方はなくてもやったモノは残されていておかしくない。

 それで最も怪しいのが、学校の保健室から直通の、ベッドのカタチをしたエレベーター。下に降りた際に、忌雷が大量に纏わり付いていた、完全な罠だった場所。状況的にもあそこが施術した場所としか考えられない。

 

「あそこはあそこで、何も無かったんだよね」

「ええ、機材そのものは運び出されていましたね。それが何処にあるかもわからないとなると、なかなか骨が折れる作業ですよ」

「改造するための機材は絶対にあるはずなんだ。潜水艇に載せていたと思っていたけど……そんなことはなかったね」

 

 潜水艇には持ち込まれたような痕跡も無かった。絶対にあるはずと言ったモノの、実はそもそもそういうモノもなく、阿手の手で執り行われていたということもあるのかもという嫌な予感もよぎった。

 

「あと考えられるのは隠し部屋ですが……」

「最後に戦った部屋も隠し部屋みたいなモノだったからね。私もそれはあると睨んではいる。マッピングしていくと、どうもおかしなところはあるからね」

 

 響はこの地下施設の造りを脳内マッピングしながら調査を進めているのだが、施設としては妙な空間というか、ここにも何かあってもおかしくないだろうと思えるような場所はいくつか見つけていたりする。

 しかし、そこに入れそうな隠し扉みたいなモノはどうしても見つからなかった。白雪のハッキングでもわからないということは、扉そのモノが無いということになる。

 

「空間にスパコンでも入れているのかな。そこにどうやってアクセスするかになるけど」

「最後の戦いでその端末を破壊してしまった可能性はありますけどね。接続口がおしゃかになってましたから」

「復元不能なのは、初日に調査済みですね」

「あれは仕方ないさ。戦いの中での最善だった。後のことを考えていられる程、余裕のある戦いじゃなかったからね」

 

 この端末を破壊したのは、何を隠そう深雪である。消し飛ばす砲撃を喰らった端末は、跡形もなく破壊されたどころではなく、一部は完全に消滅してしまっているようなダメージになっていた。それもあるため、復元は不可能。

 あの時はそれくらいしなければ阿手の行動を止めることは出来なかったし、もしものことを考えると端末を使われるわけにはいかなかったため、その時はそれが正解だった。

 

「とはいえ、残骸掃除をしていくうちに何か見つかるかと思ったけれど……なかなか見つからないモノだ。ここまで苦戦するのも珍しいんじゃないかな」

「ええ、これまでで初めてかもしれません。流石、長い時間を潜伏していただけはあります。小賢しさは天才的ですね」

「神通さんがそこまで言うのも珍しいね」

「事実ですから。私はここまで来ていませんが、話に聞いているだけでも酷いモノじゃないですか。海賊船の戦いでもありましたが、徹底して自分本位なのはわかっていましたからね。自分に甘く他人に厳しい、わかりやすい性格をしていますよ」

 

 笑顔の神通だが、目はまるで笑っていなかった。退かせそうな残骸を退かしながら、何かしらの痕跡が無いかをずっと探しているが、本当に見つからないため、若干苛立ちが見えてきているのかもしれない。

 

「手を止めることはしませんよ。それが私達の仕事ですから」

「ああ、勿論。こんなことで挫けるなんてことは……おや?」

 

 話しているうちに、響は部屋の壁に何かを見つける。遠くで見ても近くで見ても、そこは何も変わらない壁。何か目印があるわけではないが、しかし触れて初めてわかることもある。

 

「何度か触れた跡、かな。他の壁と比べると、少しだけざらついているように見える」

 

 その場所を押してみても、何か変わることはない。しかし、一度見つけた違和感は、ある程度追求する。

 

「隠し扉のスイッチでもあるかと思ったけれど……いや、ここに直接指紋認証を仕込んでいるとかかな」

「接続端子が見えませんね……でも、この近くに隠し部屋の入り口とかはあるかもしれません」

「探しましょう。ようやく見つけた手がかりです」

 

 

 

 

 阿手の遺した何かを、時間をかけてでも探し出す。それがついに、実を結ぼうとしていた。

 




深海棲艦ってまともに指紋とかあるんですかね?
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