施設の地下でようやく阿手の研究成果であろうデータを発見した調査隊。力を合わせて扉を開き、その奥に鎮座していたスパコンから、白雪はデータを取捨選択して手に入れた。
そうしている間に、他にも隠し部屋が無いかを調べる響と神通。壁にそういったところがあるのだと多少当たりを付け、まずは触れながら調べていく。高さも重要であることも判明したため、響がどちらかといえば足元を、神通が通常の高さを見て回る。
「力でゴリ押してくる阿手が、データの整理となるとああまで几帳面とはね」
響がボソリと呟くと、神通はクスリと笑う。
「そういうところは研究者気質なんでしょう。自分で作り上げたデータはキチンとしておきたいんじゃないですか? それを実践させる者は雑に扱いますが、そこで手に入れたデータは自分の取り分ですし」
「自分に関係するところは丁寧になるんだね。ここまで徹底されると、逆に感心するよ。悪い意味でね」
「全くです。この配慮を他に向けてほしかった。出来なかったからこそ、ここまでに膨れ上がったのかもしれませんが」
そんなことを話していると、白雪がある程度のデータを取捨選択してコピーを始めたようだった。その場で作り上げたAIによって、なるべく早く確保する方向で。
「少し時間がかかります。取捨選択したとしても、それでも数が絞りきれません」
「仕方ないことです。出来る限り持っていきましょう。その間に他にないか探しておきます」
「よろしくお願いします」
数があれば、それ相応に時間がかかるもの。膨大なデータから特筆すべきデータを探し当てたとしても、数えきれない数のデータがそこにある。1つ2つなら気にしないが、100や200となるのだからこうもなる。
その間に響と神通で調査を進めることになるのだが、白雪をそこに置いていくということになってしまうため、あまり離れることなく近辺のみを調べる。
結果、このスパコンの近くに他の隠し部屋は見つからず、新たな情報源らしきものは見つけられなかった。
それこそ、多数の集積地棲姫を『量産』した設備が何処かにあると踏んでいたが、それはまた別のこととなりそうである。
調査隊はそのデータを持って早いうちに一旦撤退。おおわしへと戻る。
「おう、ちぃと早いが、何か見つけてきたみたいだな」
「阿手の研究成果みたいなデータが入ったスパコンを見つけたんだ。白雪がそこからデータを引っこ抜いて持ってきてくれたよ」
「ナイスじゃねぇか! よくやったぞテメェら!」
昼目提督が豪快に笑う。4日目にして明確な成果が出たことに大喜びのようだ。
「つっても、あのクソのやることだ。そのデータにも何が仕込まれてるかわからねぇ。鳥海、ざっくりでいいから確認してくれるか」
「はい、いつも通り」
ここで動くのは秘書艦鳥海。白雪からタブレットを借りると、そこに保存された阿手のデータの数を見てギョッとする。
「これはまた、膨大な数のデータを」
「これで1%くらいです。大分絞ってきました」
「何故こういうところばかり几帳面なんでしょうね……」
話しながらもデータを手早く確認していく。その指先の動きは、ハッキングしている白雪に勝るとも劣らない。
フォルダを開いては、中のデータをさらっと確認し、そして次へ。今は内容まで事細かく読むことはしておらず、そのデータが怪しくないかの確認をしているのみ。
「データにウィルスが仕掛けられているかと思いましたが、そんなことは無いようですね。本当に研究記録を細かく整理しているだけのように見えます」
「まぁウィルス仕込んでるなら、ファイル自体がおかしくなるだろうからな。気になるのは動画ファイルだが」
「いくつかありますね。何のために残しているのかはわかりませんが、そちらはもっと細かく解析してから開くことにしましょう。今は文書データのみを確認します」
阿手の性格から、論文のようなモノを残すようには思えなかったのだが、そこは過去の自分を省みるために、ほぼ全ての研究の記録を残しているようであった。
「あくまでも提督という役職は踏み台だったようですね。艦娘という
データの中にある文書を恐ろしい速さで読み解いていく。鳥海の特技、速読がここで披露された。
調査隊の秘書艦を務めることが出来る鳥海は、基本おおわしから外に出ない。昼目提督の隣に常にいる。その理由は、調査結果の確認が、誰よりも速いからである。
これまで行なわれていた調査を、鳥海は全て出来てしまう。アナログな解錠も、デジタルなハッキングも、パワーでの強引な進行も、全て鳥海だけでやろうと思えばやれること。しかし、特化した者に任せた方がことは早く進む。だが、この速読、データの解析速度だけは、他の追随を許さない。
データの最終確認をさせたら、調査隊トップ。昼目提督も、その力を買って、秘書艦に置いているのだ。鳥海自身も、今の立ち位置を好んでおり、提督を守りながらも情報解析をするという秘書艦の在り方に誇りを持っている。
「……あの速度でデータは読めませんね……。鳥海さんなら、現場でデータを読み解くことも出来たかもしれません」
「どれくらいありました?」
「1万は確実に」
「ざっくりであれば、2時間貰えれば」
「速すぎでは?」
そうこうしているうちに、白雪の持ってきたデータをある程度読み終えたようで、タブレットを返す。
「危険なデータはありませんでした。穢れまみれのデータではありましたが、実害を及ぼすデータは存在しません。これに関しては、誰かに奪われるとかそういうことは考えていなかったのではないでしょうか」
「それだけ厳重に隠してたんだもんな。不誠実な研究を、誠実に管理してたってわけだ。そこに罠も仕掛けることなく、自分にしか見られないようにしてな」
「ですね。むしろ、研究を続けるにあたって、そんな余計なことはしたくなかったんでしょう。だから管理体制を強くしたと考えられます」
白雪のデータを、今度は自分のタブレットの方にコピーする。AIを使った取捨選択から、鳥海自身の取捨選択で、最も重要なファイルを絞って。
「深海棲艦化の成功例をいくつか、特殊な力を引き出す方法……これは多めに読んでおきましょう、自らの改造記録とその力の発露はああなった理由についての話に繋がるのでほしいですね。……あとこれは公表していいモノですか?」
昼目提督にチラッと見せたデータは、妖精さんを材料とした非常に残酷な研究データ。昼目提督は事前に忌雷の材料のことについては知っていたものの、それが現実に研究成果として記載されているデータが存在することを確認すると、途端に嫌そうな顔を見せた。
鳥海はここで初めて忌雷の正体について知ることになったのだが、表情一つ変えていない。いや、内心は驚きで染められていたのだが、ポーカーフェイスを貫いている。
「……うみどりでは公表したらしいぜ。ハルカ先輩から聞いた。あっちで穏やかになった自然発生の忌雷が保護されたらしくてな、隠していられなくなったらしい」
「そうですか。では、これもまた後から周知しておきましょう。これもまた、今後必要となるデータです」
淡々とデータを整理して、大分少なくなったところで一旦終了。ここからデータをじっくり読み込んで、阿手のやってきたことを解析する。そこから、今も山積みになっている問題の解決に繋がるかを研究することになるだろう。
おおわしで研究することは出来ても、それを実現させようと思うと、普通の艦娘では難しいかもしれない。となると、頼りになるのはうみどりの主任と明石になる。
「ひとまずこれくらいあれば解析も出来るでしょう。司令官さん、大本営やうみどりにも渡せるかどうか、最終確認をお願いします」
「おう、大概大丈夫だと思ってるけどな」
鳥海からタブレットを渡され、中をざっくりと確認していく。途中、眉を顰めることもあったが、そこには私情を挟むことなく、今は提督としての職務を優先。
「ざっくりでえげつねぇことやってるってわかるな、あのクソ」
「はい。世間には公表出来ないことばかりです。ですが、私達には有用な情報も」
「だな、こいつがあれば、深海棲艦に変えられちまった連中を、元に戻すことが出来るかもしれねぇ」
少し読んだだけでも、それが出来そうであると思えるほどのデータ。昼目提督は、そちらの分野に関しては素人なのだが、それでも直感的にこのデータは使えると思えるほどに。
「こりゃあ有用すぎるぜ。こいつをみんなに教えてやらねぇとな。だが、もう少し読み込んでおくか。鳥海、構わねぇな?」
「はい、勿論。こちらでも解析をしておきましょう。話すにしても、知っている方が話しやすいですから」
タブレットのデータを昼目提督のPCに送りつつ、今後の流れを考えていく。まずは有益な情報が手に入ったと周知させ、解析が終わったら改めて公開するとし、今は調査隊がじっくりと調査する方向に持っていく。時間はある程度かけてもいい。わからないことが出てきたら、すかさずうみどりに助けを求める。
そこもやはり適材適所。出来るところが出来ることをやるのがベスト。調査隊はあくまでも調査。知らないことが出てきたら有識者を頼る。今回は例外ばかりなので、連携が取れなければ話にならない。
「じゃあ、私達は追加でデータが持って来れないか、また探してくるよ」
「おう、頼む。数が多ければ多い方がいいだろうからな。外付けのハードディスクも好きなだけ持ってけ」
「了解。データが多すぎるくらいだからね。ありったけ持っていくよ」
解析がついに始まり、阿手の研究の謎が紐解かれることになる。これがこれまでの被害者を元に戻すためのきっかけになることを祈って。
響「相変わらず、あの図体でデスクワークしてる姿は面白いね。フィールドワーカーにしか見えないのに」