後始末屋の特異点   作:緋寺

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紐解かれる悪業

 調査隊が地下施設から持ち帰った、阿手の研究成果。隠し部屋に置かれ、非常に厳重に守られていたそれは、軽く目を通しただけでも有用なモノであることがわかるデータのオンパレード。

 それを受け取った昼目提督とその秘書艦鳥海は、すぐさま解析に乗り出す。白雪から貰ったデータをPCに移し、それを全て隈なく確認していく。昼目提督は自分の定位置にあるPCだが、鳥海はタブレットを3()()()()()()()()

 

 

「本気じゃねぇか鳥海」

「なるべく早く目を通したいですよね。ならこれが一番ですよ」

「頼んだぜ。オレにゃそんな真似出来ねぇ」

 

 そしてそのタブレットを2つの手で器用に操り、内部のデータを片っ端から見ていく。同時に3つのデータを確認していくのは、普通に人間技ではない。しかも、ただ見ているだけでなく、内容をキチンと把握しているのだから恐ろしい。

 時折手を止めるのは、真剣に見なくてはならない情報が出てきた時。文章だけではなく、動画まで残しているような研究成果もある。

 

「動画は……あまり人に見せられたものではありませんね……」

 

 鳥海が明確に嫌そうな顔をした。その動画は、よりによって人間に忌雷を寄生させる実験、つまり出来損ないが作り出される映像だった。幸いにも音声が入っていなかったおかげでよかったものの、その光景はあまりにもグロテスク。

 それは成功例として存在しているわけではなく、こういうこともあるというのを研究成果に置いてあるだけのようだが、見ていて気分のいいモノではない。

 

 だがその中に興味深い動画が発見される。

 

「司令官さん、これを」

「おう、どうした」

 

 鳥海に呼ばれた昼目提督は、その動画を確認する。

 そこに映されていたのは、寝かされた妖精さんの姿。いつもセカセカ動き回っているイメージの妖精さんが、気を失ったように眠っている姿は、なかなかに珍しい。しかし、妖精さんとてこの世界を生きている者。不眠不休で働くことなんて出来ない。人間達が見ていないところでしっかり休んでいるし、人数が多いため入れ替わり立ち替わりで休んでいないように見えるだけ。

 

 そんな妖精さんだが、ただ寝ているだけではない。その腕や身体に何か装置が付けられているのが確認出来る。小さい身体に対して、相応なサイズにされた機材が所狭しと並んでいた。

 

「この動画と一緒にあったドキュメントには、第六次実験とありました。あと、『成功』とも」

「成功だぁ? 何をやってんだぁコリャ」

「点滴……ですかね」

 

 腕に接続されているモノはおそらくチューブ。鳥海は点滴と言ったが、それがすぐに違うモノであることがわかる。そのチューブの中には赤い液体──()()()()()()が満たされていたのだから。

 入れているのではなく、出している。献血させているといえば聞こえがいいが、この動画をそのまま見ていけば、この実験が狂気の産物であることが嫌でもわかる。

 

「……妖精さんの顔色、悪くなってるじゃねぇか」

「おそらく……このまま全て……」

「だろうな。データ的に6回目で成功っつってんだ、5回は失敗してるってことだろ。これまでに5人はやられちまってる。で、6人目も……」

 

 見ずともわかる結末。血液を吸い出し、吸い出し、そして妖精さんは眠るように息を引き取る。血を抜くだけならば、少し貰うくらいでもいいのに、その全てを吸い出している理由はすぐにわかる。

 

「血から命も取ってんのか。艦娘の魂みたいなモンだな」

「ですね……それが妥当でしょう。成功というのは、命までカタチを残すことが出来たこと、だと考えられますね」

「クソすぎるだろ。失敗の5人は無駄死にさせられたってことだよな」

 

 さらに気に入らないことが動画では続く。血と命を奪われた妖精さんの身体のその後である。げっそりとしているその身体に接続された機材を取り外したかと思えば、事もあろうか丁寧に扱うこともなく、その身体を掴むようにして別のところに持っていく。そして抜き出した命入りの血液が画面の前に置かれた。

 まるで研究成果の撮影をするために、()()()()()()退()()()かのような雑な扱い。深海戦争の功労者とも言える妖精さんに対して、そのようなぞんざいな扱いが出来ることが理解出来ない。

 

「……こいつマジで巫山戯てやがる。これだけでもクソ腹立つな」

「ええ……この実験はおそらく、妖精さんの魂の抽出、でしょうね。データにもそう書かれています。魂の失われた身体は……用済みなのでしょう」

「身体まで滅茶苦茶にしてるってことはないみたいだけどな、それはそれで気に入らねぇ。妖精さんはオレ達の相棒だ。それを雑に扱うなんてあっちゃならねぇ」

 

 憤りながらも動画の続きを見ていくと、その血液に何かわからない装置を使う。すると、その血液の中央に、小指の爪ほどの結晶が作り出された。

 画面の端で動く影が、何処かガッツポーズをしたような見えた。『成功』とはこれのことだったのだろう。

 

 魂の結晶化。これが阿手のやってきた悪の所業の1つ。艦娘の魂も同じようにやっているのだろうが、妖精さんにやるのは尚のこと酷い話である。

 

「……司令官さん、次の動画を」

「おう……」

 

 この1つだけでこれだけ気が滅入っているのだが、他に見つけた動画も確認していく。

 

「これもまた成功とありました。おそらく……深海棲艦化のモノです」

「ついに来やがったか」

 

 動画には全裸で寝かされた人間の姿。そこに先程作られた妖精さんの魂の結晶が用意され、さらにそれに対して何かをしているであろう液体や肉片なども準備されている。

 

「黒い液体……深海棲艦の血か? 肉も妙な色してんな」

「そのようにも見えますが、それだけでは無さそうです。魂の結晶を使う事で、特殊な反応があるような……黒と言っても、少しだけ鮮やかというか、澱みが無いように見えます」

「……クソが、なんてことしやがる」

 

 実験が始まり、寝かされた人間の胸元がメスで切り開かれたかと思うと、用意されていた肉片がそこに埋め込まれる。そして妖精さんの魂の結晶を通した黒い液体を流し込みながら、さらに用意された何かが傷口に押し当てられた。

 

「ありゃあ……深海棲艦の艤装片か?」

「ですね。肉片だけで足りない部分を艤装で補っているのかも」

「肉片だけだと身体だけなのかもしれねぇ。艤装片がありゃ、そこからそいつの艤装も生まれるって寸法が。質量どうなってんだよ」

「艦娘とは違いますねやはり……」

 

 話している間に、映像の中では予想通りのことが起き始める。埋め込まれた人間の身体がビクンと跳ねると、身体中の血管に黒い液体が通っていくかのように線が現れ、肌を白く染めていく。身長や体格まで当たり前のように変化していくが、その時の身体の蠢きがあまりにも気持ち悪く、しかし昼目提督と鳥海はそれから目を逸らすことはしない。

 

「添付されていたドキュメントに、『海水が必要だった』とありますね。深海棲艦化には海水が必要ということでしょう」

「何処にンなモン……いや、わかった。あの寝かしてるベッドか。今水が跳ねたぞ」

「少しでも浸しておく必要があると。ですが、やはり勝手が違いすぎます。自由に出来るような技術ではありません」

 

 動画の変化は佳境へ。人間は完全に深海棲艦──今回は空母棲姫へと変化したようで、変化と同時に衣服も完成している。また、広く取られたベッドの横の空間には、空母棲姫ならではのあの巨大な艤装も構築され始めていた。これにはしっかりとした資源も必要なようで、そこに置かれた深海棲艦の残骸がその構築の手助けとなっている。

 艤装の構築に妖精さんを使っておらず、自然と組み上がっていく様は、艦娘の建造とはまるで違う光景だった。

 

「……オレぁ夢でも見てるのか。それともコイツはCGか」

「残念ながら現実ですね」

「深海棲艦がオレ達人間には理解出来ないモンってこたぁ理解してるつもりだったが、コイツはそれでもおかしいとしか思えねぇ。妖精さんの力がこういうところにも絡んでるのか」

 

 動画を見てもそれは理解が出来ないモノ。こういうモノなのだと納得するしかない。そして、阿手はそれを当たり前のように使いこなしていたと。

 

「……司令官さん、こ、これは……」

「どうしたよ」

 

 次の動画と鳥海が出してきたモノ。そこに映っていたのは、知った顔である。

 

「白雲……! うみどりのか!」

「おそらく。始まりではまだ艦娘の姿ですが、用意されている材料はさっきの動画と同じ……いや、少しだけ違いますね。魂の結晶が、2つ……?」

 

 呪いに支配されて島に襲撃をしたが、返り討ちに遭い捕えられた白雲。その改造の風景が動画として残されていた。先程の人間を改造するモノと殆ど同じであり、全裸で寝かされた胸元をメスで切り開かれ、そこに深海棲艦の肉片を埋め込まれているが、先程とはさらに違うところがあった。

 それが、妖精さんの魂の結晶をも一緒にされたということ。曲解は妖精さん由来では無いかと言われていたが、白雲のこの施術によって、その説がさらに濃厚となる。

 魂の結晶を特機は見つけることが出来ていないので、体内に取り込まれたら最後、完全に溶け込むのだろうと思われる。忌雷に寄生されているのとも違って、掻き集めてもう一度外に出すことも出来ない。

 

「なるほど、一つは()()で、もう一つが能力に繋がるわけですか。やはりあの特別な力は妖精さん由来で間違いありません」

「だな。しかも、一度植え付けられちまったら取り除くことも多分出来ねぇ」

「……相変わらず、酷い話ですね」

 

 もう、そうとしか言えなかった。

 

 

 

 

 深海棲艦化の謎はついに紐解かれていく。凄まじい光景ではあるが、これが真実。気分が悪くなるような光景の動画はまだまだ続く。

 




妖精さんの魂を使った構築というのはやはり正解でした。ただ、繋ぎ用の曲解用で分かれています。
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