後始末屋の特異点   作:緋寺

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さらなる調査

 外が暗くなってきて、この日の作業は終わっていく。うみどりの後始末と、おおわしの調査は、大体同じくらいの時間で撤収が始まった。

 今日も今日とて海中で作業をし続けていた深雪と電は、そのままうみどりに戻るのではなく、一旦海上に浮上して状況を確認してから戻ろうと考えた。海上の方が人員は多いため、作業は大分進んだだろうと思いながら。

 

「お、残骸とかはあんまり見えないな」

「なのです。みんなで片付けてくれてるのです」

 

 ぱっと見では酷いことになっていない海。穢れが見えているわけではないため、実際は海水がまだまだ汚いというのはあり得ることなのだが、2人にとっては後始末がかなり進んでいるように思えた。

 4日もやっていれば成果は見えてくるモノ。その上で、増援まで来たのだから、進んでいないわけがない。だだっ広い海であっても、そこはプロの作業をしっかりと見せつけてくれる。

 

「やぁ、ちょうど浮上してきたのかい?」

 

 そこにたまたま調査隊の面々が通りかかる。これまでにない疲れた顔をしているようだった。

 

「おう、海ン中はなかなか進んでるぜ。いろいろあったけど、綺麗っちゃ綺麗になってきたんだ。今は煙幕塗れにしてるけどな」

「それはよかった。私達では手が届かないところだからね。うちの海防艦達も頑張ってるかい?」

「ああ、そこはぶっちゃけ、あたしより出来てると思う」

「本職といえば本職だからね」

 

 普通なら世間話になるが、やはり疲れた顔は見逃さなかった。飄々としている響ですら、表情は変わらずとも明らかにそれが見えている。

 

「なんか疲れてんな。調査隊も結構ハードみたいだな」

「ああ、それはもうね、後始末に比べれば肉体労働なイメージは無いけれど、今回ばかりは体力にも繋がるものでね」

 

 戻りながら今回の調査の話をすると、深雪と電はなるほどと納得。

 

「あそこを往復してんのか。そりゃ疲れるな」

「神経も使うのです。大丈夫なのです?」

「この程度でへこたれるほど、調査隊も柔じゃないさ。それに、神通さんはこれも鍛錬だと思っている節がある」

「節ではなく鍛錬です。心身共に鍛えられる機会ですよ」

 

 そんな神通も、今回の仕事に疲労感は拭い切れない様子。むしろ鍛錬と思わないと嫌になってきそうというのもあるようだ。

 何せ、調べていること、運び出している情報は、あの阿手が溜め込んだ研究結果。その内容を事細かく見ているわけではなくても、その膨大な量と、少しだけでも見えるデータファイルの名称からして、何をしているのかが嫌という程わかるため、それを確認するたびにげんなりしてしまうモノ。

 特にデータの引き出しをしている白雪は、響と神通以上にそのデータを目にすることになるため、2人以上に疲れた顔をしていた。

 

「でも今頃、司令官がデータの解析をしているからね。私達よりずっと疲れているんじゃないかな」

「……そんなにか」

「そんなにだよ。正直、私もアレを細かく見るのは御免だね。多分グロ動画もいくつかある」

 

 想像しただけで嫌な気分になった深雪は、詮索をするのをやめた。軽い気持ちで踏み入ってはいけない領域だとすぐにわかったし、その調査結果はいずれ自分達にも話されることだろう。門外漢な自分達は、その時を待てばいいと、今は触れずにいることを選択する。

 

「でも、この解析が終わったら、深海棲艦にされた人達を元に戻す手がかりが見つかりそうなんだ」

「マジか! それはありがてぇ!」

「ただし、あまり高望みはしない方がいいよ。手がかりとは言ったけど、戻せないことがわかる可能性だってある。阿手は全く後のことを考えないような奴だ。不可逆はあり得る話だろう」

 

 それには何も言い返せない。とはいえ、研究成果から何かがわかるというだけでも、光が見える可能性があるならば、それを追い求めたいモノである。

 こちらの目指しているのは、阿手の被害者を全員救うこと。そして、阿手の痕跡を何もかも消すこと。この世界にいたこと自体を否定すること。

 

「今は私達に任せておいてほしい。私達も後始末を任せてしまっているからね」

「ああ、適材適所ってヤツだな。後始末は後始末屋に任せてくれよな」

 

 おおわしでのデータ解析は、この事態を変えてくれる。深雪達はそれを信じて、今はやれることをやるだけであった。

 

 

 

 

 深雪と電がうみどりに戻ると、工廠で出迎えてくれたのは、なんとあの保護された深海忌雷だった。何本も生えた触手を器用に使い、工廠の雑務をしているという、想像していなかった光景。

 

「お、おう……これは予想してなかったぜ」

「調査されていたはずなのです。それも終わったのです?」

 

 電の問いに、頷くように身体を蠢かせる。そういう行動自体は、特機とかなり似ていると思えた。

 共通点として、その体内に妖精さんの要素を含んでいるということ。行動に妖精さんが滲み出ていると考えると、見た目はアレでも愛着は湧いてくる。特機を見慣れており、かつ友好的に感じているのならば、この忌雷だってそうやって受け入れることは出来る。

 

「お前も、妖精さんの何かを持ってんだよな……どうやってそうなっちまったのかは今調べてもらってっけど、お前にゃ誰も手ェ出しゃしねぇよ。これからよろしくな」

 

 忌雷の身体を撫でてやると、嬉しそうに身体を蠢かした。やはりこういうところも妖精さんらしさが出ている。人懐っこくて、友好的。触手を伸ばして、深雪の腕に絡めると、まるで握手をするように揺すった。

 

「コイツは燻さない方がいいんだよな、多分」

「なのです。特機に変えちゃうのは、多分違うと思うのです」

 

 友好的な忌雷というのはこれまでに無く、それをわざわざ燻して特機にするのは違う。特機はあくまでも最終手段。性質を変えるのは、そうしなければ害があるからだ。害が無いならばやる必要はない。

 

「……なんかお前、ちょっと臭くないか?」

 

 言われると忌雷は恥ずかしそうに身体を蠢かせた。腐った惣菜の臭いがどうしてもまだ取れておらず、近付くとそれがわかってしまう。現在はセレスの料理でその辺りをカバーしようとしているらしく、いろいろと手を尽くしているらしい。

 

 この臭いに関しても、調査をしなくてはならない点だったりする。妖精さんの成分が含まれた惣菜の謎も解き明かさねばならない部分であり、そのせいで食物が腐りやすくなっているとなると、この忌雷が食べた成分がどうなっているのかが気になるところだ。

 それもまた今、調査隊の方で解析が進んでいたりするのだが。

 

 

 

 

「大きな情報が大分揃ってきたのね……やっぱり妖精さんの命を……」

『うす。今は一旦そのことを報告させてもらいました。詳細は、そっちの明石と主任に任せたいところなんで』

 

 工廠の奥、昼目提督と通信している伊豆提督は、その話を丹陽や明石と共に聞いている。今後のうみどりでの解析の方針を決めるためだ。

 

『なんで夕食の前にそういう話が出てくるんじゃ……』

『すんませんオジキ。報告はなるべく早い方がいいと思って。あ、後から手に入れた動画送っときますんで確認頼んます』

『今は見ないよ!?』

 

 そして、そこには瀬石元帥も。妖精さんの命を吸い出し、魂を結晶化させる実験から、人間や艦娘を深海棲艦に変える施術、曲解の与え方、そして、()()()()()()も確認出来ているため、報告されている。

 

 杏を含めた島の者達に振る舞われた食料は、やはり妖精さんから抽出された血液が含まれていた。魂の結晶を作り上げた時に残った、抽出されなかった液体。阿手からしてみれば、()()()()()()を調味料のように見立てて混ぜ合わせていたのだ。

 魂は抽出されても、妖精さんの成分であることには変わりない。それを取り込んだ者は、血液にその成分が混入し、馴染み、自覚なきまま妖精さんの特性を得られてしまう。そうすることにより、阿手は自分の手中に収めていたというわけである。

 

 また、杏達に仕込まれた暗示についても解明された。遠隔的な催眠であり、救われる前提で考えられた姑息な罠。うみどりに到着すること、伊豆提督の姿を認識すること、そして()()()()()()。この3つが全て達成された後、島の深部にいる阿手が、やれと命令することで、自我を失い襲いかかるという寸法だったという。

 その時には阿手がいなくなっていたため、命令系統が混乱しており、本来やることになっていた情報が来ることもなく、しかし受け入れ態勢だけは出来ていたために脳波が乱れた。むしろ、それだけで済んだことをヨシとしなくてはならない。

 

「阿手を斃せてたから、これで済んだのね……。なら、配置転換でうみどりに縛り付けておく必要も無くなったわけよね」

『おそらくは。不安要素はありますぜ。少なくとも、島の処理が終わらないと戻せないとは思います』

『何かの手違いで、島から催眠の指示が行ってしまっても困るからのう。それが絶対に大丈夫と言えるようになるまでは、今のままがええじゃろうな』

 

 カテゴリーY達の処置は、現状維持を保つ。今はそうとしか言えない。

 

「その動画、こちらに全て送ってもらえるんですよね」

『おう、今すぐ送る。ハルカ先輩経由で見せてもらってくれ』

「了解です。解析をすぐに始めたいと思います」

 

 明石はその話を聞いて俄然やる気を出した。あの肥大化した深海忌雷の調査も難航しているため、頼れるヒントがあるのならいくらでも頼りたい。それが山ほど手に入るというのは、ありがたすぎて表情が崩れるほどである。

 逆に丹陽は、阿手の研究成果と聞いてあまりいい顔はしていない。それに頼らなくてはならないのは仕方ないにしても、自分達が阿手に辿り着けなかった、つまりは技術力だけは阿手の方が上という事実を認めなくてはならないことが気に入らないようである。

 

「それじゃあマークちゃん、ここからも共同戦線で」

『うす、どんどん進めましょう。オジキ、また追って連絡しやす』

『もう少し胃に優しい連絡がいいのう』

「それは諦めてください」

『わかっておったわい!』

 

 

 

 

 まだまだ調べることは多いが、データが手に入ったことで、調査解析は加速する。

 




おいたわしやお爺ちゃんの胃
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