後始末屋の特異点   作:緋寺

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別の集落

 後始末の中、調査隊が地下施設を調査して回っているが、調査は何もそれだけではない。地下施設に直通していた学校もそうだし、施設に直接入ることが出来る山の出入り口など、まだまだ探さなくてはならない場所は多い。

 その中でも、戦場にすらならなかった、深雪達の侵入した集落とは逆方向の集落。こちらに、数人の後始末屋が向かうことになった。

 

 理由は非常に簡単なこと。今保護している深海忌雷のようなモノが現れた時、手っ取り早く対処出来るのがうみどりだからである。

 

「お姉様が海底で作業をしている以上、万が一の場合は、この白雲が凍りつかせて動きを止める、ということでございましょう」

「そーゆーことだね。シラクモの力は便利だからねぇ。だからイソカゼも一緒なんだよね」

「おそらくな。白雲の力をより活かせるようにするためだろう」

 

 今回のメンバーは、白雲、グレカーレ、磯風。リーダーは機転を利かせるグレカーレであり、白雲と磯風は何か見つけた時に『凍結』と『空冷』によって足止めをする。

 さらにそれでは足りない可能性を考慮して、追加の人員。

 

「イリスお姉様の力を借りてきました。何かあった場合はすぐに伝えます」

「頼りにしてるよフレ子」

 

 イリスの眼の力を自らに『量産』したフレッチャー。もしかしたらまた『迷彩』を持つ敵が潜伏している可能性があるため、その力は必須である。

 それもあってか、今回も後始末の名目でありながら、全員1つは兵装を持つようにしていた。白雲は相変わらず鎖一本だが、他の3人は主砲を1つずつ装備。

 

 島での戦闘は終わっているが、こちらの集落は戦闘に巻き込まれていないため、まだ何かが仕込まれていてもおかしくはない。逆の集落はいろいろとあったことでゴミや残骸が散乱し、片付けるのも厄介な状況になっていたが、こちらは街並み自体は何も受けていない、非常に綺麗なゴーストタウンと化している。

 前回の深海忌雷の件もあるため、ほんの少しの物音、そして()()にも注意を払う。妖精さんの血が含まれた惣菜が腐っているというのも、こちらの集落で起きているかもしれない。

 

「穢れが見える眼鏡を使ってみるとー……うっわ」

「見るに堪えませんね。あまりにも、穢らわしい」

 

 ぱっと見でわかるくらいに穢れが蔓延している集落。これはもう島全体の話なのだろう。何処も彼処も穢れに穢れ、こびりつくとかそういう言葉では言い表せないくらいになってしまっている。

 

「デッキブラシ持ってくれば良かったかな」

「それでは足りんだろう。話には聞いていたが、ここまでとは……」

 

 先んじて陸を見ている神風達から、覚悟はした方がいいと聞いていた。しかし、それは言い過ぎなのではと心の何処かで思っていた。実際に目で見てみると、その異常さが嫌という程わかる。

 とはいえ、この集落は戦闘が起きていないため、ただひたすらに穢れが蔓延しているだけというイメージ。戦闘が無かったのにコレかという感想は捨てきれないが。

 

「ゴミらしいゴミはありませんね。治安は良かったのでしょうか」

「根幹が歪んでいる場に、治安などあったモノでしょうか」

「……言い返す言葉もありませんね」

 

 フレッチャーが治安と言ったのは、街並みとしては小綺麗にされていること。ゴミが散乱しているとか、明らかに見た目から汚れているとか、そういうところは何処にも無い。路地裏ですら割と整理されていると感じる。

 少々汚くなってしまっているのは、ゴミ集積所くらい。回収業者がいるのかどうかはさておき、放置されてそのままになっているせいで、どうしても汚れてしまっている。

 あとは、施錠されている家の中は怪しい。表に見えていないだけで、中で何が起きていてもおかしくない。少なくとも、深海忌雷はこの穢れの中で生まれ、そして惣菜を食い荒らしたという実績を持っている。

 

「後始末しなくちゃいけないようには見えないね。肉片とか無いだけですっごくありがたいよ」

「だが、この穢れはどうする。海水のように濾過は出来んぞ」

「それだよねぇ。薬の雨を三日三晩降らせて地面に浸透させる? 何年分の蓄積なのさコレ」

 

 何処を見て回っても穢れ穢れ穢れ。心が弱い者なら、これだけで吐き気が来そうな光景。眼鏡を外せばそれも無くなるのだが、むしろそれが問題。上っ面は綺麗ということで、この島に根付く危なさに気付けない。

 目に見えないところまでびっしりと染み付いている穢れの対処法は、未だに見つかっていない。地道にやったとしても、年単位のプロジェクトになってしまいそうなのが恐ろしい。

 

「フレ子、敵とかはいない感じ?」

「はい、今のところは見当たりません。見えない敵の存在も確認しておりませんね」

 

 幸い、ここに敵がいるようなことは無いようである。自分達の音以外は聞こえない。家の中から物音も無い。本当に無人と言える。

 だが、最初から無人というわけでは無いと思われる。あの戦闘の時には、逆の集落には出来損ないも含めて敵はいた。こちらでも確実に待ち構えていたはずだ。

 

 なので、今一番恐れなくてはならないのは、放置していたことによって潜伏していた敵が()()()()()()こと。惣菜が思った以上に早く傷んでいたことを考えると、想定よりも早く食料が尽きることは考えられる。

 

「家を開けたら死体がありました、なんてこともありそうだなぁ」

「それは……ええ、ありそうですね」

「だからなるべく開けたくないね。まずは外回りだけにしたいね」

「厄介事を先送りにしているだけだな」

「そもそも鍵かかってるし、ぶっ壊さないと開けられないからさぁ。後回し後回し。そういう意味でも神風に来てもらうべきだったかもね」

 

 グレカーレ達に鍵のかかった扉を開ける手段はない。流石に主砲で破壊となったら、壊れてほしくないところまで壊れてしまう。神風に斬ってもらうか、調査隊に頼むかしかない。

 

「トラ様から聞いていた商店、見えて参りましたよ」

 

 そんなことを話しながら集落を探索していると、こちら側の商店を発見する。ここに住まう者達が活用する場所なだけあって、それなりに大きいが、やはり無人であるため、独特の不気味さを醸し出している。

 そして、()()も逆側の集落と同じことになっていた。

 

「くっさ! これ、マジで!?」

「……ここまで傷むモノだろうか。あまりにも酷いぞ」

 

 近付いたことでわかる、傷んだ惣菜の臭い。うみどりに保護された深海忌雷が醸し出していた臭いとほとんど同じだとわかる。

 

 妖精さんの血が混ぜられた惣菜は、普通の惣菜よりも明らかに傷むのが早い。それは、穢れを生み出すことになる妖精さんの怒りによるモノにも思える。血を抜かれ、命を奪われ、それを私利私欲のために利用される。その怒りと憎しみが、周囲を腐敗させているのではとすら感じる。

 そこにそれが混じっていると知れば、そういう予想も出来てしまうというモノ。穢れの原因が直に影響を与えていると。

 

 実際、穢れを感知する眼鏡を使ってみると、この商店の穢れは尋常では無かった。汚れているという言葉では言い表せないくらいの、一瞬目を逸らしてしまうレベルの穢れ。

 

「あっちの集落だと、このお店から忌雷が見つかったんだよね……そりゃあ生まれるわ、こんなところ」

「あまりにも穢らわしい……今すぐにでも浄化したいものですが……」

「簡単ではないだろうな。そもそも中に入るのも躊躇われるぞ」

 

 全員が鼻を押さえながらその商店の前に立ち尽くす。どうするんだコレと、考えが纏まらない。

 

「……よし、一回帰ろう。対策考えてからまた来ればいいや。無理無理無理、こんなの今出来ない出来ない」

「まぁ……そうなるでしょうね。白雲もグレ様の意見に賛成でございます。今の我々には、やれそうなことはございませぬ」

「凍らせても関係ないなコレは……」

 

 結局、()()()()()を選択。後始末屋として、この集落をどのように片付けるかは、うみどりに戻って相談ということで決着をつけた。

 

 しかし、何を思ったのか、フレッチャーがその商店に恐る恐る近付く。

 

「フレ子?」

「シャッターは閉まってますが、裏に窓がありますね……念のため、中を見ておこうかと。何かしら彩が見ることが出来れば、また方針が決められるかもしれませんから」

 

 それはそれで勇気がいることではあるのだが、確かにとグレカーレも納得して、フレッチャーと共に窓に近付く。その分臭いも強くなるので、少し涙目になってしまっている。

 

「うぇ……臭すぎ……。フレ子よく耐えられるね」

「キツいですよ……でも、我慢します」

「わお力業。でもそれしかないよね……」

 

 一刻も早く離れたいという衝動に駆られながらも、これも仕事だと窓まで近付いた。

 曇りガラスになっていたため、そこから中を見ることは出来ず、フレッチャーは勇気を出してその窓を開くことが出来るか確認する。すると──

 

「鍵、かかっていません」

「マジかぁ……じゃあ」

「見てみます」

 

 開くことがわかってしまった。ならば、見てみるしかあるまいと、窓をゆっくりと開けていく。

 

「臭っ、くっさ! は、吐きそう!」

 

 内側の空気がぶわっと出てくることで、より濃厚な臭いが叩きつけられる。込み上げてくるモノを感じ、グレカーレは思わずその場から離れた。だが、フレッチャーはその中にいるモノを見たことで、そこから離れることは無かった。

 

「フレ子?」

「……あちら側の集落で、深海忌雷を発見しているのですよね、自然発生の」

「……まさか」

 

 フレッチャーが小さく頷く。こちらでも何かが生まれてしまっているということを如実に表していた。

 

 すると、フレッチャーが少しだけ窓から離れる。目を見開いて驚きから言葉も出なくなっていた。

 

 

 

 

「オ客サンカイ?」

 

 明らかに深海棲艦の声。そして、声色からして友好的な態度。生まれたのが何かはさておき、そこにいたのは言語も使えるほどに成長したナニカだった。

 




そりゃいるよねって話である。
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