後始末屋の特異点   作:緋寺

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平和的なソレ

 島襲撃の際に侵入した方とは逆の集落を探索するグレカーレ達は、こちらでも商店を見つける。相変わらずの酷い臭いの中、フレッチャーは裏の窓から中の確認をした。幸か不幸か、その窓は開いており、中を確認することが出来たのだが、そこにいたのは──

 

「オ客サンカイ?」

 

 明らかに深海棲艦の声。そして、声色からして友好的な態度。生まれたのが何かはさておき、そこにいたのは言語も使えるほどに成長したナニカだった。

 

「……え、えぇと……あなたは」

 

 フレッチャーはそうとしか言えなかった。そこにいたのは、性別すらわからない、人と呼んでもいいかもわからない存在なのだから。

 

 その存在は確かに深海棲艦である。イロハ級の1体、軽母ヌ級だった。空母ヲ級が被っている帽子のような艤装にそのまま首から下が生えたようなその見た目は、何処からどう見ても異形。まだ身体らしいモノがあるものの、バランスは人とは完全にかけ離れており、今も何処か前傾姿勢な状態でフレッチャーの方に身体を向けている。

 イロハ級が人の言葉を話すというのは、これまでで一度も無かったこと。ムーサの部下である副官ル級ですら、これまでに一度も人の言葉を発していない。高波とも身振り手振りで意思疎通をしているくらいだ。それなのに、このヌ級は当たり前のように喋った。

 

「ココデ生マレタンダケドネ、何テ名乗レバイイカワカラナイネ」

 

 そんな受け答えが出来るほどに賢い。姿形はそれでも、中身は確実におかしな進化をしている。

 傾向として、先日保護された深海忌雷や、遡ればムーサと同じだ。妖精さんの成分を取り込んだことによって内側で何かが変化していき、今に至っていると考えられる。

 

「とりあえず、ヌ級でいっか。見た目はそれだし」

「ヌキュー、ヌキューネ、ワカッタ」

 

 少々言葉の音が違うように思えたものの、ヌ級はグレカーレに自分の名前を与えられて喜んでいるように見えた。異形の深海棲艦には表情が見える要素が何処にもないが、それでも感情が見えるかのように。

 そういうところは特機に近い。身体の動きで感情を表現するような、大袈裟な身振り手振り。

 

「君達ハ、ココノ食ベ物ヲ取リニ来タノカナ。イイヨ、少シ持ッテイキナヨ」

「い、いえ、そういうわけではなく、私達はこの周辺を調査しているんです」

「調査? ヌキューガ生マレテカラ、夜ガ3回来タクライダケド、何モオカシナコトハ起キテナイヨ」

「いやアンタが生まれたことがおかしなことだから」

 

 グレカーレも思わずツッコミを入れる。本来なら陸で簡単に深海棲艦なんて生まれない。しかも、普通に海上艦である。

 

「アンタ、生まれた時からそんなだったの?」

「違ウヨ。最初ハモット小サカッタ。デモ、ココノ()()()()食ベ物ヲ食ベテタラ、コウナレタンダ。ヌキューニモヨクワカラナイケドネ」

 

 小さいというのはどういうことだろうと思いつつ、こういう感じかと特機を見せると、それそれとヌ級は頷く。

 こちらも深海忌雷として生まれたが、ここにある傷んだ惣菜を食い散らかしていくうちに成長し、そして今のカタチとなっている。夜が3回来たと言っている辺り、生まれてから3日。おそらく保護した深海忌雷と同じくらいに生まれて、あちらとは違って保護されずにさらに惣菜を食い続けたことで、忌雷ですらなくなった。少し見ない間に忌雷がサイズアップしていたわけだが、それを越えるとこうなると実証されたようなモノ。保護が遅かったら、あの忌雷も何か違うモノに進化していた可能性が非常に高い。

 

 それにしても、ここの惣菜を美味しいと断言した辺り、味覚がかなりズレている。あの忌雷も同じように考えているのだろうが、言葉としてその思いを口にされたら、尚のことわかりやすい。

 

「……例えば、ここの惣菜に使われた妖精さんが、艦載機の妖精さんばかりだったとかなら、食べ続けた忌雷は空母になるとかあり得るでしょうか」

「あり得るかもねぇ。うちにいる忌雷は、工廠妖精さんを使われた惣菜だったとか?」

 

 妖精さんの特性を食べて取り込んだというのなら、その得意分野も取り込んでいる可能性はかなり高い。この忌雷は空母に関係のある艦載機妖精さんを食べたから空母になった。それは普通にあり得ることだ。

 そうなると、ここの惣菜を食べ続ければ、いずれ空母ヲ級になったり、空母棲姫になったりもするのかもしれない。惣菜に他の妖精さんが混じっていたら、その限りではないだろうが。

 

「ア、ソウダ。オ願イガアルンダケド」

 

 そんなことを考えていると、ヌ級が急にお願いと言い出した。

 

「ヌキュー、ココカラ出ラレナインダヨネ。コノ窓小サイシ」

「ああ、確かにアンタ、かなりでっかくなってるもんね。扉も通れないだろうし、シャッター開けてやらないと、ここから出ることも出来ないか」

「ソウソウ。コレ、開ケ方ワカラナイカラサ」

 

 スイッチなどがあったとしても、おそらく開かないだろう。阿手が敗北したことで、集落への電力供給はストップしている。地下施設のインフラは整い続けているというのに。

 

「あたし達だと、シャッター壊そうにも店諸共壊しちゃいそうなんだよね。持ってるの主砲だし」

「白雲さんに凍らしてもらったとしても、開くわけではないですからね」

「ならやっぱりカミカゼ連れてくるしかないかぁ。それかウメかな。全部『解体』してもらうか」

 

 このヌ級を商店から外に出すなら、それ以外の選択肢は無いだろう。どういうカタチでもイイので、シャッターを破壊する。そこからの入り口が狭いというのなら、そこも破壊する。

 前回は忌雷だったので運ぶことにも苦労したが、今回はヌ級、手脚が生えており、自分の意思で移動も可能である。出入り口さえしっかり作ってしまえば、ヌ級自身に行動してもらえる。

 

「ちなみに、ここから出て何するつもりだった?」

 

 グレカーレがヌ級に問う。出られないと訴えてきたということは、ここから出たいと言っていることと同義だ。だが、このヌ級が商店から外に出たとして、そこから何をしたいというのか。何のために外に出たいのかはさっぱりワカラナイ。

 

「エ、狭イカラ散歩シタイナッテ」

 

 だが、返答はあまりにも単純かつ平和的なモノだった。深海棲艦が言うようなことではない。ただ狭っ苦しい商店の中から出て、広い集落を散歩するだけ。攻撃なんて考えていないし、むしろやり方がわかっているかもわからない。とにかく、広い空間を歩きたいだけのようである。

 

「……誰よりも平和なこと言ってんね、コイツ」

「はい……逆に反応に困るレベルです……」

 

 ここで生まれたとは思えないくらいの平和主義。深海棲艦だったなら、破壊衝動やら何やらがあってもおかしくないのに、妖精さんの要素を取り込んだことで、ここまで穏やかになる。

 

「……深海棲艦は妖精さんの要素を強く受け取るとかあるのかもしれません」

「あー……自我が薄いからとか?」

「はい、憶測のうちですが。特機も妖精さんらしさがありますし」

 

 艦娘や人間は自我が強いが、本能のままに動き回る深海棲艦は自我が薄い。特に忌雷なんてまともな自我があるかもわからない。そこに妖精さんの要素が加わったら、()()()()()()()()()のも頷けるというもの。

 深海棲艦は環境に染まりやすいということだろう。生まれたばかりの時は本能的に攻撃してくるが、攻撃する必要もなくのんべんだらりと生きているのならば、人類への敵対心も失っていく可能性すら考えられた。

 

「まぁ、こればっかりは何とも言えないや。コイツが特別ってのは間違いないし」

「ヌキューハ特別?」

「特別も特別。うちにも何人かいるけど、明らかに普通じゃないよ」

「イヤァ、ソレホドデモ」

「そういう受け答えが出来るってのが普通じゃ無いんだわ。自覚出来ないと思うけど」

 

 とにかく、ヌ級がここから出たいと言うのなら、出してやってもいいだろう。ただし、それで後始末の邪魔はされたくない。

 それに、今はこうして普通に話しているのだが、やはりどうしても気になることがある。

 

「あの、ここは大変臭いがキツいのですが、あなたは大丈夫なのですか?」

 

 ここの臭いだ。ヌ級にそういうことを感じることが出来る器官があるかどうかわからないが、グレカーレもフレッチャーもそろそろ限界が近い。

 

「臭イ? ソウハ感ジナイケド」

「そりゃあずっとここにいるからだろうね。ここ、酷いことになってるんだけど」

「ソウナンダ」

 

 などと言いながら惣菜を手に取り、その巨大な口で貪り食う。ケースごとバキバキと食っていく姿はまさに異形。とはいえ、完全に人間のカタチで忌雷を当たり前のように食べていくムーサの方がどちらかといえば見た目が恐ろしいのだが。

 

「とりあえず、ここから外に出たら、アンタを思い切り洗いたいんだけど」

「洗ッテクレルノ?」

「それくらい臭いますから……」

「ジャア、ヨロシク」

 

 臭いについては、ヌ級は全く興味がないような素振りである。自分がわからないからというのもあるだろうが、それがあったところで何も不便ではないというのもある。

 外に出たいという割には、そういうところは無頓着。そういうところも、人間の価値観を持っていないということになる。進化はしているが、ただそれだけ。まだ一般社会での生活は無理と言える。する必要は無いかもしれないが。

 

「それじゃあ、ここを開けられる仲間を連れてくるから、あんまり食べないで待っててくれない?」

「ン、ワカッタヨ」

 

 本当にわかっているかはわからないが、ひとまずここでじっとしてもらっておいて、ここから出てもらうための援軍を連れてくることに。

 

「手取り早いのはウメだね。近くで作業してる?」

「今日も海水の濾過をしていると思うので、呼べば来てくれるかと」

「じゃあ呼びに行こう」

 

 

 

 

 商店に発生した軽母ヌ級。友好的ではあるのだが、人語を介するだけでも少々恐ろしい存在。

 これにより、この島の危険度はさらに上がったと言えよう。深海棲艦が陸で自然発生するという例がまた増えたのだから。

 




商店にいたのは軽母ヌ級。アイツ、ビジュアルがちょっとわかりづらいんですけど、小型化したヲ級で、艤装の部分がまるまる頭になってるってイメージ。でも腕はしっかり育ってはいるんですのね。なので前傾姿勢。
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