グレカーレ達がヌ級を保護している頃、海上で作業をしている他の者達も、島内の異変に気付き始めていた。そもそも数日前に肥大化した忌雷を保護に、そして今はヌ級を洗浄して保護のためにうみどりにつれていこうというところ。その光景をチラリと見ている者達が増えてきたことで、なんか深海棲艦がやたら出てきていないかと思っていた。特にヌ級は目立つ。
「なんかおかしくねぇか。オレらがまだ島にいる時、こんなにバカスカ深海棲艦は出てきてねぇよ。つーか、島の上にいる深海棲艦なんて見たこと無ぇ」
そんなことを言い出したのは、自主的に後始末を手伝っているカテゴリーYの戦艦棲姫、春星。後始末が始まってから5日で2体保護されたわけだが、春星がこの島で生活している期間は、海で生まれることはあっても、島の中から生まれるなんて無かった。長年いるのにこんなこと初めてだと。
「確かに、陸で深海棲艦を見ることは無かったぞ。なぁ、姉上」
「ええ……私達があちら側にいる時も、こんなことは……」
同じように自主的に後始末に参加している居相姉妹も、この光景には違和感しかない。春水よりも早くうみどりに加わっているため、島のつい最近は知らないが、それまでにこのような異常事態が起きていなかったことはわかる。
グレカーレが予想したように、阿手を始末してから、急に湧いてくるようになったとすら思える深海棲艦。特に陸から生まれると言うのは、かつてあった戦争の中でも、陸上施設型が生まれる以外では確認されていない事象である。海上艦は海の上。それが世の中の常だった。
だが、島で発生するのはそんな常識を知らないかのような存在達。まずは忌雷として生まれたようだが、何処かおかしな進化を繰り返している前代未聞の個体ばかり。そもそも発生するということ自体がおかしな話である。
「異常性のある島から生まれた、本来とは違う個体……浪漫を感じられるな」
「……笑い事じゃありませんよ。ここからもっと増えるようなことがあったら、後始末どころじゃ無くなります」
「すげぇなお前の妹。この状況でそんなこと言ってられるっつーのも」
「ほとほと困っていますよ。ただ、稀に核心を突くことがあるので、ひとまず言いたいことは言わせてます」
恵理は相変わらず。舞亞は呆れた表情で溜息を吐く。春星はこの姉妹のやり取りを見て、小さく笑った。
「まぁいいじゃねぇか。この環境でそう言ってられる内は、余裕があるってことだろ。マジで余裕が無くなったら、何も言えなくなるぜ」
「ですね……それは重々承知していますよ。ただ、うちの妹は度が過ぎているわけです」
「キモ据わってるってことだ。いいこといいこと」
話しながらも作業を続けるが、そこで恵理が島を眺めている内に何かを見つけたかのように首を傾げる。
「どうしました?」
「あの辺り……山の上の方で、何か動いたように見えたんだ」
恵理が指差す先。そこにはただ木々が拡がる山があるだけ。動いたと言われても、風で揺れたくらいにしか見えない。むしろ、よくそれが見えたなと感心したくらいである。
「何かあった?」
そんな様子を見たか、濾過が終わったところから艦載機によって薬を散布し、綺麗な海を維持する作業をしていた加賀達空母隊が3人に近付いてきた。加賀も島の様子は気になっていたようで、しかし遠目で見ていても何も変わっていないように思えていたので、恵理のその反応には興味があるようだ。
「山の方で何かが動いたように見えた。それが何かはわからないが、今の島は無人なんだろう。風と言われたらそれまでだが、それとは違う動きだったように感じたんだ」
「貴女、やたらと目がいいのね。防空の姫だからかしら」
「妹は昔から目は良かった方ですが……この身体になって一層良くなったのかもしれません」
本来の作業で言えば注意力散漫と言えるが、今の状況でその観察力はありがたくもあり、そして目を見張るモノでもある。
「姐さん方、飛行機飛ばして見てやってくれませんか。何となくだけど、そうやって気付いたってことは、何かある気がします」
春星が加賀達に頼むと、その方が良さそうねと加賀がすぐさま艦載機を発艦させる。薬剤散布のための艦載機ではあるが、哨戒くらいならその艦載機でも余裕で可能だ。そのまま戦闘に入るようなことはないと考えているため、ひとまず見てもらいに飛ばした。
ブーンと一直線に山へと向かう艦載機。1機だけでは足りないかもしれないため、翔鶴と祥鳳も飛ばし、多角的な視点で山を確認し始めた。何も無いならそれはそれでいい。問題は何かあった時である。
「最悪の場合、深海棲艦……どころか、姫まで生まれている可能性もあるわ」
「ですね……でも山奥に生まれる姫だなんて、聞いたことがありませんよ」
「私もよ。でも、これまでのことを考えてみなさいな。例えば山の上の方に、ゴミを捨てているような場所があったらどう思う?」
残骸が海に捨てられているのは、潜水艦隊によってわかっていること。だが、これまで見ている残骸は、あくまでも深海棲艦のモノがメインだ。あとは艤装のような無機物。
そこから考えると、山奥に捨てられていそうなモノといえば……
「し、死体を埋めている……?」
「あり得る話じゃない。許されることではないけれど、ここでは何人も命を失っているのよ。それを火葬してるか土葬してるかは知らないけど、不必要になったら捨てるわよ。阿手なら」
「……確かに……。あ、そういえば、妖精さんも……」
「そう、それ。
全部海に棄てているとしても、それはそれでよろしくない。正しい廃棄をしてもいないのだから。
「……例えば、だけれど。調査隊が島を見張っていた時があったでしょう」
「はい、そう聞きましたね。その時には何も無かったということでしたか」
「ええ。なら、その時に出たゴミ、海に棄てないなら、何処に棄てる?」
加賀がそう言ったことで、翔鶴も祥鳳もなるほどと眉を顰めた。
「バレねぇように、山ン中に置いてたってこと、か」
「憶測だけれど、あり得る話よ。自然を何とも思っていない連中だもの。汚れたところで、後のことを考えてない。そして生きていたらこう言うでしょう。『お前らのせいでこうせざるを得なかった。だからお前らが悪い』とね」
容易に想像出来てしまう。手柄は自分に、責任は他人にを繰り返してきた阿手なのだから、その悪いことは全てこちらのせいにするだろう。調査隊のせいでなければ、特異点に責任を押し付けている。
「……マジですんませんでした。オレ、それ多分肯定してました」
「いいのよ、ちゃんと理解しているんだもの。貴方はデキた子ね。反省出来る子はそれだけで評価出来るわよ」
「……うす」
春星が少し落ち込んだような表情を見せるが、加賀は落ち込めることがいいことであると慰める。これの何が悪いのかがわからない連中はダメだと言っているし、むしろこれは
何故なら、この近くで、おおわしで管理されている未だ反省が見えない他のカテゴリーY達も渋々作業しているというのもあるからである。
「ゴミは正しく廃棄するのが世界の決まりだもの。まさか、その程度のことをわからないなんて言わないわよね、貴方達」
加賀がほとんど当てつけのように言い放つ。作業している他のカテゴリーYは、それに反抗的な態度を見せることは無かった。反省しているというわけではないが、反発すると後から痛い目を見ることがわかっているから、今は何も言わないというだけ。
しかし、加賀の言葉は刺さっているようで、無言ながらも苦い顔をしている。ゴミの片付けの件は自分達にも何かしら刺さるモノがあるようである。
「何か見つけました。妖精さんから通信です」
その中で、祥鳳が報告する。見つけた、という時点で、そこに本来無いものがあるということに他ならない。
「……加賀さんの予想通りです。海中に投棄出来ていないような廃棄物……特に
「つまり、本当にそういうモノがある、ということね」
「はい……ですが……これは後始末の範囲なのでしょうか」
祥鳳がとても嫌そうな顔をする。
そこにあるモノ、それは、弔われることなく、実験に使われて命を奪われた、人間や艦娘、深海棲艦の亡骸の一部。金属質なところもない、
故に、その場所は見るに堪えないほどに酷いことになっている。血と、体液と、肉片。それらが穴に埋められているようなモノ。
そして──
「深海棲艦が生まれていることも発見されました。木々を揺らしたのはそれでしょう」
「やっぱり何かいたのか! だが、木を揺らすほどの大物なのか?」
「……そう、みたいですね。明らかに姫のようです。ですが……」
祥鳳が口籠る。
「何かあったの?」
「その姫が……ですね、普通じゃありません」
「……どういうことなの?」
ここで加賀と翔鶴もその様子を艦載機の妖精さんから報告を受け、顔を顰めた。
「ど、どうしたんスか、姐さん」
「確かに普通では無いわ……でも、会わないといけないわよコレは」
「ですね……」
加賀はその様子を語る。
「深海棲艦が、
3体目は、またそれまでに無いタイプ。普通では無い。