後始末屋の特異点   作:緋寺

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持つべきものは

 深雪と電の練度を上げるための演習は、午後の時間を全て使って行なわれた。深雪は仮想タシュケント、電は睦月を相手にした後は、そこからそこにいる者達で取っ替え引っ替え。さらにはデータまで使って徹底的に技術を叩き込まれることになった。

 この時にはトラウマをある程度乗り越えることが出来ており、多少手が震えることもあったが、しっかりと戦うことが出来ていた。

 

 一度出来たなら、それ以降は身体が動いてくれる。躊躇いはどうしてもあるが、仲間達は撃たれたとしても艤装で綺麗に守るし、負ける時も艤装や兵装を狙ってくれるおかげで、仮想空間内でのスプラッタは()()無かった。

 

「あったまいってぇ……」

「ガンガンするのですぅ……」

 

 まだVR訓練になれていない二人は、終わって設備から出た時には頭痛を訴えた。前回は激しい眩暈で済んでいたが、今回はその時全く無かった頭痛まで感じるようになっているのだから、今回のVR訓練は濃厚だったと言える。

 

「深雪ちゃん、腕大丈夫なのです!?」

「ああ、それは大丈夫。電も平気だろ?」

「なのです……千切れたのに、本当に身体に影響無いのですね」

 

 設備からすぐに起き上がれなかったものの、そこだけはどうしても気になって、電が叫ぶように聞いた。勿論、仮想空間で起きたことなので、現実の身体には全く影響は無い。

 

 初戦は勝利を収めることが出来たが、その後の演習では負けることもあった。技術を取り込むためにあらゆることをやり、あらゆることを()()()ため、練度が足りない二人では想定外の一撃を貰うこともある。

 特に一番酷かったのが深雪の演習中の一幕。艤装を狙った砲撃を無理矢理回避しようとした結果、主砲ではなく腕に直撃してしまうという事態も発生してしまったのだ。勿論その傷は即座に治っているのだが、電は深雪のそんなダメージを見て、その場で泣きそうになってしまった。

 すぐに深雪を中心に全員が宥めたからどうにかなったものの、これが頭だったらどうなっていたのだろうかと、深雪自身も考えてしまう。

 

 とはいえ、深雪が傷付くことでメンタルにダメージを負いつつも、深雪のおかげでそこからは立ち直れているため、仲間達といざこざを起こすことはなく終わっている。

 傷付けないように戦っているのは見ればわかることだし、本来なら傷付かなかったところに深雪が想定外の動きをしたことで傷付いたのだから、そんな怪我は誰も予想が出来ない。だから深雪も電にそう語っている。誰のせいでも無い、自分のせいで起きたことだと。電はそれで納得は出来ていたものの、メンタルがブレたのは言うまでもないが。

 

「お疲れ様にゃし!」

「今日はいっぱい頑張ったから、ゆっくり休んでね!」

 

 深雪と電が疲弊によって設備から起き上がれないところに、仮想空間に慣れている他の者達はすぐに起き上がって二人の様子を見に来る。

 特に早かったのは、やはりと言えばいいか、活発な睦月と子日。起き上がるのもキツそうな二人の手を取ると、あまり頭を揺さぶらないようにゆっくりと身体を起こしてやる。

 

「あれだけやった後ですと負荷も大きいでしょうから、休憩しながら終わりましょう」

「慣れるまで時間がかかりますからね。こういうことも大事大事です」

 

 続けて秋月と梅も二人を気遣って身体を起こすのを手伝う。少しすれば頭痛と疲弊から解放されるとはいえ、今が一番キツい。

 

「みんなすげぇな……すぐに動けるのかよ」

「はい、慣れっこですから」

 

 準新人の梅ですら、先程まで演習に参加していたにもかかわらず、既にピンピンしている。定期的にVR訓練を行なっているおかげで、この辺りは完全に慣れてしまっているようだった。

 当然梅も最初は今の二人と同じように疲弊で動けなかった。頭痛までは行かなかったものの、熱っぽさはどうしても出てくる。しかし、今やそんなことは無く、二人の大先輩としてそこにいる。

 

「毎日ではなくても定期的にここを使って技術を磨いて、本番に臨むことになります。梅もここに所属してもうそれなりに経ちますから、流石にフワフワもしなくなりました」

「逆に言えば、あたし達はもう少しの間はこの感覚にやられるわけだ」

「あ、あはは……そうなりますねぇ。でも、少し休めばすぐに良くなりますから」

 

 実体験を語るように話す梅は、そこまで辛そうにはしていなかった。今だけの辛抱だし、強くなれる実感がわかりやすいため、この疲弊もいい思い出になると、なかなか凄いことを言ってのけた。

 良くも悪くも、梅もうみどりの一員。タフであることは変わりない。

 

「本当に凄いのです……それに比べて電は……」

 

 深雪が傷付いた時に動けなくなった電は、自分がまだまだ未熟であることを改めて痛感し、身体は起こせたものの俯いてしまった。

 

「電さん、最初はみんなこういう感じでした。私も最初は酷いものでしたから」

 

 そんな電を慰めるのは秋月。

 

「私って防空駆逐艦っていう特殊な艦種ですから、訓練がみんなと少し違っていて、なかなか上手く行かなかったんです。その上で今の電さんみたいな頭痛まで起きるくらい疲れちゃって……あの時は本当に皆さんに助けてもらいました」

 

 話しながらも、秋月は笑顔を崩さない。当時の辛さを思い出しつつも、梅のようにそれをいい思い出だと話せるくらいには、その時のことを良しとしている。

 そんな秋月の言葉に、梅は堪らずうんうんと強く頷いた。仲間に助けられた思い出は誰にでもあるため、誰もが似たような話になり、そして誰もがその通りだと納得する。

 

「結局のところ、これに関しては慣れ以外無いです。なので、回数こなすしかないですね」

「秋月さんの言う通り、これは何度も何度もやることで慣れるしか無いんですよねぇ。梅も結構かかったなぁ……」

 

 最終的にはそこに集約するため、もう笑うしか無かった。電もこの時には充分に立ち直ることが出来ている。やはり、持つべき者は仲間であり友である。

 

 

 

 

 VR訓練終了後、夕食前にうみどりは航行開始。次の現場に向かう。そこまでは今から丸一日進み続けてからさらにもう一晩越えて早朝に到着の予定。

 しかし、既にそこが大規模であることは報告されているらしく、丸一日かけて終わるかどうかくらいのモノであるとのこと。

 

「なんでも、姫級が二体出たらしくてねぇ。どうしても規模が大きくなっちゃったみたいなのよぉ」

 

 伊豆提督も報告を聞いた時にその大変さをすぐに理解出来ていたようである。姫級が同時に何体も出るということは、別に少なくない。姫がお供に姫を連れてくることだってあり、深海棲艦の中でも()()のようなものがあるのではと考えられているくらいだ。

 しかし今回の規模の増え方は少々違っていたようで、一体の姫を撃破した後、()()()()()()()()()現れたという。

 

「それだとまるで、前の大規模のような現れ方ですね」

「ええ、その通りよ。榛名ちゃん達を救助したあの戦闘を思い出すわね」

 

 神威の言葉を聞き、伊豆提督は首を縦に振る。まさに、前回の同じような出現。

 

 戦いが終わったというタイミングで新手が現れるのは、それこそ前回の大規模、榛名達の部隊が重傷を負っていたときの戦いに近しい。

 疲弊したところを見計らって狙いを定めてきたかのようなタイミングの悪さである。

 

「そこの戦闘は難なく……とは言い難いけど、誰も沈むことなく攻略することは出来たらしいわ。救護が必要な怪我では無かったけれど、かなりキツい戦いを強いられたそうよ」

 

 勝利出来たことは喜ばしいこと。傷付いているにしても、死者が出ていないのは安心出来る。

 そこの部隊は姫と戦っていただけあってしっかり準備をしており、乱入者相手に全てを出し尽くすことで撃破することに成功しているという。そういう意味ではかなりギリギリではあった。

 

 さらにここで一つ引っかかることもある。

 

「乱入してきた深海棲艦は、また()()()()だったのかしら」

 

 それが、この加賀の質問。突如現れる想定外の深海棲艦は、ここ最近は()()()()()()()()()()ことが多い。後始末屋が乱入された軽巡棲姫しかり、件の榛名達が乱入された戦艦水鬼しかり、本来出来ないことをしてくる個体であった。

 

「それは今調査中よ。部隊もまだ疲労が大きいらしくて、正しい情報を聞けていないらしいから。明日になったらまた話が来ると思うわ」

 

 もしこれでまた改造済みの深海棲艦だった場合、乱入は故意によって行なわれていることになる。

 

「一つ心配な点があるとしたら、今その現場を丸一日放置しなくちゃいけないということよねぇ。戦い自体は終わっているのだけれど、アタシ達が今から向かっている状態だから、その分穢れが拡がることになるわ」

 

 戦いが終わった直後に後始末が始められればよかったのだが、流石にそうは行かない。先程までいた小規模の現場だって確実に終わったことを見守らなくては、何が起きるかわからないのだ。大規模な現場があるからと、そこを疎かにすることは出来ない。

 そのため、こうして向かっている間も、残骸は海を漂い続ける。その場にあったとしてもそこを穢し、そこから流れていってしまったら広範囲を穢していくことになるだろう。

 うみどりも出来る限りの速度を出しているが、それでも到着が丸一日跨いで早朝になるほどである。

 

「後始末屋って他には無いのか?」

 

 ここで深雪の素朴な疑問。うみどり以外にも後始末屋はあるのかという話である。

 それに対して、伊豆提督は即答する。

 

「あるわよ。流石にアタシ達だけで全ての海を賄うことは出来ないもの」

「じゃあ、そちらに頼むことは……いや、出来るわけないのか。海は広いもんな」

「そういうこと」

 

 後始末屋がうみどりだけではないことは、考えてみればすぐにわかる。海が星の何割を占めているのだということに繋がることだからだ。

 うみどりから見たら陸といえる本国は島国。東西南北全てを海で囲われているわけで、本国の外周をグルリと周るだけでも何日もかけることになるのだ。それこそ本国を挟んで真反対の場所で後始末の仕事が発生した場合、うみどりでは間違いなく間に合わない。

 そのため、本国を中心にうみどりを含んだ三つの後始末屋が活動しているという。その範囲内であれば、遠かろうが担当している後始末屋が処理に努めることになっているのである。

 

 とはいえ、うみどりが最も性能が高いらしい。その理由は言うまでもなく、イリスの存在があるからである。カテゴリーを見分けることが出来る目は、他には見られない最上級の能力。

 それがあるため、このうみどりが最も過酷な海域を担当している。伊豆提督や仲間達の実力も、そのおかげでこうして高いモノとなっている。

 

「とにかく、アタシ達の手が届く範囲のことだもの。やれることを全力でやる他ないわ。苦労をかけるけれど、みんなよろしくお願いね」

 

 伊豆提督のお願いとあっては、無下にするわけには行かないと、仲間達は全員奮起した。

 

 深雪も電も、後始末屋の仕事に対しては積極的だ。敵と戦うわけではないが、この戦いを確実に終焉へと導く仕事とあれば、やる気が出ないわけがない。

 大規模と約束されている現場は少々辛いものの、誰かがやらなければ酷いことになるのが目に見えているのだから、自分達がやろうと意気込んだ。

 

「それまでの間は休息でも訓練でも好きに過ごしてくれて構わないわ。言ってくれればVR訓練も好きなだけやってちょうだいね」

 

 後の言葉は間違いなく深雪と電に言っている。対する深雪は、勿論だとサムズアップ。電もやってやるのですとやる気を露わにした。

 

 

 

 

 大規模な現場まで一日と少し。その間に、二人は更なる鍛錬を積むことになる。

 

 

 

 

「その前に反省会よ。夜、電の部屋に集合。VR訓練の時に気付いたこと、全部話すから」

「……う、うす」

「なのです……」

 




仲間がいるから先に進める。本編でも書きましたが、持つべきものは、仲間と友達ですね。


支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/108241251
通算1500話記念イラストその2。前回が歴代主人公勢揃いでしたが、今回はその主人公の相方ポジションの艦娘達。他の話を読んでいただけている方ならおわかりいただけますが、中央の三日月は唯一の『成功者』です。そりゃあ霞や海風も頭下げる。
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