島の山で遠目に見ていた居相姉妹の妹、恵理が発見した、ほんの少しのおかしな動き。それを聞いた加賀率いる空母隊が哨戒機を飛ばすと、そこには凄惨な光景と共に、深海棲艦も存在していた。明らかに姫級。しかしやっていたことが、深海棲艦とは到底思えないようなこと。
「深海棲艦、
そんな加賀の言葉を聞き、春星も居相姉妹も、目を丸くした。そして、全く意味がわからなかった。
そこに沢山の亡骸が棄てられていることはわかった。そして、その穢れを使ってか、深海棲艦が生まれてしまっているのもわかった。だが、その深海棲艦が棄てられている亡骸を弔っているというのがわからない。
「ど、どういうことっスか、姐さん」
「言葉通りよ」
「そうとしか言えませんね……深海棲艦が、亡骸を弔っている。本当にそれ以外に表現方法が思い浮かびません」
加賀に続き、翔鶴も答える。この島で生まれてしまった深海棲艦が穏やかであるとはいえ、いくらなんでもその行動は考えられない。
弔っているとは言っているが、どのように弔っているかにもよる。とはいえ、山奥で出来そうなことなんて1つくらい。土葬だ。
「ただ、逆にまずいかもしれないわ」
「というと……?」
「穢れを土に埋めることになったら、ただでさえ土壌汚染が酷いこの島が、取り返しのつかないことになるわ。より強い穢れが土に染み込んで、より強い穢れになる。今は穏やかな深海棲艦が生まれているかもしれないけど、そんなこと言っていられなくなる可能性もあるわ」
どういうカタチでここまで穢れを溜め込んだかは定かではないが、その穢れをより深く、強く浸透させる可能性がかなり高い。今ですら穢れを取り除けるかわからない状況なのに、それがより不可能になるかもしれないとなると、その弔いという行為が致命的な問題となる。
「今すぐにでも話に行った方がいいわね。そういうことが出来るくらいに優しい性格をしているのなら、話もきっと通じるわ」
「うす、わかりました。じゃあオレ達が……」
「危険すぎるから専門家に任せなさい。流石にそこまでは任せちゃいけないわ。後始末屋としてね」
春星が動き出そうとしたが、どれだけやる気があっても素人であることは変わらない。これまでの改造された島民との戦いならばその手を借りていたかもしれないが、今回はこの島で生まれたであろう純粋な深海棲艦、その姫との交渉である。流石にそれを任せるわけにはいかない。
とはいえ、島民としての意思もある。うみどりはこの島の住人ではないのだ。島への思い入れがあるかどうかはわからないが、少なくともうみどりの面々よりは強い意思があるだろう。それがポジティブなモノでも、ネガティブなモノでも。
連れていくことは出来ないが、意思を伝えることはしようと、加賀はここにいる3人に思いを聞く。
「この島には嫌な思い出ばっかだけど、でもやっぱりそれで穢れまみれになるってのは落ち着かねぇ。だから、気持ちはわかるけどやめてほしい」
「私も同じ気持ちですね……思い入れとかはあまり無くても、それでも一応の故郷がその行為で余計に壊れるところは、なるべくなら見たくはないです」
「弔うことは素晴らしいと思う。悪意も何もない、むしろ称賛する行為だろう。だが、そのせいでここが発端になって戦争が終わらなくなる可能性もあるのだろう。ならば止めねばなるまいて」
3人とも、その善良な行為を肯定しつつも、これからのことを考えてやめてもらいたいという意思を見せた。
加賀はそれをしっかりと受け止めた。
「わかったわ。それを伝えに行ってくる。貴女達は、ここで作業を続けていてちょうだい。とは言っても、まずは報告からだけれど」
この異常事態を早急に解決するため、まずはうみどりに戻り、伊豆提督に報告。そして部隊をすぐに編成して、山登りが始まる。
うみどりから派遣されるメンバーは、発見した空母隊から加賀に加え、ヌ級を保護したことでうみどりに戻ってきていたグレカーレ達が担当することになった。やはり白雲と磯風による『凍結』が有用であること、フレッチャーによる彩を見る眼、そしてグレカーレの機転は、こういう時にも役に立つと判断された。そこにさらに妙高も加わることになる。
「あたし要る? ミョーコーだけで充分じゃない?」
「心配せずとも『ジャミング』で守りますから」
「心配してるのそこじゃあないんだよなぁ」
梅はここには加わらない。必要だとしたら地面を掘り返すことなのだが、『解体』では少々難儀。同様に、神風もわざわざ呼んでくるようなことはしなかった。あくまでも、ここにいる6人での仕事。
加賀は念のため通信機器を持ちつつ、艦載機で常に位置のサポートをする仕事。そのため、基本は最後尾で動く。結果的に旗艦は妙高となり、真っ直ぐ山登りがスタートした。
「こういうカタチで上陸することになるとは、予想していませんでした。最終的には後始末のために全ての場所を隈なく見ることになるとは思っていましたが」
「集落はもっとエグいことになってたよ。特に臭い」
「こちらの方にはそういうモノはないようですね」
集落のことを知っているグレカーレは、山道がまだ安全であることがわかる。穢れはやはり所々に数多く見えるが、あの鼻につくような臭いは何処にもないため、既にその時点で集落よりまだ安全だと判断出来てしまっている。白雲と磯風が距離を取らないというところでも。
腐った惣菜のような、明らかにおかしなモノはないようだが、しかし山の中、特に施設に繋がる出入り口を更に越えた辺りから、少しずつ様子がおかしくはなってくる。
穢れの量が徐々に徐々に増えてきているのだ。まるで、山頂から下に滴り落ちてきているかのように。
「もう少しよ。そろそろ見えてくるはず」
艦載機を使って確認し続けている加賀が、その深海棲艦の姫の位置を把握し、もうその姿が見えてくると伝える。一層気が引き締まる思いで足を進めた。
近付くにつれ、今度は音が聞こえてくる。ザクザクと、土を掘るような音。土葬しているというのがわかる音。
「本当に掘っていますね。しかも、相当大きな……重機を使っているような音がしますが」
「エンジン音はしないけどね。相当大きな艤装でやってんのかな」
「おそらく。地面を掘れそうで、かつ大きな艤装の持ち主……思い当たるモノは1体」
妙高がそれをいう前に、山頂が見えてきた。木々に囲まれているため、眺めが特段良いとは言えないが、高さがあることはすぐにわかる。そして、そこの酷い光景も。
「うわ……」
「なんと惨い……これがヒトのやるべきことですか」
「……見るに堪えんな。残酷という言葉で終わらせてはいけない」
辿り着く前からちょくちょくと見え始めたのが、ここまで運んでいる間に落ちたであろう
白雲は妖精さんの亡骸を優しく拾い上げて、弔うように撫でる。土を被っていたところを払いのけ、ある程度は綺麗にして。
「こんなに痩せこけてしまって……何をすればこのような非道な仕打ちを……」
うみどりの面々は、まだ妖精さんが血を抜かれて殺されていることを知らない。そのため、妖精さんがガリガリになってしまっている理由もわからない。ただ、何か残酷なことをされたことで、このように変わり果ててしまっていることだけは理解出来る。
妖精さんの亡骸なんて、戦闘中でも見ることはない。艦載機の妖精さんでも、それを撃ち墜とされてしまったとしたらその場で消えてしまっている。兵装の妖精さんは傷ついたところで怪我はするが、艦娘が存命ならまず死ぬことはない。
これは、阿手の非道な実験のせいと言えるだろう。生かさず殺さず飼い殺した挙句、死んだら死んだでゴミのように棄てる。死んだ後にも次から次へと悪行が露わになる阿手。
「ここに棄ててる連中も、作業が雑すぎるよ。散らばってんじゃん。巫山戯てるなぁホント」
「はい……せめて丁寧に扱ってほしいものです……」
フレッチャーはもう涙目だ。凄惨な光景は見ているだけで苦しい。
「……弔うという行為は間違ってはいない。だが……そのせいでより凄惨なことが起きかねないのならば、止めねばならないだろうな」
「はい、その通りです。善行であっても先を知ってもらわなければいけません。知らないことは罪ではありませんから、咎めるつもりは毛頭ありませんがね」
弔いたくなる気持ちもわかるからこそ、この行為が後にとんでもないことに繋がる可能性を止めてやらねばならないだろう。きっと話せばわかってくれる。勿論、弔い方も伝えれば。
そして広がるその光景。土を掘り返しているのは、その深海棲艦の姫の大型の艤装、ロブスターのような形状の生体艤装である。その上に腰掛け、神妙な面持ちで亡骸を見つめているのが、その姫。
「……南方戦艦新棲姫……この深海棲艦の艤装ならば可能でしょうね」
妙高はその姫であろうと予想はしていた。だが、現実として見ると、それは異様な光景にしか見えない。
巨大なロブスターが、そのハサミを使って土を掘り穴を作っては、姫本体が艤装から下り、丁寧にそこに埋める。まだ土を被せているわけではないようだが、しかしそれも時間の問題だろう。
南方戦艦新棲姫がこちらに気付くと、訝しげな表情を浮かべる。
「何ダ」
端的に反応。しかし、敵意はそこまで感じない。
「……申し訳ございませんが、その埋葬を、やめてもらいたくて来ました」
妙高が返す。空気が凍りつくような雰囲気。
交渉が開始される。それで話を聞いてくれれば問題はないのだが、果たして。
南方戦艦新棲姫のハサミ、ショベルみたいにはなってないけど、そもそもが大きいので土掘り返すことは出来ると思う。