後始末屋の特異点   作:緋寺

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正しい弔い

 島の山に廃棄された亡骸を弔っている深海棲艦の姫、それは巨大なロブスターの艤装を持つ南方戦艦新棲姫だった。ロブスターのハサミを使って土を掘り、そして亡骸を丁寧にそこに寝かせていく。

 その現場に辿り着いた一行に気付いた南方戦艦新棲姫は、訝しげな表情を浮かべる。

 

「何ダ」

 

 端的に反応。しかし、敵意はそこまで感じない。

 

「……申し訳ございませんが、その埋葬を、やめてもらいたくて来ました」

 

 妙高が返す。空気が凍りつくような雰囲気。南方戦艦新棲姫は一旦作業を止めて、生体艤装を妙高に向ける。訝しげな表情は、敵対とまでは行かないモノの、何故これを止めるのだという嫌悪感を含めた疑問の表情へと変わっていた。

 

 妙高の最初の狙いはそこだった。南方戦艦新棲姫の作業をどうにかして止めるため、まずは真っ直ぐストレートな言葉をぶつけた。

 淡々と作業をしている姫は、訳を話しても作業は止まらない可能性が高い。そんなことは知らないと聞き流して土を掘り続ける。ならば、敵対心を持たせてでも一度完全に作業を止める方針で行った。

 

「犠牲者ヲ弔ウナト言ウノカ」

 

 自分のやっていることは間違っていないと断言するような言い方である。そしてそれは、妙高も間違っていないと断言出来る。

 

「弔うなというわけではありません。ただ、弔い方に問題があるんです。話を聞いてもらってもいいですか?」

「弔イ方、ダト?」

「はい、土に埋めることは、確かに弔いとなるでしょう。ですが、この島でそれをやることは、その後がダメになります。それについて伝えたいんです」

 

 南方戦艦新棲姫は妙高の言葉を聞いて眉を顰める。そして、妙高の周りにいる者達を眺める。

 目についたのは、白雲。その手には、亡骸となった妖精さんがいる。土に落とされていたモノを出来るだけ綺麗にして、優しく傷つかないようにしている様子は、南方戦艦新棲姫にとって琴線に触れるモノだった。

 

「ソコノ同胞」

「……白雲のこと、でございますか」

「アア。()()ヲ、ドウスルツモリダ」

 

 妖精さんの亡骸をここからどうするのだと聞いている。白雲は、嘘偽りなく答える。

 

「この島に埋めるわけにはいきませぬ。故に、我が拠点に持ち帰り、それ相応に供養致しまする」

「供養、カ」

「はい、貴女様はご存知ではないでしょうが、この世界では、ありとあらゆる亡骸が穢れを溢れさせてしまうのです。この妖精さんも例に漏れず。その穢れは、新たな戦いの火種に繋がる。そして、この島は穢れに塗れてしまっているのです」

 

 白雲の言葉は、妙高の訴えよりも聞き取りやすいようである。そこは深海棲艦の姿をしているからであろう。白雲のことを『同胞』と呼んだことからも窺える。

 艦娘からやめろと言われても、気分がいいモノではない。だが、自分と同種である深海棲艦も同様にやめてほしいと言うならば、話くらいは聞くようだ。

 

「穢レ、トハ?」

「その者が持つ負の感情が、死後溢れ出すモノ。周囲を汚染し、そしてそこから新たな同胞を生み出すモノ。しかし、そこから生まれたモノは基本、負の感情に支配されておりまする。世界を憎み、世界を恨み、世界を破壊しようとするのです。貴女様は、最初から弔いの気持ちを持って生まれていたのですか? おそらく、貴女様も、この島の穢れから生まれ落ちたモノであるかと思うのですが」

 

 南方戦艦新棲姫は、その言葉を聞いて少しだけ表情を変える。白雲が嘘偽りを言っているとは思えなかったから。それは自分にも心当たりがあるから。

 

「……イヤ、違ウ。私モ、最初ハ怒リノミダッタ。世界ヲ憎ミ、世界ヲ恨ンダ」

「そうでしたか……ならば、何をしたことで今のような思慮深さを手に入れたのでしょうか。我々の仲間にも、貴女様と同様に生まれたモノ達がおりますが、最初は本能的に世界の破壊を考えていたようなのです。しかし、()()()()()を口にしたことで、本能を抑える知性を手に入れた。今は反応すら薄れ、世界の後始末をする我々に快く保護されてくださいました。貴女様も、何かきっかけを持って今の感情を手に入れたのではと考えております」

 

 南方戦艦新棲姫は小さく頷く。心当たりがあるようである。

 

「私ガ目覚メタ時ハ、本能ヲ受ケ入レテイタ。ダガ、ソウダ、オ前ノ言ウ通リダ。私ハ、何カヲ口ニシタ。ソウダ、ソウダ、何カヲ食ッタンダ。ソノ後ニ、ソノ憎シミハ薄レタ。代ワリニ、コノ光景ガ凄マジク、()()()()()()()()()()()()()()

 

 何を食べたかは、予想はつくがあえて言わなかった。口に出来るというのなら、おそらくここにある亡骸の一部だからだ。

 ここには妖精さんと、艦娘と、人間すらある。それの一部を、何かの弾みで食ってしまった。

 

「貴女様は、最初からその姿だったのでしょうか」

「……イヤ、違ウ。ソレヲ食ッタコトデ、私ハ今ノ姿ニ『成長』シタ。ソウダ、食ウコトデ、私ハコノ力ト思イヲ手ニ入レタ」

 

 元々の姿は、戦艦タ級。ヌ級のような、まずは忌雷から始めて、惣菜を食ったことによって妖精さんの力を取り込んで進化したというわけではないようだ。

 この陸地であっても、最初からイロハ級として生を受けることもあるという事実の実証。集落では忌雷でしか生まれていないようだが、ここは他よりも明らかに穢れの濃度が強い。それにより、強い深海棲艦が直接生まれているように思えた。

 そのタ級が、ここで何を血迷ったのか、散らばっている亡骸の一部を取り込んでしまった。何故食おうと思ったのかはわからない。例えば、この亡骸の上に倒れてしまい、その弾みで口の中に入ってしまったとかはあり得る話である。

 

「思イ出シタ。私ハ、コノ亡骸ヲ、食ッタンダ」

 

 何かが頭の中で繋がったようだった。

 

 戦艦タ級として生まれたのは、今から数日前。山の中で生まれるという普通ではありえない誕生をしたことで、深海棲艦としても何処かおかしい性質を最初から持っていた。それが、人間と同じような()()である。

 生まれたばかりの時に飢餓感を覚えた。しかし、海で生まれれば魚なり何なりが取れるだろうが、こんな陸で取れるモノなんて高が知れている。そして、まだまともに知性もなく理性もない時、戦艦タ級はそこにある()を口にしたのだ。

 

「……口を挟むようで申し訳ございません」

 

 ここでフレッチャーが口を開く。最初に言うべきだったのだがと謝りながらも、今のうちに言わねばと口を挟んだ。

 

「彼女──姫のカテゴリーなんですが……カテゴリーRではあるのですが、Kに近いRです。鮮やかではない、黒ずんだ赤……おそらく、ここにある要素を取り込んだが故では……」

 

 フレッチャーの眼、イリスからコピーした彩を視る眼では、この南方戦艦新棲姫のカテゴリーは、純粋な深海棲艦であるRであることは間違いないのだが、しかしその色合いがドス黒くなってしまっており、Kに近付いているのだという。

 特異点のような、純粋に混じり合ったが故にWとなる事例とは真逆、人工的に混じり合ったことで黒く染まるKの事例に近い。それは、食ったことでその要素を取り込んだから。ここにあるモノといえば、人間や妖精さんの亡骸である。よく見れば、一部艦娘のようなソレも見えた。近海で生まれたカテゴリーMか、それともカテゴリーCかどうかはわからない。亡骸となってしまったら彩の確認も出来ないのだから。

 

 ともかく、この南方戦艦新棲姫は、あらゆるモノを食ってしまったせいで、今のカタチに進化してしまっている。そこから考えると、亡骸に対する哀れみの気持ちは、その食ったモノから取り込んだとも考えられる。

 

「……()()()()()を、取り込んだのでしょう」

 

 妙高がそこに辿り着いた。食ったモノの思いを自分のモノにしたのだろうと。

 

 保護した忌雷とヌ級は、妖精さんの要素を取り込んだことで、人懐っこい性格を手に入れている。そしてこの南方戦艦新棲姫は、人間や妖精さんの要素を取り込んだことで、慈悲深さを手に入れていた。

 埋葬しようという気持ちになったのも、まさに人間の思い。凄惨な光景から、せめて安らかに眠ってもらいたいと思い、この行動に出たのだと予想した。深海棲艦らしからぬこの行動も、勇気ある人間の行動とするのなら、納得が行く部分もある。

 それでも少し考えさせられるところもあるのだが。

 

「私ハ、ココニイルモノ達ヲ、弔イタイ。ダカラ、埋葬ヲスルコトニシタ。ダガ、オ前達ハソレガヨロシクナイト言ウ。何故ダ」

「亡骸を土に埋めることによって、その穢れが土壌を汚染し、次から次へと怒りと憎しみの使徒を生み出してしまうのです。生まれたばかりの貴女のような、怒りしかない存在を。そしてそれは、島の、いや、この島だけではない、海の平和に影響を与えることになるでしょう」

 

 白雲では説明しにくい部分は、妙高が説明をする。埋葬では供養は出来ても浄化は出来ない。その結果、穢れが溢れ続けて島全体を穢し続け、そこから深海棲艦──怒りと憎しみを持った使徒が生まれ続ける。これまで生まれてきたモノは、何かを食うことによって衝動的では無くなっているが、それこそ本当に偶然。全員が全員、穏やかで優しい心を持って生まれることはない。

 それに、最終的にはそうなれる要素だって枯渇するだろう。そうしたら、この島は平和を脅かす深海棲艦に占拠され、戦争は延々と終わらない。憎しみの連鎖は、これまでに無いほどに膨れ上がる。

 

「私達は、正しい弔い方を知っています。貴女のそれが間違っているとは言いません。ですが、事と次第によるのです。この島の土壌汚染は、既に深刻化しています。それを食い止めるためには、まず貴女のその埋葬という行為を止めなければならなかった。貴女の思いを踏み躙るつもりは毛頭ございません。でも、やめていただきたい」

 

 妙高の真っ直ぐな発言に、南方戦艦新棲姫は少しだけ表情を崩した。

 

「……ナルホド、納得ハ出来タ。埋メルコトデ、()()同胞ガ増エルワケダ」

「はい、それこそ、際限なく」

「ソウシタラ、弔ウモノモ増エテシマウナ」

「そうですね。犠牲者は増える一方です。人間も、艦娘も、深海棲艦も、勿論妖精さんだって」

 

 南方戦艦新棲姫は、フゥと息を吐く。

 

 

 

 

 

「ワカッタ。一度止メヨウ。ダガ、ソチラノ弔イ方ヲ見セテモラウ。納得ノ行クモノナラバ、ソレヲ手伝ワセテホシイ」

 




人間すら取り込んでしまっているから、この南方戦艦新棲姫は多少聞き分けが良かった。
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