島の山で亡骸を埋葬しようとしていた南方戦艦新棲姫は、妙高と白雲から話を聞いたことで、一旦作業の手を止めた。埋葬という行為そのものが土壌を汚染し、今以上に穢れを蔓延させ、今以上に被害者が増える可能性があると伝えられたことで、素直に話を聞いてくれたことが大きい。
その南方戦艦新棲姫は、埋葬以外の弔い方を見せてもらいたいと、ついてくることになった。今は白雲が優しく運んでいる妖精さんの亡骸があるため、そちらをどうするかを知りたいと。
「ソノ前ニ、少シ手伝ッテホシイ」
「そちらの方々を、せめて汚れないようにするためですね」
「ソウダ。埋メルツモリダッタガ、ソレガ良クナイニシテモ、コノママニシテオクノハ良クナイダロウ」
南方戦艦新棲姫が言う通り、ここにある亡骸はあまりにも雑に置かれているため、見ているだけでも可哀想に思えてくる。本当にモノとして扱われていたのが丸わかり。
亡骸であっても、人として、生物として扱いたいというのが南方戦艦新棲姫の思いであり、後始末屋としてもその思いには賛同する。今ここにいる人数では、全ての亡骸を運ぶことも難しい。どうしてもここに置いておかねばならないため、束ねられているような亡骸は一人一人を寝かせるようにしておきたかった。
「木にもたれ掛けさせておくのもいいかな」
「そうですね、可能ならば、座らせておくこともいいでしょう」
グレカーレの剛腕を使ったり、艦娘としての単純な膂力を使ったりで、丁寧に亡骸を運んでは、モノではなく生きていた者として扱い、その全てを木にもたれ掛けさせたり、汚れないように寝かしたりする。
そして、そうすることで艦娘達は汚れてしまうものの、それを躊躇うことはしていない。血が付いても関係なく、むしろ亡骸のカタチが崩れないようにしっかりと持つことで体液などがへばりつくことも気にしない。
実際に、ここまでまともなカタチが残った亡骸があることの方が稀である。肉片ならばトングを使って集めるところだが、それも難しいくらい大きいモノは、こうして手で直に持つことも厭わない。
肉片の感覚はどうしても不快感を伴うモノだが、亡骸はそれ以上に悲しい気持ちの方が大きいため、不快とも思わなかった。酷い目に遭ったのだろう、辛い思いをしたのだろうと、とても苦しい気持ちになりながらも、せめて安らかに眠ってほしいと処置をしていくのみ。
「今の私達には、綺麗に運ぶ手段がとても少ないです。なので、今だけは最低限に留めさせてください」
「ソレハ仕方ナイコトダ。コレ以上損壊サセタクナイカラナ」
「はい、その通りです。丁寧に運ぶためには、それ相応に準備が必要です。すぐに仲間達に話しますので、今は我慢していただけると」
亡骸をおぶって山を降りるのもかなり危険である。死後数日は経っていること、そして何より、実験の影響で脆くなってしまっている亡骸がかなり多いこともあり、易々と運べそうなモノは2人分くらい。
それはどちらも人間であり、やりたい放題された結果、不必要と見做されて棄てられたのだろうとわかるモノだった。
「1人はあたしが持つよ。あたしの腕なら支えられるし」
「ならば、私がそれをサポートしよう。落ちないようにすればいいな」
「だね。よろしくイソカゼ」
片方は少し身体が崩れかけているが、グレカーレが艤装の剛腕を使えばカタチを残したまま持っていけるであろうモノ。持ち上げる。優しく抱えたところ、バランスを取るのが少し難しいため、そこを磯風が上手く支えた。
深海棲艦化の実験に身体が耐えられなかったか、胸の辺りから変色し、身体がところどころ膿んでいたり抉れていたりと、凄惨な姿になっていた。
「もう一人は私が持ちましょう。幸い、まだグズグズにまではなっていません」
そしてもう片方は妙高が抱え上げた。その亡骸は、まだ身体が腐るなどのようなことは起きていない、まだ
「白雲は先程の妖精さんを」
「はい、お願いします。丁寧に運んであげましょう」
フレッチャーと加賀は何かを持つということはないが、その分、緊急事態が起きた時にいち早く反応出来るように周辺警戒をする。
南方戦艦新棲姫以外の深海棲艦が生まれている可能性はそれなりに高く、それに襲われでもしたら、亡骸だってただでは済まない。
「それでは、ついてきてください」
「アア。見セテモラオウ」
南方戦艦新棲姫は一行の後ろからただついてくるのみ。巨大なロブスターの生体艤装は、所々に落ちている亡骸を絶対傷つけないように避けながら、先へと進んだ。
海まで来ると、視界は一気に開ける。亡骸を抱えた姿は、仲間達の目にも留まる。
「話は聞いた。何か出来ることはあるか」
山に姫が現れたということを既に聞いており、サポートをするために待機していたのは長門。また、それ以外にも沢山の後始末屋の仲間達がそこにいた。
「この山には、亡骸が投棄されています。私達が運んできたのは、比較的マシな方なのですが、他にも大量に」
「なるほど、では亡骸を全て回収することを優先する。みんな、手伝ってくれ!」
長門の号令に声を上げる一同は、何か指示があるわけでもなく、自主的に陸へと上がっていった。加賀の艦載機を目印にして、何処にあるかをいち早く把握、そして歩みを止めることはせず、躊躇うこともせずに、次々と山の中に入っていく。
「ふむ、君が亡骸を弔っていたという姫か」
陸に向かう前に、長門は観察するような目をする南方戦艦新棲姫と目が合った。その視線に嫌な顔をすることなく、逆に南方戦艦新棲姫の姿を見て、少し緩んだ表情を見せる。
「……アア」
「すまなかった、作業を止めてしまって。だが、君の思いを無下にするわけではないんだ。説明は聞いているか?」
「聞イタ。埋葬ハ、後々良クナイコトガ起キルラシイナ」
「ああ、そうなんだ。わかってもらえてありがたいよ。山にいるという亡骸は全て運び出し、うみどりで供養しよう。任せてくれ」
サムズアップした後、長門は真っ直ぐ陸へ、山へと向かっていった。
「……オ前達ノ仲間カ」
「そうだよ。しかも、みんなベテラン。あたしなんてまだまだ素人だもん」
「ソウカ……ダガ、悪意ハ感ジラレナイナ」
「そりゃそうでしょ。あたし達は後始末屋、亡骸で遊ぶようなことはしないよ」
「冥福を祈り、安らかな眠りを望む。我々が出来るのは、その程度なのです」
グレカーレと白雲に説明され、南方戦艦新棲姫は納得はしていた。
あの亡骸の数は人数を用意しなくては片付けることは出来ない。しかし、その場で片付けるなら埋葬以外の選択肢はない。1人1人を海まで持ってくるなんてことも難しい。
それを今、後始末屋が人数を揃えて片付けてくれようとしている。しかも、非常に丁寧に。
「今回は洗浄は要らない感じにゃし?」
「惣菜は無かったから大丈夫だよ」
「ちょっと安心した自分がいるぞよ」
睦月も再び推参。ヌ級の時のように洗浄に必要なモノを持ってきていたが、集落の時とは違うため、洗浄は不要と判断。南方戦艦新棲姫は埋葬の準備をしていたため、泥汚れは多いものの、洗わなくてはいけないというほどではない。とはいえ、穢れから生まれていることもあるため、ある程度の洗浄は後から必要にはなるが。
「ムツキ、この人達、上手いこと運べる?」
グレカーレに運んできた亡骸を見せられた時、睦月はどういう反応をするか、南方戦艦新棲姫は観察していた。取り繕わない、素直な反応がどんなものか。
「この人も犠牲者なんだ……可哀想にゃあ……」
嫌がる素振りなど微塵も見せず、ただただ悲しみ、触れることも躊躇はない。軽く触れて、亡骸の状態を少しだけ確認し、考えた後に答えを出す。
「ゆっくり持っていけるとは思うけど、今の睦月の大発は少し荷物が多いぞよ。だから、手で運んであげた方がいいかも」
「やっぱそうだよね、うん。ミョーコー、あたし達は先にうみどりに運んだ方がいいんじゃない?」
「そうですね。まずは運びましょう。睦月さんは、こちらで今向かった方々を待っていてください。運ぶ必要も出てくると思うので」
「りょーかいなのね! あ、でも今、梅ちゃんと清霜ちゃんが大発沢山用意してるにゃし。いっぱい、いるよね?」
「そりゃもうね。上手く運べるかどうかって感じだけどさ」
話しながらも、海に入っていく一同。陸で歩くよりは、海を移動する方が安定はしそうだった。波だけ警戒すれば、滑るように進めるおかげで、変に揺れるコトはない。
「貴女は海に入れますか?」
「可能ダ。コレガ初メテデハアルガナ」
陸で生まれた南方戦艦新棲姫も、海へと歩みを進める。ロブスターの生体艤装は、当たり前のように海上に浮かぶ。この光景は紛れもなく深海棲艦である。
どのようなカタチで生まれたとしても、深海棲艦ならば、本能的に海上移動は可能というコトだ。それは純粋な艦娘も同じコト。
「……コノ方ガ
「本来は陸のヒトじゃあないからだろうね。というか、あんな風に生まれるコトがおかしいんだよ。すっごい特別なんだからね」
しみじみとしている南方戦艦新棲姫に、グレカーレが軽く説明した。あの島の穢れが異常だからこそ、陸で普通に生まれてしまっている。その上で、妖精さんを含めた何かを食べてしまったから、今の進化を見せている。特別も特別、普通ならあり得ないと言っても過言ではない。
「でもやっぱり、あの戦いが終わってから急だよね……何が理由なんだろ」
「これまで動いていたシステムが止まったから、とかでしょうか。何かおかしなモノは見ていませんか?」
妙高の問いに、グレカーレは少し考える。そして、そこに辿り着いた。
「あ、そういえば、学校の屋上に、変なスピーカーみたいなのあった。アレ、かな?」
おかしな機械、あったもんねアソコ