山に投棄された亡骸の回収と同時に、南方戦艦新棲姫は自分の足でうみどりへと向かっていく。亡骸を運ぶグレカーレと妙高をじっと見ながらも、近付いてくる巨大な艦に驚きを隠せないでいる。
「アレガ、オ前達ノ拠点カ」
「はい、後始末屋の拠点である海上清掃艦、うみどりです」
「アソコデ、死者ヲ弔ウトイウノカ」
勿論とフレッチャーが答える。ただし、そのフレッチャーも何かあった時の弔い方なんて知らない。むしろ、後始末屋でそれを知っているのは片手で数えられるくらいだろう。
「でも、あの数を弔うのもなかなか難しいとは思うけどね。何処だってアレは想定してないもん」
「これまでの大規模な戦いでも、ここまで凄惨な状況はありませぬ。一般の人間まで巻き込んだ戦いなぞ」
「最近は知らないけど、昔は港町を攻撃されたりもしたんだよ。でも、それでもここまでにはならなかったね」
グレカーレが話す第二次の時でも、一般人がここまでされたことは無い。ましてや、事故に巻き込まれるとかでなく、人為的に屍を積み重ねられるだなんて以ての外。その亡骸すら、普通ではないカタチとなっているモノまである。
島での事件は例外中の例外。何もかもが初めてのことばかり。良いことはほとんどなく、悪いことしかないところが厄介極まりない。
「ともかく、島を綺麗にするためには、全部片付けないといけないよね。弔いだって片付けの一種だから」
「ああ、アレだけの人数が投入されたんだ。全て運び出されるのも時間の問題だろう。腐敗が進んでしまった亡骸だけはどうするべきかと思うがな」
「それはまぁ、運んでから考えることでしょ。今運んでるヒトもね」
グレカーレ達のこの亡骸の輸送、後ろに南方戦艦新棲姫がいることで、忌雷やヌ級の輸送と比べると輪をかけて目立つ。山に入っていない者達の視線を集めることになるわけだが、そこには当然調査隊も含まれることになる。
そう、この島で活動し、未だに反省を見せていないカテゴリーYの子供達にも、それを見られた。
「あー、あのクソガキ達、これ見て巫山戯たこと言うんじゃないだろうね」
「あり得る話ですが、心配は要らなそうですよ」
「そう?」
カテゴリーY達がヒソヒソと話し、嘲笑のようなモノを向けようとした瞬間、満面の笑みを浮かべた時雨がスーッとその輩達のところへと向かっていくのが見えた。後ろには夕立と子日もいるため、何も心配は要らなそうだった。なるほどと、グレカーレは納得した。
「奴ラハ何ダ」
「ぶっちゃけちゃえば、アレの原因を作った連中の仲間。反省してるのもいれば、洗脳されてたのもいるんだけど、今シグレが向かった連中は、洗脳もされてないのに反省すらしてないバカ。だから、あたし達がこうやって弔おうとしてることをバカにしようとしたんだろうね。多少は反省したかと思ってたけどさ」
「……クズ共メ」
「そう、だから今から、そのクズは屈服させられるよ。シグレのストレス発散に使われて可哀想にねぇ」
カテゴリーYの前に時雨が立ち、イキイキとした表情と行動で言葉の暴力を振るい始めた。何も言い返せない正論を次から次へと叩きつけ、それで逆ギレしても実力差によってさらに屈服させられる。いくら深海棲艦の身体を持っているとしても、兵装を奪われ、後始末の手伝いをさせられている状態で、これまでトレーニングを続けてきた時雨に叶うはずがない。
数人が時雨に襲い掛かろうとして、返り討ちに遭うところまで一部始終を見せられた。時雨の笑みはより深くなっていた。
「反省してる奴のことは、怒らないでやってほしいな。自分がやってたことを本当に後悔してるから」
「……ワカッタ、反省シテイルノナラ、マダ許シテヤレル」
「よかった。反省が無い奴には何言ってもいいから。自分からサンドバッグになりに来てるような奴らだし。これだけやられてまだ言えるのかって、あたしもちょい呆れてる」
グレカーレ達の視線に気付いたか、時雨はチラリと振り向くと、小さく手を振ってきた後、反省のないカテゴリーYの髪を掴んで立ち上がらせ、亡骸を運ぶ仲間達の姿を嫌という程見せつけていた。お前達のやったことの尻拭いをしているんだぞと言わんばかりである。
グレカーレ達は時雨に手を振り返し、うみどりへの航行を続ける。あんなことに付き合っている時間も無いし、ここからさらに数が増えるのだ。止まっている余裕はない。
うみどりに到着すると、伊豆提督が既にいくつもストレッチャーを用意して待ち構えていた。
「お疲れ様、まだまだ足りないとは思うけれど、運んできてくれた人から乗せてちょうだい。すぐに弔う準備をするわ」
「あいよー。イソカゼ、ゆっくりゆっくりね」
「ああ、お前も慎重に頼むぞ」
運んできた亡骸をストレッチャーに乗せ、遺体袋に入れていく。そのままの姿で扱うと、それはそれで傷つきかねない。丁重に扱うためにも、袋に入れるのが確実。
白雲が運んできた妖精さんの亡骸は、流石に妖精さん用の遺体袋が用意されていなかったため、主任が丁重に運んでいった。同胞の亡骸を見て、悔しそうな表情を見せていたのは言うまでもない。
「貴女が山で弔っていたという姫ね。ごめんなさい、人間の
伊豆提督が南方戦艦新棲姫に頭を下げる。見た感じでこの艦の長であることを察した南方戦艦新棲姫は、トップの人間が何の躊躇もなく頭を下げたことに少し驚きつつ、他の者達の誠意がこの提督から来ていることも何となく察した。
先程折檻を受けていたカテゴリーYとは雲泥の差。この島に関係が深ければ深い程歪んでおり、後始末をするためにここにいる者達は真っ直ぐ正しいことをしているだけ。それだけはすぐに理解出来ている。
「オ前達ハ、アノ死者ヲ弔ウノダロウ。ソノ方法ヲ見セテホシイ」
「ええ、わかったわ。貴女にはその権利があるものね。少し待っていてちょうだい。その艤装は工廠の端に置いておいてもらえると助かるわ。明石ちゃんが案内してくれるから」
「ワカッタ」
素直に言うことを聞き、明石の指示に従い艤装を置きに端へ。その間に伊豆提督への報告を進める。
「調査隊に連絡してほしいんだけどさ、ちょっと怪しいところあるんだよね」
「怪しいところ?」
「そう。この戦いが終わってから、急に深海棲艦が島の中で生まれるようになったっしょ? それ、もしかしたら阿手が止めてたんじゃないかなって思って」
その報告に、伊豆提督は身を乗り出すように耳を向ける。
学校の屋上にあったスピーカーのような設備。それが何かしらの効果を発揮して、穢れから深海棲艦が生まれるのを阻止していたのではないか。阿手が死んだことで、そこへの電力供給が止まり、阻止が出来なくなったのではないか。その辺りは今すぐにでも調査が必要ではと話す。
「すぐにマークちゃんの方に連絡を入れるわ。それは確かに調査が必要なことよ」
「だよね。止められるなら、今もそれ使って止めた方がいいでしょ。多分ここからもドンドコ生まれるよ。というか、多分今も生まれてるよ。あたし達が知らないだけで」
伊豆提督はイリスに指示を出し、すぐにその件を昼目提督に報告。今現在も地下施設から持ち出した阿手の研究成果を読み込んでいるところだろうが、これに関しては少々優先順位を上げてもらわなくてはならないと。
「でも、それが本当だとしたら……阿手は本当に勿体無いことをしていたわね……。深海棲艦の発生を食い止めることが出来る方法があるなら、それで戦争が終わっていたじゃない……」
「だよねぇ。本当に自分のことしか考えてないヤツだったってことだねぇ」
グレカーレも笑えず、大きな溜め息を吐くだけだった。
南方戦艦新棲姫を連れて、伊豆提督は工廠の奥へと向かっていく。本来ならば立ち入り禁止区域となっているその向こう側は、艦底に近い場所に造られた少し広い空間。他にそういう場所を造ることが出来なかったというのもあるのだが、それでも他とはかなり雰囲気が違う場所。
「ココハ……」
「戦いで命を落として、戻ることも出来なくなった遺体を供養する場所。普通なら親族に届けることが原則なんだけれど、それも出来ないことは稀にあるわ。それに、アタシ達は戦い、傷つき、そして息を引き取った深海棲艦にも、安らかに眠ってもらいたいの。だから、亡骸はまずここに運んでくるわ」
艦内とは思えないような、厳かな空気を感じ取る南方戦艦新棲姫。いわゆる艦内神社を拡張したかのようなこの場所に、先程の遺体袋を丁寧に寝かせる。
「アナタは、アタシ達の供養の一部始終が見たいのよね。なら、参加してちょうだい。普段はアタシや秘書のイリスだけがここで執り行うんだけれど、アナタのような優しいヒトが参加してくれるなら、妖精さんも断りはしないわ。艦娘達は作業を優先して供養に参加はしてもらっていないんだけれど、あの子達は運んでくる時に祈ってくれてる。だから、この形式をとっているの」
何を話しているかはわからずとも、何をしているのかは容易にわかる。この空間の最も厳かな場所に、それらしい格好をした妖精さんが数人立つと、まるでお経を読むかのように目を瞑って口パクをしているのが見えた。
伊豆提督は端に座り、安らかな眠りを願うように手を組んで頭を下げている。南方戦艦新棲姫も見様見真似でそれを行なった。
「……コレガ、正シイ弔イ方、ナノカ?」
南方戦艦新棲姫からの率直な疑問に、伊豆提督は答える。
「絶対に正しいとは言えないわ。時と場合によると思うもの。大切なのは、弔おうという気持ちだもの。だから、アナタのしていたことは決して間違いではないわ。ただ、それでもその行いを止めなくちゃいけなかった……ごめんなさいね、アナタの思いを踏み躙るようなことをしてしまって」
「……イヤ、私モ話ハ聞イテイル。ソレガ次ノ戦イヲ、犠牲ヲ生ミ出シテシマイカネナイト。ナラバ、止メテモラッタノハ、間違イデハナイト思ウ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも、疑問に思ったことがあれば、躊躇わずに何でも言ってちょうだい。アタシ達だって、全て正解だなんてことはないんだから」
弔いは、厳かに執り行われる。南方戦艦新棲姫は、静かにそれを受け入れていた。
この世界の艦娘は家族がいることの方が多いので、もし戦場で命を失ったら、戻せるなら遺体を家族の元へと戻します。