島からうみどりに次々と輸送される亡骸は、立ち入り禁止区域へと運ばれていく。大発動艇も使い、腐乱して崩れやすくなってしまった亡骸は少しだけ後回しにして、すぐに運び出せるような準備をしていく。
一度うみどりに戻っているグレカーレ達は、亡骸の状況がわかっているため、長門達が素手で運ぶのは厳しいだろうと、担架など傷付けないように運べる道具もいくつか用意して行った。それでも足りないことはわかっていたが、無いよりマシである。
「もう少し甲板が大きければ、ヒト1人くらい運べたんだけれど」
「少し難しいですね……加賀さんと私の甲板を合わせても、運べるかどうか……」
「まぁ、無いモノねだりね。素直に担架を使う方が確実よ」
空母隊が甲板が使えたらとまで言い出したのは、流石に仲間達も驚いている。戦いで何よりも大切な兵装を、そのようなカタチで使うというのは考えていなかった。しかし、完全な平面であり、強度も約束されている甲板は、サイズさえ大丈夫なら、亡骸を運ぶのにも非常に優秀な道具となり得る。
「地道に行きましょう。でも、なるべく早くよ」
「はい、勿論」
「加賀さんを手伝いますよ。我々も今や後始末屋の一員ですから」
翔鶴も祥鳳もやる気満々だ。加賀と共に行動することで、後始末屋としての誇りがしっかりと芽生えているようだった。
純粋種とて、後始末屋で共に作業をしていれば、その優しい気質に共感し、そして自分もそれに賛同しようとしてくれる。空母隊はそれが非常に顕著なだけである。
「大発、足りてる!?」
岸の方では、自分で操縦出来る3隻を持って駆けてきた清霜。その後ろからは梅も同じように大発動艇を運んできた。
「助かる。思っている以上に数が多い。安定して運ぶなら、大発は必要不可欠だ」
亡骸を1人運んできた長門が、慎重に大発動艇に乗せる。その亡骸は腐乱まではいかないものの、身体が崩れかけている部分もあり、激しい振動などには確実に弱いモノであると物語っていた。
他の者達が運んできた亡骸も似たり寄ったりである。グレカーレ達が運んだ亡骸が最もカタチが残っており、手だけで持っていける限界くらいだった。
「遺体袋も持ってきましたぁ。数が足りるとは思えませんけど」
「ああ、これは量が多すぎる。特に崩れやすそうな遺体だけを入れていこう。あとは慎重な操縦で頼む」
「了解です。にしても……これは酷いですねぇ……」
梅が言うのも無理はない。山から下ろされ、岸のところで大渋滞している亡骸の数は、想像していた数を優に超えている。南方戦艦新棲姫が埋葬しようとしていた場所に全て埋めたとしても、簡単には出来ない数。最悪、亡骸が地中で積み重なるレベルである。
そしてそのほぼ全てが、実験のせいで何処かしらが壊れている。ただ命を落としている亡骸なんて無いと言っても過言では無い。それがさらに腐敗しているのだから、山は大変なことになっている。亡骸を全て撤去しても、体液などが地面に飛び散ってしまっており、それの浄化も必要となっているのだ。
「集落の方がまだマシですよぅ。臭いが酷いだけで」
「私はそちらをまだ見ていないが、おそらくここが最も酷い場所だろうなと思ってしまう。何故これが罷り通ると思えるのかが理解出来ない」
「本当ですよぅ」
自然を壊すだけでは飽き足らず、異常な量の穢れをばら撒き、それを他人のせいに出来るその精神が意味がわからないと長門も愚痴る程である。
それでも手を止めることはない。この亡骸を全て供養するまでは、それを止めることは考えない。
「……遺体ハドウスルンダ?」
最初に持ってきた亡骸の供養が終わった後、南方戦艦新棲姫は伊豆提督に問う。
遺体袋に入れられた亡骸を前に、妖精さん達が儀式のようなことをしたのだが、その後はその亡骸は何処かへと運ばれていく。南方戦艦新棲姫は最終的にどうするかまで見ないと気が済まない。
「うちの供養の仕方は火葬。だから、遺体を今から特殊な設備で燃やすことになるわ」
「……ソウカ、火葬カ。ソレナラバ、穢レモ溢レナイカ」
「ええ。炎で浄化すると思ってもらえれば」
伊豆提督は言わないが、南方戦艦新棲姫は1つ察していることがある。土葬よりも火葬を使っている理由、それは、単純に
いくらある程度の空間があると言っても、遺体をずっと置いておくことなんて出来やしない。そして、それが置いておかれると場所を取る。これからまだまだ遺体が運ばれてくることはわかっているのだから、それこそ置いておいたら雑な扱いになりかねない。ならば、場所を取らないカタチにし、供養をした方がいいだろう。
その最たる例として、火葬して遺骨のみとすること。ここに運び込まれた亡骸を火葬して骨が残るかはわからないが、だとしても生きていた証は遺しておくつもりで。
「……アナタの目には、このやり方はどう見えるかしら」
淡々と火葬が進んでいくところで、伊豆提督が問うた。運ばれ、焼かれ、カタチを失う様子を一部始終見てもらっているわけだが、そこで何か思うところはあるかという質問に、南方戦艦新棲姫は目を伏せる。
「否定ハシナイ。私ガヤロウトシテイタ
「ええ……そうなるわ。カタチを残しておくと、そこから穢れが溢れ出す。それが新たな敵を作り出して、それと戦い、それがまた残り、穢れを溢れさせる……終わらない戦いね」
「ナラバ、戦イガ終ワル方ヲ選ブベキダ。私ガ止メラレルノモ、当タリ前ダト言エル。手間ヲカケサセタ」
南方戦艦新棲姫は自分の行いを恥じているわけではない。伊豆提督は何度も、その行い、思いは何一つ間違っていないと言い続けているからだ。しかし、そのやり方が世界に合わなかっただけ。
だから南方戦艦新棲姫は謝らない。伊豆提督も謝罪を求めているわけでは無い。理解し、肯定し、先に進むことが今最も必要なこと。
「一ツ、願イガアルンダガ」
「何かしら」
「コノ供養、最後マデ手伝ワセテホシイ。コノ場所デ、彼女ラト共ニ」
彼女ら、というのは、供養のために働いている妖精さんのことである。今もせかせか動き回り、火葬の後の準備をしている。遺骨箱を用意したり、その後に残されたモノの処理を考えていたりと様々だが、全員が同じ思い──亡くなった者達の安らかな眠り──を抱いて行動している。
南方戦艦新棲姫も同じだ。あの山に棄てられた者達が、怒りと憎しみを鎮めてくれることを祈っている。ある意味、ここの妖精さんと利害が一致していると言ってもいい。
妖精さんがそれを聞き、助かると笑みを浮かべた。今はこれだけだが、これから山のように運ばれてくることを考えると、人手はあるに越したことはないし、妖精さんのサイズでは高が知れていることを、姫のサイズでやってもらえることは非常に頼もしいと伝える。
身振り手振りで伝えているため、伊豆提督には正確な言葉はわからない。だが言いたいことはわかっているつもりだ。
「ソウカ、受ケ入レテクレルカ。オ前達ガ許可シテクレルナラ、私モ快クヤレルトイウモノダ」
妖精さんによろしくお願いされたこともあり、南方戦艦新棲姫は小さく微笑み、早速動き出す。促されるように仕事の手伝いを始めることになった。
「オ前ハオ前デ、他ニヤラネバナラナイコトガアルノダロウ。ココハ私ニ任セテクレレバイイ」
「そうは言うけれど、アタシはここの長だもの。妖精さんが許可を出したとしても、ある程度は見届ける義務があるわ。大丈夫、アナタ達の邪魔はしないから。それに……これに関してはごめんなさいね、アナタが信頼出来るヒトなのは重々承知しているけれど、出会ったばかりの深海棲艦だもの、少しは見ておかないと、ね」
「……確カニ、オ前達ニトッテ、私ハ未知ノ存在カ。ナラ、オ前達ガ私ニ見セタヨウニ、私ガ信用ニ値スルカヲ見テモラウトシヨウ」
南方戦艦新棲姫が加わったことで、この供養の流れはよりスムーズに行なわれていくことになる。
ここまで弔うという行為を真摯に受け止め、真剣に取り組む者というのは、深海棲艦という枠組みを越えて、人間と比べたとしても、そうそういないモノだろう。
山から運び出される亡骸の数は、予想以上に多い。供養もそれ相応に時間がかかる。そしてその後に、山の清掃、浄化もある。
後始末屋の作業は、これまでとは比べ物にならないモノとなっていた。やれることもあれば、やれないことも出てくる。
「血塗れの土とかどうするのコレ」
グレカーレが愚痴るように話すのは、亡骸が撤去された後の地面である。本来の土の色とは違う、赤黒い液体が混ざり合ってしまった場所。一部は肉片なども残されてしまっており、それは細かく拾い集めているのだが、血が染み込んだ場所はどうにもならない。だからと言って、土を掘り返して全て持ち帰るなんてことも難しい。
一番出来そうなことは、あたり一面に薬剤をぶちまけることくらいだろう。それでも何が起きるかわからない。
「……天気も悪くなってまいりましたね……薬剤を撒くにしても、雨で洗い流されてしまいそうで」
「だよね……。こんだけ血がついてたら、雨でもどうにもならなそうだし」
「むしろ、雨のせいで山の麓まで穢れが流されてしまうのでは」
白雲が空を見上げながら話す。この作業中、徐々に天気が悪くなってきていたのだ。嵐が来るとは思えないモノの、雨がそれなりに強く降る可能性はある。
「雨が降る前に全部撤去出来そうなのはいいことだとは思うけど」
「はい、それは確かに。しかし、穢れが流れていくことは抑えようがございませぬ。明日以降、覚悟が必要かもしれませんね」
「うへぇ……困ったモンだねぇ……」
この日、夕方ほどから雨が降り始める。その時には、亡骸は全て撤去された。
多分この南方戦艦新棲姫は妖精さんの勧めで巫女服あたりを着せられる。