後始末屋の特異点   作:緋寺

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同じ経緯

 翌朝。うみどりは止まることなく海を航行中。次の現場が大規模であるため、出来る限りスピードを上げているため、制御出来ているとしても少しは音が立つし、艦内自体が少しだけ揺れているようにも感じる。

 そんな朝だが、深雪と電はイリスの総員起こしでもかなりギリギリなくらいの起床となった。昨日のVR訓練の疲労に加え、神風主導による駆逐艦の会での反省会が消灯時間まで続いたことで、精神的な疲労がかなり溜まっていたのが理由である。

 

「まだ眠てぇ……」

 

 目を擦りながら大欠伸。身体をグリグリと動かしてどうにか眠気を覚ました。

 

 消灯時間を超えて何かするようなことは、うみどりの規律が許さない。それを守らないで何かすることは、後始末作業が長引いた時以外にはやらない規則正しい生活を続けている。

 それでもこれだけ眠たいのは、昨日の訓練がそれだけ頭に疲労を溜め込んでしまっていた。慣れない仮想空間での演習はそれほどまでに影響を与えている。

 これで身体には何の影響も無いなんて詐欺だと少し愚痴りながらも、いつもより少しゆっくりとではあるが着替えて部屋を出る。

 

「おーっす、電。おはようさん」

「おはようなのですぅ……」

 

 深雪に輪をかけて電は眠そうにしていた。昨日の精神的疲労が深雪よりも大きく、眠りが浅くなってしまったようである。

 疲れすぎると逆に眠れなくなったりするもの。電はまさにその状況に陥ってしまったのだ。

 

「眠いなら、午前中は寝ておくか? ハルカちゃんは休息でもいいっつってたし」

「い、いえ、頑張るのです。どうしてもダメそうなら、休ませてもらうのです」

「それがいいぜ。あたしもそうするつもりだ。今はひとまず目が覚めてるけど、キツかったら昼寝する」

 

 既に一日の過ごし方も決めており、午前中は長門による体術の訓練、そして午後は再びVR訓練となる。身体を鍛えて、技を鍛えるという流れだ。

 そこに眠気がある場合、効率は悪くなるだろう。そのため、無理をするくらいなら素直に休むべき。深雪も電も練度を早く上げたいと思い少々無理をしようとしている部分はあるため、他のモノ達からやめておけと注意されたなら、否定も文句もなく寝るつもりである。

 

「……やっぱり、電は心が弱いですか?」

 

 ボソリと聞いてくる電に、深雪はすぐに返答が出来なかった。実際、電のメンタルは誰よりも繊細であることは間違いなかったからだ。嘘もつけないが、本当のことも言い難い。無言はまさに、肯定の意になってしまった。

 

 昨晩の駆逐艦の会、VR訓練の反省会の時に真っ先に指摘されたのがそこである。深雪はともかく、電の繊細さは確実に()()()()()()()()()である。

 深雪が傷付いた時のグラつき具合は、艦娘になったばかりで初めて実戦に参加するカテゴリーCの比ではない。

 

「弱いと思うなら、鍛えていこうぜ。あたしは電の優しさはいいことだと思うけど、それのせいで苦しむなら、振り払えるように鍛えるしかねぇよ」

「そう、ですよね。でも、心を鍛えるって、どうしたらいいのか……」

「それは流石にあたしもわからねぇ。午前中に長門さんに相談してみるか」

 

 わからないことは聞けばいい。ただでさえ、ヒトのカタチになってからわからないことだらけだったのだから、今更一つ聞こうが二つ聞こうが何も苦ではない。

 深雪が見る限り、うみどりの中で最もメンタルが強そうなのは長門ではないかと思っている。ならば、相談相手にも適切。ジャンルが違うと言われたらそれまでだが、ここで行動を起こしてみなくては先には進めない。

 

「気になるようなら、あたしはいくらでも相談に乗るから、まずは溜め込むのをやめような。話しづらかったら交換日記で書いてくれればいいから」

「……なのです」

 

 自分からネガティブに突っ込んでいってしまう電は、そういうところだけ見ると深雪とは正反対である。ここまで来ても、まだこのネガティブだけは払拭されることはなかった。

 

 

 

 

 朝食後、予定通り長門に稽古をつけてもらうこととなる。筋トレをする時のようなラフな服装でいいと言われたため、着替えてトレーニングルームに向かうと、そこには長門だけでなく、妙高の姿もあった。

 

「あれ、妙高さんも何か教えてくれるのか?」

「ええ、今の貴女達ーー特に電さんには必要なことを教えられるかと思います」

 

 長門も小さく頷く。

 

「私が教えられるのは戦い方だけだ。心技体で言えば、技と体しか教えられない。だから、妙高には君達に最も必要であろう心の部分を教えてもらうために補佐についてもらうことにした」

「心……?」

「神風から聞いている。昨日の訓練、心の面で苦戦したのだろう?」

 

 メンタルの件では、深雪も電もかなり厳しいところになる。トラウマを持っているのだから、演習に対してあらゆる感情が湧きあがっても仕方ないのだが、それではまともに戦えるかもわからない。

 今は仮想空間だから誰も傷付かないが、そのうち必ず誰かが傷付く戦いに参加することになるだろう。その場で怖気付いていたら仲間の足を引っ張るし、何より自分の命が危ない。

 

「私から教えるのは、心を静かに戦う手段。深雪さんは長門さんに動を、電さんは私に静を教わるということになるでしょう」

 

 深雪もメンタル面には難があるが、後ろ向きにはならないため、長門の教えの下で武力を得る。

 逆に電はメンタル面が非常に重荷となるため、妙高の教えの下で精神力を得る。

 

「私としてもだな、電が喧嘩というイメージが湧かない。だが、自衛の手段は覚えてもらいたい。性格的には、妙高の方が適任だと思ってな。プランは二人で別々になってしまうが、同じ場所で共に歩けるようにする」

「互いの成長を見届けながら鍛えれば、より伸びるのではとは思っています。私達も容赦はしませんが」

 

 深雪と電の練度上げは急務と言っても過言ではない。そのため、ここでの訓練はゆっくりとやっていられないだろう。なるべく早く極めるためにも、これまでの訓練と比べると少々厳しいものになる。長門は先んじてそのことを伝えていた。

 

「あたしは構わねぇ。強くなりたいって気持ちは強いからな」

 

 深雪は握りしめた拳を突き出して、やる気を体現する。振り切れているポジティブは、この時でも当たり前のように輝いていた。

 力が無くては、この世界では自分のやりたいことも出来やしない。敵を斃すことも、仲間を守ることも。どちらにしろ、戦うための力は必要。

 

「電は……電はみんなの足を引っ張りたくないのです。だから、妙高さん……電にいろいろと教えてください……っ」

 

 電も今の自分を変えたいと考え、勇気を出して一歩を踏み出した。トラウマを刺激され続ける茨の道であっても、深雪と共に歩いていくならば、傷付いても進まなくてはならない。

 ネガティブであっても、ここで後ろを向いてはいけないとは理解している。だから、ほんの少しの勇気で前を向いた。いつも電の前には道を示してくれる光がある。

 

「その意気や良し。ならば、早速始めていこうか」

 

 そう言いながら、長門が用意したのは各種プロテクター。実戦を踏まえながらの訓練となるためか、深雪に装着を促す。

 本当に戦う時はこんなものは使えないのだが、訓練の時から実戦さながらというのは流石に危険だ。ただでさえ深雪は素人。当たりどころが悪ければ、入渠では済まない。

 

「電さんはまず精神鍛錬を行ないます。用意はしてあるので、そこへ」

 

 一方、妙高は電を用意していた座布団に座らせる。楽な姿勢でいいとはいうものの、ビシッとした正座を見せているため、電もそれに倣って正座。

 

「深雪さんの訓練を、ただじっと見ていてください。ただし、()()()()()()姿()()()()()()()こと。言ってしまえば座禅ですね。例え深雪さんが手痛い目に遭ったとしても、心を揺さぶられないようにしましょう」

 

 つまり、今から深雪は痛い目に遭うということである。それに気付いた電はビクッと身体を揺らすが、その瞬間に妙高から手が伸び、ピシッと肩を叩かれる。心の乱れをいち早く感じ取り、それを小さな痛みとして電自身に伝えるため。

 

「私から少々厳しい意見を言わせてもらいますがよかったですか?」

「えっ……は、はい」

「過去のことを忘れろとは言いませんが、今は過去とは違います。割り切りなさい」

 

 簡単に割り切れないからトラウマになっているのだが、妙高はそれをわかっていてあえてこの言葉を告げた。

 

「仲間が傷付いていても、それが死に直結していなければ何も問題はありません。それで心を崩していたら、貴女が同じ目に遭いますよ。強くなりたいと思うならば、まずは冷静に事を見届けられるようになりなさい。貴女のためにも、仲間のためにも」

 

 そう言われても、電の手は少し震えてしまっていた。問題ないと言われても、トラウマがどうしても心を刺激し続ける。自分が傷付けたことで死に至ってしまった深雪のことを思うと、どうしても辛かった。

 そんな電の心が手に取るようにわかるようで、妙高は少しだけ決意したような強い眼差しを向けた。

 

「このことは深雪さんには伝えないでほしいですが、ひとつだけ貴女に聞いてもらいたいことがあります。私が電さんの心を鍛えるためにここにいるのは、長門さんに頼まれたこともありますが、もう一つあるんですよ」

「そう、なのですか?」

「はい。私は貴女と似たような境遇でここにいるからです」

 

 えっと電は目を開く。

 

「貴女にだけは話しておきます。私が艦娘となった理由は、罪滅ぼしです。正当防衛であったとはいえ、私は……()()()()()()()()()()()()

 

 これが深雪に言いにくい事情として話さなかった艦娘となった理由。妙高は()()であり、その罪滅ぼしのために命をかける艦娘となった。

 艦娘となることを求刑されるなんてことは無く、自らこの道を選んで命を懸けることにしたのだ。

 

 これは間違いなく陰の理由。後ろ暗すぎて、他者には話せない内容。

 

「だから、電さんのことは他人のようには思えません。故意にやったわけではないけれど、相手が大きな怪我を負ってしまったなんて、心が押し潰されても仕方ありません。私もその経験があるからわかるんですよ」

「妙高さんも……」

「ええ。私も最初は、艦娘としてカテゴリーMを傷つけることには苦しみました。仲間が傷付くのを見ることも辛かったです。当時のトラウマで、人が傷付く姿がダメになってしまったんですよ」

 

 経緯は電と似たようなものだった。過去を清算しているわけでもない。だが、妙高はそこから立ち直り、今ここで戦力として戦っている。カテゴリーMにも立ち向かうし、仲間を傷つける者に対しては容赦なくその力を発揮する。

 

「なら、なんで……出来るようになったのですか?」

「自分が何も出来ずに仲間が傷付くことは、自分が手にかけることと同じくらい辛いとわかったからです」

 

 動いてしまったが故に人を傷付けてしまった妙高は、動けなくなってしまった。しかし、動かなかったが故に、守れるものが守れなかった。妙高は、()()()()()()()()()()()()()

 電はまだ一つ目のところで止まっている。ならば、自分と同じ罪を背負う前に割り切ってもらいたいと考えていた。

 

「この訓練は、動かなくてもいいときに動揺しなくするための訓練です。心を動かさず、しかし状況を見極める力を養ってください」

「……妙高さんも、こうやって鍛えたのですか?」

「ええ、私は心が弱かったですから。電さんに向いているかはわかりませんけどね」

 

 同じ方法でトラウマを回避出来るかはわからない。しかし、やってみなければわからない。故に、電にはこの訓練を課した。

 

「冷静にいられるならば、いくらでも状況が判断出来ます。動揺するなとは言いません。でも、それも()()()()()()()んですよ。それに気付くことが出来ればいいですね」

 

 

 

 

 電と似たような経緯を持つ妙高は、開き直ることが出来ている。電も同じように開き直ることが出来れば、進むべき道は一気に拡がるだろう。

 




うみどりの中でも特に暗い過去を持つのが妙高。罪人という咎を背負い、罪滅ぼしのために艦娘をやっていますが、今ではその仕事も誇りに思っています。
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