後始末屋の特異点   作:緋寺

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言葉は通じずとも

 深雪達の出会った駆逐ラ級は、1体だけでは無かった。α型に案内されてやってきた洞穴にはγ型とζ型の2体もおり、α型と同じように飢餓感に苦しんでおり、α型が姉妹であろうこの2体のために食糧を探してきたと考えられる。

 電の持ってきた、セレス謹製のおにぎりを平らげたγ型とζ型は、更に与えられた水をゴクゴクと飲み、ようやく一息ついた。一時的にでも飢餓感が失われたことで、α型と同様、少し落ち着いたようである。

 

「……タスカッタ……」

「……アリガトウ……」

 

 ζ型は改めて仮面を被り、電に頭を下げる。礼を言えるくらいなので、人類に対しての怒りや憎しみが非常に少ないと思われる。

 電もどういたしましてと頭を下げる。腹を満たしたことで余裕が出てきたおかげで、眼に光が戻ってきたようにも見える。

 

 生まれたばかりの頃は、憎しみの方が強かったというのは、クロトの証言からわかっている。クロトはそこにあった遺体を食らってしまったために進化し、戦艦タ級から南方戦艦新棲姫へと進化し、その恨みや憎しみが薄れて弔いの気持ちが強くなった。

 しかし、ここにいるラ級は、最初から憎しみは薄い。誕生したのがこの雨の後、まだ1日も経っていないというのならば、雨で流れたことによる穢れの拡がりが、そうなった理由ではと考えられる。

 ただそこにある穢れだけではない、遺体から流れ落ちたあらゆる種族の穢れ。それが混じり合ったことで、突然変異を起こしている。とにかく飢餓感を強く味わい、それによって理性も何もなく、目についた食べられそうなモノを口にしてしまうようになっていた。

 

「本来の深海棲艦は、海で生まれるよね。だから、戦場の穢れが深海棲艦を生み出してるんだと思う」

 

 川内が深雪達に説明するように話す。

 

「でも、ここにある穢れって、人間や妖精さんのモノまであるでしょ。普通の戦場とは比べ物にならないくらいに。だから、多分本来とは違う生まれ方になってる」

「……だよな。でも、それなら尚更怒りとか憎しみとかに繋がらないか?」

「だよねぇ。だからワケがわかんないんだけどさ」

 

 ここでそれだけ苦しんだのなら、人間も妖精さんも、間違いなく憎しみを抱くだろう。そこから生まれた穢れだというのなら、本来の深海棲艦とは比べ物にならないくらいに凶暴になりそうだと、深雪は考えた。

 川内も、ただ突然変異だろうとは言うけど、実際に何故そんなことが起きたのかは説明が出来ない。ただでさえ深海棲艦には謎だらけなのだから、その上で例外まで出されたら何も説明が出来なかった。

 

「ともかく、喧嘩にならないなら願ってもないことでしょ。大人しくしてくれてるなら、保護するなら今のうちだね」

「だな。今ならうみどりに運べるだろうし、来てもらうのが一番いいよな」

「もっと食べてもらうことも出来るのです」

 

 おにぎりで満たされた腹は、おそらくすぐに空いてしまう。しっかりと食べてもらうことが必要になるだろう。

 

「ここにいると危ないから、あたし達についてきてくれないか」

「ご飯もまだ用意出来るのです。お腹も膨らむはずなのです」

 

 こちら側の言葉を理解しているかはわからない。先程からもそうだが、ラ級達の言葉は基本一方的であり、対話にはなっていないのだ。御礼は言えるが、それは行為に対しての言葉なだけであり、キチンとした対話は未だに出来ていない。ここまで来たのも、α型が促したからというだけ。

 

 そういう意味では、ここで生まれたモノの中で、普通に対話が出来てきたモノ達とは一線を画している。そしてその差と言えば、妖精さんの要素を食べているか否か。

 それか、そもそも耳が聞こえていないという可能性。異常性のある生まれ方をしているのだから、何らかの不具合が起きていてもおかしくはない。姉妹間の意思疎通は出来ていそうなので、その線は薄そうではあるが。

 

「ア、アー、タベモノ、マダアル?」

 

 ここで口を開いたのはα型。先程の凶暴性は失われ、おずおずと聞いてきている。やはり先程の深雪と電の言葉はちゃんと聞き取れていない。同じ言語を使っているのに、何処かに壁があるような不思議な感覚。

 

「あるよ、まだ」

 

 首を縦に振ることで、言葉では通じないところをジェスチャーで伝えるように。

 すると、α型はパァーッと明るい表情を見せる。ジェスチャーはあちらにも同じ意味というカタチで受け取ってもらえるようだ。

 

「マダ、タベラレルッテ。モウ、クルシマナクテ、スムヨ」

 

 妹達に伝えると、γ型もζ型もビクッと震えた後、笑顔を見せた。ζ型は仮面で表情が見えないが、その分大袈裟なくらいに身体を動かして、喜びを体現した。

 

 これまで保護して仲間となった深海棲艦達よりも、言葉がカタコトである。つい最近言葉を知りましたという雰囲気がすごく、クロトやヌ級のように進化をしているわけでもないため、何とか言葉を紡ぐことが出来ているというイメージ。

 実際のラ級も、一方的に捲し立ててくるようなモノ。対話をしようとするわけでもなく、内側を占める怒りと憎しみを、わかりやすく言葉にしているだけと言える。

 それはある意味で、子供のようなモノ。故に、この姿となったとしても、幼いという意味で駆逐艦。見たところ武装らしきモノすら無いため、中途半端に生まれてしまったかのようにも見える。

 

「ひとまず……大丈夫そうか?」

「なのです。連れていきましょう」

「だな。じゃあ、ついてきてくれ」

 

 手招きをすると、3体ともが大きく頷き、深雪と電についていく。それはまるで、鴨の親子。特異点を親として慕う子供達のようだった。

 

 

 

 

 雨降る中、少々危ない山道を上手く歩き、下っていく。その時に、何か通じないかとラ級に対して話だけは進める。

 

「あたし達が来るまで、何も食えなかったのか?」

 

 やはり言葉は通じない。なので、ジェスチャーで伝えられればと四苦八苦していると、α型が小さく頷いた。そして、地面を指差す。

 

「ナメテタ」

 

 それは、山に残された遺体の体液。どう見ても血。土とは違うモノのため、多少は腹が満たせるかもしれないと舌を伸ばしたらしい。

 

 また、γ型も木を指差す。

 

「カジッタ」

 

 これで初めて見た時のα型の行動の意味がわかる。木々を殴りつけていたのは、木の皮を採取するためだったのだ。泥よりは食べられるだろうと考えたのか。

 事実、木には拭い付けられたかのように体液がこびりついていたりするため、絶対に食べられないというわけでは無さそうに見える。

 しかし、そんなことで腹を満たせるわけがない。いくら深海棲艦が頑丈だとしても、食べられないモノを食べていたら、いずれ身体がおかしくなる。

 

 そういう意味では、タイミングが悪かった。昨日の遺体の撤去よりも前に生まれていたら、クロトのように遺体を喰らうことで空腹は満たせたことだろう。

 現にクロトは飢餓感を訴えていないし、むしろ進化したことでそこから抜け出してしまっているようにも見える。

 

 とはいえ、遺体の損壊を肯定するわけにもいかない。どちらが良かったかというのは何とも言えない。

 

「もうそんなことしなくていいからな。うまいモノ食わしてやれるから」

「なのです。救えるヒト達がいるのなら、全員に手を伸ばすのが後始末屋なのです」

 

 何とかジェスチャーで伝えると、ラ級達は大喜びである。ただ食べられるということが幸せであり、救われる行為。

 

「他のところもこんな感じなのでしょうか」

「我々は物分かりのいいモノと会えたから良かったが……しかし、戦闘の音は聞こえないな」

 

 白雲と磯風が周辺警戒をしながら話している。深雪達はあくまでも中央ルートを行っているだけで、右にも左にもイロハ級の姿を確認しているのだ。それらがどうなっているのかは、こちらからはわからない。

 とはいえ、戦闘の音は聞こえないのだから、急に襲われて討伐という流れにはなっていないと考えられる。

 

 電と同様、おにぎりを持たされているため、同じように飢餓感を持つモノが生まれていたとしたら、ある意味()()()が成功しているということにも繋がりそうだ。

 

「ちょっと見てくるよ。後から追いつく」

 

 ここでも川内が活躍。木をスルスルと登っていき、他の戦場を見るために高いところに向かっていった。

 山のさらに高いところからなら、この島の何処で何が起きているかが一望出来るだろう。だが、川内はそれを目にしたことで言葉を失った。

 

「……いずれ知ることになるだろうけど……うーん……」

 

 右ルートはそうなっている。ならば左ルートはと見ると、やはり戦闘は起きていないが、最悪の事態は起きてしまっているのは確認出来た。

 

「深雪達、このルート選んだの大正解だね……あんなの生で見たくないでしょ……」

 

 大きく溜息を吐く。これを報告しなくてはならないという事実が心に重くのしかかる。

 深雪達とは違う部隊は、既にその現場に辿り着いており、それをどうしようか迷っているような状態だ。攻撃もされないため、殲滅するかどうかというところになっているようだが。

 

「……ただいま」

 

 スルスルと木を降りてきた川内は、浮かない顔をしている。深雪達は何を見てきたんだと心配になるほどに。

 

「川内さん、どうだった?」

「戦いにはなってなかったのです?」

 

 聞かれても、すぐには答えられなかった。だが、こちらの言葉をラ級達が認識していないこともあり、今他の現場で起きている現状をこの場で伝えても、今すぐここで最悪の事態が起きることは無いと判断して、簡単に説明することにした。

 今知っても後に知っても、感じ方はおそらく何も変わらない。そして、いずれ知ることになる。

 

 

 

 

「……()()()()()()

「え……」

 

 そう、ラ級達とは違い、より獣に近い姿をしているイロハ級達は、飢餓感を払拭するために、共食いをしてしまっていたのだ。

 




起こり得る最悪の事態は、別の現場で。
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