後始末屋の特異点   作:緋寺

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妖精さんの影響

 共食いをしたナ級がその末に進化し、その身体を繭のようにして生まれ出たのは深海玉棲姫。強力な駆逐艦の姫であるが、現在は少々中途半端な姿。頭部艤装は持たず、駆逐艦としての姿をただ見せているだけである。

 そんな深海玉棲姫に対して、警戒を怠ることはなかった。しかし、ヒト型になった、姫になったことで、もしかしたら話が出来るかもしれないと考えた那珂が、早速前に出る。

 

「こーんにーちはー! 那珂ちゃんだよーっ♪」

 

 いつもの調子で、アイドルのように声をかける。満面の笑みで、手を振りながら、深海玉棲姫に近付いて行った。

 急に攻撃されたらどうするのだとハラハラしてしまうモノだが、那珂はその辺りを全く気にしない。それに、攻撃されても避けられる自信がある。

 

「あ、おはようの方が良かったかな? とにかく、貴女とお話しをしに来たんだ。こっちの言葉、聞こえてるかな?」

 

 あくまでも親しげに、敵ではないという点を強調して、ゆっくりと近付く。攻撃の意思はない、持っているのはマイクだけ。だから、貴女もまず話をしないか。その思いを体現した状態で。

 対する深海玉棲姫は、そんな那珂のことをジッと見つめている。睨んでいるわけでもない、怖がっているわけでもない、ただ何が来たのかと訝しげな表情を浮かべて。

 

「那珂ちゃん達は敵じゃないよ。話をして、お友達になれたらって思って、ここまで来たんだ♪」

 

 クルッと回ってポーズを決める。敵だったら神経を逆撫でするような行為に見えないことはないが、相手が何かわかっていない状態なら、これで距離感を縮めようとする。那珂のバケモノのようなメンタルならではのコミュニケーション。

 

「お話し、出来るかな?」

 

 そして、手に持つマイクを深海玉棲姫に向けた。その時には、もうかなり距離を縮めていた。

 

「……アナタ、ナニ」

 

 まず一言。深海玉棲姫が話せることが確定。ただ、その言葉から、那珂の言葉に反応したようにも、ただ疑問に思ったことを口にしたのみにも聞こえる。

 とはいえ、攻撃することなく反応してくれたことに意味がある。単純に敵意があるわけではない。こちらの話を聞こうとしているような素振りを見せてくれていることが大事。

 

「那珂ちゃんは、艦隊のアイドル!」

「アイ、ドル?」

 

 応答した。これにより、対話が可能であることが証明される。

 

 ラ級との違いはやはり、姫であること。今生まれたばかりでも、姫であるという点から、他者とのコミュニケーション能力は持っているようである。それをどのように使うかは本人次第だが。

 ラ級とは言語でのコミュニケーションが取れないことについては、知っているのは深雪達の部隊だけである。そのため、姫とイロハ級の差をこの部隊はわからない。

 

「そう、アイドル! 歌って踊って、みんなを幸せにすることが大好き! その『みんな』には、勿論貴女も入ってるんだよ♪」

「……アタシ、モ……?」

 

 何処となく理解が出来ていないような顔。むしろ、理解が追いついていない顔。

 

 この時には、妙高達は一度戦闘態勢を解いている。深海玉棲姫を怖がらせないため。敵意がないことを示すため。

 

「生まれたばかりだけれど、こうやってお話し出来るなら、もう貴女と那珂ちゃんはお友達になれるよね♪ あ、そうだ! お近付きの印にぃ……はい! お腹空いてるかもって思って、食べるモノを持ってきてるんだ♪」

 

 そう言いながら取り出したのは、電も持っていたおにぎりである。それを見た深海玉棲姫は、急に目がキラキラと輝き出す。

 この姿になっても、未だに飢餓感は残っていたようで、那珂と話しているうちはそこに気付けなかったが、今は自身の空腹を自覚したようである。

 イ級を喰ったことで腹が満たされていると思われたが、そこで得たエネルギーを進化に使ってしまったからか、まだ腹は空いているようだ。

 そこはクロトとは少し違う。()()()()()の違いが如実に現れている。

 

 那珂が差し出したおにぎりを見て、おそるおそる手に取る。そして、口に入れると、目を見開いて驚いた。

 

「那珂ちゃんが作ったモノじゃあないんだけどね。貴女みたいにお腹を空かせてそうなヒトに振る舞うために、那珂ちゃんの仲間が作ってくれたんだよ。貴女と同じ、深海棲艦の姫がね」

「アタシト、オナジ……?」

 

 腹は空いていてもガツガツ食べるのではなく、少し上品に食べていく姿は、まさに姫と言えよう。

 那珂の話に興味を持ったか、食べる手は止めなくても、耳を傾けていた。攻撃の意思は、まだ無い。

 

 

 

 

「……ここで生まれた深海棲艦は、もしかしたら敵意が無いのかもしれません」

 

 その光景を遠目で見ながら、妙高は現段階で出来る分析を進めていた。深海玉棲姫の行動は、明らかに何も知らない子供のようなモノ。鸚鵡返しではあるが、那珂の言葉に耳を傾ける姿勢があることからも、話を聞こうとする気持ちは持っていることに他ならない。

 

「ここにある穢れには、人間と、妖精さんのモノが含まれています。それも、普通より多く。それが、深海棲艦の誕生に大きく影響を与えている」

「それがあのお腹空いたってヤツ?」

「はい。ここまで見てきたここ生まれの深海棲艦は、今のところ漏れなく空腹を感じています。怒りや憎しみはあったけれど、それ以上に飢餓感が強い」

 

 グレカーレの問いにも答えつつ、妙高は考えを纏めるために、現状を改めて整理する。

 

 忌雷、ヌ級、クロトと、これまで3体の深海棲艦を保護してきたが、共通して空腹感を持っていた。だからそこにあるモノを躊躇なく口にする。忌雷とヌ級は傷んだ惣菜を、クロトは遺体を。そして、今でこそ深海玉棲姫となったナ級は同胞を喰らった。その結果が進化である。

 前者3体は、喰ったモノに妖精さんが含まれていたため、独自の進化をしている。忌雷は肥大化。ヌ級は元忌雷だったところをイロハ級に。クロトは戦艦タ級だったところを姫に。あくまでも妖精さん成分がその進化を促したと考えられる。

 ならばこのナ級=深海玉棲姫はどうなのか。食べたモノに妖精さんは絡んでいないように見える。しかし、妙高は憶測ながらも答えを出す。

 

「生まれたところに妖精さんの穢れが混ざっていれば……この特異性は発現するのでは無いでしょうか」

「妖精さんの穢れかぁ……あたし達の中では、特にわかってないところだもんねぇ」

「はい。妖精さんには謎が多すぎますから」

 

 こればっかりは、わからないとしか言いようがない部分。そもそも、妖精さん自身も自分のことがよくわかっていないところがあるくらいだ。謎が謎を呼び続けるため、一旦その件については、謎であるで考えるのをやめざるを得ない。

 

「妖精さんの穢れ……いや、もう穢れと呼ぶのも良くはないかもしれません。それそのものが、深海棲艦の怒りや憎しみに強く影響を与えているのかもしれないのですから」

「……例えば、こっちに向けてくる敵意が、空腹に置き換わってる?」

「はい。怒りや憎しみを向ける対象がわからなくなっている。ただひたすらにお腹が空いている。だから、その攻撃は人類に向けての敵意ではなく、現状に対しての()()だった。でも、ある程度お腹を満たすことが出来れば、その怒りと憎しみは発散出来る。その結果、何を食べたかによるとは思いますが、進化をしてしまったりもするでしょう」

「おにぎりじゃあ進化はしないよねぇ。でも、ヤバいモノ食べたらああもなるかな」

 

 単純に、腹が減っていることが腹立たしい、誰のせいか知らないけど、この空腹は気に入らない。そんな気持ちで苛立っていた。というのが、ここで生まれた深海棲艦の根底ではないか。妙高の憶測はそこに辿り着いた。

 人類に対しての憎しみが存在しない、しかしながら、怒りを取り払うことが出来ないため、そこに空腹という人類ではない矛先を生み出したのではないか。そうすれば、食べれば満たされ、穏やかになる。

 

 そういうところからも、妖精さんが人間に献身してくれているのだと理解出来る。深海棲艦を人類の敵とならないように、死してなお在り方を曲げてくれた。

 身体を失い、魂すら失い、穢れとなっても、人類を守ろうとしてくれている。あまりにも優しく、そして美しい人類愛。それは逆に怖くなるほどに。

 

「妖精さん……滅茶苦茶すぎでしょ」

 

 グレカーレの呟きに、そのサポート妖精さんがドヤ顔をキメる。グレカーレのサポート妖精さんであるためか、性格もグレカーレに近いようである。

 

「彼女、深海玉棲姫も、ナ級として生まれた時は、飢餓感による苛立ちがあった。怒りと憎しみが募り、しかしその理由が飢餓感であるとわかり、それを発散しようとした。近くにいた同胞も、()()()()()()()として認識してしまったのでしょう。そして、私達が見た光景です」

「共食い、だね」

「その結果、ある程度は空腹が満たされた。その満たすという行為が、怒りと憎しみを発散させた。勿論、ここからまた空腹を感じたら癇癪を起こす可能性はありますが、少なくとも食べさせることで話をすることは出来ます」

 

 視線を那珂の方に戻すと、その類い稀なコミュニケーション能力を遺憾無く発揮し、深海玉棲姫との距離を一気に縮めていた。

 おにぎりを食べてもらい、腹が満たされ始めたところで、対話を進めている。

 

「せっかく話せるようになったんだもん。楽しいことはいっぱいあるんだよ。例えば、歌とかね♪」

「ウタ……?」

「そう、歌! 聞いててね♪」

 

 深海玉棲姫だけに向けて、那珂は歌い始める。囁くように、訴えかけるように。

 それは、生まれたばかりの深海玉棲姫の心に強い衝撃を与えた。空腹を満たされ、少しでも余裕が出来たところに刻まれる、文化という衝撃。それは、深海玉棲姫の価値観を塗り替えるには充分すぎるモノだった。

 

「ウタ、ウタ……スゴイ、ムネガアツクナル、ミタイナ」

「ふふふ、そうでしょそうでしょ♪ 満たされるでしょ♪」

「ミタサレル、ソウ、カモ」

 

 自分の胸に手を当てて、ぼんやりと那珂の歌を聴いている深海玉棲姫。その穏やかな表情は、とても深海とは思えないモノだった。

 

 

 

 

 妖精さんのおかげで、人類の敵は満たされることを知った。それがどのようなカタチでも、敵意という感情が綺麗さっぱり失われているのだから、最後は共に手を取り合うことが出来るようになる。

 




ここで生まれる深海棲艦には、妖精さんの要素がかなり強め。ラ級も空腹から癇癪を起こしていただけ。あちらが共食いに走らなかったのは、やはり人間の穢れの影響。


明日10/4ですが、今日の夜から明日の午前中にかけて予定が入ってしまったため、お休みをさせていただきます。次回投稿は、明後日10/5とさせていただきます。ご了承ください。
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