深雪達が保護したラ級達、時雨達が保護したネ級達は、セレスが先頭に立って工廠に簡易的に作り上げた厨房で提供される食事に舌鼓を打つ。それだけ穏やかで、楽しげな食事風景が繰り広げられた。
そこに少し遅れて、妙高達が保護した深海玉棲姫が到着。これまで保護されてきた中でも、クロトと同等といえる大物の姫。生まれた経緯は一旦置いておくとしても、対話が可能な者の登場には若干の緊張感が生まれる。
しかし、深海玉棲姫は生まれて初めて見たモノが那珂のアイドルとしての矜持。空腹をおにぎりで多少満たした後、歌という人類の文化に触れることで、心が満たされている。ここに来るまでも、那珂にアイドルとは何ぞやを説かれ続け、深海棲艦とは思えないくらいに目がキラキラしていた。
「アイドル……スゴイ、感動シタ……」
そして、これである。完全にアイドル活動の布教が完了していた。文化という概念を理解させることに成功していたのだ。
那珂とここまで打ち解けているため、共に出撃している舞風とも既に仲が良い。アイドルには歌うだけでなく踊ることもあると聞き、帰投しながらもそれを披露することで、ダンスにも興味を持たせているという恐ろしさ。
でもその前に、と工廠厨房に案内される。何をするにもまずは食から。セレスの姿を見て深海玉棲姫はピクリと反応するモノの、ここには序列など何もなく、会釈をする程度で食事提供の列へと並んだ。
ここで頭を下げるという行為が出来るところは、イロハ級達とは違った。対話が可能という点で既に高度な存在へと進化しているのだが、少しは満たされているとはいえ、美味しそうな炊き出しの匂いを受けても理性的にそこにいられるというところは、やはり姫。感情のコントロールなどが出来ていると言える。
「マダマダ増エソウナノヨネ。ナラ、モット島ニ近付イタ方ガイイト思ウノダケレド」
セレスがそれを提案する。うみどりを島に横付けして、現れた腹を空かせた深海棲艦達を軒並み匂いで釣り上げ、全てに提供する。共食いなんてことも起こりにくくなるだろう。既にやってしまっているのならば仕方ないことだが、そうでなく飢餓感に苦しむモノが現れたのなら、すぐにそれを取り払ってやりたい。
現在の後始末の状況として、海上に関しては大分片付いており、うみどりを移動させることは不可能ではない。港周辺は特に汚かったこともあり、入念な後始末が実施されているため、そこまで行くことによって現場を荒らすこともない。
「そうね、うみどりの移動、やりましょうか。あの港なら入ることが出来るわ」
瀬石元帥を含めた各方面への連絡が終わった伊豆提督も、セレスのその案に賛成し、うみどりの移動を承諾。少しでも空腹を満たす時間を短くするためにも、それは必要と判断した。
港で戦闘が起きてしまった場合は大変なことになりかねないが、そこは歴戦の猛者達集う鎮守府。それに、今はうみねことみずなぎという心強い同業者もいる。前も後ろも頼りになるというモノ。
「一度全員うみどりに戻ってもらうか、島で待機するかしてもらうわ。うみどりの移動、始めるわよ!」
ここからこの後始末は大きく動き出す。方向性が随分と変わるというカタチで。
うみどりが島に横付けされると聞き、うみねこの提督兼艦娘である多摩は、スゴイ度胸だなと感心していた。また、みずなぎの秘書艦玉波も、このタイミングで横付けは考えないと驚いている。
島の後始末がまだまともに済んでいないということは、いつ襲撃を受けてもおかしくないということ。移動鎮守府の利点は、鎮守府そのものが敵からの攻撃を避けることが出来ることなのだが、それを捨ててでも別事に従事しようとしている。
うみどり移動については、この海域にいる移動鎮守府のトップ達にもすぐに通達される。艦の移動はそれくらい大掛かり。外で作業している者がうっかり巻き込まれないように知っておいてもらわなければならない。
昼目提督はその理由を既に察しており、流石にハルカ先輩だとニッコリである。こだかのタシュケントも、ハルカちゃんならそういうことするよねと微笑んだ。しかし、うみねことみずなぎは少々違う。
「急でごめんなさいね。うみどりはこれから、
『被災者って、島で生まれた深海棲艦のことかにゃ?』
「ええ、その通りよ。敵意がない代わりに、酷い飢餓感に苛まれているの。そして、食事を与えることで戦闘すらする必要がなく、保護が可能であることを実証したわ」
『なるほど……深海棲艦だからと始末していたら、後始末は終わらない。手懐け……失礼、共存出来るのなら、その方が綺麗に終われるというわけだ。すごいね七色の艦隊』
梨田提督もこの案には単純に感心していた。普通なら考えない深海棲艦との共存。戦闘を起こすことなく、後始末の高速化まで兼ねた、あらゆる方向でのベストな解答。
しかし、それ相応なリスクだってある。それが、保護し続ければいずれパンクするということ。うみどりにだって限界がある。
「アタシとしては、1つ考えがあるの。ただそれは、あまり喜ばしいことではないかもしれない」
『ハルカ先輩、もしかして、この島を
「ええ、明け渡すという言い方は違うけれど、ここで生まれた子達は、ここで暮らす方がいいんじゃないかと思ってね」
そう、増えすぎた島生まれの深海棲艦達は、保護し続けるのではなく、この島で生活をしてもらうということを考えている。今は穢れまみれなので、生活にも悪影響が出そうではあるのだが、ある程度後始末が終わり、ここに留まっても大丈夫だろうと判断出来たならば、大量に増えてしまうであろう深海棲艦の面々に、好きなように過ごしてもらうというアイディアだ。
うみどりのパンクはそれで防げるし、戦う必要のない深海棲艦はここでのびのびと自由に過ごすことも出来る。勿論、その生活の助けは必要だとは思うが、それさえ出来てしまえば、新たな生活圏を誕生させることも可能だ。
『それは賛成だよ。なんなら、こだかがそれをサポートしてもいい。軍港とこの島を行き来して、生活支援をするというのもいいんじゃないかな』
タシュケントが明るく言う。深海棲艦を保護し続けるのも難しく、うみどりがパンクしてしまったら次はこだかやおおわしがその責任を負うことになるだろう。だが、いずれそれも限界が来る。特にイロハ級の管理は、ペットを飼うなんて生優しい話ではない。うみどりだから上手く回っているのであって、他では無理だと考えていた。諦めているわけでも、面倒臭いというわけでもない、考えた結果そうなってしまうというだけ。
ならば何処かに纏めておいておけないか、上手く広い場所で管理出来ないかと考えれば、自ずとその答えに辿り着く。タシュケントもそれは頭の片隅で考えていたことだったりする。だから、生活支援というカタチで、物資搬入をやるよと手を挙げることが出来た。
「問題は、
『納得させるだけならオレが拳でどうにかします。ただ、オレ達がこの島を離れた後の話です』
「ええ、アタシもそれを考えてるの。目を離したところで、何かが起きられたら困っちゃうモノね」
生活させるだけなら上手く行くかもしれないが、やはり問題点はそこに尽きる。管理運営だ。
しかし、ここにもタシュケントが挙手をする。
『あたし達、今でこそ後始末屋の分隊として動いてるけどさ、今回の戦いが終わったらここまで忙しくはなくなると思うんだよ。だから、あたし達も一緒にそこで住むっていうのはどうだろう』
タシュケントは語る。自分達は第二世代の忘れ形見であり、この戦いが終われば居場所そのものが失われる可能性のある存在。それこそ、第三次深海戦争が終結したならば、帰る場所すらない。軍港都市で住む場所を獲得するなんてことも出来るかもしれないが、それなりに人数もいるのだから、全員が全員丸く収めることは出来ないのではと危惧もしている。
そこでタシュケントは一計を案じた。純粋種達の最後の居場所を作っておいた方がいいのではと。戦争が終われば、世界の片隅で静かに暮らす。そんなことが出来る場所を探しておきたいと。
そうしたら降って湧いてきた都合のいい話。穏やかな深海棲艦との生活という、普通なら嫌いそうな役回りでも、『うみどりで保護され』という点が入った時点で受け入れられるモノ。
タシュケントは、今はまだ提案というところで止まっているが、こだかにいる第二世代達は、おそらく反対しないと語る。阿手との戦いがあったという負の感情は、これからの自分達の明るい未来で塗り潰してしまえばいい。
「……大丈夫? 無理はしてない?」
『無理なんてしてないよ。それに、こだかはあたし達に譲渡されてるんだから、島とこだかがあれば生きていけるからね。狭苦しい場所から解放してもらって、そこからさらに陸まで貰えるなら、多分みんなが大喜びだよ』
勿論永遠など無いが、と思いながらも、それは口にしない。その時になったら、その時に考えればいい。今は今を丸く収めるために、最良の提案をしたにすぎない。
「わかったわ。その辺りも元帥や他の人達に掛け合ってみる。今もそうだけど、少し未来のことも考えなくちゃいけないものね」
『そうしてくれると助かるよ。穏やかな深海棲艦なら、それ以下の人間と暮らすよりは楽しいだろうしね』
「アナタが言うと深刻に聞こえるわ」
『はは、でも実際、うみどりで保護された深海棲艦は、あたし達の知る酷い人間よりは共存しやすいよ。だから、一度みんなで保護された深海棲艦と顔を合わせたいね』
「ええ、是非とも。うみどりが移動した後、こちらに来てちょうだい」
この島を、最低最悪の死の島から、あらゆる種族が住まう七色の島へと生まれ変わらせる。そのためには、今の後始末の決着をつけなければならない。
七色の島withこだか。そうなったら、この島だけでも相当な戦力を持つことになるんだけど。