後始末屋の特異点   作:緋寺

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養うために

 島で生まれる深海棲艦達を保護するため、うみどりを入港させることになった。後始末の最中に艦を移動せるということはなかなか無く、それだけ今回の作業が異例であることを意味している。

 ゆっくりとだが確実に進み、入港は無事完了。工廠を陸の真横につけるという精密なコントロールは、妖精さんによる操艦あってこそである。

 

「いい感じにつけられたわね。厨房の方には何も影響はない?」

「大丈夫ヨ。溢レタリスルコトモナカッタワ」

 

 移動させている間も調理を続けていたのだが、そこもやはり妖精さんのテクニックが光る。少しは揺れるが、調理に影響を与えることなく、手元が狂うようなこともない。事は想定通り、完璧な状態で進んでいる。

 

「ドレダケノ数ノ()()()ガ来ルカハワカラナイケレド、今ハアリッタケヲ作ルワ。良カッタワヨネ?」

「ええ、任せるわ。手が足りないなら言ってちょうだい。アタシも参加するから」

「エエ、オ願イスルワ」

 

 この島でどれほどの深海棲艦が生まれようとしているのかはまだ見当がつかない。もう打ち止めかもしれないし、それこそ島民のようにワラワラと現れるかもしれない。

 どうなったとしても、全員を満足させる。その気持ちでセレスは黒井母や紫苑と共に調理を続ける。

 

「じゃあ、あたし達は後始末のこと考えながら、他にもいないかどうか調べてくるよ」

「ここまで誘導するのです。おにぎり、もっと貰ってもいいですか?」

「おにぎりは沢山作ってあるよ。持っていきな」

 

 黒井母が沢山のおにぎりの詰め合わせを用意しており、島で発見されるであろう深海棲艦達に向けてさらにせっせと作り続けている。

 余ったとしても、作業を進める艦娘達が食べればいい。それでも残ったところで処理する方法はいくらでもある。多く作るに越した事はないのだ。

 

「ありがとな、母ちゃん」

「いいさね。さ、腹空かせてる奴らのために、行ってやっておくれ」

 

 ここからは被災者支援という体裁での作業が始まる。その被災者とは勿論、生まれたばかりの深海棲艦だ。

 

 

 

 

 手分けをして探していくことになる。深雪と電の班は、先程とは少し違い、グレカーレ、白雲、磯風、そして梅という、何処か集落突入班のような様相になっている。

 梅が含まれているのは言うまでもなく『解体』を目当てにしているからだ。何故なら、これから深雪達が向かうのは、本当に集落なのだから。

 

「あたし達が海ン中で作業してる間にヌ級を見つけたところだよな」

「そうそう。ミユキ達はこっちの集落来るのは初めてだよね」

「だな。見た目はあっちとは変わってるように見えねぇけど」

 

 街並み自体はそこまで大きく変化はない。当然家の構造は違うものばかりだが、その在り方としては何ら変わらない。歩いていても、以前の集落の延長線上というイメージである。

 

 そんな場所で今回やろうと考えているのは、戸締りされている家の中の調査である。

 当たり前だが、つい最近までこの家にも誰かが住んでいたのだから、買い溜めしていた食べ物などはあるだろうし、家の中も穢れでビッシリの可能性は高い。それをどうしていくかを考えるためにも、一度家を全て開放しようという考えである。梅はそのため、扉の破壊のために呼ばれている。

 

「それじゃあ、片っ端から開けていきますねぇ」

 

 自分の役回りを理解し、施錠された玄関を見つけては、時にはシャッターを全て壊し、時には鍵だけを的確に『解体』していく。

 民間の家に不法侵入するようなモノなのだが、今はそういった問題は全て排除されている。

 

「うえ、やっぱり家の中から臭うところもあるな……」

「店とは違うけど、多少は食べ物があるのです……傷んでしまってますね」

 

 日常を切り取って、そのまま置いておかれたせいで、その場所はやはり穢れの温床となってしまっていた。

 深雪はこのような一般家庭の家屋がどうなっているかを初めて見ることになるのだが、全てがここまで汚いとは思っていない。それくらい理解して中を確認した。

 

「艤装があると中に入れねぇな。扉が邪魔だ」

「とりあえず声かけをしましょう。誰かいますかーっ」

 

 電が家の中に声をかける。それに反応すれば、この家の中で何者かが生まれているということになるのだが、幸か不幸かこの家屋には誰もいない。ただ置かれた食べ物が傷んでいるだけ。

 

「よし、次行くぞ。片付けてぇけど、これはもっと準備がいるだろ」

「だねぇ。少なくとも、あたし達みたいに艤装があると、家の中には入れないや」

「これごと壊すのもちょっと……」

 

 家を全て『解体』していくのも、梅としては気が引けるところ。それに、倒壊の危険性を考えると、それ相応の準備が必要だ。

 しかし少々怖いのは、今は大丈夫でも、明日、明後日に深海棲艦が生まれている可能性だ。それを考えると、深海棲艦を探しながらでも、どうにか片付けていきたいとは思う。

 

「やるなら明日からだな。こうなってるって報告してからだ」

「その方がいいのです。今は、お腹を空かせている誰かを探すことを先決にするのです」

 

 穢れの片付けはまだ置いておけるが、ひもじい思いで共食いまで考えてしまっている深海棲艦の方は置いておくことは出来ない。優先順位はそちらに傾けて、今は集落を探し回る。

 

 

 

 

 家の扉を破壊しては、中に声をかける。そんな作業を繰り返していくうちに、見ただけでも何かありそうという場所を発見した。

 

「……デカい家だな」

「なのです……何かありそうなのです」

 

 この辺りの地主の家なのか、集落の家の中でも特に大きめな家屋を発見した。使っている場所の広さが違い、ただ家があるのではなく、庭までしっかり完備した、他より金持ちが住んでると簡単に思える場所。

 だからこそ、穢れの温床となった時に何か起きてもおかしくない。モノも蓄えているだろうから、それがさらに穢れを呼ぶ。

 

「お姉様、ここならば中にも入ることが出来るのでは」

「確かにな。玄関も広そうだし、多少は進めるかもしれねぇ」

 

 白雲の言う通り、これまでとは広さが違う。艤装を装備していても、少しくらいなら家屋の中を確認出来そうだった。

 

「あたしはちょい無理かな。腕がでっかいから」

「外で何かないか確認してくれ。梅も大丈夫だ」

「壊すモノがあったら言ってくださいね」

 

 家屋を無理矢理破壊するようなことはないため、ひとまず艤装が大きいグレカーレと梅は外で待機してもらい、緊急時に『凍結』が可能な白雲と磯風を連れて家の中へ。

 

「誰かいねぇか!」

「いないのですー?」

 

 少し入りつつも、声かけから始める一行。すると、明らかに何かが動いているガサガサという音が聞こえた。本当に生まれている。そう感じたことで、ゾワッと鳥肌が立った。

 

「何処だ。何処にいる」

「あっちが台所みたいなのです。いるならそこ……ですよね」

「ああ、一番あり得る」

 

 電が指差す方に、この家の台所がある。リビングもあるため、広い場所なら何かが見つかってもおかしくない。

 そちらへ歩を進めると、そこには……

 

「……いた」

 

 この家の食べ物を物色して、もりもりと食べている深海棲艦の姿を発見した。それもヒト型である。

 

「話、出来るか?」

 

 ラ級のような前例があるため、通じていない可能性も考慮に入れつつ、深雪はその深海棲艦に声をかける。

 

「重巡リ級だ。イロハ級だから何とも言えん」

 

 磯風が補足説明。この家屋にいたのは、重巡リ級。完全なヒト型をしているが、姫ではない。そのため、ラ級と同様であることが考えられる。

 

 しかし──

 

「オーウ、イラッシャイ。アンタモ食イモノ探シカ?」

 

 この気さくな返事である。この流れ、一度見ている白雲達ならすぐにピンと来る。

 

「かのヌ級様と同様ですね。惣菜を食しておられるので、妖精様の力を取り込んでしまっております」

「そういうことか……」

 

 この家にある食べ物も、商店から購入したモノならば、当然妖精さんが含まれているだろう。案の定、この部屋も傷んだ臭いは充満している。商店のように外まで臭ってこなかったのは、その量の差であろう。ここにはそこまで大量にないからこの程度で済んでいる。

 妖精さんの力を食べたことで、リ級は対話能力を得て、かつ敵対心は飢餓感にすり替わっていたために、非常に温厚。態度から、近所のぶっきらぼうなお姉さんのようなポジション。

 

「電達は食べ物目当てではないのです。お腹を空かせているヒトがいないかを探していて」

「腹空カセテ? オ、モシカシテ食イモノ持ッテルノカ?」

「なのです。もしかして、他にも知っているのです?」

「知ッテル知ッテル。アタシモ、ココデ軽ク食ッタラ、ソイツラノトコロニ残リヲ持ッテクツモリダッタンダ」

 

 このリ級は、近所で生まれた深海棲艦を養っているような存在だった。誰もいない家に押し入っては、食糧だけを奪って戻る。それを繰り返しているらしい。

 よくコレまでそれに気付かなかったなと感心してしまうほどなのだが、このリ級、思った以上に器用であり、この家に入るのも、裏口の扉を丁寧に破壊して入ってきているため、表からはそうされていることがわからなかった。他の家でもそうだったらしく、玄関を破壊して中に声をかけた家屋の中には、既にリ級が物色済みのモノもあった様子。

 

「食イモノ分ケテクレルナラ、スゴクアリガタイ。ツイテキテクレヨ」

「ああ、いいぜ。その後はあたし達の話も聞いてくれ。腹一杯にしてやれるから」

「腹一杯!? 食イモノ探シシナクテヨクナル!」

 

 深海棲艦も割と切羽詰まっているということが容易に想像出来る。やはり、ここで生まれてしまった深海棲艦は、保護出来るなら保護したいと感じた。

 

 

 

 

 新たに発見された重巡リ級。その存在から、この島でどれほどの深海棲艦が生まれてしまっているのかがわかるようになってくる。

 




養母リ級爆誕。
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