生まれてしまった深海棲艦を探すために、改めて集落へとやってきた深雪達。家屋を1つ1つ中を見て、誰かいないかを確認しながら進む中、地主が住んでいたのかもと思えるような大きな家を発見した。
そして、そこにいたのは1体の重巡リ級。対話が可能であり、別の場所にいる仲間のために食糧を探していたという。ここまで知能が発達した深海棲艦、しかもイロハ級というのはこれまでになく、こうなるまでに相応の惣菜──妖精さん入りの食べ物を取り込んでしまったのだろうと予想出来る。
深雪達はリ級につれられて、養っているという他の仲間に会いに大きな家屋から出る。外で待機していたグレカーレと梅とも合流し、道すがら説明すると、素直に感心していた。人間でもこんな状況で誰かを養ってやろうなんて考える者はレアだろうと、リ級のそのやり方を絶賛する。
「コッチコッチ。チョット歩キニクイケド」
「雨降ってるから怖ぇな。電、大丈夫か?」
「大丈夫なのです。木を支えにしながら行けば……わっ!?」
「言ったそばから!」
しとしとと降り続ける雨で地面は滑りやすくなっており、リ級が向かう場所は集落から少し離れた林の中なので、どうしても足元が覚束ない。
慎重に慎重に向かっていくと、少し奥まったところに小さな小屋があった。おそらくこの林の管理人辺りが、土地の管理のために使ってきた機材などを入れていた倉庫か何か。扉を封じていた南京錠は引きちぎられ、中に入ってたであろう枝切り鋏や鍬、草刈機などは、邪魔だと言わんばかりに外に捨て置かれており、泥だらけになってしまっている。
「ここか?」
「雨風防ゲルカラサ、アタシハ図体デカイカラ入レナイケド、コイツラナラ匿エルンダヨネ」
中に入ってとは言えず、扉を開いて中を見せられる。すると、そこにいたのは──
「……まぁ、そうだよな。こんな狭いところに匿えるのは、こいつらしかいねぇよ」
「忌雷……なのです」
数体の深海忌雷である。ぱっと見で4体ほど。深雪達の姿を確認しても、自爆を考えようとしないあたり、既に
そう考えると、リ級は相当な量を食べてしまっている。ヌ級ほどの知能は確実にあるため、それこそ商店の惣菜をモリモリ食べてしまったか。
「お前も最初はこうだったのか?」
「ソウダネ。デモ、アマリニモ腹ガ減ッテタカラ、
落ちてた肉。その言葉で、それが何か想像がついてしまう。投棄されていた、もしくはしに行くところで落ちてしまった、妖精さんの亡骸。肉と表現しているため、残酷な実験に使われた結果だと考えられる。もしかしたら、それを妖精さんと認識出来ないくらいにされていたかもしれない。それこそ、惣菜に使った余りとかだ。
「……お姉様、その、この小屋の端……ご覧になられますか」
「えっ?」
その話を聞いているうちに、白雲が少し青ざめた表情で指を差す。
そこにあったのは、
「うおっ……ま、マジかよ……」
「ン? アア、探シテル間ニ見ツケタンダ。コイツラ、チャント食ッテクレタミタイダ」
リ級は悪びれずに言うが、当人達にしてみれば、それくらいしないと飢餓感から免れることが出来ないくらいだった。この腕があったおかげで共食いが発生せずに済んでいると言ってもいい。
むしろ、それを人間の腕だと認識していないまである。おそらくは出来損ないになれずに息絶えた何者かであり、その工程で身体との接合が緩み、運ばれている最中に落ちてしまったと考えられるが、適当に落ちているモノを人体を構成するパーツと認識するのは、リ級には難しいのだろう。
「……アレ、多分人間のじゃなくて、
グレカーレが溜息交じりに言うと、深雪はさらに愕然とさせられた。
ここの実験台の中には、近海で生まれたカテゴリーM、純粋な艦娘もいることだろう。それを使い、息絶えたならば、人間などと同じように投棄することは嫌でもわかる。
グレカーレがそれを艦娘ではないかと言った理由は、僅かだが残っている手の部分。ぱっと見ではわからないが、艦娘に多い年代の手だと感じたからである。結局は憶測なので、そんなことはなく普通に人間である可能性はいくらでもあるのだが、そういうこともあり得ると思わせるには充分。
これ以外にも、妖精さんの一部などを食べている可能性は極めて高い。この知性から考えれば、僅かにでも取り込んでいると考えられる。
「これ、食べてください。皆さんのために持ってきたのです」
あまりにも不憫であると感じたため、電は持たされているおにぎりを忌雷達の前に置いた。すると、大喜びするように身体を蠢かせると、ガツガツとおにぎりを食べ始める。触手を器用に伸ばして、千切り取りながら頬張っていく姿を見て、リ級はウンウンと満足そうに眺めていた。
「アリガトナー。助カルヨ」
「お前は腹減ってないのか?」
「少シ食ベタカラ今ハ平気。ソレニ、サッキノトコロカラ持ッテキテルカラ」
そう言いながら見せてきたのは、おそらくあの家屋の冷蔵庫に入っていた漬物。電源は落ちているので冷却は出来ておらず、賞味期限が切れているだろうが、酷い臭いはしないようなので、妖精さん入りの惣菜では無さそうである。
「ンー、コレハマタ違ウナ。美味イ」
ポリポリと食べながら呑気に語るリ級。危機感を持っていないのは、この世界しか知らないからであろう。
「多少腹が膨らんだら、あたし達の拠点に来てくれるか。お前達みたいな腹を空かせてる奴らのために、炊き出しをやってんだ」
「モット食エルッテコトダヨナ。腹一杯ニシテクレルッテ言ッテタシ、期待シテル」
「ああ、すげぇ美味いモン食わせてやるよ」
忌雷達も落ち着いたか、電に礼を言うように触手を伸ばした、
「じゃあ、今度はあたし達についてきてくれ」
「ハイヨ。オ前達、モット食ワセテモラエルラシイカラ、ココカラ移動スルゾー」
リ級の号令に、忌雷達はピョンピョン飛び跳ねてリ級の肩やら頭やらに乗っかった。流石に忌雷のまま移動するのは時間がかかりすぎる。リ級もそれを気にすることなく、移動を開始した。
「送り届けたら、ここの後始末もしような」
「なのです。こういうところがまだまだあるかもしれないのです」
「だな」
こんなことになっているのは、ここだけでは無さそうである。妖精さんを取り込んでおらず、知性は持ち合わせていないが、飢餓感をどうにか解消するため、そしてこの雨を凌ぐために、適当な小屋などを縄張りにしているモノも現れているかもしれないのだ。
昨晩の土砂降りにより穢れが拡がったことで、あらゆる場所で深海棲艦が生まれている。そして、普通は通らないような場所に投棄された遺体などが置かれてしまっているため、調査隊の目を潜り抜け、今もまだ穢れを溢れさせているのだ。
リ級もその片鱗。先に保護したラ級などと同様に、被災者である。
うみどりまで案内していくと、艦が見えた時点で香ばしい匂いが漂っているのがわかった。食欲を唆る、空腹感を煽るような匂いに、リ級はうっと腹を押さえる。
「ナンダコノ匂イ、スゴク腹ガ減ル匂イダ」
「美味いモンの匂いだ。うちの厨房担当が、腹空かせた奴らのために、作ってくれてんだよ」
「スゴイナ! 沢山食ベテイインダ!」
テンションが上がっているリ級と、涎を垂らしている忌雷達。それに気付いたか、うみどりから案内人としてヌ級が手を振っていた。
「オ客サン、イラッシャーイ。食ベルモノ、イッパイアルヨー」
「オオ、アタシト同ジヨウナヤツ!」
「オ腹空イテルンデショ。食ベテ食ベテ」
ヌ級は序列とか関係ないため、リ級も笑顔で駆けていく。しかし、工廠厨房の中を見たことで、その動きが途端にギクシャクし始める。セレスを筆頭とした純粋な、もしくはカテゴリーY達のような見た目だけの姫が、そこに沢山いたからである。
生まれたばかり、かつ知性を持ったとしても、序列というモノはどうしても感じてしまうモノのようで、圧のようなモノを受けてしまったようだ。
「エ、ナ、ナンカ偉イヒト達ガ沢山……」
「ダイジョーブ、ミンナ優シイ」
ヌ級だけは序列がどうのこうのとは言わないため、何処か抜けている感じはする。
「大丈夫だ。あいつらがお前達を腹一杯にしてくれる。序列とか関係無ぇよ。むしろセレスはそういうのあんまり好きじゃなさそうだしな」
「ソ、ソウナノカ……ア、メッチャ腹ガ減ッテキタ」
「やっぱり足りねぇんじゃねぇかよ。そら、食え食え」
深雪に背中を押されたことで、リ級は忌雷を連れて厨房へ。カレーを渡されて食べたところ、目を見開いて喜んだ。忌雷達も、出された唐揚げを頬張り、嬉しそうに触手を蠢かせる。
「ウッマ……コレガ、本当ノ食イモノ……!」
「エエ、ソウヨ。トイウカ貴女、泥ダラケジャナイ。食ベタラオ風呂ニ行キナサイ。綺麗ニナッテカラ食ベルト、モット美味シイワヨ」
「ハ、ハイッ」
どうしても序列はあるため、リ級はペコペコと頭を下げてしまうが、セレスとしては、それよりさっさと食べて風呂に入ってこいと苦笑するだけだった。
「まだまだ来るんだろうな。この雨のせいでやたら増えちまってるし」
「なのです。でも、これならみんなを笑顔に出来そうなのです」
第一の客としてリ級達は幸せになった。だが、ここからは増える一方だろう。
キッカケさえ出来てしまえば、深海棲艦は次から次へと現れてしまう。それを全て救うのは、なかなかに難儀な話であった。
まずはリ級をゲットしたけど、別方向にも生まれてるだろうし、似たようなことも起きてるだろうしで、まだまだ不安はいっぱいです。