後始末屋の特異点   作:緋寺

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次々と増える

 うみどりで始まった、島で生まれた深海棲艦に対しての炊き出し。深雪達が見つけてきた重巡リ級と、匿われていた深海忌雷が第一の客となり、食べ物を与えられたことで、満足そうな表情を浮かべていた。

 ここで食べた者達は、そのまま一度洗浄にも連れて行かれる。雨のせいで泥だらけになっており、穢れと一緒に一度綺麗になってもらうという算段である。

 

 リ級と忌雷達が洗浄をしに向かうと、入れ違いのように出てくるラ級達。初めて風呂というものを知ったことでホクホク。そして穢れが失われたことで、何処かスッキリとしたような雰囲気を醸し出してきた。

 ヒト型の深海棲艦から穢れが失われた場合は縮むようなことはない。これまでもずっとそうだった。ラ級も同様であり、ただ明らかに穏やかになっているのは見逃せないポイントである、

 泥だらけだった服も綺麗になっており、飢餓に苛まれていた時の険しい表情もない。ζ型に至ってはあの顔を全て隠す仮面を取り払っている程。それくらいにまで落ち着いている。

 

「アリガトウ」

「タスカッタ」

 

 意思疎通は難しいが、一方的に言葉を紡げるラ級達は、落ち着いたことで素直な感謝を表現した。頭も下げ、ついでにもう少し食べ物が欲しいみたいな意思も少し見える。

 

 その後ろからはネ級改。さらに、共にいたイロハ級も洗浄終了で落ち着いている。ネ級改はそのままだが、イロハ級は前にもあった、穢れを失ったことで縮むという現象が起きている。

 可愛らしくなったイロハ級達は、今はどうにか這ってネ級改についてきており、一部はネ級改に持ち上げられたりするほどになっているため、この島で得た穢れが相当な量だったことも頷ける。

 

「小さくなったイロハ級は、プールにいてもらう方がいいかしらね。まだ入れるだろうし」

「ええ、子供達も一緒に遊んでいるでしょうから、新しい子が増えたところで受け入れるでしょう」

 

 受け入れられた深海棲艦の管理は、伊豆提督とイリスが受け持つ。管理といっても、当然だが全てにおいて自由が保証されているため、今後どのように過ごしてもらおうかという意味での管理。

 縮んだイロハ級に関しては、同胞がいるプールに行ってもらうのがいいだろう。すぐに仲良くなれるだろうし、海ほどではないがのびのびと過ごせる。数が増えてきたらまた考えなければならないが、現段階ならばまだ大丈夫。

 

「ラ級ちゃん達は……」

「セレスに任せましょうか。姫として管理出来ているみたいだから」

 

 ヒト型の深海棲艦達には、セレスが何かしらの指示をすることになる。深海棲艦同士だからか、絶妙に意思疎通が出来ており、さっぱりしたラ級相手にも言葉をかけることが出来ている。純粋な深海棲艦同士だからかもしれない。

 とはいえ、ラ級は姫との対面で、序列を感じて少し緊張している。セレスは気にするなと言うが、当人達にはそれどころではない。

 

「ココ、姫イスギジャナイ?」

 

 カレーを食べながらリ級が呟くが、誰もそれを否定出来ない。増え続ける姫達。元人間も姫。こうなってくると、今この空間はこれまでにない規模の深海棲艦の部隊が構成されているようにしか見えない。

 恐れ多いものの、気さくな姫ばかりなので、リ級もすぐに慣れてきていた。特に軽い姫が、このうみどりには存在する。

 

「ダヨネェ、イスギダヨネェ」

「イヤ、アンタモ姫」

 

 ムーサである。深海棲艦であることを活かして、深雪達とは逆方向の集落に探索しに行ってきたのだが、今ちょうど帰ってきたようである。リ級も若干軽口で接している辺り、ムーサは非常に話しやすい類と感じられるのだろう。

 

 決して、なめられているのではない。

 

「初メテココニ来タ時、マダ純粋ナ姫ハセレス様シカイナカッタンダケドサ、見タ目ガ姫ナ人間ガドンドン増エテビックリダヨ」

「増エテッタンダ……ッテ、アンタ何食ベテンノ」

「ン? オヤツ」

 

 妖精さんが絡んでいないことがわかってからは、定期的に高波から『増産』される忌雷を食べているムーサ。食欲減退が嘘のように復調したものの、食べる回数は確実に減り、高波の『増産』がどうしても出てしまう時などに抑えられている。無理に出させて食べるような、おやつサーバー的な使い方はもうしていない。

 副官ル級も、今のムーサは大分落ち着いてくれて喜ばしいと、気苦労絶えなかった以前と比べると穏やかである。高波との仲もより良くなっている。

 

 逆にリ級は、これまで忌雷を匿っていたということもあって、その忌雷の捕食者であることを知るや否や、一緒にここまでやってきた忌雷を守るようにバッと構える。

 

「ソッチノ忌雷ハ食ベナイヨ」

「イヤイヤイヤ、信ジラレネェ」

「ソッチノカラモ少シ匂イスルケド、私ノ食ベルタイプノ忌雷ジャナイカラ」

 

 匂いがする。これは割と厄介な情報だったりする。つまり、妖精さんの成分を取り込んだということに他ならない証明である。ちなみに、リ級からも同じ匂いがすると語り、むしろそっちの方がリ級がゾッとすることになるのだが。

 

「ムーサ、そっちはどうだったよ」

「ア、連レテキタヨー」

 

 深雪に言われ、紹介するように後ろにいる深海棲艦達を見てもらう。そこにいたのは、脚の部分が艤装に包まれているため、工廠に上がることにとても苦労している雷巡チ級。さらにネ級の時と同じようにヒト型ではないイロハ級が2体ほど。

 

「チョット残念ダケド、共食イハサレテタ。マダソコハ片付イテナイカラ、後カラ行カナイトダメダネ」

「……そうか、でも仕方ねぇよ」

 

 連れてこられたチ級は、主任を筆頭とした妖精さん達の助けで、何とか工廠に上がることに成功。まるでセグウェイみたいな乗り物でブーンとやってきたチ級は、セレスから食べ物を貰った途端、ドバッと涎を垂らし、がっつくように食べ始めた。

 こちらも飢餓感がまだ残っていたようだが、どう考えてもこのチ級が共食いによる勝者。さらには、イロハ級に対して慈悲が見せられるくらいには知性も持っている。ネ級改とほぼ同じと考えていいだろう。

 

 洗浄されたネ級改は、そのチ級に親近感が湧いたか、工廠厨房の手伝いを始め、料理の配膳を率先して行い始める。それを見たラ級達も、それは自分も何かやった方がいいなと感じたか、セレスから指示をもらい、いろいろと動き始めた。工廠から外に出て、さらにやってきそうな深海棲艦の誘導。ヌ級と共に外を見回る。

 

「すげぇことになってきたな……これで自発的に来てくれれば……」

「ア、来タネ、ゾロゾロト」

 

 言うが早いか、港の奥の方から、ゾロゾロと深海棲艦達がやってくるのが見えた。

 

「自分達デモ来レルナラ来テーッテ叫ビナガラ作業シテタンダヨ。声ガ届イタミタイ」

「流石姫だな。そういう時にも何か影響あるのかもしれねぇ」

「カモネ。ナラ、私ガ行クノハイイコトカモシレナイヤ」

 

 ムーサはここにいる深海棲艦の中では唯一フィールドワークをする存在。その行動力が、今まさに強く役立っている。

 序列としては少し低くても、イロハ級に対しては絶大な効果がある。いざ顔を合わせてみれば、今のリ級のように気安くなるのだが、それもまた取っ付きやすさというところで愛される理由になるだろう。

 

 いつも忌雷を食べていた頃と比べると、一山越えたことで姫らしい落ち着きを持ち、威厳とは別の好かれやすさを手に入れている。これには高波も副官ル級もニッコリ。

 

「繁盛シテキタワネ。マダ手ハ足リテルケド、何処マデ増エルノカシラ」

 

 セレスも増えてきた被災者を見ながら、小さく微笑みつつも、その忙しさに不安を覚え始めた。それだけ多くの深海棲艦が生まれてしまっているという事実が今、目の前に展開されている。自分の足でやってきた深海棲艦が、ヌ級やラ級に招かれて、次から次へと厨房に入ってくるのだ。

 食べる量もそれぞれ。大食いなモノもいれば、小さいモノ一つで満足するモノもいる。特に顕著なのは忌雷だ。唐揚げ1つで満足するモノと、カレーをゴクゴク飲み干すモノもいる。何かしらの器に繋がっているのか。

 

「声が届いてないところにもいるかもしれねぇし、港の反対側にも行った方が良さそうだな」

「ソッチニハ時雨達ガ向カッタノガ見エタヨ」

「お、なら任せておくか」

 

 と話したのも束の間、その時雨達が帰投する。非常に疲れた顔をして。

 

「あっち、大変なことになってるんだけど」

 

 真っ先に愚痴が出てくる時雨。ついていった夕立と子日も、なかなかに疲れた顔をしている。

 その理由は、後ろにいるモノを見れば一目瞭然である。

 

「ホウ、ココガ炊キ出シトイウモノカ、ハッハー! 余ノ胃ヲ満タセルカナ!」

「食ベサセテモラエルンダカラ、調子ニ乗ラナイデヨ姉サン……」

 

 姫の姉妹である。尊大な態度の姉と、それに呆れている妹。欧州水姫と、欧州妹姫。

 この姫に振り回されたことにより、時雨達は精神的に疲れているようだった。態度からして、簡単に話を聞いてくれていない。

 

「配下共ヨ、ココガ貴様ラノ言ウ、余ヲ満足サセルモノカ!」

「誰が配下だよ。でも、お腹を満たすならここで出来るはずさ」

「ウム、イイダロウ。期待シテイルゾ」

「どんだけ尊大なんだい君は……」

 

 こういうのもいるんだと深雪は感心した。深海棲艦にもいろいろいるもんだと実感しつつ。欧州妹姫は平謝りである。

 

「ホウ、貴様ガ特異点トヤラカ。イイ顔ヲシテイル。余ニ仕エル栄誉ヲクレテヤッテモイイナ」

「悪いけどあたしはここで後始末やらねぇといけねぇんだ。お前に仕えてる暇なんてねぇよ」

「残念ダ。余ノ最強艦隊ノ一翼ヲ担エルトイウノニ」

「戦う前に片付けるんだよ。戦いなんて必要無ぇ」

「フム、戦ウコトナク勝ツトイウコトダナ。イイ心構エダ」

「話通じてる?」

 

 何やら面白いキャラが来たぞと騒つくが、そうではなく、ここまでの姫も生まれてしまっているという事実が頭を痛くしていた。

 

 

 

 

 次々と増える被災者。炊き出しはまだ終わらない。




やっぱり欧州水姫は面白キャラにしたくなる。
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