後始末屋の特異点   作:緋寺

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食材の不安

 次々と炊き出しにやってくる深海棲艦達。イロハ級の数の方が多いが、大物が来ることもある。そのうちの2人が、欧州水姫と欧州妹姫であり、特に姉の欧州水姫は、深雪のことを自らが編成する最強艦隊に加えてやろうと勧誘してくるようなキャラである。

 

「困ったモノだったよ。僕達が向こう側に行った時には、もうこうなってた」

 

 欧州水姫と欧州妹姫を発見し、うみどりまで連れてきた時雨は、見つけた時の様子を語り始める。

 

 時雨、夕立、子日の3人は、一度港とは正反対な場所、襲撃の際に見つけた、都合よく上陸出来そうな浜辺に向かったのだが、そこは遠目から見ても悲惨なことになっていた。

 それは、恐ろしい程の血まみれ。しかし、哨戒機を使って上から見ると、少しわかりにくい奥まった場所。雨のせいで浜辺の方まで垂れてきそうになってきていたが、それがギリギリで止まっていたため、海まで流れ込んでいるようなことはなかったという。

 

「アレは共食いの結果出来上がった()()()()()()だよ。そこに散らばってたのは、生まれた深海棲艦だったはずだから」

「ぽい。夕立もそう思う。あの姫達、生まれた時は姫じゃなかったかもだけど、それが大分食ってるっぽい」

「遺体も多分あったよ。あっち側、雨のせいでいろいろ出てきてる」

 

 時雨だけでなく、夕立と子日もそう結論づけている。欧州水姫も欧州妹姫も、その場で生まれた深海棲艦と、既にそこにあった遺体の数々を取り込んで出来上がった、進化の最終段階。時雨はそれを蠱毒と称した。共食いによる選定、そこでの最強種の決定。それがあの2人である。

 クロトの時は、遺体を食ったら空腹感が紛れたようだが、この2人はそれだけ食ってもまだ食べられるだけの余裕がある。むしろ、それでもまだまだ空腹感が拭えていないのだろう。あまりにも燃費が悪い。

 

「そういうのもあんのか……」

「個体によって千差万別なのを実感させられるのです」

「だな。でも、ここである程度は腹を満たせそうだ。じゃあ、あたし達もそっち行って後始末しねぇと」

「そうだよ。君達にも手伝ってもらいたいね」

「おう、ならすぐに行くぜ」

 

 深雪達は時雨に話を聞いたことで、これからはそちらの後始末に奔走することになる。

 

 

 

 

 そして噂の欧州姉妹だが、欧州水姫はセレス相手にも尊大な態度で接し、さらには──

 

「ウム、コノ()()()、見事ダ。貴様、余ノ専属コックニナル気ハナイカ」

 

 これである。ただ尊大なだけでなく、自分の部隊を作ろうとしているところに、一部の者達は危うさも感じている。

 深雪も勧誘されたようなモノだが、今この島の状況では、そういうカタチで戦力を整えようとしているのは、どういう理由なのか。

 

「残念ダケド、貴女ノ専属ハ無理ネ。私ノヤリタイ事ハ、貴女ノトコロニ行クト非効率的ニナルト思うわ」

「ム、非効率ダト?」

「私ガ目指シテイルノハ、万人ガ好ム味。貴女ダケヲ満足サセルタメニ作ッテイルワケジャナイノヨ」

 

 そんな欧州水姫に対しても、毅然とした態度で迎え討っているのがセレスである。深海棲艦としての序列などはセレスには一切通用しないのだ。

 

 うみどりにいる純粋な深海棲艦、カテゴリーRの中で、セレスは唯一『敵に建造された』モノである。そこから深雪の願いの煙幕を経て、今の在り方へと落ち着いている。

 故に、序列など頭にない。最初は自分が何者かもわからない空虚な存在だったのだから、上下関係なんて考えたこともない。自分が上に立つなんてことはなく、自分を下に見ることもない。

 

「フム、貴様ノ目指ス道ハヨクワカラン。ダガ、気ガ変ワッタラ余ノ下ニ来ルガイイ」

「ソノ時ハ来ナイカラ、気長ニ待ッテナサイ。貴女ガ来タナラ、食事ヲ用意シテアゲルワ」

「ウム、今ハソレデイイダロウ」

 

 一触即発ということもなく、セレスがのらりくらりと躱していくような感じで話は終わった。

 

「……デモ、ソロソロ本格的ニ不安ネ……。大食イガ増エテキタカラ、減リガ目ニ見エテ多クナッタワ」

 

 ここで一つ問題が出てくる。それが、消費の激しさである。

 

 この欧州水姫、戦艦の姫ということもあり、とんでもない大食い。姫だから食べるということはなく、艦種で燃費が決まるのだが、そもそもが飢餓感を持って生まれていることもあり、ここでこうやって話し続けながらも、なんだかんだ食べる手が止まっていない。

 

「ゴメンナサイ、姉サンガコンナノデ」

「貴女モ大概ヨ」

「エ?」

 

 欧州水姫も欧州妹姫も、共食いの結果ここまでの進化を遂げたはずなのだが、それでも空腹感は残っているようである。食べたモノが食べたモノであるため、味も何もなく、ただ腹に入れたというだけ。燃費も艦娘とは比べ物にならない可能性もあり、正しく補給したわけでもないため、ここまでの大食いとなってしまっているか。

 

 さらに困っているのは、思った以上に生まれた深海棲艦が多いということ。欧州姉妹の方は、この2人が目に見える同胞と見つけられなかった亡骸を食い尽くしていたというところがあるものの、それ以外の場所ではそんなことはない。多少食ってしまった者はいるかもしれないが、食い尽くすまではしていない。

 そのため、ムーサの呼びかけで集まってきた深海棲艦は、既に2桁を越えている。艦種も様々であり、お腹を満たしたら洗浄へ。

 その間は食べていないが、戻ってきたらまた食べる。どうしても飢餓感の払拭は難しいらしい。満たされれば落ち着くが、再び空腹感を取り戻すのは時間の問題である。

 

「セレスちゃん、連絡が来たわ。そろそろ補給物資が届くわよ」

 

 そんな不安を拭い去るように、伊豆提督からの報告。裏で連携しながら、この深海棲艦達を満足させるため、違った戦いの終結を目指すために、最善を尽くしていた。

 結果、あと1時間もしないうちに、工廠厨房に支援が入ると連絡があった。大量の食材が運ばれてくる。そう聞いたセレスは、安堵の息を吐いた。

 

「ヨカッタワ。本格的ニ心配ニナッテキタモノ」

「ええ、こっちも。アタシ達の食事が無くなりそうだったものね」

 

 深海棲艦への炊き出しのせいで艦娘側が飢えるだなんて流石によろしくない。譲渡しすぎるのも間違っている。誰もが報われる世界でなければいけない。

 

 そのためには最善を尽くす。裏でいくらでも手を回す。それが伊豆提督である。それに何人か巻き込むことになるのだが、そこは今回ばかりは目を瞑った。

 

 

 

 

 炊き出しが進み、さらに深海棲艦が増えたところで、うみどり側に増援がやってくる。有道提督が準備を終え、大量の食材を抱えた輸送班を遣わせたのだ。

 

「え、えぇー……何これ……どういうことなの」

「すごいねぇ〜」

 

 その輸送班は、睦月型の皐月と文月。数隻の特大発動艇いっぱいに積み込まれた、食材という食材を搬入しに来ていた。

 その2人、特に皐月の方は、うみどりの光景を見て唖然としていた。いつもなら戦う相手である深海棲艦が、一切の敵意なく、ただひたすらご飯を食べているという現状。艦娘が周りにいても気にせずに、モノによっては美味しい美味しいと涙を流しながら食べている違和感。

 

「お疲れ様です、皐月ちゃん、文月ちゃん」

「お待ちしていました」

 

 それを出迎えたのは、同じ鎮守府出身の鳳翔と浜風。浜風は皐月も文月もここでとんでもないことをしでかしたことを知っているため、その穏やかな表情を見て逆にギョッとしてしまうほど。

 

「は、浜風、落ち着いた? なんかついこの前までずっと目が据わってたけど」

「そう見えてたんですね。はい、とことん反省しました。ここでいろいろ見ることになり、自分の視野がどれだけ狭いかを知らしめられましたから」

「そっかぁ〜、よかったねぇ〜」

 

 文月は小さく拍手。皐月はまだ少し警戒しているようである。

 浜風は忌雷に妖精さんが使われていることを知り、これまでの行いがどれほどまでに考え無しだったのかを理解し、後始末に注力、慰霊碑の建立まで考えるほどに落ち着いている。一皮剥けたどころか、つい先日と比べると生まれ変わったかと思うほどに穏やか。

 

「浜風さんも落ち着きましたし、提督にもちゃんとお話出来るようにしたいと思います。ですがまずは、食材の搬入です。皐月ちゃんも文月ちゃんも、少し手伝ってもらえますか?」

「まっかせてよ! 輸送班班長として、ボクの力を見せてあげるから!」

「はぁ〜い、頑張りまぁす」

 

 意気込みも素晴らしく、笑顔でやるぞと気合を入れる皐月。文月もマイペースながらニコニコでうみどりに特大発動艇を移動させた。

 

 だが、そこでさらに混乱することになる。

 

「……深海棲艦が、料理してる……」

「ほぇ〜……上手ぅ〜……」

 

 セレスの手際の良さ。更に、黒井母と紫苑による手伝いで、瞬く間に炊き出しの料理が出来上がっていく様子に、2人とも茫然。

 

「あ、2人とも食材を持ってきてくれたにゃし?」

「ああっ、睦月だ! よかったぁ、なんか呆気に取られちゃってたんだよぉ」

「顔見知りがいるのは嬉しいねぇ〜」

 

 姉妹、しかも長女である睦月の姿に安心したのも束の間、鳳翔と浜風が説明する前にその光景を目にすることになる。

 

「荷物下ろすにゃ。少し内側まで運ばせてね」

 

 工廠の中にまで移動させたいと、特大発動艇を()()()()()()()()()()()睦月に、皐月はギャーッと叫んでしまった。『軽量化』の力を有意義に使い、搬入をしやすくしている姿は、何も知らない者からしてみれば、怪奇現象に近い。文月もついには言葉を失っていた。

 

「新人さん達ーっ、荷物下ろし、手伝ってーっ!」

 

 そして、睦月の号令が入った途端、ゾロゾロとやってくるラ級やらネ級改やら。戦闘では苦戦を強いられ、艦娘によっては二度と見たくないと思えるような敵対生物達が、睦月の言葉(を聞いて反応出来るリ級やヌ級の合図)によって、仲良く手伝いをしている姿は、もう何も言えなくなる。

 

「え、ちょ、なに、ここ」

「ここは、そういうところなんです」

 

 浜風に言われて、皐月は目を擦って改めて見た。何も変わらなかった。浜風も苦笑である。

 

「次ノオ客様、来マシターッ」

「エエ、食材ガ増エタカラ、マダマダ行ケルワヨ」

 

 今は洗浄を終えて客引きに参加している深海玉棲姫の声に、セレスもにこやかに応答。料理を作る手は、速くなる一方。

 

「ここからが忙しいですよ。お二人とも、感情がジェットコースターにしかならないので、覚悟しておいてくださいね」

 

 既にそうなってるんだけど、と皐月はすかさずツッコんだ。

 

 

 

 

 食材補充と目処が立ち、まだまだ炊き出しは続けられる。有道鎮守府に感謝しながらも、後始末はまだまだ続く。

 まずやらねばならないのは、欧州姉妹のいた、共食いの現場であろう。

 




新キャラは有道鎮守府輸送班、皐月と文月。でも、ここの光景を見たら、この反応も普通。新鮮ですね。
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