後始末屋の特異点   作:緋寺

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終わらない後始末

 不安だった食材の補給を、有道鎮守府にしてもらえたおかげで、まだまだ増える深海棲艦への炊き出しは、改めて軌道に乗り始めた。大量に作られる料理は、次々と生まれた深海棲艦の腹へと入っていき、少し満足させたら洗浄へと向かわせる。それによって穢れを失った深海棲艦は、工廠厨房の手伝いをしつつ、保護されたこととなる。

 大食いである欧州姉妹も一旦洗浄に向かってもらい、しかしその間にも続々とやってくる深海棲艦達に食事を提供していくセレス達。現在進行形で深海棲艦が増えているというのもあり得るため、食事の提供と同時に、島での後始末も進めていく方針となった。

 

「有道ちゃん、食材届いたわ。本当に助かった」

『無事に届いたみたいでよかったです』

 

 伊豆提督はすぐに有道提督に連絡を入れて、食材提供の礼を伝えた。特大発動艇を使った大容量の輸送を一気にしてもらえたのは非常に頼もしい。

 だが、少し気になることもある。そこまで大量の食材を、割と早く集められたのは何故か。そちらの鎮守府が食糧難になったりされたら、逆に困ってしまうのだがと、伊豆提督は恐る恐る聞く。

 

 すると、あっけらかんとした声色で、有道提督は語る。

 

『元々、提供するために食材は用意していたんですよ』

「あら、そうなの?」

『後始末が長引けば長引くほど、その辺りは足りなくなってきますよね。なので、今集められるだけ集めてたんです。日持ちするモノを優先しつつ、調理もするかなと思って米や野菜も取り揃えたって感じです』

 

 後始末を手が届く範囲でされるということを聞いて、いつでも差し入れが出来るようにと先んじて準備していたらしい。食材は用意して困ることはないだろうし、むしろ間違いなく作業中に足りなくなると確信していたため、後始末が開始されてからずっと、片っ端から声をかけていたという。

 その先見の明が、今回うみどりを救うことになった。いずれ必要になると思ったモノが、早期に必要になっただけ。充分すぎるほど集めていたおかげで、今回の炊き出しに不安が失われることになった。

 

『必要なモノがあれば言ってくださいね。集めておきますので』

「ええ、ありがとう。食糧は引き続き集めておいてもらえるとありがたいわ。今回程でなくても、定期的に寄越してくれると本当に助かるから。()()()は増えはするけど減りはしないもの」

 

 とはいえ、深海棲艦はまだまだ増える一方。手は足りているが、またいずれ食糧は無くなりかねない。これまでとは次元の違うペースで失われていくのだ。外からの援助が無ければやっていくこともままならなくなる。

 ただでさえ、地下施設には水爆が解体されずに鎮座したまま。調査も終わらず、まだまだ時間がかかりそうな上に、それが終わったところで後始末はまだまだやることが多い。

 

「だから、力を貸してちょうだい」

『勿論です! それに……浜風の件もありますから』

「そのことは気にしないでちょうだい。今のあの子は深く反省して、後始末にも、忌雷のことにも、親身になってくれているわ」

『それならいいですけど……本当なら私が諌めないといけないんですけどね……』

「ここは特殊な現場だもの、難しいのは当然のことよ。大丈夫、これに関しては丸く収まったでヨシとしましょ」

『そう言ってもらえると、ありがたいです』

 

 浜風の件──アンチ忌雷によるテロにも近い行為は、そこを治める長である伊豆提督がそう言ったのだから話は終わり。今は慰霊碑建立のために後始末に尽力しているし、忌雷を見てもヒステリーを起こすようなこともない。むしろ最初より柔らかくなった程である。鳳翔も今の浜風を安心して見られるようだ。

 

『それでは、後始末終了までは、全力でサポートしますね』

「ええ、よろしくお願いね」

 

 鎮守府間の連携は充分に良い。それでも作業がそう簡単には進まないのが厄介なところである。

 

 

 

 

 時雨の話を聞き、壮絶なことになっているという港の反対側に来た深雪達は、その光景を見て絶句していた。

 集落ではまず無く、ラ級達のいた方でもここまでにはなっていなかったくらいの血まみれ。人間や艦娘の赤い血と、深海棲艦の黒い血。それが混じり合い、土を染め上げてしまっている。

 浜辺についている足跡は、今頃洗浄中の欧州姉妹のモノであることは予想出来た。ただの足跡ではなく、そこに赤黒い血の跡もついているのだから、あの血まみれの土を踏んでここまで来ているということが容易に想像出来る。

 

「……全部食っちまったってことか」

「憶測だけどね。でも、あの姉妹、僕達と顔を合わせた時は、顔も血まみれだったんだ。直接齧り付いたことの証左だね。顔を洗えと言ったら素直に従ってくれたからいいけど」

 

 時雨は呆れたように語るが、目の前にある凄惨な状況を作った者と考えると、その力が凄まじいことを理解させられる。

 時雨は欧州姉妹のことを、ここで起きた蠱毒の完成品と称したが、これだけの数の深海棲艦が生存競争で争い合い、その勝者となったというのなら、それはとんでもない相手だとわかるというもの。

 

「雨のせいで上の方から穢れと一緒に探しきれなかった亡骸が流れてきちゃったのかな。あたし達、昨日結構頑張ったつもりだけどねぇ」

「はい、白雲も隈なく探したつもりでしたが、まさかここまでとは」

 

 グレカーレが現場検証を軽くするも、それが自分達の作業に抜けがいくつもあったことを痛感させられるだけに終わる。

 山肌には知らなかった洞穴があったりしたわけで、それこそ向かった道とは逆方向になると途端に状況がわからなくなる。木々の隙間にわからないように放置されている。投棄する際に、その後のことを何も考えていない。転がっていっても知らん顔というのも容易に想像がつく。

 

 そこに新たな深海棲艦が生まれ、喰らい、そして争ったというのなら、こうなっても仕方ないことだろうと納得は出来る。どちらかといえば黒い血の方が多めに見えるのは、ここで生まれた深海棲艦が相応に多いということだろう。

 

「最後に姉妹同士で共食いもあり得たわけだから、シグレ達は間に合ったってことだよね」

「そうなるのかな。僕達がここに来た時には、比較的落ち着いていたけどね。空腹が満たせたから、今はまだ喰わなくていいと共存していただけかも」

「それか、姉妹ってわかってたから手を出せなかったかだな。ラ級が姉妹を守るようにしていたし」

 

 深海棲艦で明確に姉妹として存在する個体もそう多いわけではない。同一の個体でも姉妹という感覚がないくらいである。量産された自分の別個体という認識でしかない。艦娘ですらそうなのだから。

 だが、特に欧州妹姫は、その名に『妹』と付くように、欧州水姫の妹であると明確に設定された個体だ。北方棲姫と北方棲妹の関係と同じ。故に、欧州姉妹は成立している。

 

 ここにあった亡骸を喰い、共食いまでしたことで進化を続けた2体の深海棲艦が行き着いたところは、姉妹という関係だった。そうなると、喰い合うということも無くなりそうである。

 

「ともかく、ここを片付けないと、また同じことが起きるかもしれない。嫌だよもうあそこまでの大物……ああ、格じゃなくて態度ね、アレが現れるのは」

「違いねぇや。正直あいつ、何考えてるかわからねぇ。なんだよ最強艦隊って。もしかして戦う気満々ってことか?」

「言葉のあやならいいけどね」

 

 さぁ話は終わりだと、少し嫌そうな顔を見せつつも、この場の大惨事を片付け始める。染み込んで取れそうにない土の上の血から始まり、喰い散らかされて残っている深海棲艦の生々しい亡骸、柔らかいところだけをやられているため、大きめな甲殻もそのままだったりするところを撤去するところまで、大量の作業が残っている。

 

「こいつは時間がかかりそうだな……大発足りるか?」

「足りはすると思うのです。本当に殆どを食べられてしまっているので、載せる残骸はそこまで多くないのです」

「代わりに、この地面か……」

 

 血まみれの地面は、掘り返してそれそのものを撤去するくらいしないと、ただの穢れの温床にしかならない。

 しかし、その範囲が膨大だ。山の上からそうなっているのだから、言ってしまえばこの島全体が同じようなことになっている。この一部をやったところで、何も変わらない。また雨が降られたら、後始末したところがまた山の上から流れてきた穢れによって埋め尽くされる。となると、やるなら山の上からということになる。

 

 今回は目に見える残骸から。地面だけはどうしても後回しにせざるを得ない。ただでさえ、まだ昨日からの雨が止んでいないのだ。地面が濡れたまま、山の上から雨水が流れ続けているのもあり、後始末は困難を極める。

 穢れを溢れさせる一番の理由になる残骸の撤去は急務であるが、土についてはもう、相談後に纏めて、せめて雨が止んでからということになった。

 

「んじゃあ、ガンガンやっていくか。その間にまた増えないでもらいたいぜ」

「なのです……今ここで突然現れるということだってあり得ますし……」

 

 そうなられるのが一番困る。ここに溢れ出している穢れによって、それこそ目の前に突如深海棲艦が現れるということも無くはないのだ。それだけは勘弁してもらいたいと、深雪は溜息を吐いた。

 

 

 

 

 作業はまだまだ終わらない。保護しなくてはならない深海棲艦も増えてきていることから、うみどりはそろそろパンクしかねない。そもそも保護した深海棲艦をどこに匿うかという問題も出てくる。その状況でまだまだ増えるとなったら、後始末の続行も難しくなるかもしれない。

 いろいろな作業を同時並行で進めていく今、うみどりはこれまでにないピンチに立たされている。

 




残骸を片付ける→土を綺麗にする→雨で流れてくる→穢れで深海棲艦の発生という無限後始末コンボ発生中。
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