うみどりでは生まれた深海棲艦の保護を行い、後始末屋が手分けをして島の上を片付けている頃、調査隊では見つかった資料を片っ端から確認していた。
昼目提督と鳥海による調査は、朝から晩までみっちり行われており、今回の島に関するモノがあればすかさず情報共有。見解を述べ合い、取捨選択する。読んだ資料、まだ読んでいない資料と分けて、次はあっちだ、その次はこっちだと、全てに対して目を通す。
「えげつねぇ実験結果ばかりだな。鳥海、なんか特別なモンは見つかったか」
「いくつかは」
鳥海は相変わらず3つのタブレットを駆使して、恐ろしい速度でデータを確認している。昼目提督もかなり速いが、鳥海はその3倍である。
そのスピードを活かして、阿手の研究成果から知っておかなければならない情報を探しているのだが、基本的には人間に対して、艦娘に対して、そして妖精さんに対しての実験記録ばかり。その記録も、目を背けたくなるような凄惨な実験のオンパレードで、ただ確認するだけでも精神的にキツい。
そのおかげで、妖精さんに対しての非道な行い、カテゴリーMに対しての実験などを見つけているため、目を背けるわけにもいかない。嫌な光景だろうが全てを見る。
「深海棲艦の艤装の調整方法……妖精さんの力から得られる特殊な能力……あとは、地下施設のことについて少し」
「オレも地下施設については見つけたぜ。だが、本当に知りたい情報は……んん?」
「どうしました?」
「気になるモンを見つけた」
昼目提督側に入っていた資料は、地下施設建造についての内容。あの大規模な施設をどのように造ったか。
基本はやはり、妖精さんの力を利用している。それはどのような鎮守府にも活用されていることであり、大規模な鎮守府建設にもその力を借りているくらいなのだから、ここでも同様に使っていたようだ。
人間の技術では難しいことであっても、妖精さんなら容易にこなしてしまう。しかも、短期間に。阿手もそれを利用して、あれほどの巨大な施設を造り上げたのだろう。
「施設の建造の、ココだ。動画とかは無いけどな」
「これは……発生抑制……?」
深海棲艦の発生を抑制するという項目。建造と同時にそれは考えられていたようで、この島での実験を邪魔されないように、かつ、ある程度は発生してもらわないと実験材料も手に入らないため、自由自在に発生率を変更出来る装置の開発が考えられていたようである。
その場所は、予想通りの場所。学校屋上、謎のスピーカー。音を流しているようには見えず、電波を垂れ流しているのではと予想されたそれは、まさに深海棲艦の発生を完全に制御しているモノだった。
「性質の変化だぁ? なんだこりゃ」
「穢れを別物に変換する装置、でしょうか。後始末屋のする薬剤での浄化とは違う、電波による穢れの変質……?」
「ンなこと出来るなら、世界的に公表しろってんだ。戦争終わるぞ」
呆れながらも昼目提督は資料を先に進める。
「妖精さんの発生のエネルギーを転換して、深海棲艦発生のエネルギーにぶつける……? 何言ってんだ」
「阿手は、妖精さんのメカニズムも解析していた、ということでしょうか」
「かもしれねぇ。ンで、それを独占してたみたいなモンだ。マジで自分のことしか考えてなかったみたいだな」
妖精さんを人為的に発生させる手段まであるようだ。しかし、それは今はまだ資料として出てきていない。残っているかもわからない。
だが、その手段が無ければ、大規模な施設を建造することもままならないだろう。天然で生まれた妖精さんが阿手に力を貸してくれるのは、どうしても思えない。ならば、従順で何も知らない妖精さんを自ら生み出した方が早い。
「まぁいい。妖精さんの話はいずれ出てくるだろうよ。で、だ。問題はここで使われている、そのエネルギーってことだが」
「本来生まれるであろう妖精さんが生まれなかったことによって浮くエネルギーを、島全体に放射していた、ということのようですね」
「ほぉん、なるほどな。生まれるエネルギーをぶつけて、穢れを中和してやがったのか。島全体に、いや、島
ならば、その妖精さんのエネルギーをどう作っていたかになる。生まれるためのエネルギーとはどうすればできるのか。
「……見つけました。これは、残酷すぎませんか……」
「おう……こんなこと出来やしねぇよ」
見つかったその方法は、これまでよりも非道な手段。妖精さんをあのスピーカーの中に押し込み、薬剤などで無理矢理
妖精さんの増殖方法は、これまでも謎ばかり。いつの間にか増えていて、人間と艦娘を手伝ってくれる。うみどりでもそうだ。海の上でも、陸の上でも、知らず知らずのうちに新人が増えている。
そのやり方が、妖精さんが
だが、阿手配下となった時点で、楽しいからは遠退いていく。見るに堪えない実験。その実験台にもされ、命すら弄ばれる。それでも人間に尽くそうと考えてくれるモノもあれば、人間を見限るモノも現れる。その前者、善意で共にいてくれる妖精さんの特性を悪用した、無限生産システム。
結局のところ、廃人になるまで薬などを使い、システムの維持をさせ、使えなくなったら棄て、次の妖精さんをあてがう。それを延々と繰り返して、システムを起動させ続けてきたということだ。
「なんでも利用しやがるとは思っていたが、ここまでかよ」
「ですが、使い方次第では利用出来るかもしれません。妖精さんを蔑ろにするようなやり方をするつもりは当然ありません」
「だな。一度そのスピーカーを見に行かせるぞ」
島内でフィールドワーク中の調査隊に連絡をして、その場所で作業をさせる方向で動かすことになる。現場でそれが出来るのなら、喜ばしいことだ。
その連絡を受け取った調査隊は、運良く神通達だった。地下施設から資料を持ち出して地上に上がってきたタイミング。いる場所がいる場所であるため、スピーカーのある学校にも行きやすい。
雨の中ではあるものの、躊躇わずに外に出て、それを見つける。
「これかい、話に聞いた設備とやらは」
屋上に聳え立つスピーカーの前に立つ響。それそのものには危険性はなく、触れたところで何も無い。しかし、これがあるから深海棲艦の発生を抑制させることが出来ていると資料に記載されているのだから、それは信じる他ない。
「分解はまずいけれど、うまく解体して中身を見た方がいいかな」
『おう、元に戻せるなら一度バラした方がいい。整備しやすいような仕組みになってんだろ』
「了解。少しバラしてみる」
自信があるのか、響はそのスピーカーを弄るために、何処からか工具を取り出して触り始めた。その手際の良さは、神通の白雪には出来ない技量。
「やはりアナログ作業は響さんに任せるに限りますね」
「全くです。我々には難しいことを平然とやってのけてくれます」
これもいつものこと。白雪がハッキングで内部から情報を得るのなら、響はこのように外部からの侵入。鍵開けもそうだが、バラせるモノはバラす。そしてそれに躊躇がない。
流石にネジで止めてある程度だったらしく、特殊な工具も必要なかったようで、響は鼻歌交じりにスピーカーを解体した。
その中から出てきたのは──
「……惨い」
息絶えた妖精さんの遺体が2人。ケーブルなどが繋がれ、命の維持もこれで行われていたのだと予想が出来る。阿手を始末し、電力供給が途絶えたことで、その維持も出来なくなったと予想出来る。
普通では見たことのない、げっそりとやつれたその姿は、過剰に薬物を投与され、無理矢理楽しくさせられていたことを想起させるには充分だった。
安らかに眠っているようにすら見えるのは、ようやくこの地獄から解放されたからだろうか。
もし阿手が生きていたら、こう言っていただろう。『お前達のせいでこの妖精さんは死んだんだ』と。あまりにも容易に想像がついた。
「丁重に弔おう。こんな終わりを望んでなんかいない」
『ああ、うみどりに運んでやってくれ。今、供養を専門にしてる深海棲艦が保護されたらしい』
「それはいい。しっかり供養してもらいたい」
その遺体を優しく持ち上げると、響は自分の帽子の中で包み込んだ。せめてここからは苦しむことがないように。
「ここに新たに妖精さんに入ってもらえば、穢れの抑制が出来る、ということでしょうか」
『そうなっちまうな。だが、誰がそんなことやりたがるよ。オレだってやってくれなんて頼めねぇ』
今現在のうみどりの状況は、昼目提督も知っている。保護した深海棲艦が次から次へと増えていき、それだけでパンクしかねないということも。何か手を打たないと深海棲艦の発生を抑制することも出来ないというときに、このスピーカーの使い方を知る機会を得てしまったわけだが、だからと言って妖精さんを犠牲にすることには抵抗どころか否定的。
『スピーカーの機能をさらに解析します。どうせ資料には残っているはず。そこでいい案を思いつくしかありません』
鳥海の言葉に、頷くしかなかった。
今はそれが妖精さんの力であることがわかっただけでも良しとするしかない。ならば、次はそれをどのように拡張するかになる。
妖精さん増殖は、楽しいという気持ち。阿手はそれを薬剤を使って強制していたということになります。